~卑劣! 女盗賊よ、拷問の時間だ~
さぁ、捕らえた女盗賊から情報を聞き出そう。
「まずは顔を覚えさせてもらうか」
口元を覆っている布を剥がしてやり、素顔を見ておく。
やはり二十代後半あたりか。そこまで痩せているわけでもなく、ふくよかでもない。ごくごく普通の顔立ちだ。
どちらかというと、尾行よりも変装スキルを駆使して近づいてくるようなタイプに見えるんだが……気配遮断が中途半端だったし、盗賊スキルをちゃんと磨けていないのかもしれない。
つまり、盗賊ギルドに所属していない野良の盗賊というわけだ。
野盗の一味、とも考えられる。
ま、それらを明らかにするために情報を吐き出させるんだけど。
「先に聞いておく。全部話すつもりはあるか?」
「……」
女盗賊の視線が動く。
無視しているのではなく、迷っている感じがするな。
メリットとデメリットが拮抗しているのかもしれない。
「ま、どっちにしろ弟子に拷問を教えるので受けてもらうがな」
「えっ」
心底不可解、という感じの視線を女盗賊から向けられた。
話したら無事に解放されるかもしれない、という期待があったところで、話したとしても拷問を受ける、という精神的なダメージだ。
これでペラペラと喋ってくれればいいが……
「な、なんでアタシがそんな目に合わないといけないんだ!?」
ふむ。
やめてください、とすがってくるような精神性は持ち合わせていないようだ。
まぁ、盗賊だしなぁ。
ここで弱音を吐いたり降伏を示すようであれば、簡単に終わったのだが。世の中、早々都合の良いことは起こらないか。
「捕まったおまえが悪い。なにより、こちらに刃物を向けただろ。それに対しての報復だと思ってくれ。危険な目にあったのだから、危険な目にあってもらう」
「う……」
「加えて、彼我の力量差も計れない自分への罰も付け加えておくと、神の元へ行ったときに楽になるかもしれんぞ」
「ふん」
暗に、殺すぞ、と言ってみたが鼻を鳴らされる。
神にすがるような人間ではないようだが……まぁ、本を司る神、などいないから……なのかもしれない。
なんにせよ、拷問することは決定だな。
「よし。では拷問の授業を開始する。ちゃんと聞いて、しっかりと実践するように」
「はーい」
元気よく返事をする弟子。
それだけで褒めてあげたい気分だ。
「面白そうね。私も参加していいかしら」
パルの横にナーさまが立った。
いや、神さまが人間種を拷問していいのか……?
「天罰を使えるの、忘れてるのかしら」
そういえば、そうだった。
あれって、一種の拷問だったのか……いや、絶対に違うけど。
まぁ、神さま自身がいいと言うのであれば拒否する権限は人間種には無い……と、思う。
「ではナーさまもご一緒に。まず拷問に当たって、素直に喋る気があるのかどうか、を聞いておく。さっき俺がやったヤツだな。そいつが所属している組織に、どれくらいの忠誠心を持っているのかが分かる」
「それは分かりますが。素直に話すヤツの証言など参考にならないのではないでしょうか?」
後ろで聞いていたルビーの言葉に、うむ、と俺はうなずく。
「わざと嘘の情報を吐くこともあるので、そこは注意は必要だ。裏切っているのか、それとも裏切っているフリをしているのか。そこは重要なので、ペラペラと喋るヤツをあまり信用してはいけない。できればふたり以上から別々に話を聞き出すのが好ましい」
今はひとりしか捕らえてないので無理だけどな、と説明する。
「さっき、師匠があげて落としたのが、そうですか?」
「良く気付いていたな。そうそう、えらいえらい」
パルの頭を撫でてやる。
「では、同じようにメリットを与えてみる方法を教えよう」
というわけで、俺は金貨を一枚取り出した。
「素直に話せばこいつをくれてやろう」
女盗賊の目の前にそれを差し出してみる。
「え、いや、金貨とか絶対に嘘でしょ」
思いっ切り疑われた。
まぁ高すぎるとこうなるわな……
「ふふっ」
ナーさまに笑われてしまった。
ま、まぁ、これは想定内です。
「そうか。金貨一枚なんて、はした金だったんだがな」
というわけで、持っているだけの金貨をバラバラと女盗賊の目の前で取り出して床に落としていく。
じゃらじゃらと有り得ない金額に目を疑う女盗賊。
「わたしも持ってますわよ」
ルビーも手の中から黄金城で拾った金の粒をバラバラとこぼした。
「え、え、え?」
女盗賊の周囲が一気に金だらけになる。
「一枚くらいやってもいいぞ。話すか?」
「は、話します!」
間髪入れず答えた女盗賊。
話すのかよ、もっと粘れよ。授業にならんじゃないか。
「と、このようにお金などでメリットを示して引き抜くのも良い。まぁ、よっぽどの資金力が必要だし、相手の忠誠心や恐怖心を上回らないといけないから、なかなか成功しないだろうけどな」
「師匠、成功してます」
「普通は成功しないんだけどなぁ。ほら、組織を裏切ったら殺される、みたいなのあるだろ?」
「アタシが一番強かった」
「トップが捕まってんじゃねーよ」
あまり大きな組織ではないことが判明した。いや、盗賊ギルドを通してないんだから、そこまで大きな組織ではないのは分かっていたけど……思った以上に相手はしょぼいのかもしれない。
「では、次。本格的な拷問にいこう」
「え、待って待って、なんで!? 話すから! 話しますよ!?」
「まずうるさいので口の中に布を突っ込み、黙らせる」
適当な布を取り出し……あら、あんまり綺麗じゃないな、この布。
「サチ。綺麗にしてあげて」
「……はい。……ミィノース」
わざわざ浄化の神官魔法を使ってくれた。もったいない気がしないでもない。
「ほら、大神ナーに感謝するんだぞ」
「なにが!? ナーって何!? やめ、鼻をつまむな! ん!? んー! もがががが……! んー! んー!」
「これで吐き出さないように口を縛ってやれば……よし、できた。舌を噛んで自殺させないようにする意味でも重要だぞ。口だけ目隠しみたいに縛ればいい、と勘違いしてるヤツが時々いるから、ちゃんと布を口に入れるのを忘れないこと」
「はい、分かりました。ここからどうするんです?」
「基本的には痛みを与える。靴を脱がせるぞ」
女盗賊のブーツを剥ぎ取り、靴下を脱がせて足の指を露出させた。
「……浄化しとく?」
「ん! んー!」
サチの純粋な申し出に女盗賊が抗議している。
そこまで汚くない、と言っているようだ。
「師匠さんがこの女の足で汚されるのは不本意ですわ。サチ、浄化してください」
「……ん。分かった」
というわけで、再びの浄化魔法ミィノース。女盗賊の足はとても綺麗になった。
「ありがとうサチ。さて、拷問と言っても種類は数多くある。その中でもお手軽な方法がこれだ」
俺は盗賊スキルで使用する針を取り出した。
「これを爪の間に挿し込む」
「んー! んんんんー!」
足指を掴んで、ちょん、と針の先を当てるだけで女盗賊は暴れるように体を動かした。
ひっくり返って頭でも打ったら危ないので、大人しくして欲しい。
「動くな、暴れるな。マジで刺すぞ」
「ん!? ん、ん……」
大人しくなった。
これも一種に拷問の『おどし』でもあるか。
「針を刺すというものだが、これは別に足の指でやる必要はない。手でもいいぞ。心理的な作用も狙っているから、どちらかというと手のほうがおすすめか」
「うはー、痛そう」
「痛いだろうなぁ。で、相手が話さなければ本数を増やしていく。手足合わせて20回いける拷問だ」
「耐えられちゃったらどうするんですか?」
「まだ針を指す隙間があるだろ」
「あぁ。40回でも60回でもいけるんだ」
「お、計算ができて偉い。パルは賢いな」
「えへへ~」
ナデナデしておく。商人でもないと計算を覚えないヤツもいるので、パルはやっぱり賢い。
「次の拷問はこれだ」
俺はナイフを取り出すと、女盗賊の足指にトンと当てた。
「指を切り落とす」
もちろん、女盗賊は抗議の声をあげる。
それを無視して、説明を続けた。
「これはさっきの針とは違って有限だな。ただし、心理的な効果は抜群だ。なにせ、段々と『その後』の人生が失われていく。特に親指は重要な部位でもあるので、小指からいくのがおすすめだ」
手にしろ足にしろ、親指は物を掴んだり足のバランスを取ったり、とそれなりに重要な部分でもあるので、有るのと無いのとでは雲泥の差が生まれる。
よっと、切り落としていくのなら小指からだ。
「喋っても、指がなくなっちゃってたら大変だもんね」
「うむ。横にハイ・ポーションを置いておくと、望みが生まれていいかもしれないな。まぁ、指がくっ付くかどうか、時間経過によるのかもしれないが」
早ければハイ・ポーションでくっ付くかもしれないが、時間が経ってると難しいかもしれない。
ま、望みは見せる程度でも効果はある。
「これが基本的な拷問となる」
「うぅ~、あたしできそうにない……痛そうだから無理かも」
うんうんうん、と女盗賊はパルに同調した。
「わたしはできますわよ。やりましょうか?」
ルビーがにやにやと笑いながら主張する。
ぶるぶるぶる、と女盗賊は全力で拒絶した。
「拷問する方にも精神的な負荷があるのは分かる。というわけで、お手軽なのを教えよう」
俺は女盗賊の縛っていた布を外し、口から布を取り出す。
喋るから、喋るから、と言っているのを無視して、目元を布で覆って縛る。
目隠しにした。
「なるほど。これで路地裏に置いておき、男たちの慰み者にするんですのね。さすが師匠さんです」
「違う」
ぜんぜん違います。さすが俺ってどういうことですか。違います。
俺は口元に人差し指を一本立てる。
しぃ~、とジェスチャーで伝える。
「本来なら手首にやるのがいいのだが、今はこんな縛り方してるからな。足で代替しておこう」
先ほど取り出したナイフを裸足になっている足の甲に当てた。
「出血多量を狙うやり方だ。このように皮膚を切る」
俺は素早くナイフを反転させると、刃の無い部分ですばやくこするように振りぬく。
「え、いたっ、え、え、え、え?」
俺は再び口元に人差し指を立てながらポーションを取り出し、先ほどナイフの背でこすった部分に一滴ずつ、ポーションをこぼしていった。
「血が出てきただろ。こうやって流れていく様を本人には見せない。ただ感覚だけで血がそれなりに流れてしまっているのが分かる。はやく治療をしないと出血多量で死んでしまうぞ、と時間制限付きの拷問だ」
「なるほどぉ」
実際にはポーションではなく水を使うのがいいが、今は準備しているとバレバレになってしまうので、ポーションで代用している。
「え、ま、待って待って! 待ってください! なんで!? 話すから、話すから! は、話します! え、や、やめて! ポーション使ってください! ひぃ!?」
「ほら、暴れると血流があがって余計に血が出るぞ。大人しくしろ」
「は、はい! 大人しくする! 大人しくするからやめて! やめてください、お願いします!」
「わぁ、こんな風になっちゃうんですね。おもしろい!」
「だろ~。お手軽だし、見てて面白い」
「あはは!」
「な、なに言ってんの、そこのお子様! なんて教育してんの師匠って人ぉ! やめさせて、神官さま! 神官さまいらっしゃったよね! 治療してくださいぃぃぃ!」
こうなってくると滑稽だなぁ。
というわけで、種明かしするために目隠しを取ってあげた。
「ぐっ……うぅ……騙されたぁ……う、うぅぅぅ……!」
めちゃくちゃ悔しそう。
「さて、次で最後だな」
「まだやるの!? 話します、話しますからやめてぇ! 本を売ってます! 本を改造して高く売ってるの! あ、あんまり本の内容はその子たちには話さない方がいいと思うよ? え、えへへへ」
勝手に暴露し始めたぞ、この女盗賊。
「大丈夫ですわ。わたし、あの手の本を愛読してますから」
「ちょっと師匠って人!? 教育! 拷問の授業をしている場合じゃないよ!」
「なんでおまえに説教されないといけないんだよ……変に常識を持ち合わせてるなぁ……」
まぁいいや、と女盗賊の髪を後ろへグイっと引っ張った。
強制的に上を向かせる。その上を向かせた顔の上に布を一枚置いた。
「ルビー、水をかけてくれ」
「あぁ、一番苦しいやつですわね」
魔導書を起動し、水を集束させる。そこからジョバジョバと水を流すように女盗賊の顔の上にかけていった。
布に水が染み込むと顔に貼り付く上に、布が湿って息を通さなくなる。
というわけで、息ができなくなって非常に苦しい。
もちろん、窒息しない程度のところで布を取ってやる。
「――ぶはぁ!? はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! う、うぅ、うぇ~~~ん……!」
あ、泣いちゃった。
「話しますから、話しますからもうやめてぇ……」
「分かった分かった。だから泣くな。うるさいと続けるぞ」
「ひぐっ。ぐぅ! う、うぅ……」
よし、泣き止んだな。
「エラントもなかなかの男ね」
なぜか知らないけど、ナーさまからの評価が上がった。
いや、それもそれでどうなんですか?
純粋と無垢を司る神よ!




