広がった巣
巣は、ずいぶん広くなった。
一本の糸を辿れば、その先に誰かがいる。
その誰かにも、また誰かがいる。
名前を知る。
顔を覚える。
仕事を知る。
誰と繋がっているのかを知る。
以前は、ひとつの出会いを、ひとつとして見ていた。
今は違う。
ひとりの向こうには、何人もいる。
無理に近づく必要はない。
引けば、切れる。
触れずに置いておけば、向こうから震えることもある。
それを覚えた。
少しずつ。
時間をかけて。
一年。
二年。
振り返れば、短かった。
名刺を入れる箱は増えた。
スマートフォンの連絡先も増えた。
知らない番号から電話が来ても、驚かなくなった。
「ああ、○○さんから伺っています」
そう言われることにも慣れた。
上手くなったのだと思っていた。
人と繋がることに。
巣を張ることに。
間違いだった。
気づいたのは、仕事だった。
新しい設備を入れる話が出た。
条件が難しかった。
相談したいことがあった。
詳しい人間へ辿り着きたかった。
顔が浮かんだ。
一人。
二人。
三人。
こういう時のために繋いできたのだと思った。
連絡した。
一人目。
返事は翌日だった。
――確認してみますね。
二人目。
――その辺は詳しくないなあ。
三人目。
既読になった。
それだけだった。
四人目。
紹介はしてくれた。
届いたメールには、
――一度、情報交換できればと思います。
と書かれていた。
情報交換、便利な言葉だと思った。
何も約束していない。
五人目。
六人目。
七人目。
気づけば、十人近くに連絡していた。
名前は知っている。
顔も思い出せる。
笑って話したこともある。
食事をした人もいる。
なのに。
誰も動かなかった。
机の上には、名刺の束があった。
一枚取る。
この人を知っている。
その向こうにいる人も、何人か知っている。
でも、、、そこへ行けない。
糸はある。
確かにある。
引く。
何も来ない。
もう一本。
引く。
また何も来ない。
切れたのではない。
初めから、重さに耐えられるほど結ばれていなかった。
午後十一時十八分。
名刺を机へ戻した。
メールを開く。
もう一度読む。
閉じる。
別の名刺を取る。
連絡先を見る。
やめる。
午後十一時二十一分。
巣は広がった、、、そう思っていた。
違う。
広げただけだった。
細い。
あまりにも。
こんなものでは、
何も支えられない。




