04 バルツァー侯爵
育成スキル『周回』の効果を知ってから、フォルクは何度も試してみた。
そして得た結論は、「高速レベリングのできるスキル」で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
とはいえ、日々の生活に手一杯でレベルを上げる暇のない人々にとっては、便利な手段になると思った。
――でもこのスキルのせいで……。
騎士の位を剥奪された。子供の頃からの夢が潰え、亡き父の想いを継ぐことができなくなった。
フォルクは負の感情を覚えて、スキルを活用したい気持ちにはなれなかった。
「フォルク・ファーランド男爵様は、ご在宅でしょうか?」
そんなフォルクの下に来客があったのは、騎士の位を剥奪されてから三日後のことだった。
「バルツァー侯爵の家宰グリエルと申します」
「侯爵閣下の!?」
フォルクは驚いた。
帝国の爵位において、侯爵は二番目の高位。最底辺の男爵家の者には、雲の上の存在だった。
しかもバルツァーと言えば、碧風騎士団の現団長ゲルト侯爵の家ではないか。
「フォルク様に折り入って相談したいことがございまして、お招きに参りました」
「は、はあ」
「今からお越し頂くことは可能でしょうか?」
「可能ですが、その、人違いでは? 私は先日、騎士の位を剥奪されたのですが……」
「いえ、間違いございません」
家宰のグリエルはキッパリと言った。
「育成スキルを賜ったフォルク・ファーランド殿をお招きするようにと、主人に仰せつかっております」
騎士の位を剥奪された矢先に騎士団長からお呼びがかかるとは、いったいどういうことか。
フォルクにはサッパリ分からなかったが、グリエルの案内に従って、バルツァー家の屋敷へと向かった。
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帝国の貴族制度では、領地を持てるのは公侯伯の爵位だけだった。領地のない子男の爵位とは、同じ貴族でも雲泥の差があった。そのため前者は上級貴族、後者は下級貴族と呼ばれていた。
侯爵ともなれば、地方に大きな領地を持っていることが多い。領地から上がる税収は、一定の割合を国庫に収めれば、残りは自由に使うことができた。
バルツァー侯爵家の屋敷は、上級貴族の割には質素な造りだった。フォルクが通された応接間も、金銀宝石による綺羅びやかな装飾は少なかった。
――まあ、他の上級貴族の屋敷なんて入ったことないけど。
南方の田舎出身のファーランド家は、上級貴族との付き合いがほとんどなかった。
噂によれば、上級貴族のお屋敷は皇族よりも絢爛豪華。ほとんどの上級貴族が領地から上がる税収を横領し、今では帝室よりも裕福になっているらしい。
本当かどうかはわからないが、少なくともバルツァー侯爵家においては、噂はアテにならなかったようだ。
「失礼する」
数分後、口髭を生やした壮年の男が現れた。
「ゲルト・バルツァーだ。今日は急の招きにも関わらず、よく来てくれた」
「フォルク・ファーランドです。お招き頂きありがとうございます」
最低限の社交辞令を済ませると、ゲルト侯爵は早速本題に入った。
「育成スキル『周回』とは、どのようなものなのかね?」
「え?」
フォルクは面食らった。
まさか騎士団長から、育成スキルのことを訊かれるとは思っていなかった。
「えと、私が参加した戦闘を記録し、何度も経験できるというものです」
「なるほど……。それは何か条件があるのか? 同じ場所まで行かなければならないとか?」
「いえ、場所は関係ありません。どこでも発動できます」
「人数の制限は?」
「あ、それは試していませんでした」
本人専用ということはないだろうが――と、フォルクは思ったが、不確かなことは言いたくなかった。
「今ここで試して貰えるか? もちろん謝礼は払う」
「かしこまりました」
フォルクは育成スキル『周回』を発動して見せた。
例の如くブロンズハウンドを倒すと、フォルクだけでなくゲルト侯爵にも経験値が入った。
「どうやら一人専用ではなかったようです」
フォルクがホッと息を吐いてから、ゲルト侯爵の方を見た。
するとゲルト侯爵は、跪いて天を仰ぎ、
「祖神バランクルスよ! 感謝致します!」
と、神に感謝の言葉を述べたのであった。




