貴方と祝杯
今回で2章は終わりです。
四十五、貴方と祝杯
広場のバーベキューから約2か月後、ベクトル家の屋敷でシアンの父たちが無事帰還したことを祝うパーティーが行われた。
たくさんの招待客が集まり、テーブルの上には肉料理や果物、酒などたくさんのごちそうが並んでいた。
テーブルの一つにマニは刺繍の入った慣れないコートを着て、椅子に座っていた。
ココアは水色の大きなリボンをつけていて、おしゃれをしていた。
彼女は目の前に三段重ねのホールケーキを前に無言で口に運び続けていた。
これは事前にシアンに手紙で頼んで用意してもらった特注のケーキである。
まさかこんなに大きい物が出てくるとは思わなかったが。
マニはグラスの水を飲んでいた。
「若はそれだけでいいですかい?」
ついてきてくれたレオが心配そうにこちらを見てくる。
彼の前には食べかけの肉料理があった。
「うん。ダークキャンドルの会を倒した時とはココアは大活躍だったよね。僕は大けがでしばらく動けないくらい重傷だったし。それにカールの陰謀の時だって、犯人を逃がした僕と違って、ココアは三人も捕まえたし。うちの最大戦力のココアがいないと領地はおしまいなんだよ。大事にしないと」
「いや、若も戦闘に参加して活躍してたとおもいますぜ」
「こんなに一人で食べられるわけない」
ココアはそう言って大きなケーキをマニの前に押してずらしてきた。
さらにレオの前にもナイフで半分切り分けケーキを皿にのせて静かに置いた。
「そっそうだよね!ごめんね、ココア」
「お嬢、このケーキの量は勘弁してくださいよ」
シアンの父が領地に戻って来てから、叔父夫婦は今までシアンに毒を盛ったことを使用人たちに証言され、地下牢に入れられた。
しかし、地下牢はいつの間にかカールたちの実験施設になっていて、牢に入れられた叔父夫婦は呪いの装置が発動してしまい石になってしまったらしい。
パーティーの前日から神殿代表としてサンサが現場に駆け付け、呪いの解除に数時間粘ったが、まだ石化は解けていないそうだ。
どうしようもないのでとりあえずこのままにしておくらしい。
叔父夫婦の息子たちは犯罪には関与してなかったので、孤児院に預けられることになった。
「ちょっと紅茶をもらって来る」
そう言ってココアは席を立った。
途中で薄紅色の服を着たサンサと会い、何か話しているようだ。
今日は彼女はお付きの巫女とパーティーを楽しんでいるらしい。
「若は行かなくていいんですか?」
「うん、僕は人が多くて緊張しちゃって」
参加客には貴族が多く、マナーは習ったもののいざ出席すると何を話していいかわからなかった。
そこで目の前のケーキを淡々と口に運んでいた。
シアンの父に挨拶してからはずっとこのテーブルから動かないでいた。
吹き抜けの広間を見下ろす二階部分に年ごろの男女が小さなテーブルについていた。
「お父様の帰還おめでとう。祝杯をあげましょう」
そう言ってグラスを向けてくるのは髪を編み込みドレスで着飾った少女だった。
「ありがとな」
二人の持つグラスが軽く触れ合い音を立てた。
「これで私たちの婚約は解消されるでしょうね」
「だから、そんなにお前も嬉しそうなのか」
「ふふ」
笑顔の少女はグラスに口をつけた。
「そもそもこの婚約は貴方の叔父様たちが、婿養子に貴方を差し出すために組んだ婚約でしたよね。今の状況ではベクトルの家の大事な跡取り息子を手放すことはできないでしょう」
「そうだろうな」
少女は広間の方を見下ろした。
「ところでマニ様って素敵なお方ね。詳しく教えてくれない?」
彼女はマニの方を熱をこもった目で見ていた。
「俺は友人をお前の家のコレクションの標本にする手伝いはできない」
一瞬、二人がかこむテーブルがきしんだ。
「私が何もしなくても父がきっと彼を狙いますわ」
「……」
そう言って少女は立ち上がり、階段を下りて広間に向かって行った。
残されたグラスは空になっていた。
「ヘレン…相変わらず怖い奴だぜ。」
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