第26話「王国十字路」
だいぶ気分がよくなったチイは、部屋の掃除を始めていた。マオの制止も、「じっとしている方が駄目な気がする」と振り切った。
「ふぅー! やっぱり綺麗な方が気分がいいさ!」
チイは掃除を終わらせてコーヒーを淹れる。あらかじめ挽かれたものにお湯を注いで飲むのを好む。
「どうして、こう落ち着くんだろうか。不思議なものさ、コーヒーは」
テーブルにカップを置いて、窓から外を眺める。今日も青空が広がっている。
「悪いことをしちゃったさ。掃除のために追い出しちゃった」
※ ※ ※
「マオくん。わたし、グラン王国をよく知らないです」
「えーっと。この国で一番偉いのは王様だよ。王様の一声で何でも決まるんだ」
「何でもです!?」
「うん。極端だけど、王様が『あいつが気に入らないから殺せ!』と言えばそうなるんだよ」
「怖いです~!」
「今の王様は大丈夫だよ。昔は酷かったみたいだけど」
「よかったです~!」
「よくはないでしょう。王様の言うことは絶対ってことじゃない。それで国民は納得しているわけ?」
「もちろん反発もあるよ。けど、みんな思うだけ」
「本当に『あいつが気に入らないから殺せ!』ってなっちゃうかもね」
「やっぱり怖いです~!」
「大丈夫だよ。あくまでも極端な例えだから」
「はい」
「そうだ。せっかくだから行ってみようか! 王宮」
マオが二人を連れて王宮を目指して歩く。ただ歩いているだけでも楽しいのか、ネルガは笑顔である。
しばらく歩くと、道を挟んで向かい側に大きな建物が見える。ドーム状で純白な建物だ。
「真っ白で綺麗です」
「あれが王宮だよ。王様を含めた王族が住んでるんだよ」
「アタシは久々に見たわね。白い建物を見ると神界を思い出すわ」
「あのマオくん。あっちにあるのは何です?」
そう言ってネルガが指を差した先には、これまた純白の建物があった。
「あれは、近衛騎士部だよ」
「このえきしぶ?」
「グラン王国を守る騎士団がいるんだよ。強くて格好いいんだよ!」
「格好いいですか!? マオくんよりもですか?」
「オレなんかよりもずーっと!」
「ずーっとですか! それは見てみたいです!」
「簡単に見れるよ。グラン王国をパトロールしてるから」
「赤茶色の服を着ているのは見たことあるわ」
「細かくは、赤茶色と銀色と金色と白の四種類。それぞれ腕章に零~三つの星が付いているんだよ」
「ランク分けされているのね。国を守るという目的は同じなのに」
「役割分担とか色々あるんだと思うよ。向上心を持たせるためかも。ランクの差に関係なく大変なことなのは確かだよ。それを見せずにいるから格好いいんだよ」
「マオくんは騎士さんになるです?」
「憧れはあるよ。けど、オレの夢は別にあるんだ」
「何です?」
「それは秘密だよ」
「一丁前ね、言うことは」
「マオくんは格好いいです~!」
「単純ね。単純だわ……心ってのは」
カムアの呟きと同時に、正午を知らせる鐘が鳴り響く。自分の声が掻き消されたことにカムアはムッとして時計台を睨んだ。
「大きい音です~!」
ネルガは堪らず耳を塞ぐ。
鐘が鳴りやむなり、マオはネルガの肩を叩いた。
「マルギア・ベルだよ。今や街だけでなく、王国そのものの名物になってる」
「王宮、近衛騎士部、マルギア・ベル。この十字路は騒がしいわね」
「そうかもな。みんな、王国十字路と呼んでるよ」
「大層ね」
「呼び名くらい見栄を張りたいんだよ」
「見栄っ張りね」
「お互いにな」
「え?」
「さっきお腹が鳴ってただろう? 鐘の音で誤魔化したつもりか?」
「うっ、うっさい!!」
顔を赤く染めながら、鐘の音よりも大きな声でカムアは叫ぶのだった。




