~流麗! 吸血鬼とトコトン相性の悪いお婆ちゃま~
わたし、知恵のサピエンチェこと紅き清廉潔白、ルゥブルム・イノセンティアは。
ユーカクに来たら、なぜか拒絶されました。
「だから入れてくださいまし!」
これでも魔王直属の四天王なんですのよ!
初見でお断りされる理由は多々あるんですけれども、倭国ではまだ無罪のはずですわ!
「帰れって言ってるだろ。ほれ、ほれ!」
厳格な雰囲気のお婆ちゃまがわたしの背中を叩きます。
そこまで本気で叩いてるわけではないので、恨まれたりしているわけではなさそう。
「待ってくださいまし。そんなにわたし、においます?」
くんくん、とキモノをにおってみますが、そんな悪臭などしていないはず。しかし、どこかで生ゴミでもなすりつけられていたら、その限りではありません。
知らぬ間にニンジャに付けられている可能性もゼロではありませんからね。
「そういう問題じゃないよ。ウチは商売でやってんだ。冷やかしは迷惑っていう話だよ」
「何をもって冷やかしと仰られていますの?」
「あんた大陸の人間だろ」
「えぇ、はるばる旅をしてここまで来ました。ステキな経験ばかりをさせてもらいましたし、たくさんの本を読むことができましたわ」
「そんな風流な人間が来るところじゃないからだよ」
「えぇ!?」
パシン、と今度はお尻を叩かれてしまいました。
「待ってくださいまし。ほんと、ほんと、お客です。女を抱きに来ましたの。げっへっへ」
「ウチは下劣な客は断ってんだ。帰んな」
「えぇ!?」
ぜんっぜん、上手くいかない!
「お金、お金なら払いますから。せめて話だけでも聞いてくださいな」
「金持ちの道楽かい。それも嫌いだねぇ。尚のこと帰んな!」
「じゃぁどうしろって言うんですのよ、もう!」
「土下座でもするんなら、考えなくもないよ」
「あ、そんなのでいいんですの」
というわけで、ぴょん、と跳ねて反転すると、そのまま膝から落ちるようにして地面に着地。
有無を言わさぬ勢いで頭を下げた。
「話を聞いてください、お願いします」
「ちょ、ちょっと! えぇ、い、痛くはなかったかい?」
ようやく話を聞いてくれる雰囲気になった感じですので、わたしの勝ちですわ。
「これでいいんですのよね?」
「あぁ、あぁ、もう分かった分かった分かったよ。聞いてやるから、入んな。そんな往来で土下座なんてするもんじゃないよ。しかも遊郭の前でなんて、悪評が立ったらどうするんだい」
「土下座しろって言ったのはお婆ちゃまですわよ」
「知らないね。ほら、おでこに砂が付いてるよ」
ペシペシと叩くように砂を払ってくださいました。
優しいのか厳しいのか、よく分かりませんわね。
それはともかく。
説得に成功しましたわ。さすがわたし。さすが魔王さまに与えられた土地を支配しているだけはあります。
ふふん。
お婆ちゃまに連れられてユーカクの中に入る。
建物の造りはヒメノミチの物と同じような感じで、中に格子状の枠がついた窓があり、その中に娼婦たちが座っておられました。
一様にわたしを同情的な視線が送られてくるんですけど、笑顔で手を振り返しておく。
「あの中から遊びたい子を選べばよろしいのですよね」
「あんた本気で遊ぶつもりかい?」
「だからそう言ってるではありませんか」
いまいち、というかまったく信用されてませんわね。
これが師匠さんだったら普通に話ができてたんでしょうけど、師匠さんは絶対にユーカクに来たがりませんので。
パルもユーカクには似合いませんし、消去法でわたし一択です。
なので、頑張らないと。
仕方がない、仕方がない。
「オイランはどの方ですの?」
「花魁は奥の間に控えてる。そう簡単に指名できるもんじゃないよ」
「あら。では、どうやったら指名できるんですの?」
「何度か通いな。あたしが認めたら話を通してやる。決めるのは花魁だよ」
なるほど、そういうシステムですのね。
「お話するだけでも無理ですのね」
「そもそも、最初から抱けるほど花魁は安くないさ」
「あぁ。そこもオイランに何度か通って、でしたか。本気の愛と懐が試されますわね」
「で、あんた。ホントに金は持ってるんだろうね」
「舐めないでくださいまし。これでも一国の支配者。ここにいる全員を買ったとしても、おつりでお城を建てられますわ」
黄金城の金を抜きにしても。
実家の地下倉庫に放り込んである宝物を売れば可能でしょう。
これでもわたし、お嬢様に憧れてますので!
お金持ちはお嬢様っぽさの第一歩でしてよ。
たぶん!
「金持ちの自慢は嫌いだよ!」
「聞いておいてそれは酷くありません!?」
わたし、このお婆ちゃまとトコトン相性が悪いですわ!
「一言『持ってます』でいいんだよ。あんた、一言多いんだ」
「そこは否定できませんわね……」
納得はしますが反省はしません。
会話を楽しむには、一言余計、を付け加えたほうが楽しいですもの。
「ほら、出しな」
「おっぱいを?」
「ぺったんこのくせに生意気な冗談を言うじゃないか。今のは嫌いじゃないね」
「えへへ」
褒められたので、嬉しくて素直に笑ってしまいました。
パルみたいな笑顔を浮かべてしまうなんて、ちょっと不覚。
「だけど、次に言ったら乳首を引きちぎるからね」
「ひぃ!?」
思わず両胸をおさえる。
手足を切り落とされても平気ですけど、それは具体的に痛そうなので、わたしでもダメかもしれません。
意外とありましたわね、吸血鬼の弱点。
太陽の光を浴びると燃える、だけでなく、乳首を引きちぎられると痛がる。
是非、魔物辞典に書き加えておいてください。
「おいくらですの?」
「中級銀貨3枚だよ」
「え~っと、これくらいでしょうか」
適当な金の粒を取り出してお婆ちゃまに渡す。
「こりゃ金かい」
「金塊ではありませんわ。小粒です」
「あん?」
「すいません、乳首は勘弁してください」
分かってるなら言うんじゃないよ、とお尻を叩かれました。
「そう何度も叩かれたらお尻が大きくなってしまいます」
「いいじゃないか。それも女の魅力だよ」
わたしの好いた殿方、その女の魅力がまったく正反対に作用する人なんですのよねぇ。
おっぱいは小さいほうが好みですが、お尻のほうはどうなんでしょう?
やっぱり薄いほうが良さそうですわよね。
「銀貨は持ってないのかい」
「残念ながら。カミノトでは換金できないみたいで苦労してますの」
「出入りの商人に持たせるか……まぁいいよ。あん中から選びな」
ほっ、と胸を撫でおろしました。
金が使えないっていうのは、大変に不便です。まぁ、そもそも金を持ち歩いているほうが稀有なので、当たり前と言えば当たり前。
換金所が有るというのも、当たり前ではありませんので。
師匠さんに頼んで、どこかの街に転移して共通硬貨に変えておいたほうが無難ですわね。
さて。
格子の窓から部屋の中を見る。
娼婦たち……ユージョでしたか。キモノを着た綺麗な女性たちがこちらを奇妙な視線で見てきますわね。
そりゃそうか。
普通は目をギラギラとさせた男性がほとんど――いえ、目だけでなく股間もギラギラ――
「言わせねーよ!?」
いま、遠くで師匠さんがツッコみを入れてきた気がしました。
気のせいでしょうか。気のせいですわね。
股間もギラギラさせた殿方がケモノのような瞳で見てくるに違いありません!
ふぅ。
心の中で言い切りました。
勝ったぜ。
えへへ。
「どの娘にするんだい、さっさと決めな」
「えっと、このユージョさま達は、いきなり抱けないんでしたか」
「あぁ。何度か通ってもらうことになる娘ばかりだ。手っ取り早く抱きたいんなら、夜に来な」
「なるほど」
では、と部屋の中をざっと見まわしまして――
「あの娘にしますわ。一番すみにいる、あのそばかすの子」
「ふぇあ!?」
指名した子が奇妙な声をあげました。
「佐智子かい」
「サチコさんと仰られますのね。素朴な感じの名前でいいですわね」
「すまんね。どうにもお客運が悪くてね。名前を変えることにしたんだが……やっぱりお客運は悪そうだね。『佐智子』もダメかもしれないね」
「失礼な。わたしがとびっきりの女にしてあげますわ」
「そう言ってあの子を泣かせた男が何人かいたんだよ。今では出禁だ。あんたもそうならないように気を付けな」
「あ、はい」
わたし、そんな酷い男たちと同じ行動をしてしまったのでしょうか……
ちょっぴり反省です。
「ほら、佐智子。出てきな」
「は、はい、ただいま!」
がんばって、と他のユージョたちに見送られながらサチコは立ち上がり、小走りで移動する。
どうにも小動物的な雰囲気を感じさせますわね。
ちょっぴりオドオドした感じがあり、なんというか……イジメたくなる。
「お、お初にお目にかかりんす。佐智子でありんす。――ぷえっ」
ほっぺたをつかんで引っ張りました。
かわいい。
「な、なにひゅるんでありんひゅか」
「いえ、つい……」
やめな、とお婆ちゃまにお尻を叩かれました。
三度目ですわ。
このままでは爆乳ならぬ、爆尻になってしまいます。
「次にお手付きしたら、その場で出禁にするからね」
「あ、この程度も触ったらダメなんですのね」
「あんたが小さい女だから許したけど、大の男だったら手を切り落としてるところさ」
「あそこは切り落とさなくて良いのでしょうか」
「切り落としたそれ、誰が処分すると思ってるんだい」
お婆ちゃまを指差しました。
ぺちん、と指を叩かれました。
「人を指差すんじゃないよ」
「ふふ、すいませんでした」
さっさと行きな、とお婆ちゃまは手をシッシッと振る。
「ど、どうぞこちらへ。お手を」
「これは『お手付き』になりませんわよね」
お婆ちゃまは、プイ、と横を向いてしまわれました。
嫌われたのではなく、見ないフリ、をしてくださるようで。
まったくもって、良く出来たシステムですわね。
「ありがとうございます、サチコ。参りましょう」
そっと手を取り、サチコと手を握る。
「あ、はい」
というわけで。
ユーカクに潜入成功です。
まぁ、せっかくですのでね。
サチコと遊びましょう!
ぐへへへへへ。




