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恋をしたのは、年下の男の子でした。  作者: 藤乃宮 雅之
23/25

~開店 『カフェ・鹿鳴館』~


 朝から快晴な土曜日。

 空梅雨の空には入道雲が立っている。


 実習生と生徒会が作った『美雄高等学校 文化祭』の看板が校門と南館正面入り口に掲げられて、看板を飾る彩豊かな造花がそよ風になびいている。


 体育館からはベースやギターの弦を弾く音と、マイクのキュイーンと言うハウリング音が響いていて、軽音部が開演に向けてのチューニングを行っているのが分かる。


 二年三組の教室ではメイド服・執事服に着替えた接客チームとTシャツにエプロン姿のキッチングループが、開催に向けて最終チェックを行っていた。

「よぉーし。メニューもカスターもOK。店内の壁やオブジェにも異常無いか?」

「ばっちりだ。壁ドンしても問題ない。」

 職員室の朝礼が終わって模擬店舗に入って来た綾香は、義信と章浩の会話に少しびくっとして、聞こえないフリをしてクラス内を見回した。

「うわ~。緊張して来た~。」

 メイドチームが集まって、チュールで膨らませたミニスカートをふりふりさせている。

「う、うん。ど、どうしよう、ドキがむねむねして来たよ~。」

「沙織、落ち着いて。」

 一方、執事チームは落ち着いたもので、メニューを眺め直したり、接客のシミュレーションなんかをやっている。

「先生、今日もよろしく。」

 執事姿の章浩が近寄って来てにっこりと笑う。

「あら、一色くんは、メイド服は着ないの?」

「勘弁してくださいよ。今日来る楓ちゃんに、そんな格好してるの見られたら・・・」

「怒られるの?」

「狂喜乱舞してSNSで拡散されちゃうよ。」

 やりそうな想像がついた。

「いつ頃来るの?」

「えっと、僕の休憩時間より前に来るって言ってたから、11時までには来るんじゃないかな。学校の友達も連れて来るって。」

「それは賑やかになりそうね。」

 楽しそうに話す章浩に嬉しくなる。


 パーテーションの向こうのキッチンスペースからハンドミキサーやボウルをカシャカシャ言わせる音、飾り用のフルーツを切るまな板の音が響いて来て、開店に向けてパンケーキが焼ける甘い香りが漂って来た。

 朝イチにご来場してくれたお客さんたちの人影が、はめ込み窓の『すりガラス風フィルム』に影絵として映っている。

「さぁて、そろそろ1時限目・・・じゃなかった開店時間だな。」

「廊下に人の気配が多いな。掲示案の告知が効いたかな? キッチンの方の調子はどう?」

「こっちは20人分のパンケーキならすぐに対応できるよ。シフォンケーキも準備OK。」

 元気の良い声が飛び交う。

「それじゃ、『カフェ・鹿鳴館』オープンだ。デパート開店時間みたいに並んでくれ。」

 義信の号令で接客チームは銘々に気合を入れると、入り口から奥にかけて男女8名ずつ交互に並んでスタンバった。

 からからと教室・・・『カフェ・鹿鳴館』の扉が開いた。

『おかえりなさいませ、ご主人さま。』



 なかなかな盛況ぶりにキッチンスタッフたちが慌てていた。

「やばい。今日暑いから予想以上にタピオカが出てるよ。」

「調理室で圧力鍋借りて作って来るよ。30分ぐらいかかるけど大丈夫?」

「うん、六華、お願い。出来上がったら連絡頂戴。ボウル持たせて男子を取りに向かわせるから。」


 午前10時半を回った頃、パーテーションの向こうに下げ物をしていた章浩に、メイド服の沙織が通用口から声を掛けて来た。

「一色く~ん。ご指名。」

「了解~。」

 章浩は白ナプキンを左腕に掛けて入り口へと向かう。

「へへ~。あき兄。来ちゃった~。」

 ポニーテールにまとめた髪に黄色のリボンを飾った楓が三人の女の子を伴って立っていた。

「お、いらっしゃい。」

「あき兄。この娘たち、碧山中の友達。」

「こんにちはー。」

 小柄な女の子たちがペコリとおじぎをした。

「こんにちは。いつもウチの楓がお世話になってます。」

 章浩もペコリと頭をさげる。

「ねぇ、あき兄。」

 楓がニヤリと笑って一歩踏み出す。

「ここってカード使えますか?」

「あー。現金だけなんですよ。」

「だったらいいですぅー。」

「あぁ~。えあぺいっ。」

 仲良し兄妹劇場に店内のお客さんたちも振り返る。

「ふふふ~。さて、そんなことより、あき兄。執事のお出迎え、やってやって。」

 わくわくして頬を紅潮させた楓が章浩を見上げる。

「よ~し。覚悟してろよ。」

 ニヤリと笑った章浩は、すぅっと深呼吸してうやうやしく頭を下げた。

「お待ちしておりました。お嬢様がた。お茶会の準備は出来ております。どうぞ、こちらへ。」

「きゃあ。執事さまだ。」

「すごい、マンガみたい~。」

 口々にはしゃぎながら中学生たちが章浩に続いてテーブルの方に移動する。

 楓はボーダーのニットTシャツにワイドパンツ、他の女の子たちは碧山中学の夏服、グリーン地にブラウンとベージュのタータンチェック柄のプリーツスカートに白ブラウス。

 女の子ばかり4人なので、他の執事役3名が応援に来て、椅子を引く。

「うわ、お姫様みたいな扱いだ。」

「ねぇ、何にする?」

「まず、タピオカは外せないでしょ?」

 ご満悦の女の子たちがメニューを開いて話し込む。

「それではお決まりになられましたら、テーブルのベルを鳴らしてお申し付けください。」

 章浩が礼をして壁際まで下がる。

 女の子たちは声をひそめてささやき合った。

「ねえねえ。楓のお兄さん、結構イケてない? 写真より良い感じ。」

「楓がブラコンなの解る気がする~。」

「ブラコンとか言わないでよっ。仲良し兄妹って言って。」

 楓が顔を赤くして睨みつける。

「楓ってさ。お兄さんのこと話すときに目がイっちゃってるもん。分かりやすいったら。」

 けらけらと女の子たちがはしゃく。

「アタシの姉ちゃんもココなんだけど。この学祭って告白イベントがあるんだって。胸の赤バラと白バラを交換出来たらカップル成立ってさ。」

 きゃあと歓声が上がる。

「まだお兄さんは白バラのままだね。楓、心配になった?」

 意地悪そうに楓を覗き込む。

「告白を受けるかどうかは本人次第だから。そこは、あき兄の考えを尊重するよ。」

 楓は壁際に立っている章浩の方をチラリと見た。

「おぉ、オトナな意見じゃん?」

「じゃあ、帰った時、お兄さんが赤バラ持ってたらどう?」

「・・・・・・すっげーイヤ。」

「ほら、ブラコンだー。」

 はしゃぐテーブル席を眺めながら、章浩は温かい目で注文が決まるのを待っていた。


「ねぇ、執事さん。」

「何でございましょう、お嬢様?」

 フルーツパンケーキとタピオカミルクティーを平らげた楓たちは、章浩の手が空くのを見計らって声を掛けた。

「あき兄は、もうそろそろ休憩なんでしょ?」

「うん。11時から。」

「じゃあさ、気分転換にエスコートしてよ。同じ学生同士だから穴場とかの情報、あるんじゃない?」

 テーブルの上で肘を突いて、組んだ両手に顎を乗せた格好で章浩を見つめる。

「う~んと、そう言えば、1組がやってるプラネタリウムは少人数ずつで『かまくら』みたいなドームに入って四季それぞれの夜空が見られる造りになってるって聞いた。」

「わぁ、ロマンチック。あき兄、一緒に行こ? あ、みんなも一緒に。」

 同席している女の子友達が苦笑いを浮かべる。

「ま、せっかく来てくれたんだし。いいよ、案内するよ。」

「やった~。」


 キッチン側のパーテーションの前に、長机を土台に、それっぽく作ったレジカウンターに居る綾香の所に章浩がやって来た。

「それじゃ、先生。一色、休憩入ります。」

「はい。ごくろうさま。これから楓ちゃんたちとおデートね。」

「はは。聞こえてた?」

「楽しんできてね。」

 にっこり微笑む綾香に章浩がそっと耳打ちした。

「午後4時で今日の催しが終わったら、一組のプラネタリウム一緒に、どう?」

「え? でも終わったら、いったん施錠でしょ?」

「先生の特権でカギ開けられる?」

「それは・・・何とも言えないよ。」

「出来るようなら、星空デートしよ? 成否は追って教えて。」

 ウインクすると章浩はそそくさとレジカウンター後ろの『ホールスタッフ通用口』へ着替えに入って行った。

「あ、ちょっとぉ・・・」

(学祭でデートか・・・高校の時、そんなことしなかったから憧れはあるのよねぇ。・・・惚れた弱みだチクショウめ。秋山さんに相談してみようかな。)


  章浩が中学生たちを引き連れて出て行ってからしばらく、不具合がないかホールを見回していた時、義信が小走りで綾香の下にやって来た。

「先生・・・じゃなかった支配人。」

「なあに、大場くん?」

「一色の知り合いだって言う男の人が来てる。今休憩に入ったって伝えたら、ここの責任者とちょっと話がしたいって。」

 カウンターから入り口の方を伺うと、章浩が毛嫌いしている例の男性の姿が垣間見えた。

「わかった。行ってくるわ。」

 綾香は、深呼吸してその男性の所へと向かった。


「おや、先生。お久しぶりです。」

 この男性は礼儀正しく頭を下げて微笑んだ。

「どうも。一色くんにご用と伺いましたが?」

 警戒しつつ、この男性を観察する。

 身なりは小ぎれいにしていて、表情も穏やかなこの人物が、外見だけではそんなに酷いDV加害者とは判らない。

「ええ。しばらく一緒に生活していた『息子』のような子の成長を見ようと。彼とも、彼の母親とも関係を修復したいと思いましてね。章浩くんはいつ頃戻られますか?」

 綾香は入り口から離れる様にジェスチャーをして廊下の向こう側に並んだ。

「はっきり申し上げますと、彼の精神衛生上、あなたとの接触は賛成しかねます。お引き取りくださいますか?」

「これは手厳しいな。しかし、これは家庭内の問題でして、ココをクリアしないと私たちの生活に改善が望めないんです。それを阻害する権利は先生にも無いはずでしょう?」

 綾香は口をぎゅっと結んだ。

「彼の戻る時間を教えたくありません。」

「それでも良いですよ。ここで待たせてもらいます。」

 一歩も引かない構えに綾香は顔をしかめた。

(このままここで鉢合わせはマズイわ・・・)

「分かりました。では、面談場所で使える部屋があるか職員室で確認します。ご一緒、お願い出来ますか?」

「そう言う事なら、喜んで。」

 綾香は大場に責任者代行を頼んで、その男性と南館へと向かった。




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