第104話 放っておけない
損傷の残る工業地帯で、【02(ヘイル)】は砲の整備をしていた。
関節の可動は戻っている。
完全ではない。
セレスティーヌの粒子を受けた痕が、装甲の内側に残る。
『……遅い』
『うるさい。お前こそ、顔の傷まだあるだろ』
【03(レイン)】が、壊れたフェンスの上に座っている。
大鎌は下ろしたまま。
雨の予兆は、今は遠い。
『あたしは平気』
『平気な顔して、あのあと黙ってたろ』
『してねえ』
短い言い争いが、すぐに途切れる。
以前の絡み方に近い。
近いのに、温度が少し違う。
【02(ヘイル)】が、砲を担ぎ直す。
『チビ。あれは計算だ。お前が先に落ちると、手間が増える』
『言い訳』
『言い訳でもいい。
放っておけねえものは、放っておけねえ』
【03(レイン)】が、顔を背ける。
耳まで赤い。
鎌の柄を握る手が、力を込める。
『……次は、先に倒す』
『できるかよ』
『やってやる』
『じゃあ、その前に雨を鎮めろ。予兆来てる』
空の端で、細い雨筋が立ち始める。
【03(レイン)】は舌打ちをし、フェンスから降りる。
『分かってる』
『行け。あとで叩く』
『先にそっちが倒れろ』
二人は、同じ現場へ向かわない。
向かないまま、同じ空の下で別々に動き出す。
仲間宣言はない。
通信もない。
なのに、02の「放っておけない」と、03の「次は先に」が、薄い糸で結ばれている。
遠方で、環象社の拡声器が流れる。
「降雨注意。避難準備を」
英雄には、ならない。
それでも、放っておけない相手がいる夜は続く。




