詠唱は無駄だってよく言うけれど、やっぱりカッコイイから無駄じゃないと思うんだ!!
ティナちゃんの言うとうり、チビが出てきた。なんと、背丈以上もある大剣を背負っている。剣の重さで潰れそう、大丈夫かな?
……なんか、ウン。サンカブと対面すると余計、なんと言うか、あれだね、
「ちっさいね」
__ゾワ
えっ?この距離で聞こえてんの?!どんだけ地獄耳なの?!あと、殺気こっちに向けないでサンカブに向けてよ。怖いよ!
「ちっさいって言ってごめん!これからは思っても言わないから許してっ!」
「……よけい怒らせてどうするのですか?」
あれぇ?おかしいな?ちゃんと謝ったのに。
「アイツは後で社会的に殺す、絶対殺す」
……大声で死刑宣告された。
「古より蘇れ、太古の炎よ、純粋なる穢れなき炎よ我が剣を纏え……炎魔法__灼剣纒!」
ゴォっ!!
そんな音を立てて、チビが持った剣が炎に包まれる。なんか、剣が大きすぎてここからだとチビが燃えているように見える。
ほかの生徒はタダのオレンジ色だったが、そこは攻略キャラ、赤黒い炎だ。殺傷能力が一気に高そうな見た目になった。……あれで私も殺されるのかな?
「「「キャー、カワイイィーー!」」」
女性陣の甲高い声援に推されるようにチビは前進。
向かって来たサンカブ向かって振り上げた剣をおろす。それも高速で。
勢いに乗った剣はあれだけの生徒が壊せなかったサンカブの外骨格を焼き切った。
サンカブは真っ二つになった。正直、断面図がグロ過ぎて気持ち悪い。
「次はお前だ」
本日二人目のサンカブ討伐者は、どうやら私を真っ二つにしたいらしい。……とんだ変態である。
「さっきから思ったんだけどさ、なんで武器に魔法纏わせてんの?」
「はぁ?何ですか?藪から棒に」
「いや、今までの試合見てて気づいたんだけどさ、わざわざ武器にまとわせなくても、魔法自体を……えっと、なんかそのまま投げたりすればいいんじゃないかなって」
「魔法は武器にまとわせて使うものですわ」
「常識ですわよ」と続けるティナちゃん。
常識かぁー。なんか、こう『ファイヤーボール』みたいな感じの奴があるのかなって思ってたんだけど……。
「それはね、魔法の効かない個体が居るからって言う理由と、武器に纏わせた方が安定して魔法を使えるからだよ」
うぉう、先生か。急に先生らしく教えてくれたからビックリしたよ。
「安定して魔法が使えるはともかく、何故悪魔?」
「貴女は馬ですか?魔法聞かないなら普通に拳でぶん殴るしかないじゃないですか」
「つまり、『両方使えた方が良いから、どっちもまぜちゃぉっ!』ってことだよ」
「あー、理解出来ました。先生でも、ちゃんと教師らしいこと出来るんですね」
「……私は教師だよ?」
いえ、学校のものを壊しながら生徒を脅す人を教師とは呼ばないと思います。断じて。
「あら、次は……なんと言うかナヨっとした方ですわね、先輩でしょうか?」
「おっ!ナヨっと?!瀕死になりそうかい?!……あー、駄目だ。あの生徒は勝つよ」
「えっ?あのナヨっとした方が?」
ナヨっと先輩じゃないか。てか、ティナちゃんも、やっぱり『ナヨっと』って感じたのか!ウン。私のネーミングは神的だったようだね!
「本当にあの方が勝てますの?先ほどから逃げてばっかですわよ?」
ティナちゃんの言うとうり、ナヨっと先輩はひたすらサンカブの攻撃を避けて、逃げて。
……ん?でもなんか手が、手に持ったボール?が光ってるような。それになんか、ブツブツじゃべってるし。
「勝つさ。ほら、見てなさい」
「溜まった!……オリジナル光魔法__英煌爆!」
そう言った瞬間にナヨっと先輩、手に持っていたボールの様な物を投げた。すると、
ピカーーーン!!
表現が稚拙でなんとなく伝わりにくいかもしれないが、本当にこんな感じだった。
あまりの光の強さに目が眩む。……ようやく光が収まって目を開いてみる。
「えっ?……あれ?」
「……サンドイッチカブトムシはどこですの?」
まさに目を疑った。さっきまでナヨっと先輩と対面していたはずのサンカブがいない。影すら見えない。
意味が分からなかったのは私達だけではないようで、会場の人々は皆一様に呆然とした表情を顔に貼り付けている。
そんな中、ナヨっと先輩は頭を掻きながら退場して行った。……誇らしげながらも少し、寂しげな笑顔で。
うっわぁ、無駄にイケメンだから様にあるねぇー。ムカつくわー。
「あれが、天才が使う魔法だ」
ぽつり、そう静かな会場に先生が呟いた。
水を打った様な静かさの中観客の一人の思い。
「くしゃみしたいけど出来る雰囲気じゃないよなぁ〜」
……くしゃみを我慢すると鼻が痒くなる。