第66話 ゲルマニアの首なし麗人④
ヴィクトリアの胴体が、肩にかけたロングコートを翻しつつ玉座前まで突き進む。
ヒールの規則正しく、そして力強い歩行音が静寂の観覧室の天井にこだました。
そしてガラスの仕切りの前で立ち止まるとロングブーツの踵をカツンと打ち鳴らし、背筋を伸ばした。
ヴィクトリアの首を持ったタカシがハーハー言いながら彼女に追いついた。
「ああ…姫さん…どえらいべっぴんさんやわ!」
玉座の和子の姿を目の当たりにして感動のあまり 瞳を潤わせるヴィクトリア。
そんな彼女の様子をよそにタカシの顔は青ざめていた。
(まずい…和子様…激オコだ)
和子は無表情を装っているが、タカシには怒りの感情がビリビリと伝わってくる。
しかしそんな和子の感情を知ってか知らずかヴィクトリアの感激は止まらない。
「首チョンパされてはっても全く格式揺らいではらん」
(く、首チョンパ!そのような言い回しは初めてですわ…)
和子は内心目を丸くする。
「姫さんは自分で《首チョンパ》しはった。うちはヘタを打って《首チョンパ》されてしもた…」
(《首チョンパ》!ふふ…)
皇女の腹筋が反応しだした。
「同じ《首チョンパ》女子でも《首チョンパ》の価値が違うで、ホンマに!」
(ふふっ!《首チョンパ》繰り返すのやめて!うふふふ…)
まさかの 《首チョンパ》 攻撃に和子の腹筋は思わぬ苦戦を強いられた。
「ところで山田はん。一つ聞いていい?」
「は、はい!」
「あんた…《首チョンパ女子》馴れしてるやろ」
「え!何なんですか、それ…」
「だってそうやん。普通《生首きしょい》やん。でも自分ビビリ入らへんやん」
「そうなのですか…」
「そや!あんた!うちの記念館に来いへん?」
(ヴィクトリアさん!一体何を言い出すの!)
一瞬立ち上がりそうになる和子。
「ええ!僕がですか?」
「そう。ここも立派やけどベルリンの記念館はもっとごっつくて綺麗やで」
「でも…」
「日本語喋れるスタッフがおらんから寂しい思いしててん。お給金はずむで。おしゃべりいっぱいしよ!」
「そ、そんな訳には…」
和子は自分の首を持つ手の指にギリギリと力が入り始めた。
「それにあんた…えらい事してしもたで!」
「えらい事?」
「そや!あんた、うちの一番大事な首 抱えてるやろ」
「はい……」
「それはもう、うちと契り交わしたようなもんやで」
「ち、契り!?」
心臓が口から飛び出そうになるタカシ。
(ヴィクトリアさん…あなた…)
和子の髪の毛が逆立ってきた。
「あんたとうちとはもう夫婦みたいなもんや。『あなた』って言わせてもらうで」
「ま、ま、待ってください!」
タカシは呼吸困難の金魚のような顔になった。
その時であった。
静寂の観覧室の空間に突き刺さるような声が響いた。
「ヴィクトリアさん!いい加減になさいませ!」
二人はぎょっとして玉座の方を見た。
そこには仁王立ちしている和子の姿があった。
右手にぶら下げられている生首の目が二人を刺すように見下ろしている。
「え!姫さん!生きてはんの!?」
ヴィクトリアはタカシの腕の中で絶叫した。
(ああ…終わった…)
口から魂が抜けていくタカシであった。
次回 皇女と将軍の対決が激化する




