第0話 ミナト元帥は選ばれた!
キャラ紹介
ミナト・ナツメ
本作の主人公兼大部分の語り手。ひょんなことから下っ端→元帥になってしまう戦士。身長160センチ。体重45キロ。黒髪ショートボブ。本人曰くザ・平均的な見た目。あらゆる適正値がずば抜けて低い。かなりのオタクで、可愛いキャラクターが大好きな変態。アニメや漫画の見過ぎで心の声がめちゃくちゃ多い。
シノン・ソラキ
第36代 インターナショナル・アーミーズ元帥。くじ引き元帥決めの元凶。前例がないような突拍子もない思い付きによる改革で組織を指揮した天才。身長171センチ。体重49キロ。パープルヘアーのポニーテール。細身の絞られた身体。美人。低音ボイス。戦闘能力も組織においてずば抜けているとの噂。
ミズホ・ヤマダ
ミナトの同期。三等戦士。身長145センチ。体重32キロ。ピンクヘアーのツインテール。ロリ。自意識過剰のわがまま。
※本作品は現実世界の未来寄りの世界観かつ別世界です。ゆえに登場する事象(用語・単位等)は、現実世界のものと同じ場合が多いです。
※本作品はキャラクターの独白やキャラクターの持つ主観が多い場合がありますので、予めご了承ください。
「発表します……」
その声はこのニホノ大広場全体に響いた。戦士達はみな固唾を呑んで舞台を見つめる。
「次の、元帥は………………戦士ナンバー20003710! ミナト・ナツメです‼︎」
「……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
大地を揺らす大きな歓声と共に私は叫ぶ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」
私はミナト・ナツメ三等戦士、否、ミナト・ナツメ元帥だ。
統一暦三〇〇〇年、人類は通称第一惑星から第八惑星までの八つの惑星に住んでいた。
全ての惑星は空間魔法展開装置を使って、温度をある程度調節した。
ときにそこには一面の大草原を、ときにそこには氷の大陸を、ときにそこには砂の大地を形成した。
豊かな自然に加えて、人類の多くは都市に住んでいた。魔法技術と科学技術を融合させた世界。
車や飛行機は風魔法の原理を利用し、電気は雷魔法で生成する。
このように魔法と科学は一体となって、人々の生活を形作った。
人類は簡単な魔法が使える。その一部は強力な戦闘向けの魔法を用いることもでき、彼らは「魔法使い」と呼称されたりもする。
魔法は大きく分けて三つの系統がある。
まず、火や水、風など自然現象を操る自然系統、物理的なものや空間、時間などに干渉する力を持つ干渉系統、そして、闇属性や光属性といった、自然とはまた別の属性を持つ独立系統だ。
想像を絶するほど広く、もはや無限なのではないかとされるほどの世界にはモンスターもいる。いわゆるドラゴンといった類いである。彼らはときに人々の生活を脅かすこともある。
そして、これだけ広ければ紛争も起こる。主に魔法使いたちを中心にしたデモのようなものだ。
この世界が比較的平和であり続けるのはとある組織によるものであった。それこそが世界統一治安組織「インターナショナルアーミーズ」である。
インターナショナルアーミーズの第36代元帥である「シノン・ソラキ」は、その任を終えるにあたって宣言を出した。
「私はもうすぐ、この元帥という立場を降りる。そこで、次期元帥についてだがーー本来は指名制ということであるが、最近私の周りの将達は、いかにも恩を売ろうと精一杯のアピールをしているな!」
それを聞いた幹部戦士将達がびくっと動くのを見ると、シノン元帥はにやりとして、話を続けた。
「そこで私は、くじ引きをしようと思う!」
近くで聞いている幹部将戦士達はみな目を丸くする。そして、この中継を見ている戦士たちもみな、一斉にどよめき始めた。
「くじ引きといっても、さっきからここで冷や汗垂らして怖気付いている連中から一人選ぶなんて真似は私はしないぞーーチャンスは全戦士、階級も役職も、所属も問わん! 全世界にいる約5000万人の全戦士分の名前の入った巨大くじだ‼︎」
戦士たちは訳もわからず、ただ唖然とするばかりであった。
しかし、徐々に言葉の意味を理解し始めた戦士達は一斉に叫んだのだった。
「なんだって‼︎」
空いた口が塞がらない者、チャンスがあることに喜び、ガッツポーズをあげる者、まだ、理解できていない者と三者三様という感じである。
しかし、宣言後しばらくしての多くの戦士の反応は大方まとまりをなしてきた。
「全戦士分のくじなんて作らねぇだろ」
「そうそう。どうせ優秀な戦士とか幹部とかだけ入れてさ。俺達下っ端には関係ないっての」
「まぁ、それでも指名制じゃないだけ、誰がなるか楽しみだな」
「やっぱ、あれだろ、古龍を一撃で倒したっていう……」
「マコト二等戦士将かあ! 最高幹部達の中でも一番若手のエリートだよな! 次期将軍候補でもあるんだろ?」
「そうだな、もうあの人しかいねぇよ!」
ニホノA3地区第二支部食堂にて。
「ミーナトっ! お待たせ! 意外と訓練終わるの早かったんだね」
「はいはい、私はいつまで経ってもダメダメ戦士ですよ。毎回毎回補習訓練受けてると思うな? ミズホだって、あんま私と変わらないじゃん」
「変わりますぅ」
ミズホはうっすら桃色のふわりとした唇を不満そうに突き出す。
ミズホは私の同期で、この組織に入るまでは学校の同級生でもあった。
身長は145センチほどと小柄で、今までピンク色かつツインテール以外の髪型にしているのを見たことがない。
性格は自信家かつ自意識強めであるが正直な子で、何よりも年齢相応に見えないロリっぽさという見た目が可愛いくて仕方ない。
という一方の私は、黒髪ショートボブを永遠に変えたことはない。身長は丁度160センチで、スリーサイズは……ってそこまでは言わないよ‼ ただこのように心の声がとにかくうるさいのが特徴。
「私は、ミナトより魔法適正も高いし、魔法銃の命中率だって良いし」
「もう、わかってるよ。たまには夢も見させて」
「わかってるなら、いいのよ」
機嫌が良くなったミズホを横目に、私は食堂をぐるっと一回り見渡した。
元々の戦士数が多いこともあって、昼間の食堂はうるさいほど会話で溢れているが、今日は一段と盛り上がっている様子だ。
自然と自分の声も大きくなってしまう。
「みんな、くじ引きの話でいっぱいだね」
「そりゃあね! でも次の元帥はこの私、ミズホ・ヤマダ三等戦士に決まってるわ‼︎」
一体どこからその自信が湧いてくるのだ、と、冷ややかな目で見つめると、また口を尖らせて、
「ミナトもそんな顔する。シノン元帥を信じてないの? あのシノン元帥だよ! シノンさんが元帥になってから変わったじゃん組織自体が!」
シノン元帥は就任して今年で5年目である。
だから、去年入隊した私達が組織が変わっただの、変わらないだのなんてわからないでしょ、と、言いたくなったがあえて言わないでおいた。
「ミナトもさあ、みんなが言うみたいに実は一部のすごい戦士しか、くじに入ってないとか思ってるの?」
「私は……」
シノン元帥と言えば、「有言実行」で有名な戦士だ。
過去一の元帥と言われるほど、戦士達からの信頼が厚く、戦士想いの元帥だ。
ただ今回ばかりはスケールが大きすぎる。いくらシノン元帥でも無謀なのでは?
となると、みんなの言うとおり、くじの中身を実は優秀な戦士達で埋めているというならきっと、誰が当たってもその後任は務まるだろう。
けれど、もし、万が一、いやこの場合5000万分の1なのだけれど、私みたいにろくに戦えない、リーダーシップもない人間が選ばれちゃったらこの組織どうなっちゃうのよ。
そんなことが容易に考えられるのだから、やはりみんなの言い分のとおりなんだろう。
なんて、考えていると、返事を忘れていたことに気づく。
「ね! 私は、何⁉︎」
めんどくさくなってきた。
「ああもう、なんでもいい! ほら、今度は見回りあるでしょ、行くよ!」
「えぇ、はーい。」
ミズホはまた不満そうに、その丸い頬をぱんぱんと膨らませつつも、渋々ついてくるのだった。
一週間後。
「みんな、今日はニホノ大広場に集まってくれてありがとう! そしてーー画面越しに中継を観てる諸君、ありがとう! 今日は私の退任の日でもあり、新たなリーダーが決まる日でもある。ここに、小さな穴が空いてるのがみえるかーーこれは空間圧縮魔法だ。ここに世界中の全戦士の名札が入っている。今からこの私が一つ引いて、それに当たった者が次の元帥だ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
私は、ミズホとの待ち合わせ時間に少し遅れて、このニホノ大広場に足を踏み入れた。
もう始まってる……まだ、引いてもいないのにすごい熱気だなぁ……。
私はあたりをきょろきょろと見回して、ミズホを探す。
すると、多くの頭の中から、一際小さな手がこちらに向かって振られているのに気づく。
よく私に気づいたなぁ……。
「すいません、すいませーん、はい、すいませーん」
その手をぐいっと引っ張るとやはり、ミズホが出てきた。
「ふぅわぁ助かったよぉ。ミナトぉ」
涙をちょっと浮かべながら、私に抱きついてくる彼女が可愛くてたまらん、なんて思ったりしていると、
「ちぇっ! みんな、何なのよ! 次期元帥を揉みくちゃにするなんて!」
と、小さい体で大きく身振り手振りをし怒りを露わにした。
こればっかりは、苦笑いしてしまった……。
「それでは発表します!」
声を聞いて、はっと舞台の方へ顔を向けた。
何だこの空気感は、一秒前のあの熱気が一瞬で静まり返っている。
戦士たちはみな、口をぐっと噛み締め、瞬きすら憚り、一点を見つめる。
「次の、元帥は………………戦士ナンバー20003710! ミナト・ナツメです‼︎」
「……」
うん? 何だろう、すごい私と名前似てるなぁ、まぁ、同姓同名もいたりするよね、うんうん。
「えっ⁉︎ 戦士ナンバー何て言ってた?」
目を向けた先には、鼻水も垂らしながら、涙で顔がぐちゃぐちゃになっているミズホが。
そしてまた、彼女もこちらを見て、
「2、20003710だって……あ、あたしじゃなぁーい‼︎」
と、大泣きしてしまった。
「そっかぁ、残念だったね」
と、彼女の頭を撫でると同時にふと、違和感を持つ。
「うん? 私、確かこの子に戦士ナンバーを訊いて、それで、えっーと、20003710って言ってたよね……えっ、えっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
場内は大きな歓声に包まれる。そして、私も、
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」
続
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