黒トナカイとトナカイの一日
「……この前の競争で優勝したから、トナカイが一日付き合ってくれるらしい」
「……何をしようかな」
「……結局何一つ決められなかった」
「なんでか黒トナカイが頭を抱えているのよ。珍しい光景なのよ!」
「というわけで、今日は黒トナカイとトナカイのデートを尾行します」
「ねぇ……本当にやるの? 万が一見つかったら、彼に色々言われるんじゃないの?」
「それは大丈夫。というか、トナカイにはもうバレてる……ほら」
「……思いっきりこっちを見ているわね。小首を傾げて、どしたーん二人とも、とか言いそうな顔をしているわね」
「……」
「リリー、急に変な動きをして、どうしたの?」
「今ジェスチャーでトナカイに、気にしないでって送っておいた」
「そんなので伝わるの!?」
「……リリーが変な動きをしてるのよ。口の動き的に気にしないでって感じだから、きっと見なかったことにすればいいんねぇ」
「……どうしたの?」
「なんでもないのよー。ささ、一日一緒に遊ぶのよー!」
「……うん」
「トナカイの車にブレーキなんてものはないのよー!」
「……それ不良品」
「二人で、この前の魔道具車に乗って競争してる」
「あの子、あの車がよっぽど気に入ったのね……あっ、トナカイがコースアウトしたわね」
「トナカイにブレーキなんて言葉は存在しなかったんだね」
「むふー、黒トナカイは運転が上手なのよ!」
「……運転、楽しい」
「次は二人乗りでどこかにお出かけするのよ!」
「! ……うん」
「さっきの魔道具車では小さくて乗れないから、二人乗りのんを用意したのよ!」
「……おぉ、かっこいい」
「さっそくレッツゴーなのよ!」
「二人乗りで出かけるとは……黒トナカイ、侮れない」
「とても楽しそうね。私も次勝ったらしようかしら」
「ところで、実はずっと、気になってたんだけど」
「どうしたのリリー?」
「黒トナカイって、どっちなの?」
「……えっ? アバウトすぎて意味がわからない質問ね」
「いやだから、ほら、性別的な……ね?」
「あー、元々石だったんでしょう? それなら、性別なんて無いんじゃないかしら?」
「なるほど。でもトナカイ好きっぽいよね、あの様子だと」
「そうね。それが恋愛的な感じなのかはよく分からないけれど」
「うん」
「そろそろ一日がお終わるのよー」
「……トナカイ」
「どしたん黒トナ?」
「あの……その……」
「こ、この流れはまさか!」
「な、何ですって!」
「……これからも一杯、遊んで欲しい」
「むふー、もちろんなのよ!」
「「ヘタレたーっ!?」」
「!? ……いつのまに」
「場の勢いに流されて、つい姿を現してしまったわ」
「うん、うっかり」
「二人とも最初から「おーっと手が滑ったぁぁ!」っふう!?」
「いやー奇遇ね! せっかくだからどこかでご飯でも食べましょうよ!」
「うん、それがいいと思う」
「……? うん、みんなとご飯食べる」
「リリー、手が滑ってドラゴンクローを繰り出すのはどうかと思うのよ。トナカイじゃなかったら吹っ飛ぶだけじゃ済まなかったのよ?」
「ご、ごめんトナカイ」
「……みんなと一緒、楽しい」




