第九十一話:フェクモ人と共に歩みたい王女の崇高なる意志
ザアアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
激しい炎を上げながら、横薙ぎの必殺技である【斬葬切刃劫火線】をジュディのレイピアがルミナリス王女の脇腹に叩き込んだ!
確かに、昨日の訓練で習得したばかりの技と記憶したが、どうやらあの時ジュディに聞かされた情報によれば彼女の武器化したフロンデルヒートには他にも最も強力な刺突による必殺技があるらしいが、その究極たる神髄はまだまだ習得するには早すぎる時期だと言われたので、今は下位互換である【斬葬切刃劫火線】を使うしかないとも知らされた。
だから、我慢してレイピアなのに刺突じゃなく切りつけの技を相手に披露するしかなかった!
果たしてー!
フシュウウゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
「「「「「「----!!?」」」」」」
「にしししーーーッ!そんな子供騙しの技で妾を倒そうなど、百年早いであるよーーー!」
「なーー!?」
あろうことか、全身を炎に包まれた犯人少女を連想させたあんな強烈な炎がついていた剣戟を受けても無傷だとーーー!?
バサーーーー!!
「もらったーーー!」
「ひゃあー!?」
「くそーー!」
攻撃が通らないことに意識を取られたジュディだったので、無防備な姿をさらしてしまったジュディに反撃を見舞うように片方の巨剣えを振り下ろしてきた王女ー!
咄嗟の事で俺も彼女の方に向かってジュディを庇おうとしたけどー
ト―――ン!
「そこまでわよーん!今日の訓練はここまでにしてーー!」
あぁ…
どうやら、この場を監視し取り仕切るイリーズカ先生のストップがかかったようだ。
パーチッ!
先生の命令を受けて武器化した状態の自身の魔導スーツを解除した王女は、
「分かったのであるよ、イリーズカ先生。では、これで妾の実力も把握できたであろう、【チーム・オケウエー】の皆?」
契約精霊を収めた俺達を値踏みするように見回す王女だったが、
「ああ……ルミナリス王女がどれほどの規格外な精霊術使いとしての実力を誇るか、さっきのでよーくわかっているつもりだ」
「にしッ!そうであろうそうであろうー?でも、さすがにさっきの先生が発動してくれた【物理ダメージ無効化】にて妾とお主らの精霊術による攻撃が一切の物理的ダメージを与えられなくても、ひやっとしたのであるぞ!ジュディのあれが決まった時は特に!」
「ははは!その言い方だと、まるで先生があれを発動しなかったらジュディの奥義が王女のスーツにダメージを与えられるってことになるぞ?」
「…いや、ただ感覚的にそう感じただけのであって、実際には痛みを感じなかったから物理的ダメージが痛覚に代わって精神的ダメージに全く置き換えられなかった時点で、実戦でも無傷になってたはずの証拠であったぞ!大体な、妾のいってるひやっとしたって意味は驚愕したって意味合いが強かっただけであるよ!なにせ、『気配も視覚からも捕えられないよう、見えぬ状態となったんであるぞ』、さっきのジュディの身体が!」
そう。
さっき、ジュディの接近に伴い、見えなかった状態のジュディが攻撃を届かせた時点でやっと見えるようになったっていう『あれ』は、……
「【聖封第3、視界兼聖魔力気配両方完全隠蔽( アルティメット・コンスィールメント)】を使ったものね、うふふふ……」
ぐいー!
「わおー!?」
それを指摘しながら俺の肩に手を置いてきたのは、他でもなく、小悪魔的の笑みを浮かべながら俺の近くまできたクレアリスだった!
そう!
昨日の訓練場で、みんなには見せておいたんだった!
自分の身体だけじゃなくて、仲間の身体をも聖魔力の気配と視界から完全に敵から隠蔽できる【聖封シリーズ】第3目のイーズの技を!
「まったくであるな!そんな反則級な聖霊魔術をお主の愛の大聖霊までもが発動できるなんてー!【奇跡の南地男子】というあだ名は伊達ではないようで血沸き肉躍る瞬間ではあったがな、にしししー!」
王女のクールなイメージに似合わない無邪気な白い歯を見せる子供っぽい笑い方をしているルミナリスに、俺もつられて、
「まあ、訓練も中断されたし、先生の近くまで寄ろう。なにか通達する事項があるかもしれないからな。みんなもいいなー!」
「「「「「「おうー!」」」」」」
……………………
「結局はジュディちゃんの今の実力でもルミナリスちゃんの魔導スーツにダメージを与えられなかったわよね~~?精神的ダメージでも」
イリーズカ先生がニコニコした顔で聞くと、
「当然で御座るよ!何故なら、拙者が仕えるに足る凄腕の【天才児王女】で御座るからな!」
そんな言葉を口にした、先生の側で控えているラニアを見ると、
「ラニア!なんでいつも観戦なんてしているばかりでヴェルンライト姫と一緒に訓練に参加しなかったわよー?これじゃ討伐隊としての全体的実力が測れないじゃない!」
オードリーが不満そうな顔でラニアに聞くと、
「拙者の力は殿下の命令が下る時だけ振るうもので御座る。よって、殿下の命を頂いていない今の時点においては拙者の出る幕がないと分かれー!」
「うむ!……済まぬな、【チーム・オケウエー】のみんな。……ラニアの力は決戦日まで秘密にしておきたいのである……こうする意味と必要性があるからであるよ」
ラニアの返事に加えてそう申し訳なく弁明している王女に、
「まあ、ラニアサンの実力がどれほどのものであろうと、このわたくしヒルドレッドの力とそこの【奇跡の南地男子】のオケウエーサンさえいれば、氷竜を前にしてもなんとかなるとは思いますけれどね、お~ほほほほほほほーーー!!」
「あーはははは……そうであればいいんですけどね、えへへへ……」
ヒルドレッドの大仰な笑いに対して、微妙な微笑みを出しているジュディなんだが、そういえばジュディには【あれ】についてまだ相談してなかったな。よし!ジュディのあれが直るかどうか分からないけど、まずは『物が試し』ともいうしな!でも、自分が死霊魔術使いとして正体を隠しながらだと、今の内に少し適切な言い回しを考えてからにしないと......
「ジュディ」
「はい?」
訓練場から出てきた俺達が先生の提案で、みんなが連れ立って早めの夕食を取りに寮の食堂へと戻ると、俺は隙を見て歩きながらジュディの近くまで来ると、皆の意識がこっちへ向かない内に耳打ちした、
「今夜の11:30時午後の頃に、なんとか部屋を窓から抜け出して俺と【静寂の霊群森】で会え。大事な話があるぞ」
「……そう、…ですか。わ、分かったです!」
心なしか、少しだけ顔に陰が差したジュディにそう了承されたのだった!
今まで【顔が醜くなった呪い】って現象を俺達から隠してきたからな。
トラウマが思い出されるようにその現象を事実として話されるのを嫌がるのは当然のこと。
だけど、いつも逃げてないで、解決する方法と努力も必要なので、どうしてもジュディのそんな辛い呪われてる状態をほっとけないんだ!
そんな呪いがあるから異性と付き合えない、恋愛が出来ないなんて理不尽なことを見過ごすわけにはいかないから!
…………………
…………
寮の食堂にて:
「に~しししし!これで分かったであろうー!?妾の実力はー!そう簡単にお主らの奥義でも倒せなかったから察するように、妾がどれほど氷竜マインハーラッド戦において有力な戦力となり得るのか理解したであろうー!おまけに妾の第2目の契約精霊もまだ見せてやらなかった時点で色んな切り札をも残しながら氷竜と戦えるであるぞー!にし!」
堂々とクールぶっていた王女が相好を崩して俺達に向かって舞い上がった気持ちのまま葡萄ジュースを飲みながら宣言してきたら、
「あ、はははは……倒せるといいですよね、倒せれば…」
何とも言えない困ったような顔と笑いを浮かべるジュディの他に、
「そう言えば、ラニア嬢さんはオケウエーと同じフェクモ人なんっすけれど、出身国が違うっすよね?」
食堂にいる【チーム・オケウエー】以外の周りの子に聞こえないよう、ヒソヒソと身を乗り出してラニアに聞くジェームスなので、
「そうで御座るな。なにせ、拙者は【ロンジャイ武道砂漠公国】出身な武人で御座るからね!」
「俺も同じく南大陸からやってきたんだけど、【オールグリン王国】出身で、シンドレム森林地帯にとある小さな家でオジちゃんと暮らしてたんだったけど……」
「じゃ、たとえ偽装しているとはいえ、どうしてヴェルンライト王女さんがそんなにあっさりとラニア嬢さんを従者に選んでるんっすか?【南地不干渉条約】の署名国であるヴェルンライトがもしもふフェクモ人を国内に公式と抱え込む事が発覚すれば、周辺国が黙っておらず条約から追い出され、ひいてはグランドブードリック大王国に侵攻する大義名分を与えてしまうんじゃないっすかー?」
そう。この前から王女の話を聞いた時からそれも俺が疑問に思ったことだった。どうして自国の損になるかもしれないようなことを平然とやってのけたのかな、って王女に一目すると、あぁッ?
あれは……
「いいえ、ジェームズ殿。グランドブードリックが侵攻するといってもそう容易なことでは御座らん。なにせ、【精練製法無壊砦】という防衛拠点をいくつかあの国との国境で立ててきたので御座るからな。それに、たとえ発覚されてもいいんじゃないかなって殿下が最近思うようにはなっているので御座るね」
「そー、それ本当?」
ラニアの言葉を聞いて意外そうな顔を浮かべながら聞いたオードリーに、
「はい。確かに前ではヴェルンライトがグランドブードリックからのちょっかいをかけられないように【南地不干渉条約】を忠実に守ることを示すためには国内にいる全てのフェクモ人元奴隷を追い返してフェクモへと帰還させる計画が進められてきたが、【自由民獲得制度】というシステムをこれから殿下と陛下が自国内で組み入れたいご意志が御座るからにはいずれ、堂々と他国からの検閲官にバレていても是非とフェクモ人の元奴隷を我が国民の一部として迎え入れたい制度を早めに構築したい殿下の素晴らしい理念が御座るから、こうして拙者が光栄にも殿下の側仕えに任命されたので御座るよー!」
ふむ、成程な。
要するに、近い内には堂々と元奴隷フェクモ人を自国民として認めていきたいから、その予防策として【自由民獲得制度】という制度を事前に設けて、そしてー
「なので、いずれは我がカール国王陛下の新たな国法として、【南地不干渉条約】からの脱却と共に【自由民獲得制度】が宣言され、公の場でフェクモ人が正式に自国民として加わる新たな法律が確立される暁を夢見ておられるんで御座るよ、殿下が」
「ふふふ……クールな言動と相まって堅実で我慢強い方策を取っているのね、そっちの王女様は……」
「お~ほほほほ!まあ、今はそこで顔を真っ赤にして酔ってきてるように見えますけれどね!」
「まったくだわー!お姫様ともあろうお方が公共な場で酔うだなんて……」
「オードリー殿!いくら自国の王族に対し発言力の高いドレンフィールド家の公爵令嬢ともあろう者でもそういう言葉で我が姫に対して言うのは……」
今この食堂の場では本来の褐色肌の外見ではなくマリエンとしての色白な肌という偽装姿のままでオードリーの物言いに対して一瞬ぴくっとなったラニアがいるけれど、
「にし~~!何を言うのである~!?妾がこうして平気な顔してソーセージを頬張っている最中なのに酔っているというのは決してないのであるぞー~~?にししちち~~!」
と、というかー!
「おい、誰がルミナリス王女のジュースに酒を混じって入れたんだよーーーー!!?」
叫ばずにはいられない俺だった!
でも、後から分かることになるんだが、王女には特殊な体質があり、たとえ酒が入っておらずとも葡萄ジュースを飲むだけでまるで酒を飲んでいるように酔うことがあるって事実を聞かされる。
王女とラニアもそれを自覚して知っちゃっているようなことなんだが、今回の場でラニアが止めずに放置したのが、さっき二人っきりな時の彼女達が話し合いの末に王女の好きなようにしてと決まった方針を了承し合ったので、今回だけはみんなと仲良くなった証にして酔いたい思っている王女だから自分達で用意したジュースをここで準備したらしかった。
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