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episode17.別れと次も目的地(2)



「さぁ、次はどこにいくんだい?

“旅する絵描きクン”」


そうミストリアは問いかけ、

ケットは少し悩んだ


「んーー、やっぱり美味しいもの食べたいよね…」


少し考えたのち、行きたい場所が見つかりそこを伝えると

ミストリアはぱちんっと指を軽く鳴らした。


その音と同時に、

温泉の湯気がふわりと揺れる。

目の前の空間が、

水面みたいにゆらゆらと波打ち始めた。


「ほら、出口だよ」


湯気の向こう、

丸く切り取られた景色が見える。


深い緑。

木々のざわめき。

遠くから聞こえる鳥の声。

ユノアリスとは違う、

湿気の少ない森の空気が流れ込み

ケットの耳がぴくりと動く。


「おぉぉ……!」


目を輝かせながら近づく。


「すっご……」


「ここをくぐれば目的地の近くだよ

街までは歩いて15分くらいかな」


「めちゃくちゃ近いじゃん!」


ありがとうと伝えながら

ケットは尻尾をぶんぶん振りながら

出口の周りをくるくると周りながらワクワクしていた。


「君、

また面倒ごとに巻き込まれないでよ?」


「ん?」


ケットはきょとんとする。

それを見てミストリア今日何度目かもわからないため息をついた。


「巻き込まれることあんまないよ?」


それを聞いて今日1番ドン引きの顔をした。

自覚がないとは恐ろしいと呟きながらケットをこの世の生物ではないかのように見つめた。


「その顔ひどくない?」


「私はどんな顔をしても美しいだろ」


「えぇ、今の顔は絶対人に見せちゃいけない顔だって〜」


ミストリアは顔に手を当てながら深いため息をついた。


「まったく……

君がおバカで鈍感で能天気で優しすぎるおバカでアホの子だってことはよーくわかったよ」


「えへへ」


「褒めてない」


また笑うケットに、

ミストリアは半目になる。


「はぁぁ、ほらもう行きな」


しっしっと手を払うようにケットを見送る


「君と話していると老けていくような気になってくるよ」


「ミストは老けてないし綺麗だよ?」


「知ってるよ、いいから早く行って来なよ」


はーいといいケットは出口の前まで行き足を止めた。

振り返るりユノアリスを見渡した。


色とりどりの湯

ゆらめく湯気

幻想的な空間

そして、

そこに立つ神族。


ケットはへらっと笑った。


「ミスト」


「なんだい?」


「今日はありがとな!」


真っ直ぐな声だった。


「温泉も最高だったし、

話せてよかった」


「絵も描けたし、

めちゃくちゃ楽しかった!」


ミストリアは少し目を丸くする。


ケットは続ける。


「またね!」


あまりにも迷いのない声で

まるで、

明日また会おうと言うみたいに自然だった。


ミストリアは数秒黙ってから、

小さく笑った。


「……そう」


静かに答える。


「次は崖から来るんじゃないよ」


「はーい!」


「あと、

今度来る時は土産を持ってきな」


「えっ、何がいい?」


ミストリアは少し考えて、

ふっと笑った。


「そうだねぇ」


細い目が、

悪戯っぽく細められる。


「君の描いた絵」


ケットがぱちぱちと瞬きをした。


「え?」


「今回みたいなやつ」


ミストリアはそっぽを向いた。


「……悪くなかったからね」


ケットは一瞬、ぽかんとしていた。

時間差で段々と口が上がっていくのがわかる。

そんなことを言われると思っておらず、嬉しくてたまらなくなり

ぱあっと顔が明るくなる。


「まじ!?」


「まじ」


「描く!!!」


即答だった。


「次はもっとすごいの描く!」


「はいはい」


ミストリアは適当に返す。


けれど口元は少し緩んでいた。







—————————


ケットは一歩、

出口へ足を踏み入れる。

今度はミストリアから声をかけられた。


「ケット」


少しだけ真面目な声でケットは振り向いた。

そしてミストリアは静かに告げた


「君は君が思ってるより、

ずっと珍しい」


ケットはきょとんとする。


「そうなの?」


「あぁ」


湯気が揺れる。


ミストリアはまっすぐケットを見る。

優しい笑顔で


「だから、

自分を軽く扱うんじゃないよ」


ケットの耳がぴくりと動き

一瞬だけ、真剣な顔になったが

すぐに、いつもの笑顔に戻る。


「……うん!」


大きく頷き


「気をつける!」と。





たぶん、半分も伝わってない。

それでもミストリアは少し笑った。


「まあ、いいさ」


小さく手を振る。


「行っておいで」


ケットも大きく手を振り返した。


「またな、ミスト!」


次の瞬間、

ケットの姿は光の向こうへ消えた。




温泉の国、ユノアリス

いつもの静寂。


今日みたいに騒がしいことの方が珍しいのだ。


ここにくる人は大切な人を亡くし生きる希望もなく死ぬのも怖く、忘れて楽になりにくる人

夢に囚われ夢の中でしか生きられない人

体が悪く治る見込みもないため最後の希望にくる人。

そんな訳ありばかりだった。


ミストリアは見通す力なのではなく

湯に入った人の記憶を見てしまうのだった。


さっきまであの旅する絵描きがいた場所をしばらく見つめていた。


それから、小さく息を吐く。


「……まったく」


手元には、ケットが描いた絵。

そこには、

自分の知らない自分が描かれていた

柔らかく、穏やかで、

どこか楽しそうな顔をしていた。


手でそっと触りながらミストリアは小さく笑う。


「ほんと、

親子そろって面倒な奴らだ」


そう呟きながら、絵を大事そうに抱えた。


「さて」


湯気で何も見えることのない

上も下もわからない、ここが地上なのか、空の上なのか

だけど、自分たちは上にいた。神族を思い出す時はつい癖で上を見てしまう。


「今度あいつに会いに行くか」


その目は、

少しだけ楽しそうだった

お読みいただきありがとうございました!

つづきはちょこっとづつ書いていくので楽しみにしていただけると嬉しいです!

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