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推し活アラサー女子ゆっこのちょっと不思議な日常  作者: 日夏


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最後のモテ期

平木綿子、三十三歳。

名の通り、極々平凡な容姿と、丈夫で打たれ強いのが取り柄の女だが、そんな私にもようやく春がやってきたようだ。


産まれてこの方、モテ期というものに遭遇したことがなかった。

や、母に言わせると、産まれてすぐ、そして、幼少期の三歳、夜泣きも人見知りもしない上に、屈託なく笑う姿がえらくモテたようで、そうなると、人生においてのモテ期というものが三回あるなら、私にもあと一回は残されている、とそう思いながら生きてきた。


その最後のモテ期というものが、三十三歳にしてようやくやって来たのかもしれない。

正直、もう少しだけ早くやって来てくれても良いのではないかと思ったが、おばあちゃんになる前に来てくれたのだから喜ぶべきだろう。


一か月前、私には恋人が出来た。

ハル君こと、立花春臣(たちばなはるおみ)、二十九歳。

四つ年下の彼は、怜司君の又従弟でもあり、幼なじみであり、同僚である。

大学ではなく高専に進んだ口で、SE職の彼は、怜司君と侑斗と同じ会社に勤めながらも出向先は別で、普段は横浜勤めと聞いている。



ちゃんと好きになった恋人は、もしかしなくても、人生で初めてかもしれない。

私にもちゃんと三次元の人間を愛することが出来るのだと分かったら、ひどく安心した。

恋愛感情という感情を、二次元に置き忘れて産まれたのかもしれないと疑ったこともあった。

最初から持ち合わせて産まれたんだなと、何だかとても安心してしまったのだ。


立花春臣という人間は、人懐こい笑顔が初対面の人にも素で出来る、底ぬけに明るい性格だ。


一七〇を超えないほどの身長と、華奢に見える細い腰。

顔が小さいのに、くっきりとした二重で大きな目と、やや薄めの唇ながら、笑うときゅっと上がる口角を持つ口も大きい。

それらを邪魔しない程度にすっきりとした控えめの鼻、つい目がいってしまうような、何だかとてもキラキラしている容姿の持ち主だ。


最初から本音で向き合ってくれた正直な態度と、意外にも至極自然なレディファーストぶりを発揮するその態度と(幼少期から、権力最強の母親と姉二人の女性三人と暮らすことで染みついた反射神経らしい)、そして何よりも、『大好き』を、表情と態度と言葉とでくれるのだ。


ときめきだとか、キュンキュンするだとか、そういうものに関して、対象が自分の時には一切感じたことはなかった。

や、なりきりチャットの彼では毎日のようにときめきを感じていたので、三次元限定なのかもしれないが、とにかく、ファッション誌によくある、月のコーディネート紹介で『彼の仕草にきゅん』だとか『手首の筋にドキっ!』だとか、そういう言葉には、どこか冷めて眺めていた。

大体、頭ぽんぽんや、壁ドンなど、付き合う前の段階で上司からされたら、ただのセクハラだと思っている。

それらにキュンを感じているなら、それはその上司のことを好きだからで、且つ相手は自分に対して()()()()と自信がある状態だからこそ成り立つものだろう。


一カ月のコーデを載せるから、一カ月で他人から恋人になるまでの流れは、心境と環境の変化にどうしても多少の無理が生じてしまうものなのだろうか。

あまりに、これは無い、と思ったこともある。

ファッション誌のああいったシチュエーションは、実は自信家な男性が作っているのかもしれないと感じることもあった。


だがそれも、今ならちょっぴり共感できる。

私とハル君の縁の方が、他人から見たら、これは無い、と思えるような状況の気がするからだ。


彼と一緒にいて、常にドキドキするかと言ったら嘘である。

そりゃあ場合によっては勿論ドキドキもするけれども、どちらかというと安心する。

すぐ隣、ゼロ距離にあっても、最初から不思議と違和感を覚えなかった。

妹弟とは違うけれど、既に家族のような、何だかほっとする場所を作ってくれるのだ。


しっかし、あんなキラキラしている生き物が、こんな平々凡々な容姿の私を気に入ってくれたのだから、今までよっぽどあっちの方がよろしくなく、大分こたえていたに違いない。


思うにキラキラしている彼に寄ってくる女の子は、きっと同様にキラキラしている容姿の持ち主だったのではなかろうか。

自分に自信がある女性は、アレも大きいものを好む、なんて、昔雑誌で見た気がする。


彼が振られる理由は、いつも同じらしく、ナニの小ささにあったらしい。

そんな理由でこんなキラキラしている彼が振られるなんて信じ難いが、正真正銘の事実であるらしく、怜司君には本気でナニの整形まで相談されたと言うから、嘆かわしい。


私を、と推したのは、怜司君ではなく、なっちゃんの方だった。


以前好みの男性や恋愛歴を聞かれ、酒の力も借りて、かなりあけすけにぶちまけたのだ。


ぶっちゃけ、私は、SEXという行為で良かったためしがない。

お付き合い自体、片手で足りる人数としかないので、たまたまあたりが悪かった、と言われればそれまででしかないが、私にとってSEXとは、良いのは前戯までで、あとは、苦しいだけの『奉仕のお時間』である。


女友達に相談したこともあるが、似たようなものだった。

喘ぎは演技で、その場のノリ、自然に出るもんじゃない。

中には、行為そのものが気持ちいいわけではないが、好かれて嬉しいから気持ちがいいという、何だそれ羨ましいぞ、と思える子もいた。

お付き合いの多い子は、上手い人もいるけど二十数人のうちたった一人だけで、だから彼氏はいるけど未だに夜のオトモダチもいるという、ちょっと心配になってしまう子もいた。


私の場合、ちゃんと相手を好きになってからではなく、見切り発車なのもいけない要因の一つかもしれないが、つまるところ、好きという気持ちと、行為自体の気持ちよさというのは、別物であることも多いようだ。


まあ、そんなわけで、最中、私はいつも、早く終わってくれ、とばかり願っていた。

長く持つことがいいとされているが、とんでもない。

早漏、大いに結構、とか思っていた。

挙句の果てに、『狭すぎ。その歳で処女か?』とバカにするように疑われた時には、さすがにこちらの奉仕という行為そのもののやる気も失せた。

だが、あちらのやる気はおさまらなかったので、行為は止まらなかった。

が、次の日には、別れを切り出した。

処女かと疑われたからではない。

心根が分かったからだ。

処女かと疑ったら、せめて気遣いをみせろ、それが男というものだろう。


そんな小さな一言でと思われるかもしれないが、本心が垣間見えた一言だったからこそ、その後の自分自身の扱いが、大切にしてくれるかそうでないかがわかるというものだ。

出来るならその行為に至る前に、見極めたかった。


だが、その馬鹿げた男の一言で、分かったこともある。

どうやら私は一般的な女性より狭い様だ。

苦しいだけなのはそのせいだろう。

だからといって、好きな人もいないのに、知らない未来の人のために広げるトレーニングなんて馬鹿げてる。

なら、最初から、自分に合った小さい人を探せばいいのだ。


背が低ければ、威圧感もないし、何よりあっちも小さいはずだ。

デカければ良いってもんじゃない。

もしも大きさに引け目を感じているなら、行為そのものの態度には、気遣いが見えるかもしれない。

とすれば、小柄な人の方が、真の優しさを持ち合わせているはず。


世の中大きいものがいいとは限らないのだ。

舌切り雀のつづらだって、小さい方が良かったじゃないか、金銀ざくざくだ。


そもそも、もうなにも無理に世間さまに合わせる必要はない。

土日祝日はイベント優先でその都度言い訳を作ったり、大量の薄い本やコスプレ衣装を工面して隠していたが、その必要もないではないか。

堂々と本棚やクローゼットに並べて引かれるようであれば、それまでなのだ。


しかし、そんなふうな考えに至るまで、私も一般的な女性のように、背が高くてある程度男らしい人に好意をもっていたので、小柄な人と付き合った試しはなかった。

だが、あれからテレビを見ていても、あの体型は良いなと思う俳優は、背が低く小柄で中性的な人になった。

イケメンと言われる、背が高い俳優には全くと言っていいほど惹かれなくなったし、漫画やアニメを見ても、中性的なキャラに惹かれるようになった。

歌声も低い歌声より高音で爽やかな声が好きになった。

可愛い後輩をかっこいい先輩や上司や先生が攻めるBLより、美しく綺麗な年上をキラキラとしたアイドル級の美少年が攻めるBLが好きになったので、嗜好は思いきりシフトチェンジしたのだろう。


女友達ですらあけすけに打ち明けたことはなかったのだが、なっちゃんがゲイであり、同じ立場なことが、私の中のハードルを薄っぺらい、新聞の間に挟まっている広告チラシのようにしたのだ。

言葉も選ばず、ペラペラと語ってしまった。


彼との初めての夜、ことが終わって嬉し泣きしたのは彼の方で、とても愛しい生き物が舞い降りた、大事にしよう、という感情がわいたのだ。


付き合って一ヶ月しか経っていないのに早いと思う人がいるかもしれないが、実は初めての夜は、まだ付き合っていなかった。


誘ってきたのはハル君からだが、けして流されたわけじゃない。

あんな思い詰めるくらい真剣に乞われたら、良いよという以外ないではないか。

それに、その時にはもう、私はハル君に惹かれていたのだ。

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