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6-6 物事が簡単に理解できたら、人生は苦労しない。



 さて、帰りがけにいつもの噴水広場を通れば、またもやヤツらが会議を開いていた。本当によく遭遇するな。


「諸君! この二ヶ月間俺たちは神官の見習いとして経験を積んできた。しかし、今日とんでもない事実が判明した! 実は…………この世界に、回復魔法はなかったのだ……」

「「「…………」」」


 いつになく重苦しい沈黙が流れる。威勢のいいチーレムコールも今日ばかりは聞こえない。


「……すまない、リーダーである俺の失態だ」


 そう言ってリーダーの男、アキラは頭を下げた。


「もちろん、ただで許してくれとは言わん。謝罪に加えて今後の糧となるように、今日はあるものを用意してきた」


 アキラが出したのはビー玉のような透明なガラス玉。同じ形状のものが数個用意されている。それをメンバーの一人一人に手渡しした。


 あれはスキル玉か。飲むことでスキルを覚えられるアイテムだ。ユリアも《歌唱》スキルを入手するときに飲んでいる。


「自分なりに考えた結果、どうやら我々には情報が圧倒的に足りていないと思う。このゲームは通常のゲームと勝手が違う点が多すぎる。そこで、これからは一旦モンスターの討伐遠征を延期し、情報収集に徹するべきだと思う」


 ようやくわかってきたか。気付くのが少し遅かったが、しかしこれでようやく話が通じる雰囲気が出てきた。


「そこで俺はあるスキルを皆の人数分集めた。これを飲んで皆で力を合わせて情報を集めよう」


 ついに正しい方向を向いたようだ。しかし、俺は嫌な予感を感じずにはいられない。


「リーダー、これ、自腹だろ?」

「俺たちのために、そこまで」

「誰もあんたを責めたりしないよ。俺たちは仲間じゃないか」

「み、みんな……。あいがとう!」

 

 何か良い話っぽくまとまっているが、ちょっと待て。そのスキルってまさか……。


「さあ、乾杯といこうじゃないか。この《鑑定》のスキル玉で。俺たちの新しい門出だ!」


 やっぱりぃいいいいいい! ちょっと待てお前らぁあああああああああ!


 俺は飛び出したが、僅かに遅かった。

 男たちは全員スキル玉を飲み干してしまった。


 あーあ……。やっちまったか。


「おっ、本当にスキルが増えてる!」

「誰か使ってみろよ」

「よし、俺がやってみる。《鑑定》っ!」


 一人が自前の短剣に鑑定を使った。


「――鑑定結果。短剣、だって」

「それだけ?」

「……それだけ」


 微妙な空気が流れる。


「もっと別のものを鑑定してみようぜ」

「そうだな。そうしよう」


 男たちは手当たり次第に鑑定をかけ続けた。そのたびに顔色が悪くなる。


 そりゃそうだろう。《鑑定》スキルは地雷スキルの代名詞のような存在なのだ。

 レベル1の鑑定でわかるのは種族名やカテゴリーだけだ。たとえば鉄の剣も盗賊の剣も妖精の剣も、全て剣としか表示されない。そんなの見りゃわかるだろ! という当たり前の情報しか表示されないのだ。じつに使えない子である。

 もっとも二首竜族とかガーゴイル族とか、見慣れないモンスターの種族がわかるくらいのメリットはあるのだが、有用なのはそれくらいだ。


 その後、レベルが上がってもやっと名前がわかったり、もっとレベルが上がって戦闘力が見えるようになっても、なめくじレベルだのゴキブリ並みだの抽象的でわかりにくい表現しかされない。重要なことは数値で表してくれない不親切な設計になっているのだ。


 さらに初めて見るアイテムを鑑定すると、『不明』と表示されるクソ仕様。

 ある薬が毒薬なのか解毒薬なのかわからなくて鑑定すると『毒薬50% 解毒薬50%、その他1%』とかふざけた結果が返ってくる。まったく意味がない。てか1%はどこから出てきたのか。計算すらまともにできないずさんさだ。


 鑑定の精度を上げるには辞書や図鑑で知識を深めるしかない。しかしそれをするなら《暗記》スキルを覚えて図書館に通いつめればよい。てか、そっちの方が遥かに現実的。

 というわけで、ネクラの《鑑定》は存在価値のないゴミスキルなのだ。


 この世界になれてくるとプレイヤーは普通のRPGの定跡が通じないことに気付く。

 そこで情報を集めようと普通の発想で《鑑定》を取得しようとする。

 ――――そこを狙い撃ちだ。


 ネクラはそういうゲーマーの心理を計算した上で、ピンポイントでクソゲー要素をぶち込んでくるんだよ。もはやここまでくると感心すら覚える。そこまでしてプレイヤーに嫌がらせがしたいのかよと。


 ネクラの罠にかかった転生者たちは、乾いた笑みを張り付かせながら《鑑定》を繰り返す。


「そうだ! レベルが足りないんだよ。レベルさえ上がればうまくいくはずだ」

「きっとそうに違いない! どうやってレベルをあげるんだ?」

「鑑定をしまくればいいんじゃね?」

「それだ!」


 男たちはひたすらそれぞれの武器に鑑定をかけ続ける。


 だがな、残念なことに、ネクラでは同じ作業を繰り返すスキル上げ方法が通じないんだ。

 たとえば鑑定を同じ物に連続仕様しても、経験値を得られるのは最初の一度のみ。それどころか同じアイテムから得られる経験値は初回の一度だけなので、特に成長率の悪いスキルとして有名なのだ。


 さらにもっと大きな問題もある。

 ネクラのアイテムには全てレアリティーが設定されていて、レアリティーが高いほど鑑定に成功したときに得られる経験値も多くなる。

 しかし鑑定レベルが上がるごとに得られる経験値は減っていく。同じアイテムを鑑定してもレベル1のときは100の経験値を得られるが、レベル2になると50しか得られない、というように。


 つまり《鑑定》を育てようとするなら、順序よくレアリティーの低いアイテムから鑑定しなければらなず、そのためにはアイテムを鑑定していいかどうか、別の人に鑑定してもらわないといけない。


 つまり鑑定の為に毒見役の鑑定が必要なのだ。酷い詐欺である。本末転倒もいいところだ。


 さらにそんな前代未聞のクソシステムにもめげずに《鑑定》レベルを上げ続けたとしても、終盤になるにつれてレアリティが高いだけのクズアイテムを高額で入手しないといけなくなる。本当にクソだ。


 しかし何が一番クソかと言えば、これらのクソ要素を全て乗り越えて《鑑定》スキルを極めたら、途端に神スキルに変貌するという噂があることだ。


 鑑定を極めるとありとあらゆる情報が見えるようになる。しかも数字で。

 敵の能力やステータス、アイテムの性能・効能・価格・相場・入手方法・活用できる錬金レシピの一覧など、もうお前どうした? と言わんばかりの丁寧できめ細やかなサポートをしてくれるらしいのだ。


 地球時代に一人だけその域に達した人がいるという噂があった。そしてその人のおかげで隠し錬金レシピの発見に繋がった報告が何件も上がっている。

 今まで受けたストレスを帳消しにするような改心ぶりに、俺たちプレイヤーは怒りのやり場に困まったものだ。それがまた嫌らしい。


 まあしかしそれも膨大な資金と時間と協力者がいて初めて可能となる次元の話だ。今の俺たちには必要ない。


 俺は必死に鑑定を繰り返す男たちに事実を伝えてあげようと思う。そして一緒に叫ぶんだ。


 このクソゲーがぁああああ! ってな。


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