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迷ったら月に聞け 5~闘神達  作者:
散り逝く闘神
14/35

発露

維月はまた、朝から仕事だった。

開店前に商品を揃えなければならない。午前中はこの仕事で、毎日飛ぶように過ぎて行った。

このお店の開店は9時で、維月は8時から12時まで働いている。短い時間でも、ここの店は他より少し時給が良いので、割はいいと思っていた。

慌てて商品を並べていると、もう開店して、お客様が入って来ている。

維月は手早く商品を並べ終わると、台車を牽いて裏へ戻ろうとした。

「ごめん、高瀬さん、それ私が持ってくから、そこの棚バラバラだから整理してくれる?」

売り場のマネージャーに言われた。苗字は人の世に居た頃に使っていたものにしている。維月は頷いた。

「はい。」

歪みまくった商品を無心にきれいに並べ直していると、ふと、何かの気を感じた…こんなことは、最近なかった。神が傍に居るのかしら。神が早朝からスーパーに買い物?

維月は少し可笑しかったが、笑わずに表情を引き締めて仕事に集中しようと商品に目を向けた。


維心は、昨夜から夜の街を歩き回り、そして、それでも見つけられないのに気持ちが折れそうになっていた。ガードレールに腰掛けて途方に暮れていると、目の前の店の前に、何人かの人が並び出した。そうか、朝だからあの店が開くのか。

そう思って見ていると、見るまにドアが開かれ、中の制服を着た人が頭を下げる中、待っていた人がどんどんと中へ入って行く。

維心はしばらくそれを眺めていたが、じっとしていても仕方がないので、その店へ入って行った。

食物がたくさん並んでいる。思えば維月も、よく宮へ持って帰ると買っていた…。

維心が懐かしく思って、食品売場を歩いていた。

「高瀬さん…」

ふと、誰かが誰かに指示を出している声が耳についた。維心は何気なくそちらへ目を向けた。

一人の、小柄な女がせっせと物を並べ直している。維心は何か、心の中がグッと締め付けられたような気がした…胸が苦しい。

思わず近くの棚の影に入った維心は、呼吸を整え、もう一度その女を見た。

維月より小柄で、髪も明るい茶色だ。顔も、維月ほど美しくはないが、醜くもない。気を探ろうにも、どうにもよく分からなくて、はっきり読めなかった。だが、相変わらず、見ていると胸が苦しくて仕方がなかった。

維心は、一生懸命手掛かりを探してその女を見た。何か、変わったことはないのか。

ふと、ポケットに手を入れると、維月の力の玉が、ほんのりと光り始めていた…もしかして、持ち主に反応しているのか?あれは…似ても似つかぬが、維月なのか…?

そして、維心は、一心不乱に棚を片付けているその女の横を通り過ぎながら、たまたまチラリと見た時目についた…左手に、自分と同じ指輪をはめている!

女はふと手を止めて、回りを見渡した。維心は慌てて気配を消して棚の後ろへ隠れた。

鼓動が速まっている。あれは、維月だ。きっと維月なのだ。まだ指輪をはめている…ならば、我を捨てて行ったのではないのか。どうしたらいい…?話し掛けたら、逃げてしまうだろう。維心はそのまま、ずっと物影から維月であるだろう女を見ていた。

何時間そうしていただろう。おそらく不審に思われたかもしれない。そのうちに、その女は誰かに頭を下げた。

「お先に失礼します~」

店の、従業員しか入って行けない所へ、その女は入って行った。維心は慌てて姿を消し、その女には見えないように後を追った。


ずっと後を付けて、維心は姿を消して歩いて行った。

その女は、途中小さなケーキの店に寄った。

「いらっしゃいませ。」

その女は、ガラスケースの中を覗いている。維心は離れた位置から覗き込んだ。あの、苺のタルトと書いてあるものを選べば、きっと維月だ。

「すみません、このタルト二つ。」

維心が思った通り、女は苺のタルトを選んだ。

店員が箱に入れて女に渡す。それを受け取って金を払い、女はまた歩き出した。そして、しばらく行った所で、自動販売機の前に立ち止まった。金を入れて、じっと品を見ている。そこでも、維心には、何を押すのかわかった。

…左から、三番目の一番上のものを選らぶ。

女は、まるで何かに操られているかのように、そのボタンを押した。維心は、間違いないと思った。我は、維月と一緒にずっと人の世に買い物に行った。維月の好むものは皆覚えている。

その女は、缶を取ると、近くの集合住宅の中へ入って行って、エレベーターのボタンを押した。

維心は迷いなく飛んで浮き上がった。維月だ…きっと維月なのだ。だから、それを確かめなければ。きっと、ここに住んでいるのだ。

維心の鼓動はどんどん早くなって行った。


維月は、なんだか落ち着かなかった。

何がと言うことはないのだが、なんだか落ち着かない。

最近全く何も食べずに、命の気ばかり補充しているからかなと思い、帰りに大好きなタルトを買って来た。これで甘いものを食べて、少しホッとしよう。

よく考えたら、家にコーヒーもなかった。家の前の自動販売機で、缶コーヒーを一本買うと、部屋へ戻ろうとエレベーターに乗って上がって行った。

鍵を開けて中へ入ると、誰も居ない家に、何かの気がするような気がした…でも、気配という気配ではない。誰かが気配を消している?…でも、そんな訳はないけど。

テーブルの上にケーキの箱を置き、髪を束ねていた輪ゴムを取ると、明らかな気配に、維月は慌てて後ろを振り返った。

「誰?!」

そこには、維心が立っていた。維月はあまりのことに、言葉を失って固まった…なぜ、ここがわかったの?それより、私がわかるの?

「見えているのだな」

維心は言った。維月はあ、と思った。維心にも確信がないのだ。気も読めなくて、姿も違う。姿を隠した自分が見えるかどうか、試したのだ。維月は後ずさりした。

「…あの…。」

どう言えば、見えるけどただの人だって思ってもらえるのだろう。それよりどうして、維心様はこの姿が私かもしれないと思ったのだろう。維心は、言った。

「維月であろう?」維心は思い詰めた顔で言った。「我は主の好む物を知っておる。」

維月はテーブルの上を見た。あの苺タルトと缶コーヒー…。維月は首を振った。駄目だ。ごまかせない。きっと、維心様は私を連れ帰ろうと…。

維月は窓へ走った。維心は走ってその腕を掴んだ。そして、そのとても薄く張られた膜を破り、姿を現す呪を唱えた。

「…!」

維月は顔を伏せた。隠しようのない維月の気が解放されて湧きあがり、髪は黒く顔立ちは美しく、背は間違いなく維月の高さに伸びた。維月は手で顔を覆った。ああ、見つかってしまった…!

「ああ!」維心は声を上げて維月を抱き締めた。「やはり維月よ…!」

維月は顔を覆って横を向いた。維心はその手を掴んで避け、顔を見た。間違いなく維月…。なんと美しいことよ。よくこの一年近く、これを見ずに過ごしたものよ…。

維月が横を向いて目を閉じているのに関わらず、維心はその顎を持ってその唇に口付けた。そして、ハッとした。…これでは、あの時見た、炎嘉と同じ。

維心は、維月を離した。

維月は驚いた。しかし、思いも掛けず解放されて、窓の方へと向き直った…今更、浅ましくも維心様と戻れるはずはない。維月が駆け出そうとすると、維心は背後から叫んだ。

「待ってくれ!」維月は、その声の悲痛さに思わず足を止めた。「維月…頼む、待ってくれ。我の話を聞いてくれ!」

維月は立ち止まって、背中を向けたまま待った。維心は、一生懸命考えた。だが、正直に全て話すのが良いと思った。

「維月…もう、我を忘れてしもうたのか?我は、決して主を忘れることは出来ぬ。今でも愛している。苦しくて仕方がないほど。」維心は、下を向いた。「我が王であるのは、我の本意ではない。もうすぐ地の許しも出よう。さすればすぐに将維に譲位して、我は王座を降りる事が出来る。我に責務は無くなる…命の危機にさらされる事もない。ならば、主は、我の元に戻ってくれるか…?そしてそれまで、今少しの間、我慢してくれるか…?」

維月は黙っていた。今さら、そんなことは出来ない。私は、宮を出たのに。あまりに勝手過ぎるもの…。

「…もう、私は維心様の傍を辞した身。そのようにお気に掛けて頂くいわれはございませぬ。こんな愚かな私の事など、呆れて無かったことになっているかと思っておりました。」

維心は、答えた。

「…宮では、人の世が荒れているゆえ、元、人の主が視察に参っていることになっておる。我は主を諦める事が出来なんだ…捨てて行ったのはわかっておったが、どうしても会いたかった。あのような別れ方をしてしもうていたしの。」

維月は背を向けたままだ。

「維心様は悪くはございませぬ。私が…逃げたのです。毎日夫の命の危機に怯えて暮らす事に、私は耐えられなかった。戻ってもやはり…神の世であるのですから。」

維心は、考えた。どうしたら共に居てくれるのだ。

「その、結婚指輪」維心は指した。「我をまだ愛してくれておるのか…?」

維月は左手を触った。後ろをチラリと振り返る。見ると、維心の手にも、間違いなく同じものがさされてある。そう、抜かなかったの…抜かずに居てくれたのね。

「いつまでも忘れることはありません。そんな簡単な気持ちではなかったから…。」

維心は希望がふつふつと胸に湧いて来るのが感じ取れた。

「我もよ。」維心は言って、震える両手を差し出した。「これは終生外さぬと約した。維月、こちらへ…。我と共に…。」

維月はためらいがちにこちらを見た。明らかに迷っている。維心は必死に言った。

「我も人の世に住む。主と共に人として生きる。ただの神になる。ゆえに、我と共に…!」

維月はみるみる涙ぐんだ。維心も涙で潤んだ目で瞬きもせず維月を見つめた。そして、待った。維心にとって、それはとても長い時のように思えた。

「維心様…!」

維月は、維心の腕に飛び込んで抱きしめた。維心はそれを抱き留めてしっかりと抱きしめ、目を閉じた。溜まっていた涙が零れ落ちた。

「維月…まだ我を愛してくれておったのだな。」

維月は頷いた。忘れられるはずはないではないか。このかたが、どれほどに自分を愛して大切にしてくれていたのか、身に染みてわかっているのに。だから愛して、だからこそ、失うかもしれない恐怖に耐えられないと出て来たのに。

「愛しています…!だから私の居ない所で維心様が逝ってしまわれるのが怖くて仕方がなかったのに。私の命を切り離すはずのあなたが先に逝ってしまったら、私は取り残されてしまう…そんな恐怖に、幾度耐えたら良いのかと。そればかり…。」

維心は抱きしめる手に力を込めた。

「もう離さぬぞ。我は、ここに居る。さすれば命の危険もない。将維がおる…我が居らねば、あやつは立派に王となろうぞ。我は主のために生きる。主と共に居ることが、我のただ一つの望みであるゆえ。」

維月は維心を見上げた。維心は維月に唇を寄せ、それに応えてくれるのを待った。

維月の柔らかい唇が触れて来た。維心は今度こそ、維月に深く口づけてそのまま離さなかった。

本日から新・迷ったら月に聞け~神なんて聞いてねぇ!http://ncode.syosetu.com/n3117bl/が始まります。月の宮へ来た人の世で育った龍の明人のお話です。世界観は変わりませんし、起こっている出来事は同じなのですが、それを別の視点から、月の宮の一市民であったならどう見ていたのか、十六夜や義心達の交友関係や普段の様子なども見ることが出来るようにしました。時間軸はこちらの連載から少し前にずらしています。よかったら、そちらもお読みください。

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