~可憐! みんなで砦攻略~
レベル3の魔物が一匹とレベル2が複数。
どう考えてもルーキーに対処できるはずが無いので、あたし達は河川工事の中心部まで戻ってきた。
大規模工事なので、そこで働く人のために簡素な宿ができたり、商人が露店を開いたり屋台を出したり、娼婦さんたちが常駐する出張娼館があったり。
段々と集落みたいになってきたなぁ、って思う。
でも、防御面はぜんぜん整ってない。壁も無ければ柵なんかも無い、襲いたい放題の人間種の集まり。
だからこそ、魔物が狙ってきたのかもしれない。
魔王は見てるのかな?
それとも、魔物が独自に動いてるのかも?
とにかく――あたし達は森の中に砦が建てられていて、ボガートとゴブリンがいたことを『大樽組』に報告した。
「そいつは難儀だな。悪いがこっちで判断するのは危険だ。冒険者ギルドに報告してもらえるか? 別の依頼として受理してもらおう」
と、短いヒゲドワーフのブレビスさんが判断した。
ブレビスさんは工事の責任者だけど、魔物退治の専門家ではないから当たり前の話なのかも。
魔物退治の専門は、それこそ冒険者だ。
あたし達は急いでジックス街まで戻ると冒険者ギルドに報告した。
イークエスの説明に補足する形で、あたしもいろいろと状況とか様子を受付のお姉さんに説明する。
「分かりました。魔物の砦攻略は、別の依頼として受理します。また、報告に対する報酬も用意しておきますが、あなた達の今日の仕事はまだ終わっていません。ですので、休まず仕事に戻ってくださいね」
「あ……はい」
良く考えたら全員で戻ってくる必要が無かった。
「失敗したぁ」
と、イークエスは天を仰ぐ。
リーダーの判断ミス、みたいな感じかな。無駄な行動をしちゃった?
でも――
「あはは。まぁ、どうせ待機してることになると思うし、別に同じじゃない? いっしょいっしょ、仲良し仲良し」
あたしはケラケラと笑うと、イークエスは肩をすくめつつ苦笑した。
「みんな気づかなかったんだ。おまえのミスじゃないよ」
「ま、軽い休憩だと思えばいいじゃないか」
ガイスとチューズもそう言ってイークエスの背中をバンバンと叩いた。それぐらいの勢いで叩かないと伝わらないんだよね、金属鎧って。
サチは何も言わなかったけど同じような表情をしてる。
つまり、気づけなかったぁ、っていう感じ。
「よし、仕事に戻るぞ」
「はーい」
お仕事をサボるわけにはいかない。
ギルドのお姉さんに水だけはもらって、ごくごくと喉を鳴らすとみんなで駆け足で森まで戻った。
無駄に往復を重ねたけど、その日の仕事としてはこれ以上の戦闘は無し。魔物が森から出てくることはなく、無事に終わった。
ちなみに森の中を深追いするのはやめて監視のみに務めておいた。
イークエスが決定した判断に異議は無し。
じ~っと待ってるだけでも緊張感はなかなか高い。もしかしたら、今にもボガートがゴブリンを連れて出てくるかもしれない。
いつでも対処できるように、いつでも逃げれるように。
河川工事のみんなにも、そんな緊張感があった。
まぁ、何も無かったけど。
仕事を終えて、ギルドに戻ると夜間警備の依頼が掲示板に張り出してあった。
「森の監視か。どうする? オレは反対だが」
一日中監視していて、さらに夜間も続くとなると……そこそこツライ。
どう考えても途中で集中力が切れちゃう気がするので、あたしとしてはイークエスの意見に同意したい。
「異議なし。夜目も持ってないし、人間のオレ達には厳しい」
「オレはもう疲れてヘトヘトだよ~。砦の発見報告の上乗せで充分だ。今日は出来過ぎの結果だと思うぜ」
「……わたしも夜は寝たいわ」
「あたしもあたしも」
満場一致。
夜はしっかり休みましょう。
「よし。無茶と無謀は死への近道だ。しっかり休もう」
と、イークエスがまとめて解散となった。
というわけで、いつも通りの夜を過ごして翌日。
「ゴブリンとボガート退治、受けてきたぞ」
イークエスが受領したのは、他のパーティと協力してゴブリン砦の攻略依頼だった。
合計五つのパーティで行う合同任務だ。
冒険者ギルドはベテランパーティじゃなくて、ルーキー達を使うことで決めたらしい。
新人を育てるっていう意味もあるのかなぁ。
言ってしまえば、あたし達は相当ラクをしている。
領主さまがバックについてる安全な依頼で、安全に毎日を生きている。
だからこそ、あたし達のレベルはまったく上がってないんだけどね。
レベル1のまま。
冒険者ギルドとしては、もうちょっと『冒険』をして経験を積んで欲しいのかも?
だからこそ、ルーキーたちを集めての合同依頼にしたんじゃないかな。
「報酬は分割になってしまうから、いつもと変わらない。でも、得られる経験は段違いだろうからな。いけるな、みんな」
あたし達はうなづく。
よし、とイークエスはうなづき、他のパーティリーダーたちと相談しに行く。その間にあたし達も装備確認と点検を終えて、出発となった。
作戦等を相談しながら河川工事の場所まで移動すると、集合していた見回り依頼のパーティ達とは別行動になる。
森に向かうのは、あたし達だけだ。
「まずは斥候だ。頼むぞ、パルヴァス」
「任せて」
他のパーティにいた盗賊職の男の子といっしょに先行して森の中に入っていくことになった。
やっぱり盗賊って少ないんだなぁ、なんて思う。
五つもパーティがあるのに、ふたりだけだし。
人気無いんだなぁ~。
でも、師匠を見たら印象はぜったい変わるはず!
だって、めちゃくちゃカッコいいし。
あぁ、はやく帰ってこないかなぁ、師匠――
「ッと」
あたしはくちびるに人差し指を当てた。
隣にいた盗賊男子も気づいたみたいで、あたし達は目を合わせてうなづく。
ゴブリンがいた。
それは、昨日の鳴子があった位置よりも手前だ。つまり、たぶん、魔物が勢力を拡大してるってことかな?
より工事現場に近づいてきてる。
早めに気づけて良かった、というのは当たりみたい。
もしも今日、偶然にゴブリンと遭遇したら後ろからボガートが出てくる可能性があった。
そうなったら、ひとつのパーティだけじゃ対処できないし、逃げられなければ死が待っている。
たった一日の違いかもしれない。
でも、知っているのと知らないとでは、結果がまったく違ったんだ。
情報って凄い。
「よし、いったん戻って仲間を――」
「ほっ!」
ゴブリンが一匹だけだったので、あたしは投げナイフをスローイングした。
狙い通り首に刺さって倒れたので、ゴボゴボと首から漏れる空気で何か騒いでいるけど、仲間を呼ばれる心配はゼロ。
成功せいこう。
あたしは素早くゴブリンに近づいてトドメを刺した。
まずは一匹。集団でいないのなら、ゴブリンの強さはコボルトやフッドとあんまり変わらないみたいだ。
これならあたしでも充分に勝てるぞー、と思ってたら盗賊クンがあたしをびっくりするような目で見てた。
「……キミ、ほんとにレベル1?」
「え、そうだけど?」
「え~……マジか……マジかぁ……」
なぜか盗賊クンが呆れるような感じで言ってきた。その間にゴブリンが消滅して魔物の石が残る。
コボルトの石より高く売れるのかな。
楽しみ楽しみ。
「あ、そういえばレベルってどうやったら上げてもらえるの?」
「依頼をこなしたり、経験を積んだら上がるぞ。まぁコボルトとかはいくら倒してもレベルは上げてもらえないだろうけど」
「へ~、そうなんだ。あたし、師匠に修行してもらったから上げてもらえないかな~」
「それでスローイングとか上手いのか。ふ~ん。オレもいっしょに修行して欲しいな。頼めないか?」
「ダメ」
「え、なんでさ?」
「師匠はロリコンだもん」
「……お、おう。なるほど。そりゃオレじゃぁダメだな……え? ロリコンなのか、キミの師匠。え? 大丈夫なの?」
「え、なにが?」
「――よし、オレは何も聞かなかった。聞かなかったぞ。よし、前に進むぞ」
「はーい」
さぁ、砦までの道をしっかり確保しよう。
それがあたし達の仕事だ!