05 病弱令嬢
ゲルト侯爵の喜びようには訳があった。
「――娘を救うには、レベルを上げるしかないのだ」
一人娘の境遇を話し終えたゲルト侯爵の目には、光るものがあった。フォルクも思わず、もらい泣きしそうになった。
「君には娘のレベリングを頼みたい! 報酬は言い値で良い。頼まれてくれるか?」
そう言ってから、ゲルト侯爵は深々と頭を下げた。
上級貴族かつ騎士団長のゲルト侯爵は、帝国社会のヒエラルキーで最上位に属すと言って良いだろう。そんな男が、年下の下級貴族に頭を下げたのである。
「かしこまりました。報酬については、成果が出てから考えさせて頂きます」
「ありがたい! しかし、成果報酬では私の気が済まない。ひとまずの手付金として受け取って欲しい」
と言って渡されたのは、金貨十枚。庶民であれば、三年は遊んで暮らせる大金であった。
――手付金でこれか。
フォルクは驚きと共に、少々の嫉妬も覚えた。
下級貴族の懐事情は、庶民と変わらない。むしろ武具の手入れなどで出費が多い分、下級貴族の方が貧しいと言って良い。
騎士を目指していたフォルクは、上級貴族に嫁いだ姉からの仕送りと、警備や荷運びの仕事で日銭を稼いで、何とか生活していた。
――いやいや、嫉妬してもしようがない。
フォルクは気持ちを切り替えた。
「ありがたく頂きます」
「急な上に勝手を言ってすまないが、住み込みでも良いだろうか? 娘のためにも一分一秒を惜しみたい」
「はい、構いません」
「ありがとう。精神水は大量に用意したから、自由に使ってくれて良い」
「はい」
精神水はスタミナを回復するマジックアイテムだ。決して安いものではないが、上級貴族なら湯水のように使えるのだろう。
「それから娘のことなんだが……」
ゲルト侯爵の声が低くなった。
「ずっと屋敷の中にいたせいで、世間知らずというか、異性に対する接し方におかしなところがあるかもしれないが――」
突然の殺気に、フォルクは息が止まった。
「変な気は起こさないようにな」
下手なことをしたら死ぬ。フォルクは何があっても疑われるようなことはしまいと、心に誓ったのであった。
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「カティアです」
そう名乗った少女には、存在感がなかった。真白な肌とやせ細った身体からは、生気を感じられなかった。
しかしそんなことよりも、フォルクは別の事実に衝撃を受けていた。
――う、美し過ぎる。
大きな目、高い鼻、ふっくらとした唇。どれも大き過ぎることはなく、しかも適正な位置に配置されている。
やや面長な輪郭との相性も良く、完全に調和の取れた顔立ちは、もはや芸術作品のようであった。
「体調はどうだい?」
ゲルト侯爵が優しく話しかけた。
「今日は調子が良いの。何だか良いことがありそう」
「カティアは感が良いな。実はレベルアップする方法が見つかったんだ」
「え?」
ゲルト侯爵がフォルクを手招きした。
「フォルク・ファーランド男爵だ。彼の育成スキルなら、この部屋にいたままでレベルを上げることができる」
カティアの目が見開いた。
「本当に?」
「ああ、本当だ。さっき試してみたから間違いない」
ゲルト侯爵が断言すると、カティアの視線がフォルクの方に向いた。
「フォルクです。たぶん力になれると思います」
フォルクは目を合わせずに言った。
「私は騎士団の調練でしばらく帰らないから、何かあったらグリエルにね」
「うん、わかった」
「それじゃフォルクくん。後はよろしく頼むよ」
そう言って、ゲルト侯爵は去って行った。




