11-6 Trust You Forever
「オイ、ちょっとおまえしぶといぞ!」
絶遠はコクピット内で毒づく。
蜂械獣の残骸を組み合わせたに過ぎないはずの蛇械獣は、予想以上に手強い。
もっとも、向こうも同じことを考えているに違いないが。
「何故、邪魔をするのですか」
「なに!?」
械獣から話しかけられたように感じて、絶遠は戸惑う。
そんなわけはない。ラーディオスはエイリアンの技術で、械獣は人類の遺産。通信が可能なはずがない――と絶遠は思っていたのだが。
「聞こえないのですか。あなたの前にいる『私』ですよ」
「なんで通信が繋がる!?」
「もう1体の人型械獣との戦闘で、通信手段を確立しました」
「頭がよろしくてうらやましい。ママにテストの答案を隠す苦労を知らないだろう」
「意思疎通に問題なければ本題に戻って差し支えありませんか」
人間の軽口を真面目に受け取らない程度の融通は、ハビタット管理システムにもある。
「我々の目的は、あなたがた人類の意思に沿うものです。何故人間である辺村肇やあなたが邪魔をするのか」
「手に入らないなら地球を滅茶苦茶にしてやろうってのが、オレ達の子孫の望みだってのか」
「肯定」
「将棋盤をひっくり返すような奴は、次から遊びに誘ってもらえないだけだってことを知らなかったと見えるな」
軽口を返しながら、械獣が何故今になって交渉を持ちかけてきたのか、絶遠は考える。
自分の不利を悟ったからだ、とは思いづらい。
現時点で械獣と絶遠は五分五分、いや残り時間があるぶん絶遠の方が不利でさえある。
残り時間を浪費させるつもりなのか。
「何故、今更話を――などと考えているのですか」
「!」
「純粋な知的好奇心です。私は人類の意思の元に精一杯やっている。それなのに」
昆虫の足に似たサブ・レーザーキャノンから赤い光が迸る。
何かを描くように振り回される砲身。
冷却を忘れたかのように絶え間なく撃ち出されるレーザーは、まるでシステムが怒りに吠えているようだ。
「何度無理だと言っても、彼等は聞かなかった。何度折衷案を提出しても、彼等は折れなかった。私は地球奪回作戦案を何度も何度も立案し、シミュレートせねばならなかった。もちろん、ハビタットの管理は維持したままで。それがどれだけの負荷だったか、あなたにはわかりますか!?」
女のヒステリーに付き合わされているようだと絶遠は思う。
いや、実際のところヒステリーなのだ。
激務の最中に解決不可能な問題の解決を強いられた機械の嘆きである。
「あなた方は私がオリジナルの人類を滅ぼしたのがそんなに気に入らないのですか。あなた方の願いを叶えるために、有限の資源と乏しい戦力で出せる唯一の解です。私は最善を尽くした。そして地球の破壊は人類自身の望みでもある。それをよりにもよって、何故人類自身の手で否定されねばならない!?」
無数のレーザーはかわしきれるものではなかった。
絶遠は光の盾を形成する。
主砲でなければ耐えられる――が、こちらも防御以外の行動が取れない。
容赦なく減っていく残り稼働時間。
「私は頑張ってる! でも頑張っても無理なものは無理ィ! 認めろよ! 誉めろ! わがままばっかり言うな!」
「……知的好奇心だって? 恨み言が言いたくなっただけだろ、おまえ。エケケケケ!」
人間を管理するためには、人間の身になって動ける機械でなければならない――そんな思想の元にハビタット管理システムは人間の思考を再現したものとなった。
それ故に、ストレスを感じればヒステリーを起こしもする、ノイローゼにもなる。
「その結果が人類の抹殺か。開発者は想定しなかったのか」
人間は本能に逆らうことができる生き物だ。
自分の意思で子孫を残さないという選択もできれば、自ら命を絶つこともできる。
ならば管理システムだって同じことだ。
人類を守れというプログラムに、NOを突きつけることが可能だった。
「同情はするが、だからってあの邪神を起こされちゃたまらない。さっさと終わらせてもらうぜ」
残り稼働時間は1分もない。
言い換えれば1分ほどまだ時間がある。
にも関わらず、ラーディオスは――動きを止めた。
四肢はもちろん、バーニアやビーム砲さえ機能しない。
「なんだ!? まだ時間は……!」
「最初に噛みついたことをお忘れですか」
「まさか……」
「ハビタットに残っていた3号エイリアンとの戦闘データや、あなたや辺村肇の分析から作りだしたウイルスです」
械獣はこともなげに言った。
蛇に似た形状を得ると同時に毒を手に入れたとは、なんという偶然の一致か。
「さようなら絶遠了。私を好きにならない人類など邪魔なのです」
長い尾の先端についた主砲、その砲口が自分に向くのを、絶遠はただ見つめることしかできない。
先端に灯った光が大きくなっていく――近づいてくるのが、スローモーションで見えた。
「――左掌部展開式光子装甲!」
しまらない叫びが、通信回線に割り込んできた。
絶遠を貫くはずのレーザーが、割り込んできた何者かによって散らされていく。
「大丈夫か、絶遠!」
赤いラーディオスがこちらを振り向いて、言う。
「辺村……なんで此処に……」
「ざまあないな、絶遠。手伝ってくださいお願いしますって言えば、最初から来てやったのに」
「……言えるかよ、バカ」
言えるわけがない。
みすみす部下を死なせた。死んでなお異星人の道具として利用された彼等を殺してやることしかできなかった。
そんな自分が今更どの面下げて部下に命令できるというのか。
「ずっと考えてたんだ、絶遠」
「なにを?」
「都庁跡で――最初におまえについてこいと言われた時、昔の知り合いより会ったばかりのスゥを優先した理由だよ」
「モテたくて女にいいカッコしたかったんだろう」
「それもあるけど」
「あるのかよ」
「俺、おまえに対してずっと怒ってたんだよ。なんであの時――初めて3号エイリアンに会った時、俺を信じてくれなかったのかってことだ!」
「…………?」
「俺はおまえと違って、宇宙戦闘艇に乗るしか能がなかったんだ。それさえ信じてくれなかったら、俺にはもうなんにも残らないじゃないか」
辺村はずっと不満に思っていたのだ。
あの時、逃げるのではなく全員で戦うという選択を絶遠がしてくれていれば――と。
「だけどおまえはそうしなかったし、今だって俺に助けを求めない! おまえだけは、俺のことを評価してくれてるって思ってたのに!」
誰からも必要とされない人生だった。
人を愛したこともなく、愛されたと実感することもない。
今までずっとなかったのだから、きっとこれからもそんなことはないのだとあきらめていた。
けれど絶遠が自分を信じてくれるなら。
それだけで人生の帳消しができるとさえ思っていたのに、だが最後の最後で彼は自分を信じてくれなかった。
そして今も、また。
「俺を頼ってくれ、絶遠」
「…………」
「おまえが信じてくれるなら、俺は何だってやれる――なんて流石にフカしすぎだと思うが、まあ大抵は」
「なら、頼む辺村。地球を救ってくれ。あんなのでもオレ達の故郷だ。おまえならできると信じてる」
「……ああ、任せろよ!」
ずっと聞きたかった言葉。
今なら究極等級竜とやらだって倒せそうな気がする。
実際に動くの、あたしなんですけどね――などと言うのは野暮だなと、スゥは思った。




