第7話「看板娘」
アルトスの代表的な名産品といえば時計。柱時計、壁掛け時計、腕時計と種類は豊富。チクタクと時を刻む音に癒される人も多い。
「やれやれ。明日は明日の風が吹くと言い続けて何日経った? 時計なんて大量に売れる物じゃないとはいえ、ちょいとばかし閑古鳥が鳴きすぎだ」
アルトスの街――チクタック。そこで長年に渡り営業している時計屋の看板娘は頬杖をつきながら途方に暮れていた。
オレンジ色の髪と瞳のような明るいオーラはなく、無意識に溜め息を吐いている。店内に聞こえているのは針の音だけ。店の扉に付いているベルが鳴ることはない。
「……せめて誰か来てくれ」
大あくびをして腕枕に突っ伏す。どうせ誰も来ないのだからと、諦めて眠りこけることに決めた。そのとき――。
「ごめんくだせー!」
店の扉のベルがカランと鳴る。
入店してきたのは、金髪の少年と白髪の少年とキャラメルアッシュ色の髪の少女。一気に店内が騒がしくなる。特にうるさいのは金髪の少年。
見るからに時計を買うようには見えなかったため、看板娘は「いらっしゃい」と言うや再び突っ伏す。
(どうせ買うわけない。面白半分で冷やかしに来たに違いない。接客するのも面倒だし寝よう寝よう)
次第に意識が遠くなっていく。一番心地のいい、眠りに落ちる寸前。チクタクという音が眠りにトドメを刺す――。
「――すんませーん! すんませーん! 起きろこの野郎ー!」
(この野郎? 誰がこの野郎だって!)
突っ伏していた顔をガバッと上げる。眠り落ちる寸前に掛けられた言葉に目尻が吊り上がる。とても客に向ける表情ではない。
「お! 起きた起きたぜ!」
「起きたぜじゃない! あたくしの眠りの邪魔をしたのは許せない! 絶対に何か買ってくれるまで帰さない!」
「そんなに目くじら立てねえでくれ。もっと愛想よくしてりゃあ客が増えると思うぜ」
「誰のせいだと思ってるのじゃ!!」
眉間にシワを寄せて金髪の少年を睨みつける。誰も来ないため売れない、ただただチクタクと時を刻む時計に囲まれる日々。看板娘とおだてられて店を手伝い始めたのを後悔している。日に日に溜まっていったストレスを吐き出すようにぶつけてしまう。
「だ……大丈夫か……!? 相手がボクだったから良かったもんだが、そんな態度で接客してりゃあ、客足は減るばかりだぜ?」
「どうして分かるのじゃ。閑古鳥が鳴いていることを」
「時計が埃まみれだ。普通、商品に埃が溜まってれば掃除するだろ。店内も埃が溜まってる。店の掃除が疎かになるってこったあ、それだけ客が来ていない証拠だぜ」
「今なら帰ることを許す。冷やかしなら帰れ!」
「冗談じゃねえ。客が来てねえってことは、ここは穴場ってことじゃねえか」
「ふぇ――?」
「買わせてもらうぜ。この店オススメの懐中時計!」
オレンジの瞳に映る少年の笑顔は、その金髪よりもまぶしく輝いていた。




