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第49話  タカシの休日④

「まあ!凄いねえ!」


まず美枝は観覧室の壮大さに胸を打たれた。


大理石の床と美しい彫刻が施された柱。


極彩色の蓮と桜の花びらが入り乱れる模様が施された高い天井。


正面はるか向こうに玉座の間のガラス張りが見える。


「あれ…まっすぐ皇女様の前に行けないのかい」


「誘導柵に従って進むんだよ。あ !乗り越えちゃだめだって!」


柵にまたがる美枝を慌てて引っ張り戻すタカシ。


「全くまどろっこしいね…ぐるぐるぐるぐる遠回りしなきゃ玉座に行けないなんて!」


「来館者が多いから一気に皇女様のところに殺到しないようになってるの!いいから順番に歩いて!」


「ああ…もう…向こうに皇女様が見えているのに…」


すきあらば柵を乗り越えようとする美枝に対し警戒態勢マックスのタカシ。




そんな揉めている2人の姿に和子は気がついた。


(え…タカシさん…まさか…女性の方と2人!)


距離があるため相手女性の姿ははっきりわからないが、親密そうな様子に和子はぎゅっとこぶしを握る。


(…っ…何だか仲が良さそう…一体…誰?)


和子の胸の中に自分でも理解できない感情がせり上がってくる。



そんなざわつきを抑えきれない皇女に向かって2人は徐々に接近していく。


(あれ!)


最初はジト目だった和子だが、近くになるにつれ 連れの女性の顔がタカシによく似ている事に気がついた。


(お年も大分タカシさんより離れていそう…もしかして!)



「タカシ!カメラをよこしなさい!」


「駄目だって母さん!いい加減にしなよ!」


2人の言い争いの声が聞こえてくる。



(やっぱり…お母様だったのね…ふふ)


和子は胸のざわつきがすっと収まっていく。




そしてついに最前列に並んだ美枝は、初めて間近で和子を拝覧して興奮を隠しきれない。


最上級儀礼の元帥服姿の皇女は威厳と気品に満ち溢れていた。


旭日章や菊花章などの胸一面の勲章・肩から斜めにかかる赤いサッシュ(大綬)・金の組紐・肩の大きな金の飾り(エポレット)・白手袋などはどれも彼女の身分と格式の高さを存分に表している。


「なんて…お美しいんだろう…尊くていらっしゃるんだろう…あれ?」


「どうしたの、母さん」


「皇女様の御首がちゃんと繋がってらっしゃるよ…御身体と離れてらっしゃるって聞いてたのに…」


金色の縁取り・桜章などの装飾が入った高い詰襟が首元まできちんと留められ、長い漆黒の髪が軍服の背中に優雅に流れていた。


「ああ…今月は和子様の御生誕月だからね」


「え!皇女様は5月の御生まれなの!」


「そう。この月限定で和子様をご生前の姿にお戻しする習わしなんだ」


「本当!あたし、ラッキーだね!」


(でも…和子様は…ご機嫌麗しくないんだよな…)


昨晩の夜を思い返しため息をつくタカシ。




『首が窮屈でかないませんわ…顎の下までぴったり閉じられてる…』


『我慢して下さい。習わしですから…』


『何で大礼服の詰襟はこんなに高いのかしら…7センチも有りますのよ…信じられない』


『でもご生前は着用なさっておられたのでしょう』


『特別な儀式の日だけですわ…こんな服』


『でも元に戻られた御姿は素敵です』


和子の生前の姿に目頭が熱くなるタカシ。


『タカシさん…他人事だと思って…あーもう!我慢できませんわ』


そう言って首を詰襟から抜いて膝に置き、ふーっと息をつく和子。


『うふふ…楽ちんですわ』


『あ!いけません!和子様!』


『いいじゃない。夜だし…誰も見ていないでしょ…』


『なりません!すぐに首をお戻しください』


『い…いやよ…』


『習わしです!』


『うう…タカシさんのいじわる…』


渋々胴体に首を戻す和子。


(そんなこんなで帰りが遅くなっちゃったんだ…)




「あんた…またニヤニヤしてる…」


「え…そんなことないよ」


「そんなことある!気色の悪い…あれ…なんか女の人が出てきたよ」


「女の人?あっ!今日は醍醐さんの日だった!」


「醍醐さん?」


「うん…日替わりの説明役の人。ただちょっと…」


「ちょっと…何だい?」


「うん…癖強めというか…あっ!ほら!正面注目!」


二人が玉座正面に目を向けるとその女性が能面のような笑顔で観覧者の方に向き、両手を前に合わせて背筋をピンと伸ばして立っていた。


黒スーツの襟には桜の紋章の社員バッジ。


インナーは淡いピンク色のリボンブラウス。


タイトスカートに黒タイツ。


頭髪は後頭部にお団子状にきちんとまとめられている。



彼女は細目の笑顔のまま左に顔を向け軽く会釈した。


それに合わせて恐る恐る頭を下げる左側の観覧者達。


次に右側に顔を向け同様に軽く会釈。


右側の観客も慌ててそれに合わせて頭を下げる。


そして彼女は正面を向いた。


その細目の感情の読めない笑顔を、みんな息をのんで見守る。


(来るぞ!)


タカシは身構えた。


能面は突然かっと目を見開き怪鳥のような巨大な甲高い声で叫んだ。


「はいれ~~~~~~~い(拝礼)!!」


観覧者は一斉にのけぞったが、慌てて頭を下げ直す。


また笑顔に戻った彼女は全員を改めて見渡した。


「誠に良うございます。皇女様は国の宝…常に最上の礼を忘れてはなりません。申し遅れました。わたくし玉座前説明案内役を務めさせて頂きます醍醐だいご 美美美びびみと申します。誠に至らぬ者ではございますが、かしこみましこみ宜しくお願い申し上げます」


そう言ってびびみは改めて深く頭を下げる。


「ウフフ…美美美だって…すごい名前だね、タカシ」


「シッ!母さん!」


美枝が正面を向くと、びびみが凄まじい上三白眼で睨んでいた。


(あちゃー!母さん目をつけられてる…)


先が思いやられるタカシであった。





次回  美枝と美美美の対決






















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