~卑劣! チリチリと痛む首筋~
今日はパルとルビーとは別れて、バラバラに行動しているのだが……
「どうにもふたりが心配になるなぁ」
信用も信頼もしているのだが、なんというか、心配なものは心配だ。
う~む。
どうにも心が弱くなったものだ。
これが勇者パーティの賢者と神官であれば、平気で任せられていたというのに。なにひとつ心配することなんか無くて、場合によっては失敗してくれた方が俺にとって有利に働く。
なんてことも思っていたりしたものだが。
ま、パルとルビーを年上の女性と比べるのも失礼な話なのでやめておこう。
ふたりのほうが賢者と神官より優れているに決まっているのだから。
うんうん。
「おや、旅人殿。今日も見物に参られたか」
足が自然と向いたのはヤツルギの屋敷だった。
依頼を受けているから、というだけでなく、やはり何度も見物したくなる『お屋敷の美』というものを感じる。
芸術にそう詳しいわけではないので、是非ともドワーフの彫刻士ララ・スペークラのご意見を求めたいところではあるが……建築物は美少女ではないので、ロクな感想はもらえそうにない。
同じ芸術ジャンルではあっても、向いてる方角がぜんぜん違うのでどうしようもない。
「う~む、なんなんでしょうね。何度も見たくなってくるんですよ」
「分かる。ただ魅入られぬよう気をつけるでござるよ」
魅入られるか。
芸術には自然と魅了の効果があるとも言われているが。
このお屋敷は、まさに魔性の領域ということだろうか。
「しばらく見ていても?」
「どうぞ」
サムライに許可を得て、門の前に立つ。
そこからお屋敷を見ていくと、細かいところなどの飾りが見えてくる。何段も重なるような屋根の下の骨組みや、扉ひとつ取っても非常に細かく装飾を施されているのが分かる。
あとは彫刻か。
幻想種と思われる動物の姿が彫られているのが分かった。鳥型のモンスターのようにも思えるが、不死鳥とも言われるフェニックスに似ている。あとはドラゴンもいるし、亀もいるな。
魔除けの類だろう。
玄関に辿り着くまでにも、左右に彫像があり、それも立派な彫刻ではある。彫刻もまた幻想種であり、額に角の生えた馬、ユニコーンが客人を見張るように両サイドで鎮座していた。
「旅人殿は芸術に興味がお有りか」
「あぁ、いえ。前にドワーフの国でララ・スペークラという芸術家と話す機会がありまして。彼女も彫刻家だったので、ついつい」
「ほう。審美眼があるんでござるなぁ。拙者には、すごい、としか分からんでござる」
「俺もですよ」
サムライといっしょに、くくく、と笑う。
実質、さっぱりと分からないからなぁ。
芸術品を見せてくれ、なんていう嘘には、残念ながら真実を混ぜ込むことができない。
「やっぱりもっと近くで見ていたいものですが……雇ってもらうのは厳しいですか」
「ふむ。今のところ人手が足りてない話は聞いておらぬからな。現当主は若くあらせられるが、質素倹約を基本とされておられるよ。新しく人を雇うのは厳しそうでござる」
「お若いんですか。あぁ、そう言えばお名前を知らなかった」
「八剱晶さま、でござる」
「アキラさまというのですね。ありがとうございます。お若いというのは、何歳くらいなんです?」
「十二だ」
「成人したばかりで!? それは大変だ……」
もしかしたら成人前から当主を引き継いでいる可能性もあるか。セツナ殿がヤツルギの屋敷から出て、そうそう簡単に大陸以外の国々を七星護剣探しに費やせるとは思えない。
4年ほどは必要だろうか。
ヤツルギ・アキラは8歳ほどで当主となった可能性がある。
はてさて、ヤツルギ家に何があったのか。聞き込みたい衝動に駆られるが、ここで踏み込み過ぎては邪険にされてしまう。
素直に大陸の盗賊ギルドを利用するほうがいいかもしれないな。
「お若い当主殿と聞いて、なにか力に成れればとは思ったのですが。旅人の力では役に立ちそうにないですね」
俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「外国の話であれば興味を惹かれるかもしれぬが……いや、しかし、その心意気だけでも、晶さまに届くでござろう」
「えぇ。そうであれば嬉しく思います。あぁ、そういうえばサムライはどうやって成るものなんです?」
冒険者と同じ戦闘職って感じではあるが、護衛専門のような雰囲気でもある。衛兵というカテゴリーに当たるのかとも思うが。
「サムライは剣術道場にて、修行の果てに試験に合格した者だけが成れるでござるよ」
「試験……」
「うむ。幼少の頃より通い続け、本物の刀を授かった時には嬉しかったものよ」
なるほど。
どうりでサムライのほぼ全員が実力者なわけだ。
大陸の衛兵は雇ってから訓練が施されるが、サムライは雇う前から訓練や修行を積んでいるようで。
おいそれと成れるものではないようだ。
「興味深いですね。そちらも見物できるでしょうか?」
「門戸は誰にでも開かれておる。見物は自由にできるぞ」
サムライはなにやら苦笑しながら答えてくれた。
なにかしら、含みがありそうだ。
「それはありがたい」
サムライの剣術レベルが分かれば、おのずとヤツルギ屋敷の防衛力の最底辺も分かる。
まぁ、ニンジャの実力が天井知らずなだけに、最低ラインを知ったところで無意味かもしれないが。
「あちらの方角に『芦屋道場』という所がある。拙者もそこで育ったでござるよ」
「アシヤ道場ですね。分かりました、ありがとうございます」
お礼を言って、もう少しだけヤツルギの屋敷を観察してから立ち去る。
ふぅ、と息を吐いてから、周囲の気配を察知した。
ちらほらといるのは、同じ旅人か。
ただし、まったくの死角からチクリと一瞬だけ首筋に刺さるような気配を感じた。
「……」
危うく反応してしまうところだったが、不自然にならない程度――つまり、普通の旅人なら反応できる程度の動きで、そちらを見る。
「……?」
誰もいない。
何にもない。
それに対して、気のせいか、という感じの演技をしてから首筋をさする。
無反応というのも怪しい。かといって、普通に反応してしまうのも実力者ということがバレてしまう。
ある程度の鈍さを示しておかないといけない。
「ふぅ……」
分からないように大きく息を吐く。
頭の上のケモノ耳がぴこぴこと揺れるのが分かった。
ルビーがこっちを感知して、笑っているのかもしれない。
「やっぱり、いるな」
街中には確実にニンジャが潜んでおり、人々を監視している。
普段からそうなのか、セツナが迫っている今の現状だからこその措置なのか。
詳細は分からないけど、ニンジャがいることは事実。
まったくもって油断ならない街のようだ。
「……アシヤ道場に行ってみるか」
すでに敵陣のど真ん中。
それを忘れぬように肝に銘じながら。
俺は教えられた方角に向かって、旅人を装いながら歩くのだった。




