第0話:遺産と、酒と、魔王の契約
偉大なる先人様
やる夫のダンジョン運営記リスペクトで書かせていただきます。
拙作ですがよろしくお願いします。
1. どん底の終着駅
黒い喪服の右袖は、所在なげに風に揺れていた。
深夜は、23歳という若さには不釣り合いな、ひどく濁った目で叔父の遺影を見つめていた。
かつて「難関ダンジョン攻略組」の最前線で剣を振るっていた栄光は、2年前に失われた。魔物の不意打ちで利き腕を失い、引退を余儀なくされたその日から、彼の人生は酒とトトカルチョのノイズに塗りつぶされていた。貯金も底をつき、まさに人生の終着駅に立ち尽くしていた彼に届いたのが、風変わりな叔父の訃報だった。
「深夜くん。君の叔父さんの遺言だ」
弁護士から手渡された書類には、遠く離れた田舎の古い家と、その裏手にある小さな山の相続が記されていた。
2. 裏山の小さな先客
数日後、深夜が辿り着いたのは、お世辞にも立派とは言えない古民家だった。
しかし、玄関先に立った彼は足を止める。
「……なんだ、これ」
そこには、泥のついた新鮮な野菜が山積みになっていた。その陰からこちらを覗いていたのは、小型犬ほどの大きさの、つぶらな瞳をした魔物――コボルトだった。
(コボルトか。見た目は可愛いし、穴掘りの腕は超一流だが……。ペットにしようなんて思ったら、一日で家が穴だらけにされるタイプだな)
元一流剣士らしい冷静な分析をしながらも、深夜はふっと思い立ち、手元にあった酒のカップを差し出した。叔父がモンスターと酒盛りをしていたという話を思い出したのだ。
3. 泥酔と土木工事
一杯の酒が呼び水となった。
深夜が差し出した酒を美味しそうに舐めたコボルトが「クゥーン!」と鳴くと、茂みから次々と仲間が現れたのだ。気づけば、裏山の入り口はコボルトたちの宴会場と化していた。
深夜も自暴自棄な気分だった。叔父の遺した秘蔵の酒を次々と開け、言葉の通じない魔物たちと乾杯を繰り返す。
「いいかお前ら……。人生なんてな、一寸先は闇なんだよ……」
深夜の愚痴に同情したのか、あるいは単に興が乗ったのか。酔っ払ったコボルトたちは、持ち前の本能で猛然と「裏山の開拓」を始めてしまった。素早い手つきで地面を掻き出し、岩を砕き、深夜が呆気にとられている間に、山肌には立派な「横穴」が形成されていく。それはまるで、意思を持ったダンジョンが産声を上げているかのようだった。
4. 深夜、うっかり封印を解く
「おいおい、そんなに掘ったら山が崩れるぞ!」
深夜はふらつく足取りで、一匹のコボルトに連れられて穴の奥へと入っていった。その突き当たりには、古びた注連縄が巻かれた不自然に大きな岩があった。コボルトたちはその岩を指差し、「ここを掘れ」と言わんばかりに深夜を見つめる。
「なんだ、お宝か? ……よっと」
深夜が酔った勢いで岩に手をかけ、注連縄をむしり取った瞬間。地中から凄まじいドス黒いオーラが噴き出し、コボルトたちが一斉に平伏した。
5. 漆黒の共同経営者
轟音と共に岩が砕け散り、そこから現れたのは身長2メートルの骸骨だった。王冠を戴き、漆黒の鎧を纏ったその姿は、紛れもなく伝説の魔王である。
「……我が封印を解いたのは、貴殿か?」
重低音の響く声に、周囲の空気が凍りつく。だが、泥酔している深夜の恐怖心は完全に麻痺していた。
「おう、骨の旦那……。いい穴掘りだったぜ。……一杯、やるか?」
魔王は絶句した。数百年ぶりに目覚めた自分に対し、初対面で酒を勧めてきた人間など初めてだったからだ。しかし、深夜の濁りのない(酔った)瞳と、周囲で幸せそうに転がっているコボルトたちの姿を見て、魔王はその眼窩に宿る紅い光を和らげた。
「……良かろう。貴殿のような酔狂な男、嫌いではない」
6. 悪夢のような(?)契約成立
翌朝。
深夜が猛烈な頭痛と共に目を覚ますと、そこには正座した魔王と、徹夜で掘り進められた見事な「5階層分の土台」が出来上がっていた。
そして深夜の手元には、昨夜の勢いで署名してしまった『ダンジョン共同経営契約書』。
「起きたか、パートナーよ。我らの理想郷、第一期工事は完了だ」
魔王の優しい声が響く中、深夜は自分の人生が、酒とコボルトの手によってとんでもない方向へ掘り進められてしまったことを悟ったのである。
次回予告:第1話
「えっ、給付金が出るんですか!?」
魔王との契約に頭を抱える深夜は、地域振興課に出向く
過疎化に悩む自治体は、この「勝手にできたダンジョン」を地域振興の目玉にしようと、破格の支援を申し出てきて……。




