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お礼

久しぶりの更新な上に短めです。

執筆時間か取れず、なかなか更新できません。

もし気にされてる方がいらしたら、作品が完結してからお読みください。

「メアリー、ハンカチはどうなったのかしら?」


「メイド長に確認したところ、シミ自体は何とかとれるだろうとのことでした。ですが、その過程でどうしても生地が傷んでしまうと。」


 楽しそうに話すカトリアーナは然り、質問されたメアリーも実に楽しそうに答えている。

ハンカチが元通りに返せないのに、何がそんなに楽しいのかとミシェルは思う。

あれから、早々に女の話と称してウィリアムはカトリアーナに部屋から追い出された。

ミシェルも一緒に退室してしまいたかったが、ここは自室であったのでそういう訳にもいかなかった。


「まあ、それは大変ね。せっかく助けていただいたのに恩を仇で返すなんてあってはならないわ。」


「はい、奥様。紳士的な男性に相応しいお礼をすべきだと思います。」


「そうね。それではメアリー、あなたは何を返したらよいと思う?」


「はい。素晴らしい刺繍が施されたハンカチでした。ですので、お嬢様にも素晴らしい刺繍をしてハンカチを返されてはいかがでしょうか?」


「まあ、妥当な線ね。ミシェルには、お借りしたハンカチの刺繍を超えるもの誂えさせましょう。でもまだ弱いわ。なにかもっとお礼をされた感があるものが欲しいわね。」


 気軽に誂えさせると言っているがミシェルの刺繍の腕前は普通である。

何を根拠に超えられると言っているのだろうかと、一言口にしようとしても二人の阿吽の呼吸のやり取りに上手く口を挟めない。

ミシェルは開いた口をすぐに閉じさせた。


「では奥様、手作りのクッキーを送ると言うのはいかがでしょう?」


「クッキーですか?」


「はい。市井では昔からお礼や差し入れの意味合いでクッキーを送ると言う風習があるのですが、最近人気のある恋愛小説では庶子の男爵令嬢が思い人の王子様にクッキーを渡すと言う一節があるのです。それが最近、貴族令嬢の間でもじわじわと人気に火がついてクッキー作り自体が流行ってきているんですよ。」


「まあ、可愛らしいお礼ですこと。それにしましょう。そうと決まればミシェル、まずは刺繍よ。メアリー、商会から男性物の質の良いハンカチと刺繍糸を用意させてちょうだい。」


「はい、奥様。早速ご用意してまいります。」


 そう言うとメアリーは足早に部屋から出て行った。

ミシェルは一言も発しないまま、全てが決まってしまっていた。

呆然と二人を見ていたが、ようやく思考が追いつき、はっとする。


「私からお礼を言うことに関しては当然だと思います。ハンカチを新しくして返すことも。ですが、私の下手な刺繍やクッキーなんかより、お父様からの礼状の方があちらからしたら余程価値があるのではないでしょうか?」


「何をいっているのミシェル。お礼は気持ちが大事なの。特に学園内で納められることなら尚更、あなたからお礼をしたほうが良いわ。あなたからお礼をされて嬉しくない人なんているもんですか。」


 それは親の欲目ではないのかと思うが、カトリアーナのあまりの眼力にミシェルはたじろぐしかなかった。

結局、ミシェルは言われるがまま刺繍とクッキーを作ることとなった。

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