~卑劣! 自然とえっちな姿になるのは仕方がない~
ニセ神官たちのアジトとなっている宿を発見したので。その情報を共有するために自分の宿に戻る。
「……ふむ」
パルとルビーはまだ帰ってきておらず、気配はない。
サチの気配はあったので、そちらの部屋の扉をノックした。
「……はい」
少し警戒するようなサチの声色。
「エラントだ。入っていいか」
「偽物かもしれないわね。ちょっと証拠を見せなさい」
扉越しにナーさまの声が聞こえる。
心が読めるんだから、証拠も何もいらないと思うんだが?
「茶番に付き合うくらいの寛容さは必要だと思うの」
ひどい神だ。
え~っと、証拠か……
「今日のルビーのぱんつの色はグレイだ」
「あんた、マジで気持ち悪いわね」
扉を開けてくれたけど、ドン引きしてるナーさまだった。
「なに、あんた毎日チェックしてるの? 本物なのね」
「いいえ、今日はたまたま見えただけです……本物って言うのやめてください……」
パルとの装備点検中に着替えてたルビーが悪いので、俺は悪くない。
そう思いたい。
「……ナーさまは白」
なぜかサチが重要な情報を無料でくれた。
ありがとう。
助かる。
「――いや、タダでは申し訳ないな。情報量はいくらだ」
「……初級銀貨1枚」
妥当な金額だ。
というわけでサチにお金を払う。
「やめなさいよっ!」
サチは怒られないけど、俺は怒られるみたいでナーさまに蹴られた。
ありがとうございます!
でも冗談なので、本気にしないでくださいナーさま。
「サチも、そういうノリに付き合わないの。私の神官なんだから、もう少し無邪気でいてよね」
「……無邪気にエラントさんに教えてみた」
「言い訳するのね。まぁ、そう言えなくもないわね……えぇ~、んぅ~?」
ナーさまが悩んでしまった。
まぁ、いいか。
難しい問題に悩んでいる間にサチと情報を共有しておく。
「……見つけたんだ」
「残念そうだな。まぁ、解決したらナーさまは帰ってしまうから、あんまり乗り気じゃないのは分かるが」
神さまといられる貴重な機会だ。
少しでも長続きさせたいのは分かる。
「……邪魔をしてもいい?」
「サチが敵になるのか。それは勘弁してもらいたいな。ナーさまも敵になるんだろ?」
「私は手を出さないわよ。サチが悪い子になるんだったら、止めるだけ」
「……パルの邪魔はしたくないから、言ってみただけ」
俺の邪魔なら別にいいのか……と、思ってしまったが声には出さないでおいた。
おっさんだもの、仕方がない。
そんな俺を見てクツクツと悪そうに笑うナーさまだった。
と、そこへ近づいてくる気配がある。
ふたり分の足音で、少しだけ軽く細かい動きがふたつ。つまり、小さくて体重が軽い者がふたり、ということでパルとルビーの可能性が高い。
しかし、パルが足音を立てているのは珍しい。
成長するブーツは足音を完璧に消すほどの補助効果があるんだが……
なにかしら理由がありそうなので、俺は素早く扉の近くに立つと、コツン、と一度だけ叩いてみせた。
それを聞き取ってくれたらしく、自分たちの取った部屋ではなくこちらの部屋へ向かってくれる。
ノックの音と共にルビーの声。
「ただいま帰りました」
そこに、特に緊急事態のようなニュアンスは含まれていない。
むしろいつもどおりに思えた。
「……」
俺はサチに目配せする。サチが移動する間に素早く扉の死角へと入り、気配察知に集中した。
いいぞ、と視線で合図するとサチが扉を開ける。
「……おかえり」
「ただいま、サチ~。用事終わったよ、遊ぼう遊ぼう」
そういうと、パルとルビーが部屋の中へ入ってくる。
扉を閉めるその一瞬、わずかに廊下の先に動く気配があった。
「ふぅ」
部屋の中に入ると、パルが息を吐く。そのまま、スッと気配を消すように扉の先をうかがった。俺も廊下をうかがうように扉の体を寄せて聞き耳を立てる。
なにがあった、と聞くまでもない。
恐らく、餌を付けた釣り針に魚が掛かったのだ。
「――」
ちらりとルビーに視線を送れば、確かな視線とうなずきが返ってくる。
それを受け止め俺は、喋っていてくれ、というジェスチャーをルビーとサチ、ナーさまに送った。
「――さて、今夜はどんなプレイをしましょうか。昨日は全員でキスをしましたので、今夜はいよいよ本番でしょうか」
「なんでその話題を選んだ、この変態吸血鬼め。魔物種ではなく、単なる色魔と呼んでやろうかしら」
「……私はなんでもいい。むしろルビーの案を採用すべきと思う」
「ほら、あなたの神官は受け入れてますわよ。どうしますか、大神ナー。わたしは上でも下でもかまいませんわ」
「私は上がいいわよ」
「……私は下」
「では真ん中はわたしですわね。おーっほっほっほっほ! 師匠さんの大好きなサンドイッチの完成ですわー!」
「……やっぱり私、真ん中がいい」
「急に意見を変えるじゃないですか、あなたも大概ですわね、サチ。わたし以上に欲望に忠実ですのね。これでいいんですの、大神ナー」
「サチは特別だからいいの。あなた達が合わせなさい」
「神官が神官なら、神も神ということですか。親の顔が見てみたいものです」
「……知らない」
「知らないわね」
「わたしも親の顔を知りません。どうやら全員、木の根元かキャベツ畑で生まれてきたみたいです。素敵ですわね」
うん。
なんというアホな会話だろうか。
適当な会話をしてもらうにしても、適当過ぎやしないか?
まぁ、聞かれたところでまったくもって無意味な会話か妄言の集団と思われるだけで大丈夫なんだろうけど。
さて。
気配が扉の前まで移動してきた。
ざわざわと肌がかさつくような幻覚があるのは、相手が同業者っぽいな。足音は完全に消されているが、気配断ちが完璧ではない。それでいて動きが手慣れているので、ひどく中途半端な印象を受ける。
そのせいで気持ち悪いのかもしれない。
我流で盗賊スキルを習得したような感じか?
「――」
静かにパルと視線を合わせる。
視線だけでパルがうなずくのを確認し、俺は背後にも合図した。
ルビーたちには会話を続けてもらっているままに、俺は指を立てる。
5本から減らしていき、拳を握り込んだ状態となった瞬間に扉を引き開けた。
「っ!?」
こちらに聞き耳を立てるようにして扉に体重を預けていた盗賊はつんのめるように部屋の中に入ってしまう。
そこをパルが足をひっかけるように蹴りを繰り出した。
前のめりで倒れる盗賊だが、勢いを殺さず前へ前転しながら立ち上がった。すでに手にはナイフが握られている。
戦闘力はそれなりに高い。
一瞬で狙いをナーさまにスイッチされ、そちらへ飛びかかる。
的確だ。
ナーさまの見た目で最弱と決定したのだろう。人質にするつもりか。
「させませんわ」
そこへルビーが立ちはだかる。
躊躇なくルビーに向かって突き出されるナイフ。それをトンと軽く払うようにして、ルビーは懐に入り込んだ。
「えい」
軽く殴り込むように盗賊の腹に拳を突き出すルビー。それを受けて盗賊は派手に後方へ吹き飛んだが、自分で後方へ飛んで威力を殺したようだ。
ついでに包囲から抜け出すつもりでもあったようで壁際まで下がる。
そこを狙って俺は肉薄した。
ナイフを振らせる範囲を殺す。超至近距離で相手の動きを封じるように攻撃の起点となる動きに合わせて、盗賊の行動を阻害する。
殴りかかろうとするのなら、腕を振り上げる前に拳を叩く。
膝蹴りをしようとするのなら、膝を叩く。
掴みかかってくるのなら、胸をトンと押す。
「む」
やわらかかった。
こいつ、女か。
「うりゃ!」
そうしている間に盗賊の後ろへ回り込んだパルが二度目の足払い。膝を狙ったもので、相手はジャンプして避けたが――空中に飛んだ瞬間を狙って、俺は盗賊の腕を掴んだ。
魔力糸を顕現させ、そのまま盗賊の腕に巻き付ける。振り払われるようにナイフを振られたので手は離したが、魔力糸はそう易々と切れまい。
安物のナイフで簡単に切られてしまうような魔力糸訓練はしてないからな。
という自慢を込めつつ、糸を引っ張り盗賊のバランスを崩させた。
「お覚悟を」
その瞬間をルビーが狙う。
スパン、と小気味良く顔面を殴ったようで――ぐらり、と盗賊はその場に倒れた。
「生け捕り成功ですわ。お怪我はありませんか、サチ、大神ナー」
「……大丈夫」
「問題ないわ」
ふぅ、と全員で息を吐き、素早くロープを取り出して盗賊を拘束していく。縄抜けされる心配があるので、ここは特別頑丈に拘束しておこう。
「パル、椅子を」
「はい!」
盗賊を抱え上げる間にパルに椅子を用意してもらって、そこへ座らせる。
両腕を背後にまわさせ、手のひら同士を合わせて合掌させる。その状態で親指同士を魔力糸で拘束してから、更に腕をロープで拘束。
体がやわらかいので助かる。
そのまま椅子の背もたれに首に縄を回してから、息が出来る程度に縄で繋いでおく。ちょっとでも前のめりになると首が締まる状態だ。
最後に両足を椅子の上にあげさせ、膝を曲げた状態で拘束しておく。
「よし、これで踏ん張ることもできないので安全だろう」
「師匠さん」
「なんだ、まだ抜けられる要素はあるか?」
「いえ。一言だけいいでしょうか」
「おう」
「めちゃくちゃえっちですわ、これ」
お股ががばーっと開いてしまっているので、まぁ、その、なんだ……
「い、言うな。俺もそうなんじゃないかなぁ~、とは思っていたが、言うな!」
盗賊が男だったら良かったんだけど、どうして若い女性の盗賊なのかなぁ~、もう。他意はないのに何故かエロくなってしまう。
これだから捕縛術って難しい。
俺がいまいち習得できていないのは、もしかすると童貞だから、かもしれない。
さて。
それよりも盗賊だが……
年齢は二十代か? そこそこ若い感じがする。
変装スキルとかあるし、まだ分からないけど、若い女性なのは確実か。肌の張りはパルみたいなツヤツヤではなく、多少の衰えが見える。
「もっとぐるぐる巻きにしたらダメなんですか?」
縛られている女盗賊のほっぺをパルがツンツンと触る。
「まぁ、それでも良かったんだが……絶望度が違うだろ、これ」
ぐるぐる巻きにされて転がされているのに対して、椅子に座らせられた上でしっかりと拘束されている。
どちらがよりイヤな予感がするかというと、後者だ。
「ん……ん~……ハッ!?」
どうやら目覚めたらしい。
「さて、ここまで苦労して拘束したんだ。さっそく始めよう」
「なにをですか?」
「相手から情報を聞き出す方法など、古来よりひとつと決まっている」
ふっふっふ、と俺はワザとらしく笑った。
「さぁ、拷問の時間だ」




