十八話:オードリー・フォン・ドレンフィールドとオケウェー・ガランクレッド
翌日、
オードリーの視点:
「はあぁぁ………」
朝早くから盛大な溜息を漏らすのって、淑女らしからぬこともするようになったものわね、今のあたくし(私)に……
とぼとぼと早朝の廊下を歩いていくあたくし(私)は、教室1年B組に向かうために元気もなく遅く歩調を進ませている最中。寮から出てきた時から、憂鬱な気分がずっと続いてる...
今日、決闘の勝者は敗者に向けて、自分の敗者に対する願望と言う名の『強制事項』を述べて、審判役を勤めていたあのイリーズカ担任先生に知らせることになるホームルームが真っ先だからね。
「どうやったらあいつに顔を合わせられるのよ………」
出来れば、もう彼には会いたくない。
あたくし(私)の胸を遠慮もなく触ってきた南地からの変態だし、生意気な言動もするし、自信過剰な発言もするしでまったく何においてもすべてあたくし(私)の気に入らないところ全部持ってる【自称天才】な南蛮人少年。
胸を触られた挙句、然るべき罰を受けてもらうどころか、代わりに加害者のあっちから被害者である私に命令を聞かせられるなんてー!
く~!で、でも……
学則は学則だし、今のところは………素直に従ってやらないと単位が大幅減少することになるし……。
「腹をくくるしかないわね………」
こうやって割り切って思考を変えてみると、案外できないものも出来るようになる気がするわよね……。
「行くのね、私!」
まあ、確かに私に破廉恥な行為をしてきたのは事実。彼の言い分が正しいなら事故で済まされてもやぶさかではない……
けれど、やっぱり、けじめをつけるためにはどうしても彼に何らかの罰も受けて貰わないと気が済まないというか…………
前に確かに、私があいつを殺すまでには至らないつもりでも、せめて半死状態かお姉様みたいに廃人も同然な身体にしてやりたいと思って決闘を挑んだのだけれど、あいつの実力や戦いの中で見せる数々の気遣いと真っ直ぐな心意気を見てると、なんか………
『軽い罰』だけでもいいかぁ………
『軽い罰』というなら、うん!それよ、それー!
それしかないって訳ね!
つまり、四大貴族の一家、ドレンフィールド家の名に恥じない主張を心掛けて、あいつには私と同程度の罰をいつか受けてもらおう!
すなわち、『彼が私の身体の最も恥ずかしいところに触ったように、今度は私も彼の一番恥ずかしいところを触るわ』って結論に思い立った。
うん、いつかやってやるわね…………
でも、今は敗者になった私が最初にやるべきことはあいつの命令を聞くこと。それ以外にない。
そうと決まれば、毅然とした表情と普段通りの歩調に戻った私は、元気を取り戻したように、タタタっと真っ直ぐに廊下を進んでいくの。
……………………………………
………………
「今日のオードリー……遅いね?」
「はい、ホームルームがもう始まってるのに、まだ着いてこないなんて……」
俺とジュディが小声でそう囁き合ってると、
バー――ン!
「………お、おはよう、みんな。ち、遅刻してすみません、イリーズカ先生。入っても…いいです?」
ほうー?
案外元気そうだな。
俺のいう事を何でも従うっていう決闘の後の取り決め通りにやらないといけないはずなのに、思ったより表情が落ち着いてると言うかどうか観念してるようにも見える。
「ええ、入ってもいいわよ、オードリーちゃん~!で~も~。その前に~~」
いよいよその時が来たんだな!
「昨日、言ったはずなのよね、『これより、決闘終了とし勝者による敗者への要望が判明されるまでに待機中よー!』って。だから、今はそれを見届けてあげようって~~」
人差し指を上に向けながらオードリーにウインクをしてる先生。
先生はいつもそうやってお茶目っけなところがあるが、なんか微笑まし過ぎて見てるこっちがいつも心が晴れやかにものになり、元気と気力が一気に上がった気がする!
「………ええ!承知しましたわ、先生。今ここで、オケウェーにそれのことを確認しに訊こうって朝が始まった時点からずっと考えてたし……」
ざわざわ………ざわざわ………
「ねね、聞いてる、聞いてる?オードリー様、『南蛮人』の要求に対してついに聞きに行こうってって言ってるんだよ?」
「国の現状が悲惨過ぎて、一番頼りにしてたドレンフィールド家一の『希望の才女』だというのに………なんでよりによってあの南蛮人に負けたのか~!案外、言われてたほどのお方ではないということなのかもしれないわね~!」
「うちの国トップ4の貴族家の令嬢がああも『呪われた大地』の出身者に負けて、挙句のはてに命令を聞かされることになるとは………王国の未来も末なのねー!」
と、横耳に聞こえてくるひそひそ話に少しいらっとしたけど、こちらへ歩いてくるオードリーはそんんなノイズをも気にしないといったふうに、ただ黙々と真剣そうな表情を浮かべたまま俺とジュディのいるここの席へと近づいてきた。
「……いい~!?これはあくまで学則の一環として、私が仕方なくあんたのいう事を今回限りで従うしかないってことだけよー?次はないと肝に銘じておきなさいー!」
尊大な態度とつんつんとした言動に苦笑しながらも、俺が静かに席を立って、彼女の正面まで立つ、
「いいよ。お前の覚悟、しかとこの目と耳で確認できた。じゃ、俺の命令はというと、ただの些細な『お願い』だけになるから、気負わずにリラックスして聞くがいいよ?」
「ふ~ん!前置きはいいわ、早く要望を聞かせて頂戴。時間が持たないわ!」
「まあ、そう焦るな。じゃ、俺からのお前にお願いしたいことは、……『今日から、お前は俺の友達になれ、そして俺の他の友達全員ともある程度仲良くやっていってくれ。最後に、何かの学科や事件が発生した場合、俺のためにだけじゃなくて、俺のこのグループの一員として、共に戦うこと。従うべき期間は、そうだな………今のところ一年間だけというのはどう?』これだけが俺からの『命令』だ。どう?」
「…………」
俺の告げた言葉ひとつ一つに、その意味を理解しようとしたり、吟味していく素振りを見せるオードリー。
「……まあ、そんなところかしら?」
「ーえ?」
オードリーがホッとするような、なんか期待を裏切られた残念に感じそうな微妙な顔を浮かべたまま、
こう続く、
「……昨日、戦ってる時のあんた...それなりに誠意を見せる態度で、真摯に私と向き合って、『普段通りに戦え』みたいなことを言ってたわね?」
「ああ……」
こればかりは本当のことだ。
確かに彼女が普段通りに戦えば、あの災弾五円なんとかっていう技を俺が『魔剣技』の連発にやっと疲れて合間を縫って放って来たり、普通に2種類の弾を打ってきながら回避してたらこっちの方が体力も聖魔力も消耗が激しくて、オードリーより聖魔力の残存量が少なかった俺が負けやすくなるだろう。
だが、『肉弾戦』っていう彼女からのハンディがあるまま戦うっていうのもなんか癪だし、それに、彼女の全力も見てみたくなるっていう俺の気まぐれもある。
ごめんなさいね、おじちゃん。一瞬の気の迷いで、俺がここで『精霊術』の習得が危うくなりそうな選択しかかってたことを……。
「つまり、あんたが………敗北する確率の高い方を私に勧めて、自分中心な思考もあまりしてないタイプだと判明したわ。だから、その………」
「...その?」
「なって...」
「へえー?」
声があまりにも小さすぎて、聞こえない。
「……だ、だから!な、なってあげても……いいわよ、そ、その……友達っていうのを……」
「オー、オードリーさん……」
もっと説得に手こずるものかと思ってたけど、こういう素直な展開になったらこっちも好都合。やっぱり、オードリーさんが皆の思うような融通の利かない高慢ちきな子ばかりじゃないってことが証明された瞬間だ。
「………これ」
「ほーえ?」
手を差し出されて疑問に思う俺に、
「あ、握手よー!何よ、そのびっくりする顔しちゃって~!あんたのいたフェクモじゃこういう『挨拶の基本の中の挨拶』って言うのを知らないの?」
「お、おう!あ、挨拶な…それ。わ、分かったよ、握手してやるよ」
別にそういう行為自体が何の意味を成すかが分からなかった訳じゃないが、あれほど嫌っていた俺のことをいきなり手を握り合って握手してこようって事自体がなんか意外そうで驚いただけ。
こ、こんなに上手くいくものなの、普通ーー?
「じゃ、これでいいだろう?」
と、オードリーの白くて柔らかい触り心地の良い手のひらの感触を楽しむ中、『それ』が起きる。
「油断大敵だわ、オケウェーーー!そーれっ!」
ズシュウウーーーーーーー!!
バコ―――――!!
カチャ―っ!
「なーーーーー!?」
そう。
俺、油断したわ。
素直になってる彼女に対して、もっと警戒するべきだった。
やっぱり、すべて上手くいけると思った方自体が間違いだった。
例え、彼女が真剣な顔して握手を求めてきても、………
もっと、もっと注意を払うべくだった。
俺の油断の所為で、こうして……
「ううーうわあああああああああーーーーーーー!!!」
そう。
俺の手を握ってる方の彼女の右手は、握っているままそっちの方へと引き寄せ、そして俺の体制が崩れたのを利用して、足で俺のそれを蹴ってきながら、左手を使って押してきて、見事に俺を今度、彼女の方から押し倒してきたーーー!
そしてー!
カチャ―っ!カチャ―っ!
俺のぱズボンのチャックを引き下げ、下着を露わにしてくるかと思えな、俺の『股間』に当たる部分を触ってきやがったーーーー!
くーっ!油断しちゃったな、俺!
身体能力がさほど離れてない者同士なら、先に油断した方が負けだってことを失念してしまったんだ!
「ううううわあああああーーーー!!!」
「油断した方が悪いわね、南蛮人少年のオケウェーーー!これでおあいこになってやっとチャラにしてやれるわー!あはははは~~~!!」
短くさすってみるとすぐさま解放してくれたオードリーがさながら勝者のポーズを取るように大股の姿勢で恥ずかしい思いをしてる俺の事を笑い出した。
「ううううぅぅ………ひ、酷いよおお……オードリー……」
「これでやっと私がされた時の気持ちが分かったようね~!あははは~っ!ザマだわ~~!南黒オケウェー~~っ」
でも俺の方はというと、教室で注目の的に晒されながら女の子に押し倒された挙句に乱暴にされたままズボンを降ろされてから股間も触られたのがショックすぎて、俺の男としての心も尊厳もが何もかも踏みにじられてる気分になってるのでそこでちょっとだけ泣き出してしまった。
ズボンを引き上げるのも忘れたまま暫くの間、微かな涙が滲み出る程のトラウマで放心状態のままに時間が経過していくのだった。
……………………………………………
…………………
………
昼飯の時間、学院の屋上にて………
じ~~~~!
「で、いつまで睨んでくるつもりなのー?あんたのいう通りに、『友達』になってあげたじゃない~?だからこうしてあんたや『連れの方』と一緒にここでお昼食べてるでしょうがー!?」
「ーそれとあれは『別問題』だー!本当にどうかしてたぞ、さっきのお前―!まさか貴族令嬢で女の子の身でありながら俺の『あそこ』を触りに来たとかどういう神経してるのー!?貴族が聞いて飽きれるぞー?」
恨みがましそうな目を正面に座っているオードリーに向けてそういうと、
「ふ~ん!それで私の胸を触ったことをチャラにしてあげるからって言ったじゃないー!?観念して報いを受け入れるべきだわ!然るべき罰を受けても逆切れとか、それでも『男』なの、あんた?」
「なんだとー!言わせておけばほざけやがってー、この足癖悪い少女ちゃんはー!」
「なんですってー!?誰が『足癖悪い少女ちゃん』よー?この南黒蛮人変態少年ー!」
「「こーこの~~!」」
「もういいです二人とも!静かにして下さいよーー!!」
俺達の口喧嘩がエスカレートしていくと、堪えきらないといったふうな顔してるジュディに言われた。両眼を閉じて切実に止めようとする姿になんか健気だなって思っちゃった。
「「で、でもこいつ(この南人)がー」」
「ですからもういいですよって言ったじゃないですかー!!いいですか、オケウェーさんにオードリーさん。今年は『精霊術学院』に入って一年生にもなった年頃ですし、私達のような15歳の若者がああも子供っぽい喧嘩ばかりしてると恥ずかしいと思わないですかー?一応、一人前の精霊術使い、に、そしてオードリーさんの場合はトップクラスになるために入学してきたじゃないですかー!なのでそんな不毛な言い争いしなくたっていいじゃないですか二人ともー!……はあぁ……はあぁ……」
真剣そうな顔で訴えられてはさすがに俺もオードリーもジュディの気迫と真摯な叱咤を受け止めざるを得ず、否が応でも声を発さなくなった。
「…………」
「.....ふーん!」
「あ...はははは~~。修羅場すぎて僕、もう席を外しちゃっていいー?」
場の空気に居たたまれなくなったのか、苦笑いを浮かべたジェームズに加えて、あっちにもそっぽを向くオードリーがいるので俺も少しだけ苦笑した。
そして、場を持つために話題転換するつもりか、今度はクレアリスの方から、
「盛り上がるところ悪いんだけど、早速食事をとりながら本題に入らないー?お昼の時間、もう10分しか残ってないわ」
淡々と事実だけを述べたクレアリスは、さっきからランチボックスに入ったままのソーセージ、パンとタルトを次々へと口に放り込んでは頬張りながらを繰り返して、あっという間に全部平らげていった。
うおおー!クールな見た目に似合わず、咀嚼が早すぎての大食い少女だな、クレアリス!
「「「「ああぁ……ああぁーつ~」」」」
クレアリスの『早食』っぷりに、少々面食らった俺達4人。
………………………………………
…………………
「……サンドイッチ、一粒ついてるぜ、お前の口元にー」
無表情となってるオードリーの顔に食べ物がついていることを指摘してやった。
ほう、やっぱり貴族令嬢だけあって、俺達以外に人のいない屋上の床で座ってても上品な正座してるようだな。
「ふん!言われなくても分かるわ!『南黒人少年』の癖にに一々小言いうんじゃないわよー。私の方はテーブルマナーが上だからね、しっかりとした場所で食べれば!」
既に落ち着いているようになった俺とツンツンする状態のオードリーはそれぞれ自分のランチボックスの中にある数々の中身をただ事務的に吞み込んでいくままだと、
「本題って言いましたけど、そろそろ読書を中断して始めて貰いませんか、クレアリスさん。腕時計を見れば4分しかないですよ、お昼…」
「ああ、ヤバっ!確かにジュディのいう通りっす!こりゃ早くしないと次の5時限目に遅れるっす!」
「もう話してもいいのね?分かったわ。じゃ、」
手元にある本を異空間収納に仕舞いこんで、青色ロングの髪をかき上げるクレアリスは改まったようなシリアス顔になりこう言い始める、
「オードリーさん、単刀直入に言うわ。あなたはオケウェー君の『氷竜討伐隊』に入ってみてはどう?」
「「「ーーー!?」」」
クレアリスの提案することに俺達3人のどっちもが驚いた。今のオードリーと本当の意味で『仲直りできて友達同士としてなれた』かどうかもあやしい流れに、いきなり先の先ことまで話しちゃうんだから!
「え?ーなに?」
聞かれた内容をが突拍子もなさ過ぎて思わず怪訝な顔になって訊き返した’オードリーに、
「すべて話すわ。時間もう残ってないしかいつまんで話すことにはなるけれど…」
それだけ短くいうと、簡潔そうな上手い言葉や構文の選択で要点だけすべて伝え終わったクレアリス。
俺が学院長と交わした約束について(つまり、今まで『客人』として授業を受けていられる俺はこの先、学院の在学生としてもっと通えるようになるためには一か月後に北方地域のアズリアへ行って、氷竜マインハーラッドを倒すっていう命令の名の要求だ。
もちろん、俺が生き残っても失敗した場合、一生この学院の召使にならなければならない事情だけは伏せたけどー)
「……へえ~。あの堅物の学院長からそう言われたのー?……まったく、あんたも苦労してるわね、学院に入ってきてずっと~で」
「分かればいいよ、オードリー。じゃ、さっきのクレアリスの話………どう思う?」
慎重に言葉を選んで彼女の返事を聞くと、
「……肝心なことだけ言うなら、確かにあの氷の竜をほってはおけないわね。私達の領地ではないにしても、北方地域に住んでいる皆は同じレイクウッド王国の民だし」
「じゃー!つまり、俺がヤツを討伐するのに協力ー」
「だけどね!」
ん?俺が言い終わる前に遮ったオードリー。
「いくら私が同じ属性の精霊を持っているからって、マインハーラッドはあれでも一応は【伝説級の世界獣】なのよー?そんなに簡単で討伐できるものなら、私だって一人だけで既にぎったんぎったんにしてやってたわ! 」
「だが、今回は俺達も加わっての討伐ー」
「だから言ってるのよ、オケウェー!『昔の』お姉様ならともかく、私とあんた達ごときが一束になっても敵う相手じゃないのー!いくらクレアリスにあんたが大聖霊と絶対に契約することができると言われてても、そんなの今はまだ何にも保障できないじゃない!」
「なら、どうすれば参加してくれるっていうんだよ?」
「それなら単純の話よ、オケウェー。私が討伐隊に参加し、あんたと共にマインハーラッドと戦うかどうかについては、まずは『精霊術学』にていずれ野外授業で行われる『【クリスタルの大洞窟】への遠征』を経て、あんたがいずれかの2体の【大聖霊】と契約できれば、討伐隊に参加してもいいわ。まあ、それがあんたに出来るかどうか話は別だけど…」
「ーっ!よっしゃー!そうこなくちゃな、オードリー!なら、ますます野外授業の日が待ち遠しくて仕方ない!早く来ないかなー」
目標ができて舞い上がった俺に、
「まあ、落ち着いて、オケウェーさん。精霊術学の『野外授業』がいつ行われるか未だに情報も何もないままだから、これからの6時限目の『精霊術学の』の授業でイリーズカ先生が予定を教えてくれるまで期待するしかないですよー?」
あ!今日は入学してきて始めての『精霊術学』が待ってるんだっけ?さっきはホームルームやってたしね、先生……
「なら、僕はC組だからオケウェー達より授業内容の日付がずれるけど早く教室に戻って『精霊術学』までに頑張ろうぜー!みんな!」
「もちろんです!「おう!「ふふ、うちも別クラスのA組だから授業内容が先になるけれど「まあ、せいぜい頑張りなさい、あんた達。何年も前に先に精霊と契約できた大先輩の私に失望させないで頂戴」」
と、ジェームズの掛け声に対して、三者三葉な返事をした4人の少年少女がいるのだった。
ああ!くそ!忘れかけていたこと何だけど、さっきの『事件』があったばかりだから、ちょっと教室に戻るの億劫に感じる……
だって、さっきオードリーに股間を触れたんだよね、皆の見てる中で……
あの無垢な少女達が多く集まるところで大恥をかいたこの俺が戻っていっても……
うぅうぅ……女の子にいいようにされて悔しかったぜ。
穴があったら入りたいと思ってしまいそうな俺に、
がし~!
と、力強く俺の肩を握ってきたかと思うと、こうオードリーがいう、
「~あはは!私の屈辱感が分かるようになったならいいけれど、これからのことは大丈夫よ?反省しているようだし、教室に戻って誰かに侮辱されるようなことがあれば、まあ……と、とと、……とにかく―ッ!『友達~!』として!守ってあげなくもないわー!ふーん!」
それだけきっぱり言って、そっぽを向く『自称友達』オードリーなのであった。
………………………………
………………
6時限目の【精霊術学】、B組一年生の初の授業にて:
「じゃ~みんな!既に中等学院から教わったことなんだけど~、【精霊術】と【精霊魔術】という二つの言葉にどんな違いがあるのか~誰か説明してくれるものいないかしら~?」
やっとイリーズカ先生の担当してくれる【精霊術学】の授業を受けることができる俺とジュディ。
後ろに座ってるオードリーは既に契約精霊持ちだから彼女にとってこの授業の重みって言うのは俺らとまったく違うものであるってことは言うまでもないんだけどね。
「先生!あたしが答えてもいいー?」
最前席で座った子が手をあげて自分を指名した。
「はい~。でも基礎の基礎だから、~間違えると単位落とすわよ~?」
「ほえ~?ずるいよ先生ー!まあ、間違えるはずがないもんね、えへへ…じゃ、こほん!【精霊術】というのは、自然界に棲む【精霊】と契約を交わして、始めて自分自身の【契約精霊】となったからそれを持つこと自体、そして【契約精霊】を通して行う様々な能力(真体姿の顕現、武器化することや精霊魔術を使うこと)こそ、全体的に【精霊術】と呼ばれるものなのよねー?」
「正解よ~~!もっと短縮して説明することもできたかと思うんだけど~まあ、一応合格かしら?じゃ、【精霊魔術】についても忘れずに解説してよね、ミリアちゃん~」
「勿論!じゃ、【精霊魔術】というのは、【精霊術使い】もしくは上位クラスの【精霊術師】だけが使える【魔術】のことね!つまり、【契約精霊】を持たなければ、それを通しての【精霊魔術】が使用できないということ、で...合ってるようね、先生!?」
「その通りよ、ミリアちゃん~。ふふ、じゃ席についてもいいわよ。次に話すことになる事項はと~~っても大事なのでよく聞いて下さいね。じゃ、まずは【3体の大聖霊】について解説するからよく聞いていてね~?みんなも知っての通り、世の中には様々な種類、強さを持つ精霊が千差万別にいるけれど、ごく一部には他のと一線を画すほどの能力がある精霊のこともいるよ。つまり、【3体の大聖霊】っていのはそういう類よ?」
ふむ、他のと桁違いな程かあー!
昨日のオードリーの精霊を見た感じだと、あれより強い精霊が3体まで存在するとか、マジで身震いした気分なんだぜ。だって、それと【契約を交わす】ことはしたいが、それと【戦う】ことになるとか本当に勘弁してほしいものだね、うん!
「【3体の大聖霊】の由来は、今日から1万年か2万年前か定かではない遥か昔に【エレオノール嬢】という人間の女性が【聖女】としての力を【天頂神】に授けて貰って、その際に【3体の大聖霊】が聖女として生まれ変わったエレオノール嬢と共に同日で産み出された格の違い聖なる力を体現したような精霊達のことよ。当時、【邪神ヴェルグニール】と戦うために、【聖エレオノール嬢】が三つもの【3体の大聖霊】を使役しながら、【天頂神アーズリアイロイン】や【愛の女神エ―ルフィ・マリョン】と連携してやっと邪神ヴェルグニールを葬り去ったとされている伝説よ」
わーーおう!
つまり、いずれかの残りの2体の大聖霊と契約できれば、俺も伝説級…もしくは神話級?ほどの精霊を持つことになるって意味する。
なんか俄然やるきが出てきたー!早く次の野外授業こないかな………」
「でも、現在に至ってはその【3体の大聖霊】の1体だけが行方不明のままになったよね~、それも7年前で、ニールマリエー大聖霊術師が王城で魔神による自分への誘拐を阻止するために、【聖白月爆銀滅(ホーリー・ホワイトムーン・シルバーエックスプロージョン)】を発動した後、彼女の【契約精霊】である大聖霊【サール・レッティシアー】が彼女の大怪我が発生したと同時に、契約が断たれ、今に至るまでに聖霊様の消息が不明のままよ~」
……ニールマリエー大聖霊術師?どこかで聞いたような名前だった気が……
はー!あの時、ジュディが俺に教えてくれたことだ!
確か、ニールマリエー…フォン・ドレンフィールド…、だっけ?オードリーと同じ苗字で、つまり、彼女の姉だっていう事もジュディが話してくれたことなんだったよねー?
ずいー!
「…………ぐっ~!」
斜め上後ろの席にいるオードリーに振り向いてみると、なんか悲壮感や憤怒が綯い交ぜになったような表情を浮かべながら、歯切りをしてその昔当時のことに意識を向けて、あの頃の光景を思い出していたかのような………
そうか………
オードリーの姉、あの魔神によって、大怪我をされたんだったな……
「じゃ、これから2体の別の大聖霊のことも解説していくけれど、その前に連絡事項あるよ~。来週までに準備を済ませてきてね~~月曜日になればすぐに『野外授業』を始めるからよ~~。未だに『契約精霊』もないままの生徒が精霊と契約できるように~」
イリーズカ先生の言葉に対して、にやっとなった俺。
来週かぁー。いよいよだな、俺にも精霊と契約できる瞬間が。
なんか待ちきれない気持ちを抑えながら、授業の続きを聞いてるだけだった。
………………………
…………
他に2体の『大聖霊』のことを教えてもらった俺達(機会があれば復習でもしよう、今夜あたりに)は聖霊術学が終わって20分の休憩時間に入る時に、
「ね、ね~!見て、あの南黒人少年~!惨めだったじゃない~?さっきオードリー様に『あれ』を触られてるの」
「おほほほ~~っ!確かに惨めったらないですわね!本当にザマですわ、オードリーの怒りを買うようなことしたから、決闘で愚昧にも精霊術士として才能おあり過ぎるオードリー様をたかが庶民風情の『肉弾戦』に誘って負かしたから、あれら相応な報いとして皆の前で辱められるべくして辱められただけですわ、おほほ~!」
「でも、でも、彼のその恥じらってた顔、ちょっと可愛くない~?最初は顔がダークチョコで暗すぎると思ったことあるけど、ああいう肌にも羞恥を現わす朱が差したなんて、ちょっと意外かも~?」
耳を塞ぎたくなるような侮蔑の言葉ばかり聞こえてくるんだけど、最後はちょっと可愛い声してる子がいることを確認できて少し救われる気持ちになった。
「オケウェーさん、お気持ちは察しますが今は耐え忍ぶ時ですよ、ね!声のした方の子達は貴族令嬢ばかりの子ですよ?問題起こしたくないでしょう?」
ジュディの助言はもっともの事なので、彼女の言う通りに我慢する俺。
「でも、オードリー様に手玉に取られる姿は本当に滑稽過ぎて、まるで主人に逆らってお叱りを受ける黒い猿のようね、あはははは~~!!」
様々な言葉が席に腰かけてる俺に向けてひそひそ投げかけられてるままだから、俺の耳が痛くなるばかりなんだが、いきなり後ろの席から跳躍で降りてきたオードリーを横目で見たー!
あろうことか、俺のいるテーブルの上に飛び乗って靴も入ったままでこちらからパンツが見えそうで見えない位置に立つ彼女は、
「そこまでにして頂戴、あんた達ー!あ、私はねー!不本意なんだけど、決闘に負けたからには彼の言いつけ通りに『友達』にならなきゃいけないのよ!既に前に見届けたわねー!?だからいい~?みんなー~!彼、……オケウェーに辱めを与えたり、侮蔑の目とか罵詈雑言の限りをしていいのは『友達』である私の特権だけだからよー!」
両手を腰に当てて、ぶすっとした顔 でそれを堂々と言い放ったオードリーが続くと、
「だから、もういい加減にして下さいよねーー!彼にそういうことするの!オケウェーに罰を与えられるのは『友達同士』であり、『部外者』なあんた達じゃないっていうのを理解して頂戴。それでも、これからも吠え続けると言うのなら、こちらもドレンフィールド家の全てを尽くして、学院にいられなくなるような『環境』にしてあげてもいいわよー?」
毅然とした態度で、それだけいうオードリーは始めて、俺を庇うようなことをやってのけたのである。
テーブルから降りて自席へと戻ろうとするオードリーに、
「あ、ありがとうな、オードリー!そ、そのう………俺を庇ってくれて……」
「べ、べべ別にいいわよ、そんなの~!さっき、あ、あんた、『あれ』をさ、触られてて、な、泣き出したんでしょうが―!だ、だからよ~、その…ちょっとぐらい、外野からの横やりを払う意味でもたまに庇ってやることもなくはないわよー!まあ~、『たまに』、だけど~~!」
それだけいうと、ふ~んって鼻を鳴らして不機嫌顔のまま席に戻っていった金髪ウェブ型ロングヘア持ちのオードリー。
…………………………
…………
放課後になると、1年B組の教室を出ようとした俺とジュディに、
「あんた達、ちょっといい?話があるから寮で話してみない?人気のない私室で」
真剣そうな顔してるオードリーにそう誘われると、
「もちろんです、オードリーさん!ね、いつも通りのオケウェーさんの部屋でいい?ああ!ジェームズさんもクレアリスさんも一緒の方がいいかな?ね、オードリーさん!ジェームズさんとクレアリスさんも連れていっていいですか?」
「好きにするといいわ。オケウェーに負けた時点で、どうこう指し図する気力も興味のないし、ふん!」
それだけ冷たくいうオードリーは先導する形で俺達を連れて教室を出て、他の二人と合流したまま食堂のティータイムで軽食を取ってから俺の寮での自室へと集まっていくのだった。
…………………………………
……………
オケウェーの自室、午後6:10時の時:
「【聖霊術士学戦武闘チーム(エレメンタラーズ・アカデミア・バトルチーム)】ーー!?」
「そうよ、オケウェー。入学案内書を一通り読めば分かるはずでしょう、そんなの!この学院の3年間に亘る全学期に、一年ごとに【聖霊術士学戦武闘大会】が開かれるわよ、それも毎年の秋休みに入る前の9月に」
「じゃ、それって...」
「…前も言った通りに、あんたの【氷竜討伐隊】に参加するには、残りの2体の【大聖霊】のいずれか一体と契約できればしてあげてもいいわよー?但し、それとは別の話として、オケウェーの、そのぅ………と、ととー」
「とと?」
「ああっ」
「これはもしかしなくてもっすか?」
「ふふ...(人付き合いは慣れてなさそうな子だし、ね。噂通りかしら、ふふ…)」
「………~~ああもう~!『友達』って言えばいいでしょ、言えば!じゃ、あくまで決闘の勝者であるあんたに命令されたから仕方なく、不本意だけど『友達』になったからには助言もするし、あんたを一年間だけでいい成績ができるように協力してあげてもいいとは思ってるわよ?だから、【氷竜討伐隊】とは別に、もしあんたが万が一にも【大聖霊】と契約しないまま氷竜を倒しちゃってもそのもっと先の大行事、【聖霊術士学戦武闘大会】にてチーム戦で出場するためのあんたの【聖霊術士学戦武闘チーム】に入ってもいいと言ってるのよ?」
不機嫌の表情のまま言ってるオードリーだけど、どこかまんざらでもない響きと仕草も窺える。
「お気持ちはありがたいが、まずは先に控えるであろう俺にとっての大案件、【氷竜討伐任務】を生き抜いていけないと……それに、なんとしても大聖霊の力は俺にとって是非、手に入れたいとは思ってる精霊だし、そんな縁起もないことを言わないでくれると助かるんだが…」
「はあぁあ~~!?あんたバカ~!?私が言いたかったっていうのは、あんたに『大聖霊』と契約できるかどうかは別として、ただその先であるチーム結成に向けての準備も今からしないといけないことにあるのよー!だから~!まずはその準備の一環として、私達の5人全員の力量と能力情報すべて重要なデータが先に知りたいって言ってるの~っ!チーム戦としての連携を上げるためにそれぞれの弱点と強みを知っておく必要があるからって~っ!こんな当たり前のことすぐ察してよね、この南黒人バカ―オケウェー!」
「ふふ……さすがはドレンフィールド家【希望の才女】と言ったところかしらー?いいわ、それで。じゃ、まずはうちからね。戦闘に関する有利で重要な個人情報を」
オードリーの仕切ってる雰囲気に触発されたクレアリスが彼女の話に乗ってやったというように、
「うちはシュナイダー侯爵家の一人娘で、【グランドブードリック大王国】からの留学生よ。みんなと一緒に始めて一年生としてこの学院に編入してきたんだけれど、オケウェーたち平民組と違って、実はうちはオードリーと同様に既に【契約精霊】を持ってるのよね……。寮では聖霊の召喚は基本的に禁止されてるんだけど、戦うためではなくただの『手入れ』程度なら、あるいは【契約精霊】の『真体姿』のサイズがあまり大きくない程度なら、こっそり自室で召喚してもいいっていう暗黙のルールみたいなのがあると噂を聞いたことがあるわね、なので!」
クールに青色髪をかき上げて、不敵に微笑を浮かべてみると、
「顕現せよ、宵闇を照らす青き羽音となれ、我が【サリシャ】よー!」
それを言い終わるや否や、クレアリスの肩には一匹、青色のフクロウがどこからともなく飛び降りてきた!
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