カズ君のアトリエ
『合成用のアイテムが不足しています。お持ちの方はどうぞ我が工房まで』
うん。これくらいでいいだろう。手っ取り早くアイテム合成できるぞ。
問題はどこに立てるかだな。
あれ…… また雨が降って来たよ。嫌になるなもう。
その日はおかしな天気だった。
朝に太陽が昇ったと思ったらすぐに陰りどんよりした空に。直後に雨が降り出す。
それからは一日を通して降ったり止んだりのぐずついた天気。
夕方には雲間から日が差してどうにか回復した。しかし夜にまた雨が。
「ふう…… 濡れたぜ」
「ああお帰り。ねえ聞いてよ…… 」
父さんが帰ってきた。いつも遅いが今日は比較的早かった。
何があったんだろう? いいことのはずないよな。
「悪いな。今はそんな気分じゃない。また今度にしてくれ」
父さんは適当に返事をしている。こういう時は疲れていていつもよりも辛い。
それはマローンおばさんが言っていた。困った。演技の場合も。
「ねえ何かあった? 」
「いや…… でもお前にも関係あるし正直に話すか。
いいか。落ち着いて聞いてくれ。間もなく俺たちの工房が取り壊しになるんだ」
とんでもないことを言い出した。突然おかしなことを言うのは酔っ払ったせい?
いや違う。強烈な酒の匂いがしない。あれっていい香りだけどまずいんだよな。
ちょこっと舐めただけで気分が悪くなった嫌な思い出がある。
酔ってないならどこかの怪しい占い師にでも予言された?
だったら問題ない。予言が当たることの方が珍しいって。
よくマローンおばさんが言ってる。気にするなと。
だったら酔った時に吹き込まれた? 飲み過ぎておかしくなった?
大人は美味しくないけどあれを飲むんだって。付き合いだから。
それは嘘だよね。だって凄く嬉しそうにしてるもん。
マローンおばさんは母の姉で僕たちの世話係。二軒隣に住んでいる。
そう僕には妹がいる。まだ幼く一人にしておけないからマローンおばさんが。
両親が工房で合成師として働いてるのでその間任されている。
本当は僕がしないといけないんだけど大丈夫だから遊んでなと。
妹をとても大事にしてかわいがってくれる口は悪いけど優しいおばさんだ。
工房は両親を含めて十名前後で人手が足りてないと言う。
最近特に忙しい。工房は歩いて十分のところにあるから僕もよく遊びに行ってる。
妹がもう少し大きくなれば一緒に遊びに行けるんだけどな。
母の方が合成師としての能力が高く村の者たちからも尊敬されている。
合成師一級で去年合成師マスターになった。
父は普通だ。マローンおばさんによればただの飲んだくれだと厳しい。
一応は僕たちの父さんなんだけどな。まあ仕方ないか。
「明日王子が来る。お相手して差し上げろ! 仲良しだろう? 」
王子は僕よりも三歳下でよく工房にも遊びに来ていた。
いたずら好きの困った奴でいつも自分勝手にやっては壊して人のせいにする。
懲りない最低なガキ…… ダメだ。王子にそんな態度を取れば工房が潰される。
「また来るの? 」
「ああえらく気に入られてな。自分でも工房をと我がままを言ってるそうだ。
いつの間にか父さんが飲んだくれでほら吹きだと噂が立ち工房の信用がガタ落ち。
そんな時に王子の出現で持ち直した。そんな風にマローンおばさんが言ってた。
おばさんもいい加減だからな。噂なのは確かだろうけど。
「それで服はどうしよう? 」
明日服屋に駆け込んで上品な服を買ってもらうつもり。
これが凄い高いんだけど父さんは気にせずに買ってくれた。
それがボロボロになってきた。だから新しいのをと。
「バカ言え! 新しいのを買ってやったばかりだろうが! 」
怒りの声が返って来る。でもこれってもしもの話。
買ってよとまでは言ってない。それなのに怒ることないじゃないか。
「でもあれは工房用のユニフォームで…… 」
ちょうど一か月前にご機嫌の父さんにおねだりして買ってもらった二着目。
これは汚さないように取っていた。
だって工房に行けば汚すのは確定だから。
大事なお出かけの時にとは思ったけどあれは外出用ではないと笑われた。
まだ怒られるならいいが笑うのはなしにしてもらいたい。
好きにさせてくれよ。これは僕にとって大事な服なんだからさ。
「ただいま帰ったよカズ」
おっと母さんが遅れて帰ってきた。
一緒に帰ればいいのに母さんの方は忙しいと最後まで。
父さんは早く終えるのが格好いいんだと帰り道にある酒場に寄る。
なぜか今日は飲んでない。たぶん占い師のところに行ったのだろう。
遅くまで工房で。外で一杯。それが二人の関係。
仲が悪いとかじゃなくて父さんがただの合成師で母さんが合成師マスター。
何でも試験で一級取ってる者からより優れた者が合成師マスターになるそう。
その限られたマスターの称号を手に入れてるんだから尊敬しちゃうよ。
父さんとは天と地の差があるとか。相当凄いことが分かる。
実力の世界だと父さんが笑う。
「ではこれで」
マローンおばさんが二軒先の家に戻っていく。
灯りも僅かだがここには獣もいないし悪人も近づかない。だから心配ないって。
それでも母さんが遅かったり話が長引いたりパーティーの時は泊っていく。
それがマローンおばさんだ。
さあ明日は王子も来ることだし盛大なパーティーになるだろう。
「カズ君おやすみ」
こうして運命の王子来訪の日を迎える。
続く




