5-8 強い意思を持ち続ける限り、人は死なない。
納税を終えたユリアと俺は街をぶらぶら歩いていた。依頼しておいた武器が完成するまで日にちがあるし、たまには気分転換でもしようという腹積もりだ。
俺の助言でしっかりと節税をしたユリアは所持LPの六割強を残していた。税率を37%まで抑えたのだ。上出来と言ってよいだろう。
特に考えもなく進んでいると、噴水広場にやってきた。
そこには例の転生者集団が集まっていた。
そういえば『スライム狩り』とかいう自殺行為をすると言っていた彼らだが、その後どうなったのだろうか。気になって近づいてみる。
「諸君! 先日のスライム討伐遠征では酷い目にあった。皮膚を溶かされながらじっくりと殺されるのがこんなに苦しいことだとは知らなかった」
うわー、マジかよ……。よく精神をやられなかったな。
見れば全員、そのときのことを思い出したのか顔面を蒼白にさせていた。しかしそれでも瞳の中の光は失われていなかった。むしろ以前よりもギラついているとさえ言える。
「だが、我々はここで立ち止まるわけにはいかない。なぜなら、我々には成すべき目的があるからだ!」
「「「チーレム! チーレム! チーレム!」」」
男たちが一斉に拳を突き出して唱和した。
「そうだ! その崇高な理念のために、我々はいかなる障害にも屈しない! 何度敗北しても立ち上がり、失敗を糧とし、最後には必ず勝利を掴む! 諸君らにその覚悟はあるか!」
「「「チーレム! チーレム! チーレム!」」」
「よろしい! では次なる作戦を説明する。前回の敗因は明確だ。スライムに剣や弓は通用しない。だから次は攻撃を魔法に限定する」
そうそう、スライムは魔法で攻めるが正解。って、おい! スライム狩りを続ける気かよっ!?
止めろって! 今のお前らじゃ勝てないんだよ! おとなしく農業やれって!
「二人が魔法で攻撃。MPが回復するまで逃げる。ヒット&アウェイ作戦に切り替える。そして他のやつらは生存率を上げるために全員神官系職に転職する。一番の敗因は回復役がいなかったことに尽きるからだ」
あーぁ、やっちまったよ。それ、絶対失敗するから。
俺はいてもたってもいられず、彼らを止めようとする。ユリア、頼む。リーダーの男に伝えてくれ。
「あの! 皆さん!」
「おー! ユリアちゃんじゃないか! 元気にしてたか?」
「あ、はい。元気です。今は毎日農業をやってます――って、そうじゃなくて、ナスキーが伝えたいことがあるみたいです」
「ナスキーって、その黒猫のことだっけ? ははは、ユリアちゃん、猫が喋るわけないじゃないか」
相変わらず相手にされない。
「あのぅ、スライムにはまだ勝てないって。神官系はジライ? だって。一緒に農業しようって」
「そうか。わかったよ」
え? マジで? 通じた?
「ユリアちゃん、一人で農業やってて寂しかったんだね。だから俺たちを誘うために、猫が喋るなんて嘘をついちゃったんだね。わかるよ、辛かったんだね」
「え? ユリア、嘘なんて言ってない」
「ははは、大丈夫だよ。そのことを責めているわけじゃないから。でもゴメンね。俺たちには進むべき道があるんだ。だからユリアちゃんと一緒に農業はできないんだよ」
「あの、あのあの、だから……」
あー、そんなこったろうと思ったよ。ヤツらのギラついた濁った目を見れば、そう簡単に欲望を手放すとは思えない。
「そうだ! 一人で寂しいならユリアちゃんも一緒に来るかい? 神官職になって後衛から回復魔法を使う役だから、危険は少ないはず――」
「ニャァアアアア!」
たまらず跳躍した俺は男の頬に猫パンチを見舞ってしまった。
ユリアを巻き込むんじゃねーよ!
「痛っ! すげー痛っ! この猫、この前よりも、とんでもなく凶暴になってるぞ!?」
あー、悪い悪い。それは俺が成長していて、お前が成長しなかったからだよ。これでわかっただろ。農業やってたほうが強くなれるんだよ。
「ちゃっと躾けといてくれよ、ユリアちゃん。ペットの責任は飼い主の責任になるんだぞ」
「むぅ――! ナスキーは悪くないもん! みんなを助けようとしただけだもん!」
ユリアにしては珍しく頬を膨らませた。
「逆ギレかよ、これだから子供は……」
リーダーの男はボソッと呟くと、
「まあ、こんなことで怒っても仕方ないか。俺は大人だしな。ユリアちゃんももう少し大きくなってナイスバディーになったらパーティーを組もうね」
爽やかに言ってのけた。
さらにメンバーの一人の男が、
「り、リーダー、俺はむしろユリアちゃんくらい幼児体型のほうが……」
その発言が決め手となり、俺は速やかにユリアを連れてその場を離れた。
同郷の転生者を贔屓にしたい気持ちはあるが、それよりもユリアのほうが大事だ。
俺は彼らの失敗する姿が易々と想像できる。なぜなら、
――この世界の神官は回復魔法とか覚えねーから!
そもそもこの世界にはHPを瞬時に回復する魔法やアイテムは存在しないんだよ。ヒーラー不在のRPGなんて常識を疑うだろ? クソゲーをなめんなよ、マジで。
この世界の神官系職は攻撃力や防御力を上げるような補助系のスキルしか覚えないんだよ。しかも固定値ではなく割合で上げるから、ステータスの低い序盤は何の価値もない死にスキルでしかない。
そのくせ下級の神官職は税金が高いからな。神に仕える聖職者ともなれば、民衆への模範となるように高い税金を納めるように設定されている。でも上級神官になると減税されたり、民からお布施を巻き上げたりできるようになるから、めっちゃ私腹を肥やせるようになるんだぜ。クソ過ぎだろ? 現実のクソ坊主やクソ神父の在り様をリアルに再現してるから。マジクソだわ。真面目な宗教家に謝れよ、マジで。
ああ、早く巨乳のお姉さんにもふられたい。おっぱいに顔を埋めて、毛の間に指をすき入れられて、しっぽを何度もシコシコ擦ってもらいたい。はぁはぁ、フシュー。そんなことを考えていると、
「ナスキー、目が怖いよ。あの人たちみたい」
「にゃっ!?」
にゃんだと!? 俺があのチーレム野郎たちと同じ目をしてるだと!? そんなバカな!
これはバグだな。
システムが表情の再現をミスったんだろ。まったく、しっかりしろよ、このクソゲーがあああああああああああ!




