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彼女のテレパシー 俺のジェラシー  作者: 新道 梨果子


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3. 温室

 その日の放課後、俺たちは早速部室に案内された。


「部室いうても、部室って感じじゃないんじゃけどね」


 苦笑しながら川内が話す。連れていかれたのは、体育館の横にある、小さな温室だった。まさかこんなところに誘導されるとは、と木下と顔を見合わせた。

 入り口には南京錠が掛けてあって、川内がガチャガチャと鍵を開けている。


「どうぞ」


 扉を開けて、川内がそう促した。俺たちは恐る恐るといった体で、中に足を踏み入れる。

 名前も知らない花が、鉢に植えられて並べられているのが目に入る。いや、たまには知っている花もあるけど。パンジーとか。


 温室は外からは何度でも見たことはあるが、中に入るのは初めてだ。なんとなく、普通の生徒は入ってはいけないような気がしていた。

 まだ外は少し肌寒いが、さすがは温室、暖かい。中は意外に広くて、通路になっているところに木製の背もたれがないベンチがひとつ、それから折り畳みのパイプ椅子がいくつか畳んで置いてある。


「はい、座って座って」


 やっぱり尾崎がその場を仕切っている。

 女子二人がベンチに並んで座る。なので必然的に俺たちはパイプ椅子を広げて座ることになった。


「二人しかおらんし、部室とか貰うても仕方ないけえね。じゃけえ、ここが部室なんよ」

「なるほどねえ」


 初めて入ったその場所が物珍しくて、きょろきょろとあたりを見回してしまう。

 階段のようになっている棚が所狭しと置かれていて、その上にプランターや植木鉢が並ぶ。棚がないところには、背の高い観葉植物が置いてある。壁を見るとアナログの針時計のような温度計があった。


たちまち(とりあえず)、入部届書いといてもろうてもええ?」


 川内が立ち上がり、温室の隅にある棚に向かう。肥料やらじょうろやら、なぜか筆立てなんかも雑多に置かれた古い木製の大きな棚で、小さな引き出しが付いていた。彼女はそこから二枚、紙を取り出し、さらにバインダーをふたつ棚から取り出し、筆立てから二本、ボールペンを抜く。

 こちらに歩み寄りながらそれぞれをセットし、俺たちに差し出した。


 木下と俺は素直にそれを受け取る。見てみれば、部活名とクラスと自分の名前を書けばいいだけの簡単なものだった。今まで帰宅部だったので、見たことすらない代物だ。

 特に拒否する理由もないし入部は決めたことなので、俺たちはなんの疑問もなく、その紙に園芸部、二年一組、とそれから自分の名前を書き込んだ。


「これでええん?」


 木下と俺はほぼ同時に書き終わり、バインダーごと入部届を川内に渡す。


「うん、ありがと」


 そう礼を述べて微笑むと、川内は二枚のバインダーを胸に抱える。


「よかったあ」

「よかったねえ」


 川内と尾崎が顔を見合わせて笑い合っている。


「なんじゃ、大げさなのう」


 呆れたように木下が声を出した。


「先生が、絶対二人を勧誘せえって言うたけえ」

「ほんまほんま。よかったわ」


 ニコニコしながら、女子二人が話している。

 ……なんだろう。なんだか、嫌な予感がしてきた。どうやらその予感は木下もしたようで、こちらに不安げな目を向けてくる。

 なので、その不安を口にしてみた。


「聞いとらんかったけど……顧問って誰なん?」


 俺の質問に、女子二人は顔を見合わせて。それから川内は少し俯いて、尾崎はニヤリと片方の口の端を上げた。


「今日、職員会議が終わったらここに来るって言いよったけえ、それまでのお楽しみ」


 底意地の悪そうな声で、尾崎が答える。


「ご、ごめんね。入部届書くまでは言わんほうがええって言われとって……。あっ、隠しとったわけじゃないんよ、訊かれたら答えるつもりじゃったんじゃけど、ここまで訊かれんかったけえ」


 言い訳がましく川内が続ける。


「おおー、来たか」


 そのとき、温室の扉がバッと勢いよく開いた。と同時に、野太い声が響く。

 慌てて振り向いた。そこにはヨレヨレの白衣を着た先生が一人、立っている。


「えっ」

「げっ」

「げっ、とはなんじゃあ、げっ、とは」


 ズカズカと中に入ってくると、その人は木下の頭を上からつかむように握った。俺は「えっ」だったのでセーフらしい。


「いたたたた」


 木下は自分の頭をつかんでいる手の手首を両手で握って抵抗しようとしているが、体勢もあって相手のほうが力は強い。


「痛うなかろうが、これくらい」

「痛いってえ!」

「ほうか、すまんのう」


 ははは、と声を上げて笑うと、すぐに手を放す。


「よう来たのう。歓迎するで」


 口元に笑みを浮かべてそう声を掛けてきた人は、生物教師、浦辺。間違いなく、この山ノ神高校で一番恐れられている教師だ。

 がっちりした体格に無精髭。それだけでかなりの威圧感がある。しかも広島弁が割とキツくて、生徒の間では『カタギじゃない』だなんて話もあるくらいだ。


「園芸部の顧問って……」


 呆然としながらそうつぶやくと、浦辺先生は満面の笑みで答える。


「ワシじゃ。よろしゅう頼むで」


 俺たち二人はその返答を聞いて、がっくりと肩を落とした。

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