第二十三話 束の間の解放
No.00の敗北から七日後。
NULL PROJECT研究棟。
中央放送が施設全域へ流れた。
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『全育成個体へ通達』
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食堂。
訓練場。
医療区画。
六人の生存者が顔を上げる。
AI音声が続く。
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『休養期間へ移行します』
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静寂。
誰も反応しない。
休養。
その言葉の意味が分からなかった。
生まれてから二十年。
彼らは訓練と戦闘しか知らない。
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『施設内移動制限を解除』
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『交流を許可』
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初めてだった。
研究棟。
医療区画。
訓練施設。
居住区。
人工降雪エリア。
全ての移動が許可された。
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だが。
次の瞬間。
一光の声が流れる。
録音ではない。
リアルタイムだった。
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「ただし条件がある」
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六人の表情が変わる。
神代一光。
創造主。
支配者。
この施設の神。
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「育成内容の共有を禁止する」
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静寂。
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「訓練方法」
「技術体系」
「師の教え」
「戦闘記録」
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「全て共有禁止だ」
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空気が張り詰める。
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「違反者には警告が与えられる」
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モニターが点灯する。
全員の腕輪へ数字が表示された。
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警告回数
0 / 3
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「三回で処分する」
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静寂。
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「以上だ」
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放送終了。
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食堂。
レイは口を開けた。
「処分ってなんだよ」
誰も答えない。
当然だった。
だが。
全員理解している。
処分。
つまり死だ。
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その頃。
研究棟最上階。
一光はスクリーンを見つめていた。
背後にはイヴァン。
巨大な身体を壁へ預けている。
長い沈黙。
やがて。
イヴァンが言った。
「本当に解放するのか」
一光は答えない。
モニターには六人。
それぞれ別方向へ歩いている。
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レイ
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柔術
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モンゴル相撲
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空手
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リン
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ライ
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六人。
全員同じ顔。
全員違う人間。
一光の表情が僅かに歪む。
「交流程度で変わるなら」
静かな声。
「その程度だったということだ」
イヴァンが鼻で笑う。
「嘘だな」
一光の目が細くなる。
「何がだ」
「怖いんだろう」
静寂。
イヴァンはスクリーンを見る。
そこにはレイ。
亡霊を倒した少年。
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「康二の言葉が」
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一光の拳が止まる。
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「人間になる」
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静寂。
空気が凍る。
だが。
イヴァンは続けた。
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「お前は格闘技を作った」
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「だが出来上がったのは人間だった」
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一光は振り返らない。
だが。
その肩だけが僅かに震えていた。
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「黙れ」
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低い声。
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「No.00は完成していた」
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イヴァンは首を振る。
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「だから負けた」
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静寂。
長い沈黙。
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「レイは変わった」
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「リンは変わらない」
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「ライは削ぎ落とした」
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「柔術は考える」
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「空手は積み上げる」
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「モンゴル相撲は生きる」
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イヴァンが笑う。
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「面白いじゃないか」
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一光は答えない。
答えたくなかった。
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その頃。
人工降雪エリア。
レイは一人で歩いていた。
懐かしい景色。
何度も吐いた場所。
何度も倒れた場所。
そして。
ふと足が止まる。
遠く。
雪の向こう。
巨大な影。
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「……おっさん」
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イヴァンだった。
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イヴァンも気付く。
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長い沈黙。
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二人とも何も言わない。
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亡霊のことも。
試合のことも。
何も。
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やがて。
イヴァンがポケットから煙草を取り出した。
一本。
自分の口へ。
もう一本。
レイへ投げる。
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レイが受け取る。
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「吸わねぇよ」
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イヴァンが笑う。
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「そうだったな」
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静寂。
雪が降る。
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「勝ったな」
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レイが頭を掻く。
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「ギリギリだった」
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「そうか」
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また沈黙。
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そして。
イヴァンが初めてレイを見る。
真っ直ぐ。
師匠として。
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「強くなった」
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レイは笑う。
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「知ってる」
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イヴァンが吹き出す。
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「生意気になった」
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「元からだろ」
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二人が笑う。
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初めてだった。
レイが。
格闘技としてではなく。
ただの人間として笑ったのは。
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遠く。
研究棟最上階。
その様子を一光が見ていた。
何も言わない。
ただ。
静かにモニターを閉じる。




