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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第十六話 宴の準備

「へえ、『黄昏』に入ることが決まったんですか」

「まだ、仮メンバーとしてだけどな! あそこなら存分に力を振るえるし、戦うのが今から楽しみだぜ!」

「無茶しないでくださいよ?」

「分かってるって。ああ、怪我が治るのが楽しみだ!」


 鼻を鳴らし、瞳を燃やすベロノア。

 その体からは、ただならぬやる気と闘志がほとばしっていた。

 全身の気が、今にも溢れ出しそうなほど吠え狂っている。

 『黄昏』と言えばSランク昇格が確実視されているほどの有望なパーティー、彼女が燃えるのも無理はない。


 シャルリアに料理を作ると約束してから数日。

 すっかり顔なじみとなったベロノアは、窓口が空いている時を見計らってはこうして話をしに来ていた。

 特に何があるというわけではないが、俺のことを気に入ってくれたらしい。

 こちらとしても美少女と仲良くしてもらって悪い気はしないので、自然と世間話に華が咲く。

 こういうのもなんだが、上級窓口は比較的時間にゆとりのある仕事だしな。


「ベロノアさん、お茶どうです?」


 いつの間にか紅茶を用意してきていたヘレナが、カップをズイッと差し出す。

 するとその瞬間、ベロノアの顔が露骨に曇った。


「……遠慮させてもらうよ」

「どうしてですか?」

「や、『ヘレナちゃんが用意した食べ物は絶対に食べるな』って他の連中が――あッ!」


 言いすぎたとばかりに口を押えるベロノア。

 この間のことと言い、どうにも口の軽い人らしい。

 俺があちゃーっと頭を抱える一方で、ヘレナの方は自信満々に胸を張った。

 そして、分かってないなとばかりに軽く舌打ちをしながら指を振る。


「チッチッチ、今までの私とは違うのですよ! 明らかにおいしくなっているはずなのです!」

「そうなのか? だったら……」


 恐る恐るながらも、ベロノアは紅茶を啜った。

 あまりお上品とは言えない、ズルズルという音が響く。

 やがてカップを置いた彼女は、ふうっと息をついた。


「まあまあってとこか? 飲めなくはないけど」

「やったのです! これは大きな進歩ですよッ!! おお、神よ……!」

「それで大喜びするのって、いくらなんでもどうなのよ」


 やりましたッとばかりに神へお祈りするヘレナ。

 その大げさな仕草に、シャルリアはうんざりしたような声を出した。

 しかし、自分のために頑張ってくれていることがわかっているからか、表情の方はまんざらでもなさそうである。

 一方、事態を知らないベロノアはぽかんと口を開いた。


「なんだ? 料理の練習でもしてたのか?」

「ええ、まあ。来週のシャルリアの誕生日に、三人でご馳走を作るってことになってまして」

「へえ、そりゃあいいな! どうせだったら、ギルドのみんなでお祝いしようぜ。シャルリアちゃんの誕生会なら、男連中がこぞってプレゼントを差し出すだろうよ! なッ?」


 後ろへ振り向くと、たむろしている冒険者たちに声をかけるベロニア。

 たちまち、「おう!」と威勢のいい声が返ってきた。

 良い依頼を逃して、暇を持て余していた冒険者たちがたちまちこちらに集まってくる。

 男たちに取り囲まれたシャルリアは、たらりと冷や汗を流した。


「誕生会ってマジか!?」

「絶対に参加させてくれよな!」

「俺、シャルリアちゃんのためなら貯金を全部はたいても良いぜ!」

「あはは……み、みんなありがとうね! でも誕生日会は……」

「ええんやないの?」


 愉しげな声が奥から響く。

 振り返れば、満面笑顔のリューネさんが立っていた。

 彼女はシャルリアに近づくと、悪戯っぽく目を細めながら肩に手を掛ける。


「こんな機会なかなかあれへんし、冒険者のみんなと交流を深めたらどうや?」

「ええッ? いや、でも恥ずかしい……!」

「気にすることあらへんって! 私が許可するから」

「うーん……マスターがそういうなら……分かりました」

「よーっし! 決まりやな! ギルドの食堂を使って、パアッとやるで! パアッと!」


 両手を広げて「パアッと!」という部分を強調するリューネさん。

 どうにも、この世界の人は派手好きでしかも祭り好きが多いらしい。

 リューネさんの声に同調するようにして、次々と男たちも声を上げる。

 それに半ばあきれるようにして、ミラがつぶやく。


「話がどんどん大きくなる。収集付く?」

「……まあ、何とかなるよ。それより、俺たちはちゃんと料理を作らないと」

「それもそうね」

「あとで練習しましょう!」


 そういうと、再び事務仕事にかかる俺たち。

 こうしてその日の仕事は、何とか無事に終わったのだった――。




「うん、カラッと揚がったのです!」

「どれどれ……」


 いよいよ迎えた、シャルリアの誕生日。

 俺たちはギルド食堂の厨房で、ご馳走の準備に取りかかっていた。

 冒険者たちにも手伝ってもらって用意したたくさんの食材。

 それを次々と調理していく。


 ミラが作ったエビのてんぷらを、一口試食する。

 衣がふんわりとしていて、それでいて油っぽくない。

 中のエビはジューシーで噛めば噛むほどにエキスが出てくる。

 なかなかにいい仕上がりだ。


「おいしい! 凄いじゃないですか、よく短期間でこれだけ上達しましたね!」

「そりゃあ、スズカさんにも手伝ってもらっていっぱい練習しましたから!」


 そういってミラが差し出した手には、たくさんの絆創膏が貼られていた。

 派手に切ってしまった個所もあるようで、包帯も巻かれている。

 何とも痛々しいが、同時に微笑ましかった。

 俺は彼女の手を握ると、笑う。

 するとたちまち、ヘレナの頬がぽうっと赤くなった。


「な、何をするのです!?」

「ご、ごめん! 握っちゃダメだった?」

「そうじゃないのですけど、いきなりで……。ちょっと、照れちゃいました」

「仲良しね」

「わッ!」


 ヘレナの背後から、ミラがぬぼっと顔を出した。

 びっくりして肩を跳ね上げるヘレナに、ミラはニタアッと含みのある笑みを見せる。


「顔真っ赤よ? ラルフに褒められてそんなに良かった?」

「べ、べつに特別な感情とかは……! それより、そっちはちゃんと進んでいるのです?」

「ばっちり」


 ミラは自信たっぷりに胸を反らすと、ブイサインをする。

 胸元のふくらみが、たぷんっと気持ちよさげにはずんだ。

 彼女は三枚におろしたタイのような魚を、まな板に載せて差し出してくる。


「綺麗におろしたわ」

「一応、骨は全部綺麗に取れてる。結構な大きさだから、捌くのは大変なのに」

「むむ、そちらもやりますね! これでこそ、我が心のライバルなのです!」

「ライバルになった覚えはない」

「二人で料理を学び出した以上、それは避けられないのです。神が定めた宿命なのですよ!」


 バトル漫画かよと突っ込みたくなるような理論を口走りながら、ヘレナは瞳を燃やし始めた。

 それに応じるかのように、ミラもまた彼女の瞳を睨みつける。

 空中で、目には見えない火花が激しく飛び散り始めた。

 女として、何やら負けられない戦いのようだ。

 二人とも一歩も引こうとはしない。


「こりゃ、一時退散するべきだな」


 小声でつぶやくと、ひとまず厨房を出る。

 するとたちまち『お誕生日おめでとう!』と書かれた横断幕が目に飛び込んできた。

 白い布に、黒々と達筆な筆致で描かれている。

 いつもは木がむき出しになっている永テーブルに、洒落たテーブルクロスがかけられていた。

 天井にも、何やら万国旗のような派手な飾りつけがされている。


「こりゃあ、気合入ってますねえ」

「ははは、あの子らがいろいろと頑張ってくれてな? 予想以上の仕上がりや」


 朗らかに笑うリューネさんの視線の先には、猛烈な勢いで仕事をこなす冒険者たちの姿があった。

 筋肉質の男たちが、かわいい小物を次々と食堂に配置していた。

 その表情は怖いぐらいに真剣で、見ているだけで背中に汗が浮くような熱気を感じる。

 たぶん、日本に居たらアイドルの親衛隊とかやってるようなタイプだな、きっと。


「しかしまあ、今日はちょっと残念やったな」

「何でですか?」

「ほら、ちょっと前から鉱山関連の仕事のせいでギルドがガラガラやろ? 普段やったら、もっと盛大にやれたやろうに」

「ああ、そういえばそうでしたね」


 つい数日前。

 既に枯れたと思われていたバーンバルト金山の奥で、新たに大規模な金脈が見つかった。

 これに伴って大規模なモンスターの駆除依頼が次々と出されたため、冒険者たちはこぞってロマニウムから移動してしまっている。

 ゴールドラッシュならぬ、モンスターラッシュというわけだ。

 滅多なことでは動かないS級までもが動いているというから、大したものだ。


「でも、逆に仕事が少ないからこんなパーティー出来たんじゃないですか?」

「そらまあ、確かにそうやな。人が少ない分、酒もたくさん飲めるしなあ」


 そういうと、リューネさんはどこからかワインの瓶を取り出した。

 彼女は近くに伏せてあったグラスを手にすると、トクトクッと瓶の中身を注ぐ。

 そしてソムリエよろしくグラスを揺らすと、何とも幸せそうな顔で鼻を近づけて香りを堪能する。


「この日のために用意した94年物のシャトー・ラフィーネの上物や。ああ、雨上がりの森のような爽やかで心地の良い鼻通り! それでいて、かすかに残るしっとりと控えめな甘さ! この絶妙なバランスがたまらんわァ……」

「昼間っからお酒なんて、やめてくださいよ」

「ええやろ、今日は特別や。なに、パーティーが始まったらみんなにも……おわッ!?」


 不意に、大地が揺れた。

 バランスを崩したリューネさんは、グラスを取り落してしまう。

 なんとかワイン瓶の方は守ったものの、中身が幾分か漏れてしまった。

 服を赤く染めた彼女は、頬を引きつらせて目を見開く。


「な、なんてこっちゃ!? どうしてくれるん、めっちゃクチャ高いワインなんやで!」

「そう言われても、俺は何も……」

「大変ですッ!」


 食堂の扉がバタンッと乱暴に開かれ、蒼い顔をしたアイベルさんが飛び込んできた。

 リューネさんはやれやれと肩をすくめると、不機嫌そうな顔をして振り向く。


「どないしたんや? こっちはいま、取り込み中なんやで」

「それどころじゃありません! 市内に、市内に魔物が出ました!」

「なッ!?」


 素っ頓狂な声を出すリューネさん。

 彼女は取るものもとりあえずアイベルさんに近づくと、すぐさま問いただす。


「どういうことや! 周辺都市からの連絡は一切なかったんか」

「まったく! 市内各所から突然現れました!」

「ちィ……こんなときに……!」


 ギシッと、歯軋りの音が聞こえた。

 リューネさんは何とも悔しげな表情をしつつも、宣言する。


「パーティーはいったん中止や! 只今より、ギルド全体で魔物の掃討作戦に当たる! この場にいる冒険者は各自、武器を持って改めて集合! 指示に従って魔物を駆逐せよ!」



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