リリーの趣味と治療
「と、トナカイ?」
「リリー、ちょうどいいところに来たのよ!」
「……トナカイって、特殊な趣味があったんだね」
「いやー、ちょいと困ってたのよ……えっ?」
「トナカイの趣味についていけるかわからないけど、頑張るね?」
「リリー、少し落ち着くのよ? 何なん特殊な趣味って」
「だって、その格好……」
「ふむ?」
「自らロープで縛られて喜んでるんでしょ?」
「違うのよ!?」
「えっ、そうなの?」
「当たり前なのよ! トナカイ縛られて喜ぶ趣味はないのよ?」
「そっか……良かったぁ。てっきりトナカイが暇を拗らせて危ない方向に進もうとしてるのかと思った」
「どんな勘違いなん……とりあえずここまでの回想、スタートなのよ!」
「今日は涼しくていい天気なのよー」
「こんな日はお昼寝にうってつけなのよ!」
「おっ、こんなところにいい感じの間隔で木が二本生えてるのよ」
「ここにロープを張って、ベッドにするのよー」
「えーっと……あっ、トナカイ七つ道具にロープがあるのよ! これを使えばいい感じになる気がするのよ!」
「これをあっちの木とこっちの木にかけてー、いい感じに編んでー……できたのよ!」
「我ながらいい感じなのよ。そんじゃさっそく寝るのよー!」
「よいしょ。んー、なかなかの寝心地なの……およ? なんだかロープがもぞもぞ動いてるのよ」
「あっ、これはあかんやつ……むひょー!?」
「はい、回想おわりーなのよ!」
「んー、最後らへんがよく分からなかったけど……要するにロープが反乱を起こしてトナカイを捕まえたんだね?」
「うむ、そういうことなのよ! このロープはトナカイ特製品だからすんごく丈夫で、トナカイでも簡単には抜けられないのよ!」
「なるほど。たしかそのロープって、『捕縛用ロープ』だったよね?」
「そういえばそんな感じだった気がするの……おふぅ!?」
「どうしたの急に」
「ロープの締め付けがめっちゃ強くなったのよ!」
「多分、忘れられてたから怒ってるんだね。ダメだよトナカイ、道具は大事にしないと」
「すまなかったのよ! これからはちゃんと使うから許して欲しいのよ!」
「お、ロープが解けたね」
「助かったのよー。あのまま縛られてたらトナカイ、ハムみたいになるところだったのよ」
「危なかったね。さすがにハムみたいに縛られたトナカイを見るのは、ちょっと」
「うむ、危なかったのよー」
「変な趣味に目覚めそうだもんね」
「……えっ?」
「縛られて自由を奪われたトナカイ……私の思い通り……」
「り、リリー? なんか小声で呟いてるけど、そっちは多分あかん世界なのよ?」
「……はっ!? な、何でもないよ。何も想像してなかったよ?」
「縛られて動けないのはなかなか辛いのよ? リリーが変な趣味に走らないように、一度体験させてあげるのよ!」
「えっ? ぴゃぁぁ!? ロープが飛んできた!」
「……トナカイまだ何もしてないのよ?」
「ということは、ロープが意思を持って縛りに来た?」
「そういうことになるのよ。仕事熱心なロープなんねぇ」
「落ち着いてる場合じゃないよトナカイ! というかさっきのトナカイと縛り方が違うじゃん!」
「うむ、リリーが海老反り状態なのよ」
「冷静に見てないで助けてトナカイ! このままじゃ自由を奪われた私が……トナカイにイタズラされちゃう……ごくり」
「……リリー、既に危ない方向に進んじゃってる気がするのよ。ちょいと治療しておくのよぉ」
「えっ……と、トナカイ? まさか本当にイタズラを」
「しないのよ! すぐ終わるからお空の雲でも数えながらじっとしてるのよー!」
「そ、その大きくて禍々しい形のモノは……いやぁぁ!?」
「ただの『治療用ハルバード』なのよ! よいっしょー」
「ぴゃぁぁ……」
「トナカイー、今日のご飯は何?」
「むふー、今日はこの前作っておいたハムなのよー」
「ハム……縛られた……」
「り、リリー?」
「おいしそうだね! ご飯楽しみだなぁ」
「むふー、今日も腕によりをかけて作るのよ!」
「楽しみにしてるね!」
何とかリリーが危険な方向に向かうのを阻止したトナカイであった。




