十二話:決闘開始
キーンコーンカーンコーン!キーンコーンカーンコーン!
「もう放課後だな」
「そうですね、もう放課後です」
お昼の後は【数学】、【地理学】や【魔導理科学】といった学科が教えられるいくつかの時限目を受け終わった俺とジュディは鋭い目線を俺達に向けながら颯爽と先に歩いていくオードリーのことを見つめながらそんな言葉を交わした。
「いよいよですね、オケウェーさん!」
「ああ………」
いくらクレアリスから【精練魔剣】を貸してもらってるからといって勝つ保障がどこにもないっていうのも事実だ。緊張もするけどもうどうしようもないんだ。戦うしかないんだ、オードリーを納得させるためにも。
「やあー!待っていたっすよ、二人とも!」
「あそこの廊下を通っていったオードリーをうちらが見かけたわ。今頃、訓練場についたところのはずよ」
1年C組の教室を出てきた俺とジュディを迎えるように、ジェームズとクレアリスが先に廊下の一角に待ってくれている。
俺のためにこんなことまでしてくれるみんななんて………学院についてから色々な大変な目に合ったり、奇異な視線と罵詈雑言を何度も浴びせられてきたか数えきれない俺だったが、こういう時に仲良くなったばかりの初めての仲間の気遣いは本当に嬉しい!
「みんな、俺のことをここまでサポートしてくれて本当にありがとう!ここの学院にて【呪われた大地】って俗語がつけられた【フェクモ】の出身者である俺に対しても親切に接してくれて、友達になってくれるってことは本当に嬉しい!だが、念のために一応訊きたいんだけど、ジュディ、ジェームズやクレアリスが構わないのか?この学院にとっての【歓迎されぬ南蛮人】の住民だった俺と友達になったことを……俺と近くにいれば、他の生徒や教師とかに差別されるようになってもー」
「見くびらないでほしいっす、オケウェー!」
俺が言い終わる前に、真剣な顔になって俺の両肩を握ってきたジェームズ。
「僕達もレイクウッド王国民の者なのに、過去に貴族の人から酷い扱いを受けたり、差別的な言動を向けられていたことも何度かあったっすよー!そうだよね、ジュディー?」
「うん!私も被害に会ったことある一人ですっ!たった『平民の生まれ』だからって理由で……」
自嘲気味に話しながら俯いているジュディに続いて、
「だから、今更のことだろうー? 差別を受けることに関しては僕とジュディの方が大先輩だから、オケウェーが差別される対象になったからといって、それで僕達にとっては何の意味もないことっすからね!なあ、ジュディー?」
「はいです!だって、もうとっくの昔に差別されちゃいましたからね、平民ってだけで、えへへへ……」
苦笑したジュディを見て思うところでもあるのか、次は【侯爵家】の出であるクレアリスが、
「うちは元々、オケウェーと同じでこの国のものではないわ。大陸の西方諸国からの留学生なのだし。だからお二人が体験してきたことに関しては共感することは難しいかもしれないけれど、自国にいる他の貴族の事はともかく、うちの家だけはそういうのあまり気にしないわよね、身分差なんてー」
「クレアリスさん……」
「クレアリス嬢さんまで……ま、まさか貴族家の令嬢さんからそ、そんな身近な、し、親切な言葉をもらえるなんて……僕、感動しちゃっても、いい、いいっすか…?」
まだ警戒の色が抜けきってないジェームズだったけど、その様子だと昔から相当な酷い目にあったんだな、貴族の者から…………
「ふふふ……うちら3人が初めて友達同士になって、結束を表明し合うことも大事だけど、今は急いだ方がいいわよ?あまりオードリーのことを待たせすぎると、危険かもしれないわ、オケウェー的に」
「それもそうだな。じゃ、行こう、みんな!俺が絶対にオードリーに勝ってみせるから、観客席から俺の決闘の最後まで見届けてほしい!」
「勿論です!」
「なに水臭いこと言ってんっすかーこの野郎!言われなくても観戦させてもらうつもりっすよー!この、この!」
ぐりぐりと拳で腕を小突いてきたジェームズ。頼むからみんなが見てる中であまりそういう過剰なスキンシップはー。って、なんかあそこで目をキラキラとさせている女子学生がいるんだけれど、俺達を差別な目で見てる子ばっかじゃないんだよね、この学院って。
おかげで、たまにはああいう『腐った思考を持つ女子』までもがいるようだね。
「では、行くのよ、訓練のために建てられたあの闘技場へ。オードリーのことは絶対にオケウェーがぎゃっふんって言わせるわよ!」
「「「おう!「はい」「よっしゃー!」」」
口々に舞い上がった掛け声をあげながら、クレアリスに先導されてる形で俺達が訓練場に向かう。きっと、俺に剣を貸してやっているからか少しだけでもリーダーっぽい事したくて人の上に立つ時の練習のつもりで格好つけたいんだろうな、クレアリス。こういう時にも彼女の貴族としての一面が影響するんだろうなぁーー。
まあ、あるいは半分ただの遊びかもだけど(表情もなんとなくクールぶってるのだし)、あははは……
「遺言はもう済ませた?」
「生憎だが、俺はここで勝って生き抜くつもりであんたとの決闘を挑むんだよ」
「~ふーん!まあいいわ、これからはあんたにとっての『地獄』になるし、今の内によく吠えるといいわねー」
今、俺とオードリーが向き合う形で闘技場の上で立つと、周りにある観客席からギャラリーができたのを見渡す。決闘の審判役を務めることになったらしいイリーズカ先生がやってくるのを待ちながら。
「ねね~?今回の決闘って誰が誰と戦ってるの?」
「あの【南蛮人】の新入生にオードリー様が決闘を申し込んだらしいわよ」
「へえー?食堂にいた『あれ』か?一体なにをやらかしてドレンフィールド様の怒りを買うことになったの?」
「これは噂なんだけど、どうやらオードリー様のことを押し倒して胸を触ってしまったみたいよ?サラに聞いてきたから信憑性があると思うわ」
「うーわぁー!まさかとは思うけどもし本当ならあの【南黒人】……本当の意味で終わったね~?人生だけじゃなくて【命】そのもの抹殺される感じに」
「まあね。あの気の短くてプライドの高い持ち主だけじゃなく一年生きっての才女とまで呼ばれてるお嬢様だし。五日前の入学試験の時でも一年生すべての新入生の中で2番目の【戦闘力採点】を獲得したらしいわよ」
「やっぱりあのチョコ肌の男の運命はもう決まったと言ってもいいですわね!ざま―ですわ!だから最初から南蛮人は南蛮人であり、わたくし達のいるここへくるべきじゃなかったね、あはははは!!」
「南黒人オワタ!南黒人オワタ!」
「ドレンフィールド様、頑張って下さいまし!あの黒いのをぶっ飛ばした後わたくしのお家の晩餐会へお越しになってよね~~?美味しいものばかり用意しましたわ~!」
俺をよそに、オードリーに向けての声援が矢継ぎ早に飛び交い、彼女が如何に人気者であるか、そして俺の立場がこの学院で如何に最低ラインでどん底級のどん底にいるかを証明した。
こ、これは堪えるな、やっぱりー
「オケウェーさん!!!頑張って下さいーーー!!応援してますからどうか気をしっかりにーー!」
「おうよー、そこのオケウェーの野郎ーっす!僕もここでお前の勝利を信じて観戦を楽しむからね!」
「ふふふ………そっちの心意気、オードリーにも負けてない事をうちも知ってるわ。踊っていくといいわ、……【漆黒の魔王】よ」
三者三様にに応援の言葉をこちらに投げかけている三人を発見。
彼らの俺への声援もオードリーに向けている者と引けを取らない熱さがあり、思わず感動しちゃった。みんな!
こんな後ろめたく【死霊魔術】のことだけ何があっても隠さざるを得ない大嘘つきの俺にー!
こんなに親身になって応援してくれるなんてーー!
「オケウェーくん!本当にいいのね~~え?そんな決闘を受けていても~?」
タタタ……
この舞台の中心にて、待っていた俺達のことをやっとイリーズカ先生が小走りでやってきながら声をかけてきた。
銀髪ロングを後ろに一つで束ねた彼女は、その一つのポニーテールを三つ編みに結い上げたまま俺の近くへと真っ先にくる。
「ワタシが審判を務めてもいいけれど、本当にいいのね~?あのオードリーちゃんと決闘に挑んでいっても~?」
真剣な表情で至近距離から見つめられるとこちらも恥ずかしいけど、精神力をフール動員して平静を装うと、
「ああ……そうして下さい。なにせ、彼女が納得できる形で折り合いをつけていかないとー!」
「さああー!狂乱の舞い(ダンス)の相手を私がなってあげるわー!但し、ダンスの最後にはあんたがそこで廃人も同然な姿になるけれどー!でもそれも乙女に破廉恥なことをやらかすあんたが悪いわね――!」
「何度も言うけどあれは事故だ。だが、気が済むまで『ダンスしたい(戦いたい)』というなら、喜んで―」
「3,2,1,ー」
「「受けさせてもらうよーーー!(相手してやるわよ――)!!」」
「はじめーーー!」
開戦の合図をイリーズカ先生が高く上げた手を落としたことで告げられた途端、俺は素早くオードリーの方へ駆け出しながら、クレアリスに貸してもらってる精練魔剣の【轟炎雷刃(ロアーリングフレームズ・オブ・ライトニングブレイド)】を異空間収納から取り出して、そしてーー
「はああーーーーー!」
こちらの方に向かって走ってきたオードリーに向けての横なぎの剣筋を轟雷のごとく炸裂させるとーー!
「ふーーん!」
「ー!?」
俺の繰り出そうとした攻撃を最初から読み切っていたかのように、後ろへバックフリップをして避け切ってみせたオードリー。
「やるじゃないかー!それならー」
追いかけようとする俺だけど―
バーン!バーン!バーン!バーン!バーーン!!!
「あーっ!しまっー!」
既に精霊を武器化した状態の【氷銃】を手元に召喚したオードリーが着地したと同時に素早い動きで氷の球を音速であろうスピードで撃ってきたオードリー。それも昨日みたいな事故の時に放たれた一発きりのものじゃなく、連続して何発もぶちかましてこようとした!
「せい!はっ!やっ!ふっ!ぜーっ!」
フェクモに住んでいた頃はずっと【シンドレム森林地帯】の中心部にあるおじちゃんの一軒家で住んでいたため、森の奥で隠れて沢山の訓練も積んできた俺なら、身体能力も欠かさずに毎日トレーディングして、剣術に至っても【ボーヌソード】を用いての素振りや剣技の数々を相手なしの状態でずっと鍛錬を怠らずにやってきた俺なので、手元に剣さえあればいくらでも迎撃できる気がするよ!たとえそれが音速で発砲されてきた氷の球でもーー!
昨日の時点ですら手元に【聖魔力】を纏わせ迎え撃つこともできたからね!
今、それより攻撃力が何倍も増したこの見えぬ炎熱波を素の状態だけで放つばかりの【轟炎雷刃(ロアーリングフレームズ・オブ・ライトニングブレイド)】を使っているなら尚更にその氷の球を迎撃できないはずがないってことだ!
「お生憎様のことに、うかつにもハマったわねー!私の『罠』に!」
「ーえ?」
気が付くと、いきなり指一本も動かせなくなった俺は全身が痺れていく感覚を覚えているので、下に視線を降ろすとー!
「ちぇー!」
魔法陣が浮かび上がったまま、俺を床へと足を縫いつけているかのような効力を発揮しやがったー!
くそ!さっき俺の方へと走ってきたのはこの罠を仕掛けておくためかあー!彼女の足元に何が仕掛けられていたかもっと気を付けるべきだった!
「喰らいなさい!」
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバーーン!!!!
雨あられとばかりに止めどなく弾の嵐を撃ちまくってきたオードリー。
くー!これならー!!
「はああーーーーー!!」
ズーーーシュウウウウウウーーーーーー!!!
ありったけの【聖魔力】を体内に集積しながら、爆発的な衝動で以って無理やりに身体を動かせて、【轟炎雷刃(ロアーリングフレームズ・オブ・ライトニングブレイド)】の本気の力である『何線の雷の放出も伴う紅蓮の炎を刀身に纏わせる』ってこれを床に向かって、
バコーーーーオオオォォォーーーーー!!
突き立ったのと同時に、俺の身体をも巻き込んでの炎と雷が融合した小さな爆発が巻き起こった!
これで、あの魔法陣の形をした【罠】を破壊できた!
どうやら、俺の【聖魔力】の集積状態や【轟炎雷刃(ロアーリングフレームズ・オブ・ライトニングブレイド)】の発した炎の熱波だけで、床に突き立った前のことでもオードリーから放たれた数々の氷弾を蒸発させられたようだ。
シュウウーーーーーーー!!
「くっー!」
その軽いながらも勢いのあった爆発で全身を上空へと吹き飛ばされた俺が舌打ちして自分がピンチ状態にあることを認識できた。
少し火傷しちゃった感じなんだけど、身体中を確認すると案の定にあっちこっちのところに服が破かれていて、火で焼かれたような後があった。
やっぱり、あの罠から抜け出すための代償として自分自身に対して傷つけた無茶をーー!?」
「もらったわーーー!!」
(しまったーー!)
俺の眼前に、既に【空中浮遊】という【物理法則無視】の魔術を発動し、宙にいる俺を下から迫ったきたようだ!
彼女の手にはあの氷銃が握り持たれていて、銃口がこちらの至近距離あと一歩のところまで向けられていることに気づいた!
さっきは未だに慣れない【聖魔力】の行使で【轟炎雷刃(ロアーリングフレームズ・オブ・ライトニングブレイド)】の真髄たる『炎を刀身に纏う奥義』を使ったばかりだから、【聖魔力】をまたも集積してそれを媒体に剣の方へ伝番させ、炎をまたも纏わせるには少しのタイムラグもー!
それをついた形でオードリーが奇襲をかけに来たってことだーー!
やっぱりさっきの罠の効力が凄すぎたから、俺がこんなにも怪我してピンチに陥ったからなんだね!
つまり、何の名の魔技だったか分からなかったけどあの罠を見る限りどうやら【物理法則無視系魔術】までも上手い子のようだなー、オードリーよ!
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