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リリーの修業 その三

「トナカイ、久しぶりに修業するよ!」

「分かったのよ!」

「今日は最初からちゃんとしてね?」

「……今日の修業は、難易度が高いのよ!」

「ねぇ、トナカイ? まだ私の言葉に答えてないよね? ねぇ、トナカイってば!」



「というわけで、今回はちゃんと修業するのよ!」

「やっと言質をとれた。もしちゃんとしてなかったら、三日はもふもふするからね?」

「わかったのよ! そんじゃ、今回の修業の内容を発表するのよ!」

「うん!」

「今回はー、これなのよ!」

『卵をスプーンで運ぶ』

「……えっ?」

「これはバランスと集中力と持続力と筋力を効率的に鍛えられる、素晴らしい修業なのよ!」

「ほんとに?」

「うむ、きっとそうなのよ!」

「……きっと、なんだ。まぁいいや、やってみる!」

「もちろん、ただ運ぶだけじゃ面白くないから、色々用意したのよ!」

「何だか道が続いてるね。これを辿っていけばいいの?」

「うむ、いろいろ仕掛けてるから、頑張って完走するのよ!」

「わかった!」



「……意外とこの、スプーンで卵を運ぶってのが、難しい。スプーンを優しく持たないとスプーン自体がクシャッてなるし、卵も落とさないように集中しないとすぐ落ちちゃうし……」

「リリー、油断はあかんのよーいしょっ!」

「はうっ!? トナカイ、急に足払いはずるいと思う」

「むふー、そういう修業なのよー? はい、やり直しなのよー!」

「もぉぉーっ!」



「今度こそ油断しないように行かないと」

「あ、言い忘れてたんけど、あんまりゆっくりだと後ろから追いかけてくるのよ!」

「えっ、何が……危なっ!?」

「……なかなか狙うのが難しい」

「黒トナが後ろから矢を撃ってくるのよ!」

「こ、これは難易度が高い……でも、矢くらいなら尻尾で薙ぎ払えば」

「ちなみに黒トナが撃ってくる矢に当たったら」

「ぴゃぁぁああ!?」

「……すんごく痺れるから気をつけるのよ?」

「早く言ってよトナカイぃぃ!」



「……だんだん慣れてきた」

「黒トナの弓スキルがどんどん上がってるのよ!」

「ぴゃぅっ! ちょ、ちょっと痺れるのに慣れてきた……連続で食らわなければ卵を落とさなくなった」

「リリーが、なんか違う鍛えられ方してるのよ……まぁいいのよ!」

「ゴールまであとどのくらいあるの?」

「今中盤ってところなのよー」

「まだ中盤なんだ……頑張って完走して、トナカイをもふもふしなければ!」

「およ? そんな約束した記憶がないんけど……まぁいいのよ! 応援してるのよーいしょっ!」

「おっと危ないっ…… そんなこと言いながら足払いするのはどうかと思うよトナカイ! あと矢が飛んでくるペース早すぎ!」

「……楽しくなってきた」

「黒トナが二本撃ちとかしだしたのよ。黒トナの成長スピードが早くてトナカイもびっくりなのよ!」

「これもしかして黒トナカイの修業になってるんじゃ……」

「そろそろ次の段階に移るのよー!」

「さらっと流したね」

「ここから先は、トナカイ足払いしないのよ」

「そうなんだ。代わりに何があるの?」

「行けばわかるのよー!」

「それもそうだね」



「ぴゃうっ! 黒トナカイの弓スキルがすごくて困る」

「……今なら遠く離れた場所に置いたコインも射抜ける気がする」

「そろそろ何かが起こる気がする……あ、あれは!?」

『スライムゾーン』

「スライム……溶ける服……いやぁぁ!?」

「やっぱりリリーの弱点はこれなんねぇ……ちょっと罪悪感があるのよ」

「無理無理! 私にこれは突破できないよ!」

「リリー、落ち着いてよく見るのよー。どう見てもただのか弱いスライムなのよ?」

「体が拒否反応を起こして、まともに動けなくなる……」

「重症なんねぇ……あ、もしこれを克服できたら、リリーのお願いを何でも叶えてあげるのよー」

「何でも……?」

「うむ、トナカイに二言はないのよ!」

「ほんとに何でも?」

「うむ!」

「……そ、それじゃぁあふっ!?」

「……手が滑って矢を当てちゃった」

「黒トナの出番はここまでなのよー。協力に感謝なのよ!」

「……また遊ぶときは呼んでほしい」

「うむ、また遊ぶのよ!」

「まだちょっと痺れてる……さっきの一撃は何となくわざとやってた気がする」

「多分スライムとの葛藤で、黒トナを完全に忘れてたせいなのよ」

「そうだね、今度から気をつけよう。それより今は……このスライムゾーンを突破することを考えよう」

「リリーがやる気になったのよ!」

「あれはただのゼリーあれはただのゼリー……」

「リリーが怪しげな呪文を唱え始めたのよ」

「すぅ、はぁ……はぁぁっ、せいっ!」

「おぉ、リリーがスライムゾーンを駆け抜けていったのよ!」

「ぴゃぁぁねばねばどろどろぉぉ!?」

「もうすぐゴールなのよ!」

「うわぁぁん!」

「ついにリリーだけゴールしたのよ!」

「と、トナカイぃ……私、頑張ったよぉ……」

「うむ、素晴らしいダッシュだったのよ!」

「これで、何でも願いを叶えてくれるんだよね……?」

「うむ、頑張ったリリーにご褒美をあげるのよ!」

「やったあ……」

「ただ、ひとつだけ残念なことがあるのよ」

「えっ?」

「スプーンに乗せた卵、スライムゾーンの手前に置きっぱなしだから、修業はまだ終わらないのよー」

「あっ……えぇぇ」

「ささ、卵とスプーンを回収して、改めてゴールするのよ!」

「うわぁぁんトナカイのばかぁぁ!」

「修業は厳しいものなんねぇ……」



 泣きながらスライムゾーンを往復するリリーであった。

 修業を終えたリリーが、トナカイにどんなお願いをしたのかは、リリーとトナカイだけの秘密だそうな。



ちなみにトナカイいわく、今回の修業に使用した卵は、修業用の落として割れてもしばらくしたら元にもどるトナカイ特製品なので、食べ物を粗末にはしておりません、とのこと。


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