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こどもの頬って頬袋みたいですよね。



「おねがい?」



皇紀はきょとりとした目で見つめてくる。

そんな皇紀の愛らしい姿に亜紀恵は笑みをこぼさずにいられない。


「おかあさん?」


コテンと首を傾げるその様はとても可愛らしくてずっと見ていたいと思わせる。

しかし、それでは話は進まないので、コホンと咳払いをして亜紀恵は口を開いた。























「たまき、えらいね~」

「本当にね~」


日曜日。


幼稚園はお休みで、もう日常としかいえない筒井家と宮ノ内家合同のお昼ごはんの時間。

皇紀は満面の笑顔で手を叩く。

亜紀恵も肯定するように、にっこり微笑んだ。

目の前には自分でスプーンを持ち、頬をパンパンに膨らませた珠姫の姿があり、もぎゅもぎゅと咀嚼している姿は頬袋をパンパンにさせたリスのようで、とても愛らしかった。


さてこれはどういう図式か。


答えは、この日初めて珠姫が最初から最後まで自らの手でご飯を食べたということで、周囲が褒め称えている図である。


「なんだ、そんなことか~」と思うなかれ!

今日この日まで珠姫が皇紀とご飯を食べて自らスプーンを握ったことなど一回としてなかったのである。

あまつさえ、頬袋―いや、頬っぺたを膨らますほどにご飯を食べる姿など一同(澪・真・皇紀・亜紀恵)一度も拝んだことなどなかった。


盛欲的に食べている珠姫など奇跡中の奇跡といっても過言ではない。


澪と真など、ビデオカメラを片手に、無言で涙を流して抱き合っている始末で、珠姫の食事の介助は皇紀と亜紀恵が全てこなしていた。


珠姫は本当に食が細い。


そんな珠姫が、意欲的に食べているとなれば、それは澪や真にとってどれほどの衝撃か。


そんな父母を放って、珠姫はもっきゅもっきゅと咀嚼する。


皇紀と亜紀恵がニコニコと見守る中、珠姫はご飯を完食したのであった。




「ごちそーさまでしたっ!」


皇紀が手を合わせて挨拶をする。


「ご、しょっ…たぁ!」


それを見て、珠姫が見よう見真似で挨拶をした。

その姿は可愛く、我に返ったはずの澪と真が悶えた。

そんな2人をやっぱり放置して亜紀恵が笑顔で頷く。


「はい、お粗末さまでした」


珠姫が空になったお皿を持って皇紀に向ける。


「こーちゃ…?」


コテンと首を傾げる。


「うんっ!たまき、えらいね~~!」


満面の笑顔で皇紀が褒めれば、意味はそこまで伝わらずとも皇紀の気持ちは伝わったのか、珠姫も嬉しくてほっぺをピンクに染める。

言い表せない嬉しさを身体全体で表すかのように手足をバタバタさせて喜ぶ姿に澪たちはもうメロメロだった。



そんなこんなで珠姫が自分でスプーンを握って食べるようになって一週間ほどが経ったある日、皇紀が幼稚園の行事で一緒にご飯が食べられない土曜日がやってきた。

平日はちゃんとお約束して(?)我慢が出来ていた珠姫も、一緒に食べれるはずの土曜日に、皇紀がお昼に来ないことにグズグズとぐずり、食事に手をつけない。


自分で食べさせるのを諦めて口にごはんを運ぶが、プイッと顔を背けて一向に口を開かないまま時間が過ぎる。

食べてくれない珠姫に澪と真が白旗を揚げたのは早かった。


そこで泣きつく先は決まっていた。


「亜紀ちゃ~~~んっ!!」


頼れる皇紀ママ、亜紀恵である。


澪と真のSOSを聞きつけて颯爽とやってきた亜紀恵の手には一枚のDVD。

亜紀恵に指示されるままに、渡されたDVDをセットして再生を押す。


パッとテレビ画面に映ったのは宮ノ内家のリビング。

枠の外側からぴょこっと出てきたのは珠姫の大好きな人。


「あうっ!!」


テーブルに手をついて立ち上がった珠姫を真が慌てて支えた。


『えと…ママ~?』


キュルンとした瞳が画面を越えた場所を見るように問いかける。


『OKよ!皇ちゃんお願い!』

『ん、分かった~』


画面外から聞こえるのは亜紀恵の声。

それに頷いて、皇紀の瞳が画面を見ている者に合わせるように動いた。

その途端、にっこりと花のような笑顔が皇紀の顔に咲く。


『たまき~みてる~?』

「あいっ!」


画面の皇紀に応えるように珠姫が返事をした。

それが分かってたかのように皇紀がさらに笑って口を開く。


『いまはごはんのじかんかな~?ちゃんとたべてる?』


何かを食べるようなしぐさの後、こてりと首を傾げる皇紀に珠姫の瞳が揺れる。

食事を食べずにいることがばれてしまって気まずそうしているように、澪たちには見えた。

幼児に言葉が分かるわけないと否定するのは簡単だが、珠姫の反応は顕著で、分かってないと否定はし難い。


『もし…ぼくがいないせいでたまきがごはんをたべてなかったら、ぼくはとってもかなしいです』


へにょりと眉が下がって、いかにも悲しいと言って来る皇紀のなんと芸達者なことか。

悲しそうな皇紀の様子に珠姫は座り込んで机の縁から瞳を覗かせる。


「あぅ…」


『ごはんたべてね?』


「…ぁぃ」


『おひるねもするんだよ?』


「…ぁぃ」


身振り手振りで珠姫宛に言葉を零す画面に映る皇紀に、小さいながらも返事を返す珠姫に澪と真の顔にも笑顔が上る。


もう大丈夫。


そう分かったから。


『かえったとき、いまぼくがいったことができてたら、ごほうびあげるね!』


最後にまたまた笑って皇紀がバイバイと手を振ってビデオレターは終った。

そっと画面を澪が消す。


「さてと、珠姫ちゃんご飯食べましょーね!」

「あいっ!」


亜紀恵の言葉にいつの間にやら元気になった珠姫が良いお返事をした。



こうして珠姫のお昼ご飯は無事に再開したのである。







皇紀の言いつけどおりにご飯を食べ、昼寝を始めた珠姫を数分見守った後、澪たち3人は部屋をソッと出た。


「『皇くん効果』をさまざまと見せ付けられちゃったわ~」

「皇くんすごいよ…」


リビングにてお茶をしながら澪と真は椅子の背にもたれた。


「ふふふ」


満足そうに笑う亜紀恵が何処からともなく数枚のDVDを取り出す。

コトリとテーブルに置いた。


「え、これって?」

「さっきのDVDと違う?」

「うふふふ。――主演、皇ちゃん!『ご飯編』『お昼寝編』『お出掛け編』『応援編』『よい子のお約束編』の5本セット!!皇ちゃん不在にどうしたらいいのとお困りのそこのあなたっ!!今なら更に『とっておき編』のおまけ付き――」

「買ったっっっ!!!?」

「はやっ!?」


亜紀恵の口上に勢いよく立ち上がって手を上げた澪に、横に座っていた真が目を見開いてびっくりする。

澪は止まらずヒートアップした。


「全財産持ってけ泥棒っ!!」

「ぜ、全財産っ!!?」






今日も今日とて亜紀恵と澪は絶好調だった。



大変お久しぶりです。

楽しんでいただけたでしょうか?

こうきくんとたまきちゃんが見たいと言って下さる御方がいたので、ちょっと頑張っちゃいました(笑)


少しでもみなさまを笑顔にできる作品になってたらいいなと思います。


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