~可憐! ちょっとしたヒーロー~
スリを捕まえたので、みんなに褒めてもらいました。
「えへへ~」
実際は師匠が餌になって、あたしが餌に食いついたスリを捕まえただけなんだけど。周囲の人にとっては、あたしが頑張って捕まえたみたいに見えてるはず。
「そこそこ実力がありそうなヤツだったが、どうだった?」
こっそりと聞いてきた師匠に説明する。
「最初の蹴りが避けられたのは意外でした」
念のため、魔力糸を用意しておいて良かった。
「えらいえらい。ホントは頭を撫でまわしたいけど、注目されてるので後からな」
「え~、ざんねん。ロリコンってバレてもよくないですか師匠?」
「やだ」
師匠があたしみたいな言い方で断った。
かわいい。
「にひひ。で、どうするんですか? これでどう情報収集?」
あたしが首を傾げると、師匠はちらりと視線を横に向ける。
そこには屋台があって美味しそうに串に刺したお肉を焼いていた。
なるほど!
「旅人さん旅人さん、あたしお肉が食べたいなぁ~。んふふ~。ご褒美ごほうび」
「あぁ。そうだな、お礼はしないと義に反する。なにせここは義の倭の国だ」
なんて言いつつあたし達は屋台へと向かった。
「すまない。いくつかこの子に」
「はいよ! 嬢ちゃん大活躍じゃねーか」
「えへへ~。あたし、お肉大好きなんだ。このお肉ってなぁに?」
「こいつは鳥の肉だ。焼き鳥っていうそのまんまの料理だぜ、旅人さん達」
すでに焼けていたのをあたしと師匠の前に置いてくれる。パラパラと塩をかけるだけのシンプルな味付けっぽい。
いろんな部位があるみたいで、中には野菜といっしょに焼いてる串もあるけど、あたしはやっぱりお肉だけのやつがいいかなぁ~。
「いただきまーす」
アチチなので気をつけながら口に運ぶ。ちょっとした歯ごたえのあと、鳥のお肉に加えて、炭のにおいが感じられて香ばしい。
お肉の味を追いかけるようにして塩のしょっぱさが来るんだけど、それもしょっぱ過ぎなくて、なんなら甘い感じもしてきて、とっても美味しい。
「ん~~! 美味しい~。ねぇねぇおじさん もっと食べたいぃ~」
「ハッハッハッ! 美味しそうに食べてくれるじゃねーか、嬢ちゃん」
焼き上がったいくつかの串を並べてくれる。
パラパラと塩を振ってくれるのを待って、食べ始めた。
「ほれ、旅人さんも食べな。お代はいただくがな」
「ハハハ。普通に払いますよ。やはり倭国は居心地が良いですね」
「そうなのかい? オレぁ、ここから出たことがないから知らないんだけどよ。大陸ってのは色んな国があるんだろ? それと比べてもイイってのかい?」
「そうですね。一年中雪が降ってたり、全部が砂に覆われた夏だけの国もありますね。全ては信仰次第って感じでした。南の方の国は過ごしやすいですが、倭国もいいものですよ」
なるほどなぁ~、と屋台のおじさんは焼き鳥を焼きつつ腕を組む。
「倭国にも色んな地域があるんですよね」
師匠が聞くと、おじさんは嬉しそうに答えた。
「あぁ、5つあるぜ。ここの炎護もおススメだが、樹護も悪くない。あそこは穏やかだからな。あ~それでも天気はどこも変わんねぇな。どこも季節があるぜ」
「ヒョーゴっていうところもそうなんですか? 確か氷という意味があったはず。寒そうな気がしますけど」
師匠は鳥肉を食べながら聞いた。
「そうそう、氷を守るって意味だ。大昔の偉いさんが氷の番人をしていたのが始まりだとか、なんとか。そういう理由で氷護ってだけで、氷の世界ってわけじゃないぞ。気温は変わらんね」
「氷の番人か。なんというか冷たいイメージですね」
「あぁ、そいつは正解かもしれん」
そうなんだ、とあたしと師匠は目を合わせてからおじさんを見た。
「その氷の番人をしてたのが八剱って人たちでな。そりゃぁもう厳しいお殿様だってので有名だ」
「ヤツルギのおとのさま?」
聞き慣れない言葉にあたしは鳥肉を頬張りつつ首を傾げた。
「お殿様ってのはアレだ。大陸で言うと、ほら、王様の下で、え~っと?」
「領主とか、大臣とか、そういうニュアンスでしょうか?」
たぶんそれだ、と答えておじさんはガハハと笑う。
「まぁ、この倭国の王も殿様だから、偉い人って意味で使われてるな。で、その八剱のお供様が氷のように冷たいってんで有名らしいぜ」
なるほどね~。
セツナさんはクラってところに閉じ込められていたのも、なんかそういう一族だから、なのかもしれない。
いや、閉じ込められてた理由とか全然分かんないままだけど。
でもなんとなく、そんなことをしそうな一族っていうのが分かった気がする。
イミゴ? だっけ?
望まれてない子どもだから。
それでけで閉じ込めるんなら、捨てちゃったほうがいいのに。
なんて思っちゃうのは、あたしが生き延びたから、かな……
「では、そこに住む人も大変ですね。住民も氷のように冷たいとか?」
「そんなことねぇぜ。厳しいっつっても種類があるだろ。え~っとなんだ、ほれ、厳格ってやつだ。なにも税の取り立てや金額がきついってわけじゃないぞ」
「あぁ、そういう意味ですか。行くのをやめておこうかと思いましたが、それを聞いて一安心です」
ハッハッハ、と師匠の言葉におじさんは笑う。
「倭国はどこも安全よ。まぁ、スリはいるけどな。嬢ちゃんがいるのなら、まぁ大丈夫じゃねーか……って、嬢ちゃんめちゃくちゃ喰うの早ぇな」
「美味しい! おじさんって焼き鳥の天才?」
「おうよ、この道20年だ。そろそろ天才を名乗ってもいい頃合いだぜ?」
「アハハ! 凄いすごい。じゃ、天才の焼き鳥もっと食べたい!」
「おいおい旅人さん。この嬢ちゃん、オレを褒め殺すつもりらしいぞ」
「分かる。俺もときどき殺されそうになるので」
アッハッハ、とおじさん同士で笑ってる。あ、いや、師匠はおじさんじゃないよ。ちょっぴりおじさんに成りかけてるロリコンの人なだけ。
……そういうと最低な気がしてくるけど、おかげでライバルが減るのでラッキー。
「それじゃぁ次はヒョーゴに行ってみることにするか。なにか見ておくところとかおススメはありますか?」
「そうだなぁ。オレぁ行ったことがないんだが、八剱のお屋敷は大層立派だって聞いたな」
「ほう。領主の屋敷……エンゴのお城とは違うんでしょうか?」
「今見えてる炎護城は特別だ。戦国時代に作られたもんで、そうそう簡単に作れるもんじゃねぇよ」
ほへ~、とあたしはお城を見上げる。
センゴク時代が何かサッパリ分かんないけど、ほへ~、と言っておく。
「お屋敷は住む用だ。めちゃくちゃデッカクて立派だそうだぜ」
「ほう。中に入れたりは?」
「さすがにそれは難しいんじゃねーか? それこそ知り合いでもなけりゃなぁ」
「見物は無理か。まぁ、旅人の身では仕方がない」
「おまえさん、移住はしないのかい? いつまでも旅を続けるわけにゃいかんだろ」
「そうだなぁ。倭国に住むのも悪くなさそうだ。そのヤツルギのお屋敷に雇ってもらえないだろうか」
「さすがに無理だろう。旅人さんは見るからに武士って感じじゃねーしなぁ」
ブシ?
「ブシってなんですか?」
「サムライのことだぜ、嬢ちゃん。ブが戦うって意味で、シがサムライを意味してるんだったか。まぁ、武士ってぇとサムライと思えばいい」
なるほど~。
「あたしはサムライになれそう?」
「う~む、なかなか嬢ちゃんも強そうだったけどなぁ。さすがに無理かもしれん」
「ざんねん。旅人さんにお屋敷の中を見せてあげたいなぁ」
「優しい嬢ちゃんだ。それなら、八剱の当主の友達を目指してみたらどうだ?」
「おともだち?」
そうだ、とおじさんはニッカリと笑う。
「おじさんのお友達って言われると、なんかえっちな響きがする……」
隣で師匠が怖い顔になった。
「いやいや、今の当主さまは代替わりでまだまだ若いらしい。お殿様ではあるんだが、まだ政治はできないんってんで、お勉強中らしいぜ。そんな若の相手ってんなら、嬢ちゃんでもなんとかなりそうだ」
「遊び相手か~。旅人さんだったら、どんな遊びする?」
「俺か? 俺ならぁ……う~ん……?」
あら、師匠が腕を組んでうなっちゃった。
「最近の子どもの遊びが分からん。ましてや倭国の子どもだしなぁ。文化が違うとなると、ますます思いつかんな……」
「あ、ねぇねぇ逆だったらいいかも」
「ん? どういうことだ?」
「大陸の遊びを教えてあげると、珍しいから嬉しかったりするかもですよ」
「「なるほど!」」
おじさんふたりが納得した。
「いい考えだな、嬢ちゃん」
「えへへ~」
「さすが俺が雇った冒険者なだけはある」
「んふふ~」
いっぱい褒められて嬉しい。
「だが、そもそも近づく時点で不可能だろうな。旅人が近づいてみろ。一気に牢屋行きに違いない」
師匠の言葉に焼き鳥屋のおじさんも、違いない、と笑った。
「とりあえず、参考になったよ。ごちそうさま」
「はいよ、毎度あり。おっと、こんなにはいらないぜ。嬢ちゃんの食べた半分はオレのおごりだ」
「おっと。そいつは助かる」
「オマケしてくれるんだ。おじさん、ありがと!」
「気にすんな嬢ちゃん。正しい行いをしたのなら、それに報いるのが義ってものよ。例えそれが自分のことでなくともな。それがこの国の流儀ってもんさ」
おじさんは腕を組んで鼻息を荒くして語る。
「だからな、嬢ちゃん。次も悪いヤツがいたら、そいつをとっちめてやってくれ。誰も見ていなくとも、それができる人間になってくれよ」
「分かった。この国のルールだね」
「人情でもあるな」
良い旅を、と焼き鳥屋のおじさんに見送ってもらって、手を振りながら後にする。
「ふむ。最初の情報は手に入ったな」
「師匠ってば、お話の仕方が上手いよね」
「パルもなかなかの上手さがあるぞ。まぁ、パルはカワイイからついつい喋りたくなってしまうのも仕方がないか。誘惑スキルの才能がある。ギフトだ。うらやましい」
「にひひ。じゃ、ヤツルギのお屋敷も可愛さで突破しよう」
「それができたら苦労しないが……突破したあとに苦労しそうな気がする」
正面突破に近いから、そのあとに剣探しは無理そう。
それこそ、お殿様と仲良しになるくらいじゃないと無理そうだけど……それって、もう、結婚相手ってレベルじゃないかな。
そんなことになったら、師匠が泣いちゃう。
「次は服屋にでも行ってみるか」
「今度はどうやって話をするんです?」
「ヒョーゴってのは寒そうなので、厚着を買いたい。とかワザと間違った情報で話しかける。人ってのはお節介でな。相手の間違いを訂正したいんだ」
「ほへ~。ワザと間違ってもいいんだ」
「うん。ただし、相手が悪いことを考えていると逆に作用してしまう。この場合、厚着を売りつけられる上にヤツルギの情報も得られない」
確かに。
その見極めみたいなのは重要そう。
「では行こうか、護衛さん」
「はーい。護衛は任せて、旅人さん」
師匠と視線を合わせてにっこりと笑う。
ちょっとデートみたいで楽しい。
最後にキスとかしてくれないかなぁ~。
なんて思いつつ。
エンゴの城下街を歩いていくのでした。




