~可憐! 激突・魔物の砦で大戦闘~ 1
複数のゴブリンが見張りに立っていて、それはさすがにあたし一人じゃ対処できない。
もちろん盗賊クンがいっしょでも同時に倒せるのは二匹だけで、それ以上はぜったい無理な状態。きっと師匠だったら一瞬のうちに五匹くらい倒せるんだろうけど、いまのあたしには一匹倒すのが精いっぱいだ。
なので、後方のパーティたちを待って、静かに遠距離魔法とかで素早く倒した。神官魔法と違って、普通の魔法はあんまり光らないっぽい。
風の魔法だと特に暗殺向きなのかも。
突風みたいな感じで風の刃がゴブリンを斬り裂き、ダメージで倒れている間に戦士職が距離を詰めてトドメを刺す。
安全安心のコンボだ。
それを三回ほど繰り返して、ようやく昨日の池のところへたどり着いた。
「ふぅ、疲れたぁ」
「これでオレたちの仕事は八割終わったな」
いぇい、と盗賊クンとハイタッチ――しようと思ったけど音を出すわけにはいかないので、音が出ない程度に手を合わせた。
あ、盗賊クンが装備してる革手袋いいな。
今日の仕事が終わったら報酬で買っちゃおうかな。
なんて思ってる間に、戦士職のみんながあたし達の横に慎重に慎重に移動してきた。
騎士職のイークエスたちは、残念ながらここまで近づけない。どうあがいても、ガチャガチャと音がしてしまうので、ある一定の距離を空けるしかなかった。
だから、戦士職のガイスたち数人が横に並んで最初の壁となる。準備中に気づかれたり、騎士たちが間に合わなかった場合、後衛まで敵がこないようにするため。だってさ。
「さすがだな、パルヴァス」
「えへへ~」
親指を立てるガイスに、あたしも親指を立てた。
池にいる魔物たちは、あたし達に気づいた様子はないので、盗賊としては大成功だ。
「下がるぞ、盗賊ちゃん」
「分かった、盗賊クン」
ちなみに名乗ってもいないので、盗賊クンには『盗賊ちゃん』と呼ばれた。だから、そのまま盗賊クンと呼んでみることにした。
うん。
なんかソレっぽいので、いい感じがする。
あとは任せたね、という感じでポンポンとガイスにタッチしてからあたしと盗賊クンは後ろへと下がった。
戦闘に関しては、あくまで盗賊は中衛から後衛。
なので、騎士職の位置まで下がっていく。
「おまたせ」
「いつでもいけるぞ」
あたしと盗賊クンは騎士のみんなの後ろへと下がった。
これで戦闘準備完了。
みんな配置に付いたと思う。
いつだって戦闘開始できる状態になった。
あたし達の後ろには魔法職と神官職の人たちが待機してる。それぞれ目を合わせて、覚悟と準備が整ったことを伝えてきた。
チューズとサチもあたしを見てうなづいてる。
準備完了だ。
それを見てイークエスが息を吸い、吐いた。
他の騎士職のみんなも同じように深呼吸して――
一斉に立ち上がる。
ザ、とか、ガシャ、とか金属のこすれる音が森の中に響いた。
同時に、あたし達の後方でいくつもの魔法の円環が展開される。
神官たちもまた、騎士職の動きに合わせて魔法を発動させた!
「フィルド・ディフィンシオニス!」
神々の奇跡。
っていう感じで次々と神官のみんなが防御魔法を唱える。神官魔法は神さまの奇跡っていうけど、こんなに一斉に数人の神官が魔法を使ったら、神さまって混乱しないのかな?
なんて思ってる間に池の向こうがぎゃぁぎゃぁと騒がしくなった。
これだけ派手に光ってたら、まぁ気づかれない方がおかしい。
でも、先制攻撃を捨てて全員に防御魔法を使う方がいいみたい。
不意打ちで倒せるのは、せいぜいが二匹か三匹。それを考えると、気づかれない安全なタイミングで防御アップしておくのは有効なんだろう。
もちろん、ここまで気づかれずに近づいたっていうあたし達の活躍があってこそ。
えっへん。
と、師匠に褒めてもらいたいところだけど、師匠はあと二日は帰ってこないんだよねぇ。見てもらいたかったなぁ~。
でも。
師匠だったら、こんなゴブリンとかボガートが何匹いても一人で対処できそう。盗賊ギルドに入るときの試験だって、あんな大勢に囲まれていてもぜんぜん平気だったし。やっぱり師匠って凄いよね。
って、考えている間に騎士のみんなが盾を構えながら突撃していった。
あたしはそんな騎士職の後ろを追いかけながら拾っておいた石を魔力糸にセットする。即席スリングの完成だ。
でも相変わらずスキル『鷹の目』が無いので、使えない。たぶん騎士職のみんなに当たっちゃう。
無事に戦士職と合流した騎士たちは、更に前へと進み池の淵をたどって砦の方向へと突撃した。
「おおおおおおお!」
戦士たちの振り上げる武器が盾の向こうに見えた。
きっと、一番槍ってヤツだ。誉れ高き一番に攻撃した者、だったかな?
槍じゃないけど。
剣だったけど。
そういえば斧を装備しているガイスって珍しいのかも。
基本的に戦士のみんなは剣を持ってるので、ガイスの斧は分厚くて強そうに見えた。攻撃力が高いけど攻撃範囲が短いのかな。武器って難しいなぁ。
なんて思いながら周囲を観察していると――
「あっ!」
砦の上にいたゴブリンが弓を構えていた。
上から撃たれたら大変だ。狙われてるのは後方の魔法使いかも!?
対処しないと――と思ったら後方から魔法が飛んできた。
炎弾。
それが三つくらい一気に飛んできて、砦上にいたゴブリンがあっという間に燃えてしまった。
一発だと倒せないけど、さすがに三発も重なると威力も凄い。
ゴブリンは苦しむようにもがくと、そのまま倒れた。きっと消滅したと思う。あとで砦の上の石を回収するのを忘れないようにしないとね。
それにしても……
「うーん」
もしかしたら、あたしの出番は本当に無いのかも?
中衛だから前衛の補助をするべきなんだけど……
ここまで騎士がいっぱいの状態で補助するべきことなんてひとつも無い。というか、補助したくてもできない。
「……」
あたしの近くにいる盗賊クンも武器であるナイフを構えているけど、何もできないでいた。
まぁ、仕方がないのかな。
ここまで頑張ったんだから、これが普通なのかも?
でもサボってるって思われたら嫌なので、ひゅんひゅんとスリングを回しておこう。
あ、でも投げナイフを構えてる方がそれっぽいかな?
どうしよう。
って考えている間にも前方では騎士のみんながゴブリンの攻撃を盾で受け止めて、戦士のみんながゴブリンを斬り倒している。どんどん前線が前へ前へと押し込んでいた。
「やられたヤツは下がれ!」
と、騎士の誰かが声をあげたのが分かった。
騎士たちの間から戦士サンが下がってくる。左腕を切られたみたいで、血が流れていた。
「失敗した」
悪態をつきながら後方に控える神官まで下がる戦士サン。一応は護衛みたいに付いていった方がいいかな?
他に仕事もないし。
「――危ない、っと!」
砦裏から飛び出して、横方面へ移動したゴブリンが矢を放ってきた。
飛んできた矢をあたしは投げナイフの腹で受け止める。ガイン、と嫌な音。とっさに防御できたけど、めちゃくちゃ怖かった。
「うりゃ!」
そのお返しに、スリングの石を投げつける。
「当たった! みんな、あっち!」
あたしの支持で魔法使いの何人かがゴブリンに魔法を放つ。炎弾が炸裂し、弓ゴブリンは燃え上がった。
よしよし、あたしにも仕事がちゃんとあったぞー。
っていう感じで、あたしは戦士サンを神官さんたちの元に送り届けつつ、周囲の観測をしておこうって思ったのでした。




