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6-4 努力は継続しなければ報われない。



 それから二週間後。

 俺たちはいつものように夜間ライブを行っていた。

 ユリアのスコップを叩いてリズムを取っていた俺がいつの間にか《演奏(打楽器)》のスキルを取得したことで、ライブは少しだけ完成度が上がった。


 そんなある日、ライブが終わると一匹のゾンビが光に包まれた。

 それに呼応したように、真夜中の農場に天から光の柱が降りてきて、そのゾンビを包み込む。重力に逆らうように光柱を登っていくゾンビ。その姿に透明な人の身体が重なっている。若い血色の良い青年の姿だ。


 直感的にわかる。彼はあのゾンビの生前の姿だ。そして、神々しい光エフェクトの演出が意味する所は、彼のゾンビ生活の終焉だろう。LPの負債分を払い終えて再び人間として生まれ変わるときが来たのだ。

 その一人を皮切りに、次々とゾンビたちが同じように天に昇っていく。一種のスペクトラルだ。クソゲーにしては珍しく綺麗な演出だ。

 ゲーム時代には文字でしか表現されなかった光景が、今俺の目の前で現実となっている。


 その後さらに二週間かけて、全てのゾンビたちが天へと還っていった。


 一部、どうしても天に還りたくないとごねるゾンビたちがいて困ったが、ユリアが【死霊使い】のジョブを開眼したので、問題は解決された。《ゾンビ調教》のスキルを使って、ペットとして契約してからアイテムボックスに放り込んだのだ。アイテムボックスは生物を入れることはできないが、ゾンビは非生物と認識されるようだった。いい加減だな、おい。

 そしてはじめてのペット仲間がゾンビって、俺の立場はどうなるんだろう……? もやもやする。まあいいか。




 こうして後に残ったのは静まり返った農場と少女、そして黒猫が一匹だけになった。


「(ユリア、やったな)」

「ナスキー、ユリアはやり遂げたよ」


 ユリアは実に穏やかな微笑みを湛えていた。

 全てのゾンビを救済するという偉大なる功績を成し遂げたのだ。たいした少女だよ、まったく。


 二ヶ月に及ぶ野外コンサートは本日をもって解散の運びとなった。もうこの農場に少女の歌声とゾンビの歓声が同時に響くことはないだろう。


 夜の静寂の中にユリアの鼻歌が吸い込まれる。その旋律は目的を成し遂げた喜びか、はたまた祭りが終わってしまった寂しさか。歌った本人にも判別がつかなそうだ。


 こんなクソゲーの中でも、強い意思と忍耐があれば感動的な一幕は生まれるものだ。

 少女はそのことを俺に教えてくれた。


 と、そのとき、空が黄金色に輝き、白馬に乗った天使が降りてきた。いや、白銀の馬の額には長いツノが生えているから、あれはユニコーンか。

 ユニコーンはその美しい外見には似つかわしくないほど疲れきった顔をしていた。だらしなく垂れた舌。焦点の定まらない瞳。体力不足の中年男性のようにゼーゼー肩で息をしていた。

 聖獣までこの有様とは、さすがクソゲー仕様である。


 ま、原因は予想できるがな。騎乗したデブい天使だろう。

 胸周りよりも腰周りのほうが圧倒的に大きい体型の天使が乗っていれば、そりゃ、ユニコーンとて疲労困憊になるだろう。背骨がUの字に曲がりそうだ。


 よろめきながら天より降った天使は地表に到着すると、ユニコーンから降りてユリアの前まで進んだ。


「汝、多くの迷える魂を救った功績は賞賛に値します。よって、汝を【聖女】に任命します」

「は、はぁ……」


 デブ天使は喉の脂肪に圧迫されたような声でユリアに祝辞を述べると、杖を振り下ろす。ユリアの身体が発光した。


 ――ユリアは【聖女】のジョブを獲得した。

 ――ユリアは《聖なる光》のスキルを手に入れた。


 用は済んだとデブ天使は踵を返した。そのとき、肉体に隠れて見えなかった、手羽先のような背中の羽が抜け落ちた。

 これ、レアアイテムの天使の羽じゃないか!?

 俺はささっと回収する。やったぜ、売れば高値になる。


 天に戻ろうとした天使だったが、なにやら様子がおかしい。いや、天使がというより、ユニコーンの方が。

 両目を漫画のような綺麗なハートマークに変えた聖獣。だらしなく垂れ下がっていた舌が、今度は別の意味でだらしなく垂れている。

 その様子は聖獣と性獣が紙一重であることを雄弁に物語っていた。


 ユニコーンは主人であるはずのデブい天使をふっ飛ばして、ユリアに直進した。くんかくんかとユリアの匂いを嗅ぎまわる。

 そういえばユニコーンは処女の乙女しか己の背に乗せないと聞いたことがあるが……、


『ハァハァ、いい匂いだヒィーン! 芳しい処女の香りっ! ハァハァ、ハァハァ!』


 何だか、途轍もなく汚らわしい念話が飛んできたような気がするが、気のせいだろう。


「ナスキー、なんか、お馬さんがユリアに一目惚れだって。ペットになりたいって言ってるんだけど……」

「(よしなさい。捨て馬を拾ってはいけません。元の場所に返してきなさい)」


 まさか猫の身でありながら、こんなセリフを言うはめになるとは思わなかった。

 が、俺たちが何かをするより早く、地面を転がって土まみれになったデブい天使が怒り狂った形相で杖を振り上げた。


「この駄馬ッ!」


 瞬間、天に雷鳴が轟き、イカズチがユニコーンを突き刺した。


「ヒヒィイイイイイン!!」


 ユニコーンは全身から湯気を発しながら丸焼けになった。即死だ。

 怒れる天使はそのまま一人で天に昇っていった。


「「…………」」


 あとに残された俺とユリアはどうしていいかわからず、しばらく沈黙した。

 だがすぐに俺は、あることに気付いた。


 ――あっ! 天使の羽と、ユニコーンの皮であの便利アイテムが作れるじゃないかっ!



     ◇


 ――ユリアは【死霊使い】のジョブを獲得した。

 ――ユリアは《ゾンビ調教》のスキルを手に入れた。

 ――ユリアは【聖女】のジョブを獲得した。

 ――ユリアは《聖なる光》のスキルを手に入れた。

 ――ユリアは【腐屍救済】の称号を手に入れた。


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