11-4 絶遠の戦い
ラーディオスは素晴らしい、と絶遠は思う。
様々な星々で資源採掘を行う3号エイリアンがあらゆる環境に対応するために造ったパワードスーツ。
それを使用する限り、惑星上でも月軌道の無重力空間でも感覚的には何も変わらない。
空を飛ぶのと同じ感覚で活動できる。
せっかく宇宙に上がったのに、と残念に思えるくらいだ。
宇宙戦闘艇に初めて乗った時のことを思い出す。
機体ごと奈落の底に落ちていくような感覚や、上下左右の違いや距離感のつかめなさ。
虚空にただ1人放り出されたような孤独。
辺村は何故かあっという間に適応してしまったが、絶遠は慣れるまで時間がかかったものだ。
隊長の面目を保つのには苦労した――今から思えば取るに足らない苦労だったが。
だがそうした不便は、ラーディオスに乗っている限り感じない。
このありがたさは、通常の宇宙空間戦闘を体験していないあの多重人格娘にはわかるまい、と絶遠は思う。
「……召神」
軽くレヴォルバーを挙げ、引き金をひけば、作業艇のすぐ隣に暗緑色の巨神が現れる。
結局、絶遠のラーディオスがこれ以外の姿に変わることはなかった。
窮地に陥るとか、環境の変化がトリガーではないようだ。
スゥが緑から赤に切り替わったことから、人格1つにつき一形態というわけでもない。
まあ、それは今考えなくていいことだ。
絶遠の視界に、スペース・ハビタットが映った。
海百合に似た6本の金属円柱が身を寄せ合っている。
1本1本が別個に墜ちるより、全てのハビタットの質量を1つにまとめることで1カ所に絶大なダメージを与えようというつもりらしい。
それがどれほどの被害を生むか絶遠にはもはや想像もつかないが、究極等級竜を目覚めさせるには充分なはずだった。
彼にはその方が怖ろしい。
今、眠れる邪神が目を覚ましたら――械獣や合成人類はひとたまりもあるまい。
「まったく――嫌な置き土産を用意してくれたもんだ!」
絶遠・ラーディオスはドッキング作業を続けるハビタットの壁面に手をついた。
バーニアを全開にして、ハビタットを押し出す。
――この調子なら、思ったより簡単に終わるな。
だが、ハビタットは抵抗するように反対側の壁面からガスを噴射。軌道を修正する。
「……やっぱりこうなるよな」
ハビタットは何者かに操作されている。
問題は、制御ユニットを失ったはずのハビタットが何によって制御されているかだ。
内部にサブの制御装置があるのか。だとすれば厄介だ。
それがどこにあるのか調べているうちに、他の全部が地球に墜ちてしまう。
比較的マシなのは、蜂械獣1匹が生き残っていて、そいつが全てを操っているという可能性だ。
それならば、大型とはいえ械獣1匹潰せば済む。
潰せればの話だが。
だから自分を狙って一筋のレーザーが飛んできた時、絶遠はむしろ喜んだくらいだ。
出力から判断して、デブリキラーではない。蜂械獣が生き残っていたのだ。
そいつさえ倒してしまえばクリア――。
しかし、レーザーの飛んできた方向を確認して、絶遠は呆気にとられた。
どうやら蜂械獣に、外見への拘りはなかったらしい。
それはもはや蜂とはかけ離れた姿をしていた。
どうやら辺村達が宇宙に上がってくる前に絶遠が破壊した3体をくっつけることで応急修理したらしい。
1機分の胴体から2つの頭が生え、左右合計15本のレーザービーム砲が千手観音めいて伸びている。腹は3機分が電車よろしく連結されていた。
あえて何かの動植物にたとえるなら、蛇械獣とでも呼ぶのだろうか。
スラスターとソーラーパネルを兼ねていた蜂の羽は、今やコブラのフードのようだ。
泳ぐように近づいてくる双頭の蛇に向かって、絶遠はビームを放つ。
宇宙に光の花が咲いた。
だが花を咲かせたのは械獣ではなく、それを守るように集まったデブリキラーだった。
閃光を目眩ましにして械獣が急接近してくる。
仕留めたと油断した絶遠は、避けることができなかった。
「辺村の話じゃ、こういうサイセイカイジンってのは弱いって相場が決まってるんだが」
蛇の牙が、ラーディオスに深々と突き立てられた。




