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NULL-最も公平で理不尽な監獄-  作者: gongon


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第六話 別れ

施設最深部。


モニタールーム。


巨大なスクリーンには、

各育成室の映像が並んでいる。


レスリング。


ボクシング。


ムエタイ。


八極拳。


無数の戦闘思想。


その中心で、

サングラスの男が怒号を上げた。


「誰が接触を許可した!?」

「警備は何をしている!!」

部屋中に声が響く。


黒服達が一斉に頭を下げる。


スクリーンには、

廊下で対峙するレイとリンの姿。


男は舌打ちする。


「クソッ……!」


「実験が汚染される!」


黒服が恐る恐る口を開く。


「ですが既に、双方とも他流を――」


「黙れ!!」


怒号。


空気が震える。


男はモニターを睨みつける。


「レスリングはレスリングのまま、

八極拳は八極拳のまま戦わせなければ意味がない!」


「純粋な状態でなければ、

最強の格闘技は証明できない!」


スクリーンの中。


鏡を殴るレイ。


静かに立つリン。


男は歯噛みする。


「知るな……」


「混ざるな……」


「格闘技であれ……!」


その声は、

祈りみたいだった。


その背後。


イヴァンが静かに立っている。


男は振り返らない。


「イヴァン」


「……」


「レイを移送する」


空気が止まった。


イヴァンの拳がわずかに握られる。


「予定より早い」


「もう遅いんだよ」


男はモニターを見たまま言う。


「接触した時点で、

アイツらは変わり始めてる」


沈黙。


やがてイヴァンが低く言う。


「……レイはレスリングで勝つ」


男は小さく笑う。


「そうあってほしいね」



朝。


目が覚めた瞬間、

嫌な予感がした。


静かすぎる。


いつもなら、

この時間にはイヴァンが怒鳴りながら部屋に入ってくる。


だが今日は違った。


物音がない。


「……?」


俺はベッドから起き上がる。


その瞬間。


ガコン。


部屋のロックが外れる音。


扉が開く。


黒服が三人。


「育成個体No.14、移動します」


なんだそれ。


「イヴァンは?」


黒服は答えない。


「おい」


「イヴァンはどこだって聞いてんだよ」


「移動します」


機械みたいな声。


気味が悪い。


「ふざけんな」


俺は黒服の胸ぐらを掴む。


その瞬間。


首筋に電流が走った。


「ッッッ!?」


膝から崩れる。


視界が白く弾けた。


ナニされた!?


「抵抗は禁止されています」


黒服が冷たく言う。


クソ。


身体に力が入らない。



長い通路。


俺は黒服に挟まれながら歩く。


いや、

歩かされている。


「イヴァン!」


叫ぶ。


返事はない。


「イヴァン!!」


静寂。


クソッ。


なんなんだよ。


トーナメントが始まるのか?


こんな急に?



その時だった。


鉄扉の向こう。


聞き慣れた怒号。


「離せッ!!」


イヴァンだ。


俺は反射的に振り向く。


分厚いガラスの向こう。


イヴァンが黒服数人に押さえつけられていた。


「イヴァン!!」


イヴァンがこちらを見る。


初めて見る顔だった。


怒っている。


いや違う。


焦っている。


「レイ!!」


ガン!!


イヴァンが黒服を投げ飛ばす。


化け物みてぇな力。


だが次の瞬間。


バチバチッ!!


電流。


イヴァンの身体が揺れる。


それでも止まらない。


「レイに触れるな!!」


怒号が響く。


黒服がさらに増える。


イヴァンは暴れる。


投げる。


叩きつける。


なのに。


止まらない。


電流を浴びながら、

まだ立っている。


なんなんだこのオッサン。


「イヴァン!!」


俺はガラスを殴る。


だが届かない。


イヴァンが俺を見る。


その目が、

ほんの少しだけ揺れた。


「……レイ」


低い声。


呼吸が荒い。


「聞け」


黒服がイヴァンを押さえ込む。


それでも、

イヴァンは俺から目を逸らさない。


「レスリングを疑うな」


「……!」


「だが」


イヴァンの拳が震える。


「レスリングだけを信じるな」


意味がわからない。


「イヴァン……?」


「生き残れ」


その瞬間。


ガンッ!!


シャッターが閉まる。


イヴァンの姿が消えた。


「イヴァン!!」


返事はない。


静かだ。


嫌になるくらい。



長い通路の先。


巨大な扉。


俺はそこで初めて、

足を止めた。


デカい。


あまりにも。


まるで、

化け物の口だ。


黒服が扉を開く。


重い音。


ギギギギ……。


その先には。


無数の檻。


そして。


人。


全員、

男。


全員、

俺と同じくらいの歳。


そして。


全員。


俺に似ていた。


「――……は?」


息が止まる。


目。


鼻。


輪郭。


骨格。


違うのは、

身体だけ。


異常にデカい奴。


細い奴。


傷だらけの奴。


首が異様に太い奴。


立ち方がおかしい奴。


全員、

“別の戦い”で作られた身体。


なのに。


顔だけが、

俺だった。


気持ち悪い。


頭がおかしくなりそうだ。


「なんだよ……これ」


誰も喋らない。


ただ。


獣みたいな目で、

互いを見ている。


その視線が怖い。


まるで全員、

相手を人間として見ていない。


その中に。


リンがいた。


壁際。


静かに立っている。


リンはこちらを見る。


そして。


ほんの少しだけ、

口元を歪めた。


「始まるな」


背筋が冷えた。


その瞬間。


施設全体に、

放送が響き渡る。


『NULL PROJECT』


『最終段階へ移行します』


空気が変わる。


全員の呼吸が変わる。


俺は初めて理解した。


ここにいる全員が。


俺と同じ十年を生きてきた。


そして。


俺を殺せる。

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