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第83話   斑目の息子⑧

「う…うう…」


 金屏風に頭から突っ込んで倒れているタカシがうめき声を発した。


「あ!たかしさん!」


 和子は彼に駆け寄り上半身を起こした。


 彼女はシルクの桜柄模様のハンカチを取り出しタカシの鼻血を拭く。


「う…和子様…え!」


 タカシは、惣司の前で刀を構える義国の姿を見て仰天した。


「あ、あれは加藤さん!?」


「そうよ。義国の霊ですわ」


「霊?」


「ええ。私達を護る為に現れてくれたの」


「そ、そうなんですね!加藤さんは確か剣の達人…」


「そう!義国は北辰一刀流免許皆伝の腕前。惣司にも負けないはずよ」


「加藤さん…」


 タカシは頬を紅潮させてグッと拳を握る。




義国は刀を下段に構えたまま、一歩ずつ間合いを削っていく。


「ふん!皇女の首を落とした老いぼれの亡霊か…」


 そう言い終わるかどうかの刹那、義国の剣が惣司を横殴りに薙いだ。


「良し!決まった!あれ…」


 タカシは目をパチクリする。


 惣司を両断したかに思われたのに、義国の剣は虚空を切っている。


 彼の身は瞬時に先ほどまで背にしていた観覧室の柱の前に移動していた。


「くく、面白い。そんな錆びついた刀で私とやり合うつもりか?」


そういうと惣司は右手を高く差し上げた。


「桜花殺剣!」


彼がそう叫ぶと赤い桜の花弁がみるみる掌に集約されて一本の長い刀の形となった。


「ふむ…面妖なり」


義国はそう言うと玉座の舞台から飛び、一瞬のうちに惣司との間合いを詰めた。


ガツン!


お互いの刀が激突し弾ける音が響く。


「あれ…音が一つ。早くて刀の動きがよく見えなかったけど」


首をひねるタカシ。


「いいえ…タカシさん。義国は《刺突》《逆袈裟》《真っ向切り》の三段の攻撃をくり出したの。でも全て弾き返された」


「ええ!三段!?」


タカシが声を上げたその瞬間惣司の左肩から血が吹き出した。


「ど、どういうことなの?」


戸惑う和子。


「ぐ!四段切りか!」


惣司は、か!と 息を吐くと右の掌を肩に当てて桃色の光を放った。


桜の花弁に包まれあっという間に傷がふさがってしまう。



「ふむ…益々もって面妖なる技。ならば治療する間もなく切り刻む他は無しに候」


義国は皺が刻まれた表情を全く変えず剣を上段に持ち替えた。



「その必要はない!喰らえ!」


惣司はそう叫ぶと義国目がけて赤い閃光弾を数発放った。


全弾義国に命中する。


しかし全て彼の体をすり抜けてしまう。



「そなたの術は死者には通じぬで候」


そう言いつつ義国は一瞬構えを解いてしまった。



惣司はすかさず懐から人形ひとがたの紙切れの束を取り出し、掌に乗せて口元に寄せてふう!と噴いた。


すると胸に赤い桜の花弁を宿した無数の人形が飛び出し、義国の全身に貼り付く。



「桜霊退散!」


惣司は左手の人差し指と中指を交差させて額に当てて印じた。


その瞬間義国は赤い光に包まれて消失した。



「くく。亡霊は地獄に戻っていろ!」


惣司はニヤリと笑いを浮かべた。



「ああ!加藤さん!」


タカシは唇を震わせた。



「待って!あれを見て!」


和子は指を差した。



刀は空中で静止したまま残っている。


そしてそれを持つ義国の姿がすっと復元した。



「な、何だと!?」


惣司は目をしばたたいた。

 


「拙者をただの怨霊扱いするは見当違いも甚だしい!」


義国は低い声でそう言うと下段で刀を持つ手にぐっと力を込めた。



刀はゆらゆらとした青いオ―ラを放っている。



その直後渾身の一撃が惣司を襲った。


惣司は桜剣で受け止めたが、それが弾き飛ばされ空中で花弁が散るように消失した。


「しまった!」

 

「魔導士!覚悟!」


義国は上段から丸腰の惣司に刀を振り下ろした。



「やった!決まった!」


タカシがそう思ったのも束の間だった。



なんと義国の剣が惣司の右手の掌で受け止められていた。


掌には赤い光が点滅している。



「む!ぐ!」


義国は刀を引こうとするがびくともしない。


「ぬ!ぬおおお!」


惣司は野獣の様に咆哮するとこぶしを握り締める。


その瞬間刀はパキンとへし折れた。



「ぐ、ぐあああ!」


身悶えする義国。



「嗚呼!義国…義国!」


絶叫する和子。



「殿下…申し訳…ございま…せん…」


義国の姿が徐々に薄くなっていく。



そして完全に消え去り、刀が床にストンと落ちて転がった。



「ふん!所詮は剣に取り憑いていただけのまやかしか…」


そう吐き出すと、惣司は床に転がっている折れた刀を蹴り飛ばした。


刀は床を滑って一段上がっている玉座の段前に突き刺さった。



「タカシさん…」

「和子様…」


絶望に打ちひしがれ、抱き合う二人。




「月の力は満ちた…終わりにしよう…」


惣司はゆっくりと両手を重ね合わせた。





その時であった。


金屏風の裏から紫色の光の球が飛び出し惣司を襲った。


「うお!」


惣司は間一髪で避けたが、背後の柱に巨大な穴が空いた。



「何者だ!」



「もうええ加減にせい!惣司」



金屏風の袖からゆっくりと姿を現した老婆の姿を見て、惣司は口をあんぐりと開け、眼球が飛び出そうになった。



脱糞馬場であった。



安倍日巫子あべのひみこ!な、なぜここに?」



「阿呆う!師匠と呼ばんかい!」



馬場は忌々しそうに惣司を叱りつけた。




その名を聞いてタカシはきょとんとした。


「え?安倍?どういうこと?」



「その名は捨てた!今はただのクソ漏らしや!」



そして立ちすくむ惣司を睨みつけた。



「惣司…けりをつけさせてもらうで…」






次回   馬場と惣司の因縁














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