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銀の蝶  作者: yu-zu
15/15

日常の終わり

「またやったそうだな」


「すでに耳に入っておられましたか…」


「子供は元気がある方が良いというではないか。先にしかけたのはあちらと聞いているし、あまり気にするな」


「はぁ…。元気がありすぎる気もしますが」


「頼もしい限りではないか。()り余っている体力、我が国のために使ってもらおう。ちょうど良い機会だ」


「では…」


「ああ、準備を始めろ。奴らは停戦規約を破棄すると同時に攻めてくるぞ。やつらの力は強すぎる。死人を減らすために、前線で戦ってこい」


「はっ!」












「指令が出た。密偵が宗教国家のガルドが戦争をしかけようとしているのを確認した」


王に呼ばれていた団長が帰ってきたそうそう、真面目な顔で言い放った


「最近、隣国がきなくさくなってきた噂は本当だったのですね」


突然の事にパチクリと目を一度させたスフィが紅茶を用意していた手を止める


「第一騎兵隊も準備を始めているが、初戦には間に合わないだろうな。我らは先行して初戦に間に合うよう現地入りをし、砦に詰めている隊と協力して事にあたる」


「はぁ…といっても、今三人しかいないんですが…?」


元々人不足の特殊部隊はけれども便利なため、年がら年中あちこちに行かされている

部隊室に三人もいるのは多い方である


「前からガルドがあやしいと思ってたからな。戦争が起きた時のために、ほら、三人もいるだろう」


「…部隊が三人って小隊以下の人数の少なさですが」


「仕方が無い。この部隊にピッタリの人材はなかなかいないからな。ギリギリでやっているのはいつものことだろう?」


「それよりも、いつ出発するの?」


話が長くなりそうな二人をさえぎって、今まで黙ってソファに座って武器の手入れをしていたシャルルが顔をあげる

団長が見ると、その目は楽しそうにランランと輝いていた


「…明日の明朝出発して、夕方前には着きたい」


「了解!用意してきますね!」


鼻歌を歌いながらシャルルは嬉しそうに部屋を飛びたして行った


「…楽しそうだな」


「ふふっ、シャルルは外に行くのが好きですからね。しばらくの間、待機そうで不満そうでしたし」


チロリと目を向けられて、団長が目を逸らす


「そういう理由で待機だったのですから仕方がありませんが…。なるべく理由を話していただけないと次は…ふふっ」


「すみません、以後気を付けます」


こっえ~よ、と内心冷や汗をかきながら殊勝(しゅしょう)に団長は頷いた
















* * *

翌日の明朝に予定通りに出発して、三日かかるところを馬を飛ばしーーースフィが治癒を使えるので馬を回復させているーーー休憩を何回か(はさ)みつつも、夕方には城砦の城門前に到着した




「着いたな」


「ここですか?…ずいぶん、立派な城砦(じょうさい)ですね」


「昔はガルドとはよく戦争してたからな。古くはなっているが、今でも整備はきちんとしていると聞く」


「あ、迎えが来たみたいですよ」


「特殊部隊の方々ですね!連絡が入ってます!隊長室への案内を任されました、ジャンです。よろしくお願いします!」


まだ20代そうな青年は中からこちらにかけてくると、まず援軍が三人しかいないことに落胆し、スフィを見て顔を赤らめ、シャルルを見てぎょっとし、最後に団長を見て、その巨体に圧倒されて一歩下がった


その様を見ていた三人は、急がしくて、表情がわかりやすいやつ、と心の中でシンクロした



一行はジャンに促されて、門の中に入り、馬を(あず)けて城砦の中に入った





パタパタと何人もが会釈をしながら急いで横切っていき、準備におわれていることがわかる


「…なんか空気が重たい。戦う前なのに負けてる気分になってくる」


通りすがる人々も、扉が開いていて中が見える部屋の中にいる人々もみな暗い顔をしており、暗い雰囲気が(ただよ)っていたため、シャルルがおもわずといった風にポツリと呟いた


「こら、シャルル!」


頭をはたこうとする団長をジャンが大丈夫ですよと言って止める


「…同盟が破棄されるなんて誰も思ってなかったんですよ。ここはもう何年も戦争に使われていない城砦(じょうさい)だから、上の不興(ふきょう)をかってとばされたり、剣が上手く使えない人たちはがりなんです。だから、誰も勝てるなんて思ってないですよ」


あまりにも赤裸々(せきらら)な話に、ジャンの後ろを隣り合って進んでいた団長とスフィが顔を見合わせた

団長が顔を前に戻し、口を開こうとするよりも一歩早く、団長たちの後ろから声が響いた


「ばっかじゃないの?」


「…え?」


あまりにもな言葉にジャンは立ち止って振り向き、団長は頭をかかえ、スフィはニコリと笑った


「努力が報われるなんて、ほんの一握りの話です。それでも私たちは市民たちの命を背負う代わりにお給料を貰っている。それが他人よりも少ないからって、不貞腐(ふてくさ)れるなんて甘えたこと言わないで下さい。それこそクズな人間です。…誰が馬鹿にしようと、何を言われようとも、努力が(むく)われなくても、私たちは市民を守る責任を捨ててはいけない。誰かの命を背負う仕事に就いている誇りを忘れたらおしまいですよ」


「…」


「あなたは、なんのために戦うのですか?」


自分よりも幼いはずの少女にじっと見つめられその雰囲気に気圧(けお)される

何かを言おうと口を開くもそれはおとにならずに消えた


「戦う覚悟がない人間が生死を扱う場にいられるのは、迷惑です。それなら砦で閉じこもっていられる方がマシです」


そう言われてうな垂れるジャンを見向きもせずに横を通り過ぎたシャルルは、すでに到着していた隊長室の扉をノックし、返答があると共に中に入っていった


スフィもその後に続き、団長もジャンの頭を一度ポンっと叩くと中に入っていく







廊下には俯くジャンだけが残された











「やあ、いらっしゃい」


迎えたのは白髪(しらが)が生えた、柔和(にゅうわ)そうなお爺さんだった

この人、戦場にたてんの?!とみなが疑うなか、スッと立ち上がり、キビキビとした動作でこちらに歩いてきて応接ソファーに促すので、さらに驚いた


「…おいくつなんですか?」


無礼にもそう聞いてしまったスフィにニコリと微笑むと、75ですと答えられた


「ななっ?!………ずいぶんと、お元気そうで」


この国の平均寿命は60であり、他国よりは高いが、70だと歩くのも大変そうね人ばかりである。それなのに目の前の老人はそんな素振(そぶ)りは全くない


「頼もしい限りですな」


高名(こうめい)な特殊部隊団長のダウリー殿に言われるのは照れますな」


挨拶をかわし、椅子に座るとご老人はシャルルの方を向いた


「すまんね、私の部下が。彼らも色々あるんだ。あまり怒らないでやってくれ」


パチクリとさきほどの言葉が聞こえていたことを悟ったシャルルは恥ずかしそうに顔を下げた


「イラついてしまい、彼らの事情も考えずに生意気なことを申しました。申し訳ありません」


素直に頭を下げるシャルルに顔をあげなさいという


「彼もきっと考え直すと思いますよ。あまりお気にせずに。さぁ、頭を切り替えて仕事の話をしましょうか」
















* * *

その日の夜、持ってきていた水晶玉でシャルは黒たちと連絡をとっていた


「あまり無理するなよ。俺らはいつもとちがってそばにいられないんだから」


水晶の向こうでは黒が心配そうな顔をしている


「ストッパーの俺らがいないからって()を使いすぎて倒れることが、ないようにな」


黒の隣からひょっこり顔を出したのは朱


その顔にも不安がうかがえる


「大丈夫だって。…いつまでたっても子供扱いなんだから」


「まぁまぁ、大切に思ってるからこそ、だよ、シャル。だから、早く元気な顔を見せてね」


寝る前だからか、おろしている白金の髪をゆらして首をかしげる白

その瞳にはいつもの馬鹿そうな雰囲気ではなく、優しそうな色がうかんでおり、

正直にコクンとシャルはうなずいた


「無理はしない。…なるべく」


それでも断言はしないシャルにあからさまにため息を吐いた黒に、朱はどうしよもないなーという顔をする


そして、青が珍しく笑ったと思うとーーー


「怪我して帰ってきたらお仕置きだ」


と宣言した


「絶対、無事に帰ります!」


絶対、絶対、青のお仕置きだけは嫌だ!

と叫びながらシャルは慌てて通信を切って、さっさと寝ることにした



















「あの、シャルさん!」


城塞の人々は日が昇る前に既に起きて活動を始めていた

昨日と違い、なぜかみながやる気になっているに雰囲気に三人は首を傾げながら、用意された部屋でご飯をご飯をとりつつ、最後の打ち合わせをしていた


その後みなと別れたシャルは自分の馬の様子を見にきていた


そこにはやる気に満ちた人々がせっせと自分の馬を磨いており、パチクリとしていたところに後ろから声がかかったのである


「あ、昨日の…ジャンさん?」


「はい!」


「これ…なにがあったんですか?」


「あの後、シャルさんの言葉ももっともだと思ったので、みなに話してみたんです。そしたら、確かに…とみんなも納得してくれて。クズな人間だけにはなるか!って奮起してくれました」


「そうだったんですか…。でも、あの言葉は自分本位で言っていた部分もありました。ごめんなさい。あなたたちの気持ちも配慮せずに…」



「それで目が覚めたんで、おあいこですよ」


そう言って笑いかけてくれたジャンにシャルも微笑み返す


「じゃあ、私も頑張らないと」


「後ろからじっくり見させてもらいます。特殊部隊の力を。昨日は実はガッカリしちゃったんですけど、王が三人で充分だと思ったから、援軍が三人なんですよね?」


「…みなのやる気がさらにあがる開戦にしてみますよ」


ふふっと悪戯(いたずら)っ子のように笑ったシャルにジャンは赤面した

そして、馬の世話をしながら二人の会話をこっそり聞いていた同僚たちにバッチリとそのさまを見られていたのである


















「準備が終わったそうです」


そう伝えにきたスフィに団長は頷くと立ち上がる


「では、いってきます」


「砦の方は任して下さい。アドバイスとしてジャンを近くにつけといて下さい。まわりがよく見える頭のいいやつです。きっと役にたちます。この砦にいるものたちを一番よく知っているのは彼ですし」


「わかりました。お借りします」



「さすがですね、タイミングピッタリです。今から出発してもガルドより少し早く着きそうです」


「そうか。シャルの準備は?」


「完璧ですよ」


「そうか。やつらに思い知らせてやるぞ。我が国に喧嘩をうるとどうなるのか」


「もちろんです、団長。二度とその気が起きないくらいに」


黒いオーラを出す二人に二人の馬を引き連れてきた兵士がヒッと声を出した


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