04.confession
ミカが目を開くと、ケインは自嘲気味に笑いながらミカを見ていた。
「下らないだろ。お前より貧弱な精神なんだよ。たぶん、一生どうにもすることができない」
それだけの理由でケインが不安定になっているとミカは信じられなかった。確かに、ケインの生い立ちはミカの環境と違っている。しかし、ミカはそれがなぜこんなにもケインを孤独にさせるか分からない。ケインはミカが弱り切っていた時に手を差し伸べてくれた。そのような優しさを持っている彼がなぜそこまで自らを孤独に陥れようとするか分からない。
「いつでも死ねるって考えたら、生きるのが辛くないし、楽なんだ」
ケインは独白する。ミカは何も言わずにただそれを聞いている。
「俺の根本には誰かを愛し、愛されたいなんて願望がある。でも、能力者は心の支えとして能力者を見つければ、絶対死ぬんだ。そういうものなんだ。かといって、能力を持っていない相手を探し出しても、上手くいくはずがないだろ。お前には理解できない心情だろうけど、それがときどき羨ましすぎて、憎い」
ケインは片手で目を覆う。ミカには、それがケインが泣くのを隠しているように見えた。
「あぁ、何を言っているんだろうな。真面目に聞かなくていいよ。お前は俺に同情するな。近くにいて巻き込みたくないんだ。お前にはこんな歪んだ人格の影響を与えたくない。幸せなほうがいいよ」
取り繕うようにケインは続ける。
「せめて、後進にこんな思いをさせたくないと思って、こうやって研究しているわけだ。だから、お前は俺の救いでもあるんだ。それだけ強い能力を持っていながら、歪んでないだろ。周りの環境のおかげもあるんだろうけど、先生の肉体が役に立ったり、俺の研究が少しは精神感応能力者への役に立つって、生き証拠なんだ」
「そう」
ミカは相槌を打つことしかできない。何か言っても、ケインに届かないことを感じていた。彼はミカと言葉を交わすことを望んでない。だから、独りよがりな言葉しか紡がない。
「懺悔をさせてもらえば、セックス中毒だって、精神感応能力者には多い病なんだ。だぶん、アル中もヤク中も割合的には高いんだ。俺は体質が合わなかったから、セックスにのめり込んだよ。獣みたいに誰かと何も考えないでいれることって、すごい、楽なんだ。おかげで、施設にぶち込まれたけどな。そこで、先生に会って、次は死の虜になったってわけ。ほんと馬鹿だよな。そんな人間見て、他人だったら、弱すぎて呆れるしかできないよ」
二人の間に沈黙が落ちる。ここで何も知らなかったら、ケインはいつか本当に世を儚んで消えてしまいそうだった。そんな未来がおこったら、ミカには耐えられない。それにケインのことが知りたいから、彼の話を促す。
「両親の話をしてよ」
「そうだな、俺の親は二人とも俺よりは弱かったらしいけど、その時代ではそこそこの能力者だったらしい。なぜ、二人が死んだか今でも俺には分からない。俺たちは家族としてうまくいっていたはずだったのに…。でも、直接の原因は分からなくても、死にたくなる気持ちは分かるんだ。時限爆弾を抱えているようなものなんだよ。俺がお前たちといて、確かに幸せなのに、いつこの時間が失われていくかと馬鹿みたいにありもしない恐怖に怯えていたんだと思う。両親の世界が家族の中で完結するようなものだったら、たぶん生きていけたはずだ。でも、そういうものじゃないだろ。遅かれ早かれ、耐えられなくなるんだ」
閉じられた世界なんて、ケインにとっては死んだも同じだ。そして、ケインの言う完結した世界なんて虐待される子どもが言うような世界だ。
誰にも触れられることなく、両親の間だけで、子どもが生きていけるはずなんてない。親はいつか死ぬ。そのときにケインは後を追うしかないではないか。でも、ケインの両親を生かすためには家族は三人の世界で完結すべきだったのだろう。
いつになくケインがすらすらと口にする彼自身のことはとてもいつもの彼からは想像もつかないような過去だ。そして、ケインはその過去を誰にも言わず、いつか起こす自死まで、自分を偽って健気に生きていたのだろう。ケインにとって、近寄るなと言いながらも彼の過去を吐露するのは、ミカに助けを求めているという嘘偽りのない気持ちだろう。そう思うとミカはケインを放っておくことはできない。
アベルにサーシャという恋人ができたとき、ミカの世界は終わるかと思った。アベルはミカに優しかった。特別扱いをしていた。だから、ミカは心の底から大人になればアベルと思いを交わせると思っていた。それが、浅はかな子どもの思い込みであったとしても、ミカにとっては、それがただ一つの人生の喜びだったのだ。
それが失われたとき、ミカはほんとうに世界を壊してしまいたかった。なまじ、力があるだけに、それは簡単なことに思えた。でも、そんなことをしたら、絶対に後悔したはずだ。一生付きまとう悔いになったはずだ。
それを止めてくれたのは、ケインだった。悲しみだけに浸れたのは、ケインがそばにいてくれたからだ。
だから、ミカは自分がされて安心できたことをケインに返す。
「幸せにしてくれる人がいつかケインの前に現れてくれるかもしれないわ。そのときまで、私がそばにいてあげるから。それなら、大丈夫でしょ。もし、ケインが死んだりしたら、あなたの希望である私を悲しませることになるわよ。これは、脅しよ。私を悲しませたくなかったら、死なないでよ」
ミカはケインの顔に手をあてて、輪郭を親指でなぞりながら、ケインの目をしっかりと見る。そうして、ミカはケインを一度抱きしめて、口づけた。




