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十七話:祝勝会

「8,9,10!意識も反応もないようだから、学則5条,【決闘の勝敗を決する瞬間】って項目に則って、未だに意識も反応もあるオケウェーの勝利とするわー!オケウェー君!前へ!」


どこかほッとするような安心しそうな表情を浮かべるイリーズカ先生にそう呼ばれると、審判役を務める先生の指示に従うべく彼女の立っている観客席に近い舞台袖に歩いていく。


「そ、そんな……オードリー様があの南黒人少年の新入生に負けるなんて……」


「ああ……聖なる神々よー!何故あなた達ほどの力を持ちながら、過去に暴虐の限りを尽くした魔神になんにもしてないだけじゃなくて、今度はアタシ達レイクウッド王国の復興する未来の一任を担当して下さるドレンフィールド様まで見捨てるようなことをー!?それに、あなた達の主神さんであるアーズリア・イロィンがお呪いをかけてらっしゃるフェクモからの出身者を、何故我々の『希望の才女』に勝たせるような不条理を~~!」


「いやいやいやーー!オードリー様が負ける訳ないもん!!これはきっと何かの悪夢に違いないよ、そうに決まってる!じゃなきゃ、あんなに才能に満ち溢れた凄腕のお若い精霊術使いであるオードリー様が負ける訳ないよー、絶対に~!」


観戦席からのオードリー支持者に数多くの不満声を聞きながら、俺は静かな足取りでイリーズカ先生のいる位置へと歩を進めた。


「勝者、オケウェー・ガランクレッドよーー!これより、決闘終了とし勝者による敗者への要望が判明されるまでに待機中よー!これにて、解散とするので各自、この訓練場敷地内から移動して下さいー!」


凛と響いていく先生の宣言に、ワラワラと出口のある門を潜りに行ったり、ただ一番上の観客席のあるあそこの宙から飛び降りてゆく者まで千差万別な方法で退散しようとする学院生達を見守る中、


「オケウェーさん!やっと勝てたようで良かったですねーー!」


「へいーユー、オケウェーのヤロウっす!最初はどうなるか心配してたけど、やっぱこちらのクレアリスさんの言う通りに最後はきっと無事みたいっすねー!『希望の才女』とああまで互角にやり合ってたとかやっぱお前、規格外すぎんだろう!まあ、その『服の機能も果たせてないような布切れっぽい制服』じゃ無事というのはあやしいか、あははは!」


「みんな………」


俺の勝利を歓迎するように、嬉しそうな表情を浮かべるジュディとジェームズは満面な笑みを俺に向けながら、俺のボロボロになった服と傷だらけの身体を間近に観察しながら手当を早くするようにと保健室へ行くのを勧めてくれた。


「心配してくれてありがとう、皆!でもこうして無事に勝てたんだから、結果オーライってところだね!」


「まったくです!次も無茶しないで下さいね!勝つっていってもギリギリそうですし」


「確かにそうっすね!オケウェーはああも疲れてたからきっと『聖魔力』の残存量が低かったっしょう?あのオードリーさんがまたもあのめっちゃくちゃな魔法陣も五つ出てるあのヤバいのを続けなくて素手だけで挑むのお前的に良かったすね!」


「まあな。なんか運が良かったとでもいうべきだし」


言われてみれば確かにそうだ。


オードリーがまたも精霊魔術で攻撃を続けてきたら、きっと契約精霊もない俺がすぐに疲れて敗北したに違いない。


実際に底をつきかけていた俺よりもオードリーの方はまだ聖魔力の残存量が多いっぽいしな。


ん?


保健室っていうとはっとした。


俺のチョップで気絶させてやったオードリーがどうなるか慌てて振り向くと、既に何人かの先生が短く状態を診てからどこかへと彼女を担架で運んでいった………


彼女の治療は先生達がするって確認できたから安心する俺に、


「ふふ……入学してきて時間もあまり経ってないのに直ぐに友達ができちゃうなんて~~嬉しさ半分で嫉妬半分かしら~?うふふ……」


イリーズカ先生がこっちを見ながら何か小声で言ってるのを見てると、


「じゃ、ワタシは仕事があるから戻るけど、4人共も早くここから退散してね~~!昨日のオードリーちゃんみたく授業を受けずに無断でここを練習の場にしないで下さい!単位が下がるわよ~!」


それだけ注意すると、ささっと立ち去っていく先生。なんか最後はこっちに流し目を送って、「オケウェー君の秘密のことなら絶対に守り通してみせるから安心して授業に専念した方がいいわよ」っていう励みの言葉を伝えようとしてるようにも見えなくはない。


「う……ん、貸してやって分かったけれど、この【轟炎雷刃(ロアーリングフレームズ・オブ・ライトニングブレイド)】もいい働きをしていたのね。お陰で、精練魔剣を初めて使うオケウェー君にも使い勝手が良さそうで面白いデータも取れたわ(それにしても、初めて精練魔剣を使うにしても、【炎撃斬雷波(アタックフレームズ・オブ・カッティーング=ライトニングウェーブ)】をああも早く使いこなせるようになったなんて……やっぱり想像以上の漆黒魔王っぷりわね、オケウェー君)」


あそこで転がってるままの家宝、【轟炎雷刃】を回収したクレアリスがそう言いながら魔剣を異空間収納に保管し戻すと、


「じゃ、うちは少々用があるから先にいくけれど、二人とはまた今夜の寮で会いに行くわ。オケウェー君の部屋でいいかしら?」


クレアリスにそう訪ねられると、はー!っと改めて顔を見合わせる俺達3人。


「も、もしかして、オケウェーの勝利でも祝うためにっすか?」


「ご名答、ジェームズ君。そうよ。今夜でいいかしら?」


ふふふっと肩に垂れそうな青色ロングの髪の毛を後ろに退かしながらクールな微笑を浮かべるクレアリス。なんか少しその仕草を見てドキッとした。


「僕はオケウェーさえ良ければ何でもいいっす。疲れてそうだから今夜はもっと休ませ上げるべきかと思ってたんっすけど、今はオケウェーの判断に委ねるんっすよ」


「勿論ですよー!ね、オケウェーさん!絶対にそうしましょうよ、楽しそうです!……ああ、先に傷はどこかで治療しに行きますか?全身が血と凍ってた跡が見えてるままですし!」


「ええ!先に保健室にいくよ。そして、今夜のことだけど、俺の部屋で祝勝会みたいなのを開きたいって言うのなら、まずは寮母さんであるマティールダの許可をとってからにしないと」


「ふふ……そうするといいわ。じゃ、また後ね!」

颯爽と歩き出していったクレアリスに、俺達3人も寮へと帰還することにした。



……………………………………



………………



………



オードリーの視点:



………………………



……………



「ううぅぅぅ………んっ。はぁー!…こ、ここ…は?」


深い眠りから目を覚ましたみたいに、意識が全覚醒したと同時に半身...?ぐらい起き上がったあたくしが目にするこの光景は……


「気絶してから10分しか『眠ってない』のにもう聖魔力の殆どが回復したのか?あの小僧から受けて数々の傷も癒えてるっぽいさすがはドレンフィールド公爵家一の【希望の才女】というべきかな?」


「ー!?」

軽い調子で話しかけてきた声が聞こえる。横を振り向いてみれば、


「お早よう…って、この時刻だと【こんばんわ】というべきかな、オードリー嬢?」


「あなたは……」


こっちを無表情で見つめたままそう話しかけてきたのは白いコートを上に羽織りながら、丈の短いナース服や太もも殆どを覆ってる長くて白いニーソックスを履いてる20代前半らしき若い女性のよう。


「アールシェラだ。ここの保険医教師を務める者」


「……ほ、保険医教師?そ、それなら、ここはー」


「保健室だよ、ここ。じゃ、もう直ってるなら早くここを出ていってくれ。アイの邪魔になるから」


ぶっきらぼうにそれだけ言うと、何かの装置……?のいじりに集中しはじめるせ、先生(おそらく聖魔力を測る類のものか、それとも魔道具の類で何かを観測するための映像記録器なの?


あの魔道具だと、ここ数年新しく発明されたものだから熟練度の高い魔術師が『映像中継魔術』を使わなくても映像を記録し、画像として再現したり動画として再生したりすることもできる優れものだったのかしら?人が似顔絵を描いて本で載せなくてもあの機器さえあればなんでも見せられるヤツってところかしらね)


そうか……あたくし………あいつに負けたからここへ移送されてきたのね……


決闘のルールに基づくなら、負けた方は勝った方の言う事を何でも絶対に聞くべきというし、ど、どうするのよ、あ、あたくし………『南蛮人』の彼に負けた時点で、ど、どうやったら家の者に顔向けしにいけるのよ~~あたくし


というか、あのオケウェーっていうフェクモ少年といいこの保険医教師もそうだけど、なにその失礼な態度はー!


無礼だわ!教師だからってよくもまあドレンフィールド家の者であるあたくしにああも冷たく突き放すような言い方で!


「そ、そう言わずとも退室していくわ。あたくしも忙しいから先生の邪魔になるつもりは毛頭もないからねー!」


憮然とした表情を見せながら、それだけきっぱり言いやるとここを出るべくベッドを降りて早歩きでドアへと向かっていく瞬間、


「おい、待って!オードリー嬢!言い忘れてたけど、ユーに伝えなければならないことがある」


「はいー?」

先生の言葉に好奇心を刺激されるあたくしに、


「今は男性用の別の保健室で治療を受けているはずの小僧だけど、明日からは彼のいう事は何でも聞いた方がいいぞ?学則だからな」


追い打ちをかけるように、それだけいうとそれっきり沈黙し、機器のいじりに戻った保険医教師のアールシェラ。


っていうか、苗字もまだ名乗ってないし、つくづく失礼な人なのね!貴族令嬢のあたくしを前にしてもー!


ちょっと苛立ったあたくしがドアを開けて、憤慨してる気持ちを表明するため後ろ手でドアを力強く叩き込みながらタタタっと廊下を急いで進むあたくし………


お、オケウェーのいう事を何でも聞くっていうのは決闘に負けたあたくしの自業自得だし、今更後悔する気持ちにもならないわ!


だって、そもそもあたくしの胸を触ってきてるあいつの方が悪いし、なんでよりによってあの変態の言うことを聞かないといけないの、不遇だわ!


で、でも………最後にあいつが見せてきたあの優しい表情………


そしてあの真剣そうな気遣いの言葉も……………本当にオケウェーがあたくしが思ってるような変態……なの?


って、惑わされては駄目~~!


ちょっと昔のお姉様っぽいところ見せたからってそれで許してもらおうとか百年早いわーーー!


これからどうするのか分かんないけど、いずれあいつにもあたくしが感じたあの屈辱感を味わわせてやるわよーー!!



と、不満を全面に出して不機嫌の権化でも化したように、ただただ膨れた顔を浮かべたまま独りになる場所を探しにいくあたくしだった………



……………………………



………………



同日の夜、午後8:00時の寮のオケウェーの自室にて:



「「「「乾杯ーーー!!」」」」


俺、ジェームズ、ジュディとクレアリスが俺の部屋に集まって、床に座りながら輪をかけて祝勝会を始めるために4人そろって杯を煽っているところだった。


まあ、実際には中身はただオレンジジュースだからね!未成年な俺達がワインなどを飲んでるって寮母のマティ―ルダにバレたら即行追い出されること間違いなしだからね!


「いや~~~!まさかオケウェーに【近距離転移術エルノイーナゼフット】だけじゃなくて【炎霧の柱】って第3階梯の魔術までできちゃうなんて!フェクモにいた頃なんか薬でも飲みまくって育ったんっすかーー!?」


「しーーっ!ジェームズさん!冗談にしても、そんなのオケウェーさんに失礼ですよ!彼が単なる奇才で身体能力トレーニング欠かさないながら座学の読書に魔術の詠唱言葉ばかり暗記してたから今の結果が出てるだけかもしれませんよー?」


「おっと、詮索なしって約束してたんだっけ?最初に会った時からそういうのあったんっすよね? もう忘れないでおくから今度は気を付けるっすよ」


「あはは……そういうならオケウェー的にもありがたいですねっ!で、でも確かにジェームズの言う通りに、オケウェーさんって何でも出来ちゃう気がするんですよね~。それに、それに、クレアリスさんに貸してもらってたあの炎と雷を同時に出せる【精練魔剣】の本気の【魔剣技マジック・ソードアーツ】まで使えたようですし、本当に凄すぎましたよ!!」


「……まあ、あの時は無我夢中だったからね!オードリーからのあの……災弾五円なんとかって?【精霊魔術】を凌ぐために全力で【聖魔力】の全神経集中と【発動する際の感覚と詠唱言葉】も真剣になってたから、なんとか【炎撃斬雷波(アタックフレームズ・オブ・カッティーング=ライトニングウェーブ)】を使うようになったよ!」


「あははははーー!やっぱフェクモ初の学院生だけあって派手に決めたようっすね!お陰でもう一人の男子学生である僕の存在意義まで疑問に思っちゃうんっすよーー!」


「ジェームズ!そんなこと言わないで下さいよ~。貴方にも活躍する時がきっと来ますよ、一流の精霊術使いになれば!」


「慰めの言葉をかけられればかけられるほどなんか惨めになってない僕ー!?」


「「あははははーーー!!」」


笑い合っている俺達を他所に、あそこで黙ったまま控えめな相槌と微笑だけ浮かべてるクレアリスがボウルを床から持ち上げて、チーズマカロンの一口を食べると、


「うん~、上手いわね、これ。寮母さんが作ってるでしょうけど大した料理の腕前ね」


「はいです!今日の朝食もマティ―ルダさんが作ったんですよね!ソーセージとトーストはとても美味しかったんですね」


「ええ、うちのジャムトーストもよ、ふふ…」


嬉しそうに食事のことを話し合っているクレアリスとジュディなんだけど、実は一時間前、既に俺達が寮の食堂で夕食を済ましてきたんだけど、少し私的な会議あるとスタッフに頼んだら、偶然にも厨房にマティ―ルダがお片付けに手伝ったこともあり、それで軽食のチーズとマカロンを作ってもらったんだ。


まったく、女子は良く食うもんだと何かの本で読んだことあるが、実際はそうなんだよね!


「ところで、さっきはオケウェーの大勝利で舞い上がってて他に気を配る余裕なかったけど、よくよ考えれば本当にとんでもないことをお前がやったんっすからね!だって、まさかのの有名な4大貴族の中の一人であるドレンフィールド家の末っ子にして【希望の才女】とまで言われるオードリーさんを決闘で打ち負かしたなんて……高慢ちきで尊大な態度を取ってるような子だけど、あれでも中等学院から1,2を争う実力のある精霊術使いだって聞いてたんっすよーー?」


ジェームズの指摘に機敏に意図を悟った俺はこういう、


「それで、『どこの馬の骨とも知れない』余所者である俺、このレイクウッドの民ですらない外国出身者の俺が学院にやってきて、いきなり国のトップ4貴族家の内の一人であるドレンフィールド家の『御令嬢様』を俺が決闘で負かしたとあってはこの王国の政治情勢と内情そのものをも揺るがせるほどの大事件になると、そういうのだな、ジェームズ?」


「ええ、そんなところっすかな?これからの学院生活に、明らかに一線を画すほど特殊な立場上にあるお前をこの王国の【希望の才女】と同程度に名を並ぶことになったら、いずれお前も僕達の国の深刻そうな内政問題に巻き込まれることになると思うんっすよね?なあ、ジュディー?」


話しを振られたジュディは自身の濃いオレンジ色ストレートのセミロング髪の毛をいじりながら少し複雑そうな表情になると、


「そうなりますね……現に、今の国には【王女】様一人もいない状況ですし」


ん?王女一人もいないって……どういうこと?


「それ、一体どういうことなのかー?」


俺の問いに、真っ先に答えるのは、


「……未だに昔のことについて話すのは苦手なんだけど、’いずれ言わなきゃいけないし、オケウェーさんのために知識を披露するっていう建前であれば喜んで話すしかないですよね、うん!」


ジュディのやつ?どうしたのか、いきなり改まっちゃって。


「【最悪な一年間】です」


「へえー?」


「だから、【最悪な一年間】。前にも軽く説明したじゃないですか?そのぅ……えっと、ま、...魔神アフォロメロのこと…」


「おう、それかー!」


あの時、ジュディが話の続きが怖くなりそうで逃げ出していったっていうあれ?


「あの【最悪な一年間】にて、つまり.....7年前の【聖神歴888年】に、空に暗雲が立ち込めながら王城内に突如として現れたのが一人、髪の毛が紫色で2本の角が頭の両側から生えたピンク色の肌をしている男です」


「それが、前にも聞かせてもらったことあるっていう魔神アフォロメロだよね?」


「ええ、その時に、『初めて』王都クレアハーツの王城に降臨してきたっていう最悪な魔神は鬼畜にも………そ、そのう……」


これから、ジュディが話そうとしたのはあの頃のことだ。

7年前の王城の謁見の間にて:


.........................


............



「やー!初めて我が姿をその矮小な目で拝めてラッキだと思えないような深刻そうな暗い顔ばかりしてるんだけど、どうしてー?吾輩がこんなにもそっちの姫に会いたくて会いたくて仕方ないというのに、つれないヤツばかりだな、フォ~ははははは!!」


「そ、そなたはー!」


「魔神アフォロメロだ。本日、この雲ひとつない安静な空を満喫できる矮小なお主らに、良き朗報があることを伝えたくて可哀想に思う心を脇においてまで実質的に暗い空にしちゃわないといけない程に舞い降りてくる必要があったのでね~!」


「ろ、朗報…というの……は?」


魔神だと聞かされ、どっと汗が溢れて緊張気味になったランドリック陛下に触発されるよに、場の閣僚達も息を飲むほどの緊迫した心情になりながら、魔神の次の言葉を待つ。


「ピンポン!正解…って、最初から誰も答えてないから正解もクソもないんだっけー?フォ~ははははは!!」


愉快そうに一人で笑い出したその魔神はまるで狂ってるかのように踊りながら変なにゅるにゅる動きをそこら中にくねくねさせながら、そしてー


グちゃーー!


「えー?」


ぐちゃー!ぐちゃー!


一人、また二人の官僚達が無惨にも魔神の一振りの指先で肉塊と化す。


「吾輩のこの指はね、特殊なんだよなあー!たった一振りで矮小な『人間』であるお主らを体内から内臓ごと爆発させちゃうからね、 フォ~はははひひひは~~っ!!だから魔神やってた甲斐があるってもんだよなあー! フォ~ははきゅひひひ~!」


まるで子供がはしゃいだような嬉しそうな顔して踊るアフォロメロに、


「ひ、人でなし!人でなしのバケモンが!神を語るなーー!」


「死ね」


「ぐあー!」


グチュウウーーー!


たった一言かけるだけで、『言霊』が発生してそんな遠い距離にある玉座の近くに陣取った宰相を勤めていたアールリングタン公爵が体内から爆発し無に帰する。


「話は最後まで聞くものだってお母さんから教わってないの~?だったら残念だね~愚かなる矮小な存在共よー」


改まって、こほんとせき込んだアフォロメロが変なにゅるにゅるっぽい踊りをしながら王様の近くに歩いていくと、


「大丈夫だよ、そこの老人の隣にうずくまって震え出してる姫よ。吾輩はね、【男】しか殺さないメンなんだよ?だから、女であるお前は喜んで吾輩のハーレムの一員にでもしよう!そのためにきたんだしね~~ふゅ~~ソーゥ・ホット・ベイベーッ!!」


「ひー!」

自分に目を向けられて怯えまくったであろう第二王女エリシャに、


「だっ、……~黙れーそこの…外道がっー!余の娘に手を出そうなんて、…絶対にさせないぞ!」

震えながらもどこか勇気を振り絞って声を張り上げた王様が自分の娘の危機を救うべく前に立つと、


「【王宮親衛精霊部隊】第2小隊と3小隊!【宮廷魔術師】第一小隊!『この者』を滅せよーー!」


「「「「「はあー!我が国王陛下様!レイクウッド王国万歳――!!」」」」」


王国のために死ねるという願望しか思考にない彼らは、無謀にも、無策にも、そして無惨にも、魔神に向かって、『歯向かう選択』をしたのだ。



………………………………………………



…………………



王城の屋根の上にて、



「だからね、言ってたんだよね、この指先が特殊なんだって。人間にとって強い力を持ちすぎるから。でも、女であるお主なら、否が応でも吾輩の少年なる心が刺激され体内に宿る【混沌の波力】が100の1まで下がるとね。そして、この手袋さえあればー!」


「ひーーッ!こ、殺さないでぇー~!」


涙目で顔面蒼白でぶるぶる震えっぱなしのエリシャ姫に、


「ちゅ~」


キスされたのである。


「怖がる必要ないだろうに~。男だけどお主の父親の命だけこの寛大なる吾輩が助けたんだろう?まあ、今は民も多く行き交う町の中へ転移させちゃったからね~!さぞいい気味だったんだろう、民をその目で直接みようとしない高見の見物してた老人がな!で、話を続くと、この手袋さえあればー」


今度はエリシャ姫の柔肌を肩から露わにし、彼女の金髪ロングをまさぐりながら全身を抱きしめるようにして、


「お主に直接触れていても、100パーセント何も害を成せることがなくなったのさー!」



……………………………………………



…………………



「……………」


なるほどな……。第二王女を攫われたんだね、あのアフォロメロって野郎に。それ以降の近況情報や消息が不明のままかあ……


あの英雄であるマックなんちゃって舌がすごい人に倒されても一切に情報が出ないままとか、本当に生きるかどうかも分からない状況にあるからなぁ……。


そして、他の王族直属の領地に休暇期間の憩いの場として過ごしている第一王女も後から攫っちゃったなんて。とんだ色魔神だな、ヤツ!


「だから、今は王女ひとりもいない国になっちゃったんです、あの……ま、魔神の手によって………」


「で、【最悪な一年間】って呼ばれるのはなんで?」


「そ、そのう…………」

いいづらそうにしてるジュディに、代わりにジェームズがこう答える、


「つまり、その王族にとっての『最悪な日』を境に、1年間もの間が我々王国民すべてにとっての地獄のような状況だからっす!それもそのはず、あれから一年も長い『悪夢のような期間』が訪れたからっす、『女性』にとってのな」


「女性?」


「ええ...。一年間もの間、神出鬼没に王国領土『だけ』をあっちこっちに現れては消え、現れては消えと何百回も続いてたからな。その度にいくつかのうら若き乙女を攫いにきて、【激舌の壮麗男、マックミュレーン】によって一年後に倒されるまでは3000人以上もの若い女性が魔神によって攫われてたと確認できたっすから!」


「3000人以上ーーー!!?姫達だけじゃなくて他の一般人までーー!」


流石の俺も驚いたーー!魔神め!なんていう色情狂っぷりなんだろう!


ハーレムがほしいとかんとかって言われてるんだけど、要はアフォロメロって外道が女をただの『コレクションもの』とか道具やおもちゃとしか考えないで、彼女達の気持ちなんて知ったことじゃないってか!


やっぱり『魔』神の名に違わず、清々しいまでの鬼畜野郎っぷりだなー!


「そして、悲しいことに未だに彼女達の消息が不明のままっす!たとえ魔神が勇者様との激戦の果てに倒されてもーー!」


これは本当に酷い話だな。魔神を倒しちゃっても誘拐された女性達のことを救い出せないとか、理不尽すぎる!


「「「……………」」」


その事実に対してそれぞれの思いがあるように、沈黙した俺達全員に垂れ下がる重くて暗い空気を吹き飛ばすように、ジェームズがー


「そういえば、オケウェーだけじゃなくて僕もジュディもまだ【契約精霊】を持ってないんっすけど、

もしかしなくても、いずれ【精霊術学】の授業で精霊と契約できるように野外授業がありそうなんっすよね?」


「私もそれがずっと気になりましたよね。きっとそうに違いないです!この学院には生徒全員に【精霊術】を学ばせるために設立したと言っても過言じゃないですし、いずれその機会が訪れますね!」


「でも、俺からすればこの一か月間以内にそういう機会が早く訪れるといいんだが、イリーズカ先生の裁断に任せる以外なさそうなんだけど、実際にそういう野外授業があるとすれば、どんなところに行って精霊と契約できるのか?」


俺の質問に対して、


「 うちは大陸西方の【グランドブードリック大王国】の民なので、この国の人間じゃないのになぜ知ってるのよって聞かれるかもだけど、事前に出版限定の本にて学んできたからこの国でいう『精霊の多く住む場所で彼らと契約できる場所』についてならいくつかの場所を挙げられるよ」


そう前置きしたクレアリスが続くと、


「一番有力な候補は十中八区、この学院の位置からさほど離れてない【クリスタルの大洞窟ルネヨー・フラックシス】かもしれないわね」


「【クリスタルの大洞窟ルネヨー・フラックシス】かぁ………なんか神秘的な響きがあるんだな」


「ふふ、そうでしょー?ちなみに一応聞くけれど、一か月間以内にほしいって言ったからには何かの事情があって早く精霊と契約したいのよね?その理由を聞いてもいい?」


「そういえば、皆にはまだ話してないことなんだっけ?俺がこの学院にきて初めて学院長と対面した時に交わした約束のことって」


クレアリスの疑問に対して、皆に【氷竜マインハーラッド】を俺が倒さなければならない事情に関して未だに説明したことがないと気づいた俺がやっと皆に俺と学院長との間に交わされた『あの約束』のことを話してみることにした。


「「「………」」」


真剣に聞いてた3人に、ようやくジュディの方からこう言われた、


「そうですかあー。だからオケウェーさん的には早く精霊と契約して、一刻も早く数々の『精霊魔術』を使いこなせるようになりたいんですね!【氷竜マインハーラッド】を絶対に倒すために」


「【氷竜マインハーラッド】っすかーー。これもまたヤバいのに巻き込まれたもんなんっすよな、オケウェー!新聞で読んだりとか町の古き映像クリスタルからのニュース放送で聞いてきたからあの竜がいくら強くて危険かを想像することができたんっすけど、実際に【討伐したい】となると話が別。そうっすよね、クレアリスさん?」


「その通りよ。確実に【氷竜マインハーラッド】を倒したいと言うのなら、並みの精霊では力不足。オケウェー君がどうしてもこの一か月間以内で絶対に討伐できる力がほしいなら、他のと一線を画すほどの能力を誇る【3体の大聖霊】のどちらかと契約しないと分が悪いと思うわ」


「【3体の大聖霊】?」


「ええ、いずれ授業で知ることになるからあまり解説したくはないけれど、3体のうちに、1体がドレンフィールド長女っていう主との契約が断たれた以来、ずっと行方不明になったから実質的に2体だけになっちゃった。けれど、その残りの2体いずれかは『クリスタルの多く眠る場所』で保管されるって噂を耳にしたことがあるわ」


「つまり、もし俺が次に行われる野外授業でそのいずれの2体と契約できればー」


「一か月間以内で、ロクな訓練も積んでなくても高度な『聖霊』であるそれらを使うだけで、『倒せるチャンスが』高くなると思うわ」


「なるほど...」


なら、どうしてもそれらのいずれかの2体と絶対に契約を結んでやる!おじちゃんの病を最終的に直すためにも最初の障害となるであろうあの氷のバケモノを絶対に倒さなくてはなー!


「強力な【契約精霊】だけじゃなくて、それ以外の方法でも全体的にチームとしての総力を上げるべきなのでは?【討伐隊】に参加してるんでしょう、オケウェーさん?」


「ああ、そうだ。でもそれ以外の方法だと、どういうものなのか?【討伐隊】のチーム全員は未だに学院長から教えてもらってないけど、俺からは何かすることがあると言うのか、ジュディ?」


「ひひひ~~っ!あるに決まってるじゃないですか!だってだって、オケウェーさんはさっきオードリーさんに勝利したんでしょう?学則のルールによれば、決闘の賭け事については勝者の方は敗者に対して、何でもいう事を聞かせられるらしいですよ?要望として」


「あ!つ、つまりーー!」


「お前の思った通りっす!あの高飛車でプライドの高いお嬢様をお前が命令して、僕達の仲間になってくれるよう言いつければ万事解決じゃないっすかねー?」


続いて、ジュディもこう意見を述べた、


「私達の仲間として引き入れることが出来れば、確かに力強いですしね。マインハーラッドっていうのは確かに伝説級の世界獣だけど同じ氷性を持ってるオードリーさんの精霊なら何かと有利な戦術も思いつけるはずです!そして、氷の竜と戦う以外の学院行事とかイベントのためにも大いに役立ちそうですし~!」


「それだー!確かにな...なにせ武器化した精霊だけでもああも強かったし(それに、多分まだ全力を出してない気がする。血気盛んな様子も見られないし俺をそこまで本気で殺したいと思えないような顔もしてたしな)、そして『真体姿トゥール・フォーム』の精霊で戦うことになったら仲間の一人として発揮できれば絶大な戦力増加となる!」


俺、今までの人生で誰かに命令したり、部下を持つことは一切ない経験なんだけど、もしもオードリーを俺の部下……


いやいや、俺は彼女を自分の下に置くとかいくらんでも無茶すぎるよ、貴族の出のお嬢様だし!


そしてあのような高慢ちきな態度を常に持つ彼女の事を部下とかそれ以下の地位や立場で扱ったらが最後!

リーダーとなった俺の寝首をかかれることになる間違いなしだからな!


なので、彼女に対する適切な要望は…………


「サンキューな二人とも。俺は、オードリーの事を……自分の『友達』になるよう命令しに行くよ、明日から」


それだけしか、俺の口からいう言葉がないね、

彼女に関することなら。


うん!


《ところでさ、さっき、お前はオードリーさんとああいう『肉弾戦』にまで取っ組み合いしてたんだったっすよな?》


ん?いきなり俺の近くにきて、肩に自分の腕を絡んできたかと思うと耳元でそんな小声で訊いてきた。


《彼女からの蹴りを何度も避けたり、手で摑まえたことあるんっすよね?》


《そうだが、何か?》


《パンツは見えたかいー?》


《ーは―ッ!?そ、そんなのあんたに教える義理もないじゃないかぁ!》


《なんだ?独り占めしたい気分っすか?この~!この~!》


《おい、待て待て、こら!》


これはオードリーと俺とのプライベートな出来事とも言えたことなので、関係ないジェームズにまで教えてやったらもし万が一の事でもあった場合、俺だけじゃなくてこいつまで殺されかねないからなー!


「そこの男子二人、何やってるんですかー?」


「ほっとくといいわ、ジュディ。彼らには『大事な話がある』んだからよ、ふふ…」


俺達があまりにも挙動不審すぎたか、訝しんだ目を向けてくるジュディと対照的に何か訳あり知ったりといったふうにこちらバカ男子二人をただただ小さう笑ってるだけのクレアリス。


あの様子だと俺達がなんの会話してるのか何でもお見通しってところだな、きっと。



………………………………



…………


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