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NULL-最も公平で理不尽な監獄-  作者: gongon


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23/47

第二十三話 束の間の解放

No.00の敗北から七日後。


NULL PROJECT研究棟。


中央放送が施設全域へ流れた。



『全育成個体へ通達』



食堂。


訓練場。


医療区画。


六人の生存者が顔を上げる。


AI音声が続く。



『休養期間へ移行します』



静寂。


誰も反応しない。


休養。


その言葉の意味が分からなかった。


生まれてから二十年。


彼らは訓練と戦闘しか知らない。



『施設内移動制限を解除』



『交流を許可』



初めてだった。


研究棟。


医療区画。


訓練施設。


居住区。


人工降雪エリア。


全ての移動が許可された。



だが。


次の瞬間。


一光の声が流れる。


録音ではない。


リアルタイムだった。



「ただし条件がある」



六人の表情が変わる。


神代一光。


創造主。


支配者。


この施設の神。



「育成内容の共有を禁止する」



静寂。



「訓練方法」


「技術体系」


「師の教え」


「戦闘記録」



「全て共有禁止だ」



空気が張り詰める。



「違反者には警告が与えられる」



モニターが点灯する。


全員の腕輪へ数字が表示された。



警告回数


0 / 3



「三回で処分する」



静寂。



「以上だ」



放送終了。



食堂。


レイは口を開けた。


「処分ってなんだよ」


誰も答えない。


当然だった。


だが。


全員理解している。


処分。


つまり死だ。



その頃。


研究棟最上階。


一光はスクリーンを見つめていた。


背後にはイヴァン。


巨大な身体を壁へ預けている。


長い沈黙。


やがて。


イヴァンが言った。


「本当に解放するのか」


一光は答えない。


モニターには六人。


それぞれ別方向へ歩いている。



レイ



柔術



モンゴル相撲



空手



リン



ライ



六人。


全員同じ顔。


全員違う人間。


一光の表情が僅かに歪む。


「交流程度で変わるなら」


静かな声。


「その程度だったということだ」


イヴァンが鼻で笑う。


「嘘だな」


一光の目が細くなる。


「何がだ」


「怖いんだろう」


静寂。


イヴァンはスクリーンを見る。


そこにはレイ。


亡霊を倒した少年。



「康二の言葉が」



一光の拳が止まる。



「人間になる」



静寂。


空気が凍る。


だが。


イヴァンは続けた。



「お前は格闘技を作った」



「だが出来上がったのは人間だった」



一光は振り返らない。


だが。


その肩だけが僅かに震えていた。



「黙れ」



低い声。



「No.00は完成していた」



イヴァンは首を振る。



「だから負けた」



静寂。


長い沈黙。



「レイは変わった」



「リンは変わらない」



「ライは削ぎ落とした」



「柔術は考える」



「空手は積み上げる」



「モンゴル相撲は生きる」



イヴァンが笑う。



「面白いじゃないか」



一光は答えない。


答えたくなかった。



その頃。


人工降雪エリア。


レイは一人で歩いていた。


懐かしい景色。


何度も吐いた場所。


何度も倒れた場所。


そして。


ふと足が止まる。


遠く。


雪の向こう。


巨大な影。



「……おっさん」



イヴァンだった。



イヴァンも気付く。



長い沈黙。



二人とも何も言わない。



亡霊のことも。


試合のことも。


何も。



やがて。


イヴァンがポケットから煙草を取り出した。


一本。


自分の口へ。


もう一本。


レイへ投げる。



レイが受け取る。



「吸わねぇよ」



イヴァンが笑う。



「そうだったな」



静寂。


雪が降る。



「勝ったな」



レイが頭を掻く。



「ギリギリだった」



「そうか」



また沈黙。



そして。


イヴァンが初めてレイを見る。


真っ直ぐ。


師匠として。



「強くなった」



レイは笑う。



「知ってる」



イヴァンが吹き出す。



「生意気になった」



「元からだろ」



二人が笑う。



初めてだった。


レイが。


格闘技としてではなく。


ただの人間として笑ったのは。



遠く。


研究棟最上階。


その様子を一光が見ていた。


何も言わない。


ただ。


静かにモニターを閉じる。

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