十九話:ヒルドレッド・フォン・オールズティニア
「ホーホー!ホーホー!」
可愛い鳴き声を上げながら、青色のフクロウがクレアリスの肩で羽を軽く羽ばたせると、すぐに甘えてるようにクレアリスの頬に頭をすりすりした。
「わあああーーーーー!!可愛いすぎますよ、そのフクロウ―!クレアリスの『契約精霊』なんですよねーー!?」
そのフクロウを見て一瞬で心を奪われたジュディが訪ねると、
「ええ、そうよ。【サリシャ】といって、うちの国にて何年も前から契約済みの相棒の聖霊よ」
「ね、私がなでなでしてもいいですかー?」
「ふふ…勿論よ、ジュディ。【契約精霊】だから、基本的には契約を交わしたうちにしか【サリシャ】の『人間の言葉』が聞こえないけれど、この子と遊ぶならこっちも『高度な思考』ができることを念頭に置いておくといいわ」
「はいです~~!なでなでなでーえへへへ~~」
楽しそうにクレアリスの【サリシャ】っていう名のフクロウ型の【契約精霊】と遊んでるジュディを見つめる。
やっと肩から飛び降りるその精霊は次に床に着地し、ジュディの手のひらへと飛び乗っていく。
「よ~しよ~しっ!いい子ですね~!」
と、暫くジュディが楽しむのを待つこと3分後となると、
「【サリシャ】と契約して4年しか経ってないけれど、それでもうちは一応、この子を『武器化』できるまでには心を通わせ合い、一心同体に近い行動力を色んな場合で発揮できるようにはなってるわ」
「わあおおーすごいですね、クレアリスさん!オードリーさんと同じで【サリシャ】も武器化できちゃうってことはつまり、その子とたくさん訓練してきたから出来るようになってるんですねー?」
「ええ、毎日欠かさずね。まあ、訓練の規模と時間は毎回違ってくるんだけれど…」
クレアリスの口から出た言葉に対し、オードリーが、
「ふ~ん!どうせ私の方がベネとの鍛錬の時間と熟練度がもっと高いと思うけどねー!」
変な対抗心を見せるオードリーに、クレアリスはただ微笑んで気にしないような反応を見せただけ。
「く、クレアリスさん、その精霊、…【サリシャ】というんだっけ?が【武器化】できたって言ってるんっすけど、【武器化】したその子の姿がどうなってるか見せてもらってもいいっすか?ー」
ジェームズのお願いに対して、
「ふふ、そのつもりだけど?オードリーに自分の総体的能力がどれほどのものか、その『片鱗』を彼女と君達に見せるために顕現させたからよ」
落ち着き払った上品な仕草に【サリシャ】を自身の手の甲につけと合図したクレアリスが涼しい笑みを精霊に向けながら、この広い部屋のそこで立つとこう唱える、
「青き瞳に秘めし力、弓矢となりて具現せよ! 」
青色の光が徐々に消えてなくなると、そこには美しくて複雑な文様と意匠がついている薄青色の弓をクレアリスが手に持っているようだ。
「弓ー?…思ってたのと違う武器になってるんですね」
「色んな変な文字と装飾もついてるし、如何にお嬢様の使用に相応しい武器に見えるんっすね!」
「これこそ、うちのサリシャの武器化した姿よ。【シュート・ザ・リシャー】と名づけている弓で、属性はこの子特有の【睡眠誘発性】ってなるわね」
「へえ~…。【睡眠誘発性】ってことはその弓で撃たれる『矢』が標的に当たった場合、『生物』っていう『生命維持活動のあるもの』が睡魔に襲われることになるって、そういう『状態異常感染』系の精霊だってことわよねー!?」
オードリーの問いに、
「そんなところよ、オードリー。これさえあれば、チーム戦でも個人戦でも有効な戦術が立てられるはず。【四種の生】だったり【世界獣】だったり、みんなをまとめて眠りの姫にしてあげられるうちの自慢の子よー?ちなみに、矢の方は自然に【サリシャ】が生成してくれる『優れ物』だから期待するといいわ」
愛おしそうに手元にある矢を見つめながら逆側の手で表面を撫でさするクレアリスを見てるオードリーはというと、
「悪くない能力だわ、クレアリスの【サリシャ】っていう子。確かに『状態異常感染』で相手をたとえ強敵であろうともそれなりに睡魔を誘うことができそうで、戦術の幅が広がると思うわよね!『力技系』の私の氷性精霊ベネほどの攻撃性と攻撃力がないながらもあんたの『気質』を活かしての精霊能力で可愛いわねー」
「『気質を活かして可愛い』とはこれもまた面白いことをいうのね、オードリー・フォン・ドレンフィールド。まあ、それ所以に【希望の才女】とまで呼ばれることになったけれど。ふふふ…」
「あら、私にそこまでの評価をしてくれるなんて、これもまた貴族令嬢同士のよしみで嬉しくなりながらも『怪しい響き』も楽しめるようで興味深いわね、あはは~~!」
なんかオードリーとクレアリスとの間に高度なコミュニケーションが交わされるみたいに要点を掴めない漠然とした感想を述べ合っている二人なんだけど、要するに何の意味で言ってるんだ、二人ともー?
「僕達、やっぱり平民組はお邪魔なんっすかね、ジュディ?」
「あ~はははは……まあ、彼女達には彼女達のコミュニケーションがありそうですし、ほっとくといいですよ!貴族令嬢同士の『重要な会話』ですしね」
苦笑している平民組の俺達に、あの上品そうな要領をえない飾った言葉ばかり使ってるオードリーとクレアリスを見つめている俺達だった。
………………………………
「じゃ、次は私の番ね!さて!『出でよー!白色の形をその毛に纏いし彩りし我が愛熊ベネフォーロッスよー!』」
パチー―――――――ン!!
それだけで詠唱言葉を唱え終わったオードリーの立っているあそこで眩い真っ白い光が発生し、彼女の姿を晦ませるほどの光力でそこを照らした。すると、
「ぐらおーー!ぐらお!」
光が消えて視界が普段通りに戻ると、オードリーの前には白くて小さな子熊がいる。ぐらぐらおって小さいながらも迫力のありそうな声で俺達へ挨拶?するっぽい。
「この子はベネフォーロッスわよー!氷性精霊の中でもトップ5に入る氷による攻撃が抜群の精霊よ。そこのオケウェーが前に、よ~~っくを世話になった精霊だってことは皆までいう必要ないかしらー?」
と、したり顔で俺に流し目を送ってきたオードリーに苦笑しながら、俺は、
「氷性精霊の中でも何となく強いなあーって思っちゃったことあるけど、トップ5の座まで誇るとか入学早々とんだ災難だったよ、俺-っ!」
「なんですってー!至近距離まで転移して私の胸を触ってしまったことが『災難』ですってーー!?『災難』に思うのはこっちの方でしょうに、バカ南黒人オケウェー!」
俺の不満口調に苛立ったオードリーが眉間にしわを寄せ怒ってきたら、
「まあ、まあ、済んだことは既に済んだしさ、なあー、おお―オードリーさんにオケウェー!オケウェーにも既に『同程度の辱め』をお、オードリーさんがしかけてたし、それぐらいにしてもいいっすよー?本題がずれるからっす」
珍しいことにジュディじゃなく、今度はジェームズに仲介されると、
「あんたは……確かに、ジェームズって言ったところかしら?女子ばかりのここでオケウェーに次ぐ二人目の男子生徒だから覚えやすいことこの上ないけれど、そっちの特技は?」
「と、とと、特技……で、ですか?そう、そうっすね、えっと…ジュディやオケウェー同様に、...まだ『契約精霊』も、持ってないんっすけど、……【四元素魔術】なら【地の魔術】の方が最も得意っすかなー?」
貴族令嬢であるオードリーに訪ねられて少し緊張したか、口元の震えにつられるように言葉遣いのうちも反芻してるような感じになってしまった様子だ。
それでも、健気に返事できたジェームズに対して内心ほっとしながらもどこか引っかかるところを感じてしまう。
………………
「ふーん。地魔術だけが使えて、それだけが【特技】だって言ってるのだけれど、たった【第一階梯】のものしか使えないなんてー!無能すぎてチーム戦どころの話じゃないわ!」
「は……い、無能ですごめんなさいです穴があったら入ります、はい………」
小声になってしゅんとオードリーからの辛辣な評価に落ち込んでるジェームズをフォローするかのように、オードリーのやつはまたも付け加えてこういった、
「まあ!無能にも『永遠に無能のまま』って訳じゃないでしょうー?それなら鍛え直してくるがいいんじゃなくてー?私、クレアリスやあんたの唯一な男友達であるそこのオケウェー3人のこちらのレベルについてこれるよう、鬼の訓練しなさいよねーー!?」
「は、はーひっ~!オードリー様!この後すぐに特訓始めるんでどうか僕を怒らないで下さい~!」
きつい表情を浮かべたままのオードリーの命令口調に恐れをなしたか、慌てて言われたことをするよう誓ったジェームズ。
「それでいいわ。じゃ、次に移る前に一度だけ伝えたいことがあるんだけれどよく聞くがいいわよー?私のベネにはもう1つの便利な能力がある」
ほう?便利な能力か?どういう物なのか興味が湧いてきた!
「精霊契約を交わした主に、つまり、……主人である私には一つ、戦力強化できる権能があるわ。要するに、…戦闘で敵と戦ってる中、私についている傷がある場合は、30分もすれば、自動的に直っていくものなのよー!」
「あー!?だから、今は包帯を何箇所か身体中に巻いてる俺と違ってピンピンとしてるんだな、オードリー?」
俺の合点が行く声色に続いて、
「ええ。そして、たとえあんたとの決闘みたいに戦って気絶でもしてしまう場合になったら、一時間も満たない『眠り』をすれば、気絶する前に消費した全ての『聖魔力の全量』が回復されることなの!」
「なるほど!だから今は元気いっぱいな顔してるってわけだなー!」
「それ、チート過ぎないですか、オードリーさん!?ずるいよ、そんなのがいつでも発揮されるってことに……」
「やっぱりドレンフィールド家きっての『希望の才女』っすね、お、オードリー嬢さんは!在り方そのものが常識外すぎるっす!あ?でも、『契約精霊』持ちのオードリー譲さんにそんなチー的な能力があるなら、同じ『契約精霊』持ちのクレアリスさんにも何らかの『チート能力』を持っていても不思議じゃないっす。そんなところっすよね、クレアリスさんー?」
「生憎だけれど、今はまだみんなに教えるつもりはないわ。……まあ、いずれ分かることになるのだからそれまでに我慢しているといいわ、ふふ……」
クールに髪をかき上げながらそれっきり何も言わなくなったクレアリス。それを境に、今度は場の本題を提供することになるのがオードリーの番に戻った。
「じゃ、オケウェーの実力は昨日で嫌と言う程知るようになったから彼のことはもういいとして、最後に情報がほしいのはあんたの方ね、ジュディー?」
「もちろん、何でも聞いてくれるといいですよー!私はジュディ・トームプソンで、トームプソン家の長女です。家は元々喫茶店を経営していたんですけど、今は静かな隅っこの花屋を営んでいる母と妹揃っての生活をしてたら、奨学金をもらうことが出来て編入してきたんですよ」
ん?『隅っこの花屋を営んでいる母と妹揃っての生活』ってどういうこと?父親が一緒じゃないの?
「…そうー。これはまあ丁寧な自己紹介ならぬ家族構成紹介で気合いだけは認めてやってもいいけれど、私が聞きたいのはあんたの個人情報すべてじゃなくて、ただチーム戦でどれほどの戦力になるか、あんたの『魔術使い』としての力量が知りたいだけわよー?」
俺の疑問について微塵も興味ないといったふうにジュディの戦闘能力方面に関する情報だけを求めてくるオードリーに、ジュディが、
「勿論です、オードリーさん!【四元素魔術】なら、9歳あたりから学んできて最も得意なのが【火炎魔術】で、何年もの訓練の積み重ねで去年につい、【第2階梯魔術】を使えるようになったんですよー!そして【聖魔力】の【魔術】使用への変換速度もずば抜けて早いって中等学院3年生だった去年に評価されたこともあって、それで入学奨学金を国王様からお受け賜わりましたよー!」
「……なるほどね。人付き合いが良く、元気そうにも見えてるのに中身もしっかりしてるとか、庶民にしてはいい心構えね。いいわね、そういうの。気に入ったわ」
「~~!?き、気に入ってくれてたんですかー!?私のことが?」
「言葉通りの事わよ。なにせ、私が最も嫌いな人種は『怠惰な生活を送っている平民』なのよ?あんたはそうじゃないみたいだから、及第点をくれてやっただけの話だわ~!他意はないからね、ふーん!」
「あ、...あははは~」
オードリーの照れ隠しのツンツン態度にジュディが苦笑すると、
「これで大体な戦力が測れるのでしょ?今のうちらは」
確認を取るクレアリスに、オードリーがこういう、
「……まあね、思ってた以上に期待できる要素も多そうわね。でもー!ジェームズ、あんただけは駄目だわ――!だから、今日から毎日は鬼の訓練を必ず欠かさないでやっておくこと、いいよねー!?」
「はひーっ!ィエース、マーダム!」
オードリーの気迫と怖い顔にジェームズがすぐに敬礼しながら了承したけど、よくよくオードリーを観察してみれば、ああも怖そうな顔してると美人が台無しだぜー!元々、整った端正で綺麗な顔してる美少女だし。
でも、……なんか優しく微笑んでるオードリーも想像できないな。教室で庇ってくれた時もツンツンとした態度で笑ってないしな。
でも、元々が美しい貴族家令嬢なので、例え怒っていてもさほど顔の筋肉質が歪められておらず、むしろ怒り顔となったオードリーこそ独特な憤怒とツンツン色が混じってる端麗で凛々しい顔立ちにも見えなくはない、うん!
「じゃ、これで大体の現状における戦力的分析ができるわよー!これからは解散あるのみだわ!さあ、『友達』4人のみんな、私が先に失礼するわねー!来週までの『野外授業』に備えておくといいわー!」
それだけいって、真っ先に一人だけでドアを開けて退室していくオードリー。
「あ…はははは………嵐のような人ですね、オードリーさん…」
「まったくっす!それに僕を睨んでながらなんか言ってくる時も迫力と気迫のある表情と声色がありすぎて、ちょっと心臓に悪かったっすよねー!?」
「ふふふ…そういう人よ、彼女は。こっちが彼女の在り方に慣れて馴染んでいくか、そっちがこちらの都合に合わせるために自分自身の在り方まで曲げて配慮してくれることを願ったり強制したりするかのどちらかしかないわ。まあ、どう考えても後者は無理だから、慣れておくしかないわ、ふふ…」
意外にも饒舌になってきちゃったクレアリスの落ち着いた笑みを見て彼女からの助言の一つひとつの言葉の意味を呑み込んで理解すると、確かに理に適うアドバイスでもある。
オードリーはああいう子だから、受け容れるしかないってことを。
そのツンツン、気の強いところも彼女の一部であり、魅力な点となることもあるのだからな。
特に俺を庇ってくれた時の彼女の照れ隠しのような冷たい仕草にどこか儚さと可愛さも混ぜ合ってるような表情に見えたので、あの時は少しドキッとさせられてた。
確かに、彼女のきつくて難儀な性格で喧嘩する時もある。でも、それも人間関係における醍醐味の一つだ。独りでどこかの孤島に放り出されるよりかはマシな方だろう………
「じゃ、これから夕食にでも行くっすかね?オードリーは別行動とってそうだから一人で食べに行ったっぽいんすけど……」
「うん、そうしよう」
「レーッ・ゴー!、です!」
口々にそれだけ言ったジェームズ、クレアリスやジュディが床から腰を上げると、俺を伴って部屋を出ていくのだった。
来週はいよいよ、精霊と契約できそうな『野外授業』も控えてるし、十分英気を養って睡眠をとって万全な状態で臨もう、うん!
……………………………………
………………
翌日の早朝、俺の自室にて:
「じゃ、そこの簡素バースルームで軽く浴びて着替えてきたんだから、早い時刻でも向かうとするかー!まずは本棟に向かうついでに学院の校庭でも花を見ながら通っていくとするっかー!」
そうと決まれば話が早いので、寮を出た俺は真っすぐに校庭がある方向に向かっていくと、花々が飾られてる緑一色の葉っぱの門を潜った後、『それ』が起きるー!
シュウウ――――!
「っと、あぶねー!」
いきなり殺気を感じたので、風切りな軌道を感じ取った俺は慌ててこちらに向かってきた『あれ』を避けて、2,3歩後ろへ飛び退った。すると、
「避けられたとは大したものだー!横から不覚をつく形でお前に奇襲をかけたんだが、神経能力と反応速度の高さは健在のようで、さすがは一年生2番目強いと言われているドレンフィールド嬢を打ち負かしただけのことがあるようだな!」
「あ、あんたー!……」
学院室の初日で会った紫色のポニーテール髪の毛をしている娘だ。確かに、あの時も蹴ってきたんだっけー?髪の色とお揃いの紫色タイツに包まれてる脚で。
まったく、オードリーの時のいい、こいつといい、この学院には貴族令嬢が蹴り技を得意とした戦い方でも身に付けなきゃいけないものなのかーー!
「ジュリアだ!わたしはジュリア・フォン・シーグムンドシュカールだー!まったく、男の癖に伝統ある女学院のここを我が物顔で乱入し、挙句の果てに素性が『呪われた南人』のお前とあっては絶対に見過ごせないぞー!歴史と品質があるこの校庭にて、汚らわしき『南蛮人の男』であるお前の存在する余地が一ミリもないからなーー!!」
シュウウ――――!!
「くーっ!」
こいつ!オードリーに引けを取らない『足癖の悪さ』があるぞー!またも鋭い飛び回し蹴りが飛来してきたので、後ろへと避けると―
ド――――ン!
「ー!?ちぇっ!小柱かー!」
くそ!後ろには灰色の煉瓦で出来た小柱があり、運悪くあの細い小柱の表面に背中からぶつかってしまった。移動しようと動くも遅く、既に―
「もらったーーー!!」
既にジュリア―って子の振り下ろし蹴りが迫ってきた!
バコ――――!!
…………
「……うん?」
「こんなところで不覚を突かれたとはいえ一本を取られようとしてるなんて、前の勇猛なる姿はどこに行ったの、南黒人少年くん~?」
「ーー!?おーオードリー!」
俺の目の前に、俺の頭のてっぺんに届きそうになったジュリアから振り下ろし蹴りを横から片手で受け止めてくれた金髪碧眼少女が見えた! オードリーが俺の事を守ってくれたーーー!?
「チェーっ!」
舌打ちしたジュリアは後方へと飛びのけると、こう言った、
「まさかキミともあろう方がヤツを庇うような真似をしてるなんてー!まぐれでヤツに負けたから情でも移ったかーー!?」
敵意むき出しのジュリアにそう言われたオードリーは、
「勘違いしないでよね、ジュリアー!私はただ自分を打ち負かした人のことを他の誰にも遅れを取らないように手を貸してあげただけのことよー?そうなったら、彼だけじゃなくて、私まであんたに遅れをとったみたいで不本意なだけだわ!ふ~ん!」
真っ直ぐにジュリアへと視線を据えたオードリーは俺の方を見ようとしないまま前に立つ。
「お、オードリー!お前…」
「そこで良く見ているがいいわよ、オケウェー。私が代わりにちょっかい出してきたこいつの事をぶちのめしておくから!」
闘心を沸き上がらせるオードリーがそれだけ言って、ジュリアの方へと襲い掛かろうとしたがー
「もういい。わたし退散するぞ!」
オードリーがジュリアへとその手を届かせる前に、【空中浮遊】を発動して、どこへと飛び上がって逃げていくジュリアだけが見えた。
………………………………………………
……………………
オケウェー達が集まっている同日の昼時の屋上にて:
「【純粋なる淑女研鑽会】ー?ジュリアがその直下役職である【副会長】と【女練騎士団の団長】を兼任してるってーー?」
上品に食椀に入ってるチキンスープを啜りながら説明したオードリーに聞き返した俺。
ちなみに、俺の方は学食に買った大型の弁当箱に用意されているフィッシュアンドチップスを楽しみながら聞き入っている(支給金は学院長が封筒で寮の俺の部屋へと届けてくれた。俺に対してああも辛辣で毛嫌いしてる癖に律儀なところもあるもんだ)。
「ええ、そうなるわね。【純粋なる淑女研鑽会】はこの【聖エレオノール精霊術学院】において、一年前からクリスティーナ・フォン・イルレッドノイズが設立した特別学会のことよ。表向きは『学院生に淑女たらしめる在り方と振る舞いを指導する』ための学会っっていう理念の元で始められたんだけど、本当の実態はただ『共学の撤廃』と『男子生徒の在籍権利の剥奪』を目指してるだけの痛い学会のことらしいわよ」
両眼を閉じて何かを思い出そうとしてるように説明しているオードリー。貴族のツテがあるからか、去年はまだ中等学院だったオードリーでもここの学院で起きたことはコネで知り得たと言っても過言じゃない。
「だからさっきの子、……ジュリアが俺にあれほど執着して目の敵にしてるんだね?俺が『呪われら大地」出身の生徒である依然の問題として、そもそも『男』だから敵視してるんだねー?」
「その通りわよ、オケウェー。彼女達が見たかったのは昔のように、男子学生が一切入ってこないような完全なる女学院そのものよ。男嫌いで有名なクリスティーナ発案のものなんだけれど、元々彼女は自分の母親の決定に反対してきたから始めた学会といっても差し支えないわね」
「『自分の母親の決定に反対してきた』って、それに『イルレッドノイズ』って確かに四大貴族の一家の出である学院長と同じ苗字なんじゃー……ああ!」
「正解よ、ジェームズ。クリスティーナは学院長の一人娘であり、共学化を推し進めていた自分の母親と違って彼女は共学化反対派の第一筆頭なの!」
「な、なるほどっすね!じゃ、さっきオケウェーのヤロウに絡んできたあのジュリアって子がその………【淑女研鑽会】会長のクリスティーナの右の腕、みたいなヤツっすかー?」
「ええ。同じ男嫌いのジュリアは去年からクリスティーナにとっての一番の理解者であり、味方の一人だったわよ。なので、親分であるクリスティーナが【淑女研鑽会】なる学会を設立したら、自然にその子分であるジュリアが副会長の座につくことになるのも不思議なことじゃないわね。さっき、オケウェーにちょっかいかけようとしてきたジュリアをあんた達3人は見てなかったけど、男であるというだけで襲ってくるような過激系の子なのよね!」
って、さっきの子は2年生の先輩かよーーー!?
「なんか聞いていると頭が痛くなりそうな問題ですねー!男子生徒の入学権利を真向から覆そうとするんですからーー!それで、朝のオケウェーに急襲をしかけていたらオードリーさんが介入して追い払ったんだけど、その彼女のボスに当たるクリスティーナ先輩のことも心配ですよー。今、どのクラスに所属してるか知ってるんですか、オードリーさん?
「私が入学してきて数日しか経ってないんだれど、調べていた限り、学院にクリスティーナの姿は未だに見えていないわよ。中等学院生だった頃、私はよく王城の舞踏会で彼女と何度も顔を合わせることがあったから、一応彼女の顔を覚えているわ。でも、立場上に学院をクリスティーナがサボること自体は絶対にしないと思うし、ただ不登校って訳でもなさそうなので、恐らく何らかの事情で学院に登校する日付が先送りになっただけかもしれないわね」
「「な、なるほどっす「なる程ですね!」」
口々に反応したジュディとジェームズに続いて、こう付け加えるオードリー、
「今年、あの二人の男嫌い組にとっての2年生生活にはなるから警戒しておくことに越したことはないはずよ」
「それはそうとして、何故最初から男性を嫌うようになったのでしょうね、あの二人―?」
今度はクレアリスがそんなことを言った。
指先を顎に据えながらオードリーに対する質問ではなくて脳内だけで考え込む表情をしながら独白を漏らすクレアリスに、
「それに関しては私も知らないからなんとも言えないわね、それ……。でも敢えて仮説を立てようとしたら、基本的には過去になんか悪い経験を男性と共に過ごしたという事以外にないと思うわよねー」
それだけ言うと、
「このチームというかメンバー内に男子生徒は二人までいるので、いづれジュリアや【淑女研鑽会】が邪魔して来るからそれにも気を配りながら学院生活を一生懸命に過ごそうわ。 という訳で、来週の野外授業に万全な状態で臨めるように備えておくようにして下さいよね、みんな!」
「「おう!「勿論ですっ!「分かったっすよ!「ふふ、任せるといいわ」」
決意を新たにし、気力を十分に高めた俺達がお昼時の食事を全部残さずに食い終えるだけだった。
でも、その時の俺達はまだ知らない。
あの2年生の先輩の本格的な邪魔がまだ先に控えていても、これからの俺達の学院生活にとっての
『刺激的な影響』の始まりは明日にて、とある人物から齎されることに。
………………………………………………………………………
……………………
これは、明日の聖神歴895年、1月の15日、金曜日にて、俺、ジュディとオードリーが3人揃って日課となっている屋上での昼食へ向かうために教室を出ようとした時:
バー―――――ン!!
「ちょっと、オードリー!貴女がそこのフェクモ人男に敗れたって聞いてましたけど本当ですのーー!?」
いきなり開け放たれたドアから、オードリーの濃い金髪とは似ても似つかぬ 超~薄い金髪ツインテールのドリル型セミロングヘアを揺らしながら現れた子がいる。
良く観察すれば、どうやら彼女は赤色のタイツを履いているようで、ちょっとだけ目が奪われそうな美しい格好に感じる。
「げーっ!ヒルドレなのーーー!?初日で姿が見えなかったと思ってたら一体どこで何してたのよ――!?」
その子の登場に一番反応したのは面倒くさそうな顔をしているオードリーのようだ。あの口ぶりだと、知り合いか何かなのだろう……
「お~~ほほほほー!聞いて驚くがいいですわ、オードリー!わたくしは貴女をやっと倒せるようになるために精進して、涙も血も溢れる鍛錬を積んできてつい、『奥義』を習得してきましたわーー!ですけれど、今朝は寮に着いたばかりで色んな噂を耳にしてましたのよ、『オードリーが南大陸フェクモからの編入生の男に決闘で負けた』のって。そこのダークチョコの男がそうなんですわよねー!?」
……これはまたオードリーとは違う形での嵐のような少女であり、テンションの高いお嬢様だこと。
オードリーやクレアリスとは違うタイプのようで、少し新鮮に感じた。
オードリーの方を振り向いてみると、何故かこめかみを手で押さえて溜息をしているようだ。
「……そうなのよー?それがどうかしたー?」
「『どうかしたー?』じゃなくてよ、オードリー!……良い?貴女を打ち負かして良いのはわたくしの方であり、そこの横通り君じゃないはずですわ~!何度も貴女に負かされたことがあったけれど、今度は目に物を見せて差し上げようかってところに何なんですの、横やり入れてきたそこのダークチョコ少年ーー!?」
びしっと彼女の白い人差し指が俺の鼻の先に突き付けられている。
「………あんた、誰?」
「ええー?」
「あっ!」
「~~~………~~~」
俺の最もな質問に、ドリル型な薄い金髪少女が我に返ったようにはっとなり、ジュディの方はこの場で真っ先に投げかけるべき問いを思い出して、そしてオードリーはというと、ただ頭を片手で抱えて説明するのが億劫であるかのように振る舞う。
「…あ~はははは………まずは屋上に着いてから自己紹介を始めて貰っても遅くはないですので、先ずはあちらへ向かってからにしませんかーー?」
こういう時こそ、ジュディの出番と、いつも思って苦笑している俺がいるのだった。
………………………………
……………
「ヒルドレッドですわ!、ヒルドレッド・フォン・オールズティニアと申しますわね!オールズティニア侯爵家の長女であり、未来のレイクウッド王国の一柱を担う女性ですわよ!そして、親しい者からは『ヒルドレ』って良く呼ばれてるんですのよ~?以後、お見知り置きを」
屋上にて、丁寧に俺達5人に向かって、スカートを摘まんでのお辞儀を披露し、自己紹介を始めるヒルドレッドという子。
「………で、俺達の前に現れたってことは、お前に『こいつ』との用事があってきたんだろうー?」
「『お前』とは何なんですのーー?南地の少年~!?失礼ですわね~~!」
「じゃ、 ヒルドレッドさんでいい?で、オードリーに何の用があってうちの教室にやってきたんだよ?」
俺が聞き返すと、
「お~ほほほ!それですわねーー、フェクモ少年!何を隠そう、わたくしは常にオードリーと心置きなく戦えたり、実力を競い合う一環で決闘を通していつも争ってきた仲ですわよーー!(まあ、何十回の決闘を経ても一度も勝ったことないけれど、むき~~~!)ですから、貴方こそ何なんですのーーー!?わたくしが今年度こそあのすかした顔してたオードリーにようやく一矢報いるかと思ってたところ、いきなり南方から編入してきて横から獲物を搔っ攫ったフェクモ人がいたと聞いたから不遇極まりないことですわ~~!」
「あははは………どうやらオケウェーさんの決闘の勝利に関して、やっと『王国の内情とか情勢にまで影響を及ぼす』って展開になっちゃうんですね、さっそくで」
「オケウェーのヤロウの自業自得っすよなー!なあ、クレアリス譲さんー?」
「ふふ、そうみたいね」
困っている顔してる俺をよそにそれぞれ感想を述べ合う三人を他所に、俺のすぐ隣に立っているオードリーが、
「それでー?今度は何しに来たのよー?私とまたも『いつも通りのあれ』をしたいと言うのなら、日を改めてまたも挑んできて頂戴。今日はその気分じゃないし、この者達との大事な話もあるので今日のところはお引き取り願いたいわね」
毅然とした表情できっぱりと突き放した言動をするオードリーに、
「ちぇっ、ちぇっ、ちぇっ、そうはいけませんわよ、オードリー!確かに最初は貴女目当てで精霊術学院の一年生になったことを機に、今回こそ絶対に決着をつけるべく貴女に挑戦状をお手渡しして差し上げましょうと思い浮かべていた予定ですわよー?ですが、今朝戻ってきて急展開ニュースを聞かされたとあってはもう黙っていられませんわー!」
あ!………なんか話の流れがもっとも望まない結果に繋がりそうっていう悪い予感がー
「そうですわー!そこのフェクモ人少年のオケウェー・ガランクレッド!わたくしからオードリーという獲物を横取りしてきたからには責任が伴いますわー!オードリーこそわたくしがやっと倒そうと意気込んでいましたけれど、そこを貴方の方が役を奪うようなことしていましたのならこちらが清算して差し上げるしかありませんわねー!つまり~!」
ああ……またこれの展開かよー!?勘弁してほしいよ、まったく!
「オードリーから奪った一年生2番目の実力の『座』(暗黙な評価だけれど)についているばかりの貴方!今度、オードリーに代わって貴方の方からわたくしの決闘をお受けになって下さいまし――!」
ほら、またもこういうのがーー!
『氷竜討伐』どころか、『契約精霊』も何もないままに次から次へと事件が起こりすぎ―!勘弁してくれぇーーーっ、聖なる神々よー!!
俺が本当は『死霊魔術使い』であるという事も最後まで隠し通さなくてはいけないし、もう決闘嫌あああーーーーーーーーー!!
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……………
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