案5 2つのギフト
ペガサスの騎士団は、俺を残して去ってしまった。
有能な転移者であれば保護し、そうでない者は放置する。もちろん、草原に取り残された俺は、後者の存在。
ペガサスの騎士団が、この草原から撤退を始めるならば、俺も早くここから非難しなければならない。このままに留まり続ければ、火竜に目を付けられてしまうかもしれない。
「ったく、どうなってんだよ?」
思わず愚痴がこぼれてしまう。しかし、俺の愚痴を聞いてくれる者なんていない。
「どうなってるって、助かったでしょ」
姿を消していたサヤネが、いつの間にか俺の前に現れている。
「サヤネさん、どこに行ってたんだよ?」
「あらっ、そんな他人行儀な呼び方。サヤネって呼んで欲しいわよね」
「そんな話じゃないだろ。主人がピンチかもしれない。そんな時に、居なくなる従者なんて!」
「何言ってるの、一緒に居たわ。感じれてないだけでしょ」
そう言うと、今度は俺が分かるように、サヤネが姿を消す。消えた先は、俺の影の中。確かに、気配というかサヤネの存在を感じることは出来る。
(私は影の精霊の巫女。影の精霊様を護る役目を担うっていったでしょ)
俺の中にサヤネの声が響く。
(ちゃんと、見ていてね)
すると俺の影が、形を変え始める。俺の影には、消えていたはずの翼が現れている。
「翼が無くなっていたのは……あれは、ヤサネさんの仕業だったのか?」
(もうっ、サヤネねっ!)
「あっ、ああっ、サヤネの仕業だったのか?」
まだまだ翼は大きくなり、今は完全に腕よりも大きい。これならば、空だって問題なく飛べると思わせてくれる。しかし、再び翼は小さくなると、影からサヤネが出てくる。
「私は影の精霊の巫女なのよ。これくらい簡単よ」
そして、大切そうに抱えているのは、真っ黒に染まった若木。
「それって、もしかして」
「そう、力を失った影の精霊様。失った力を取り戻すには、永き時間が必要なの。だから、貴方の力が必要なの」
「なんで、俺が関係してくるんだ」
「だって、貴方は影の力が強いのよ。翼だって影が形を変えたもの。影の力が強くなければ、具現化なんて出来ないの」
サヤネの持っていた若木は、俺の影の中に消えてしまう。
「影の力が強い場所に居れば、回復も早くなるの。だからご主人様の影は最適な場所なの」
「でもな、俺はEランクだぞ。多分役には立てない」
ペガサス騎士団が残した、”Eランク”と”名”が刻まれた不名誉な身分証。
火竜とも対抗出来るペガサス騎士団は、この世界では決して弱くはない。上位に属する集団。その手段から、価値無しと認定されている。
「そうね、貴方の力だけではないかもしれないわ。私も影の中に潜るまでは、ハッキリと分からなかったもの。多少の鑑定スキルじゃ、完全に見抜くことは不可能な隠匿された力」
「俺の力が、隠匿されてるって?」
「一体何を願ったのかは知らないけど、馬鹿げた力よ。盾を出してみて」
「ああっ」
透明ではあるが、薄っすらと青みがかった鱗状の盾。でも、それは脆く、簡単に壊れてしまう。ペガサス騎士団にも、一撃で砕かれた俺の能力。
しかし、その盾が次第に黒く染まる。
「何が、起こってる?」
「影の力を与えたのよ。貴方の無属性魔法は、何だって形を与える。影に形を与えることだって可能なの」
「でも、これが役に立つのか?」
サヤネが地面に落ちている小石を盾に向かって投げる。拳大程の石を軽々と持ち上げたことも、投げた石の速さも想像以上で、間違いなく殺傷力を持ち、俺の盾は簡単に砕けるだけの威力がある。
「えっ、消えた?」
確かに、サヤネの投げた石は盾に当たったはず。それなのに、音もせず石は消えてしまった。
「これでしょ」
サヤネが、影の中から石を取り出す。
「私の投げた石は、影の中の世界に移動したのよ」
確かに、サヤネは影の中に出入りする。だから、可能なことかもしれない。でも影の中には、影の精霊が宿る若木だってある。
「影の中は大丈夫なのか? もし若木に当てりでもしたら、大変なことになるだろ」
「だから、貴方の影はどうかしてるって言ってるの。一体どれだけの広さがあるのよ。何を願えば、あんな馬鹿げた影になるの」
延々と暗闇の中を、さ迷っていたことが影響しているのかもしれない。暗闇ではなく、影の世界。そこで与えられたギフトは、無属性魔法と影のスキル。
「そんなこと知るわけないだろ。好きでこの世界に来たんじゃない」
「でも、心配してくれるなら嬉しいわ。精霊様を守護する者を探す予定にはしてたのよ。目星も付いてるの!」




