トナカイレース
「今日こそは貴女に勝ってトナカイを貰い受けるわ!」
「だから、トナカイは賭けないっていつも言ってるのに」
「ぐぬぬ……それなら、トナカイと一日遊ぶ権利を賭けて勝負よ!」
「それならいいよ」
「それじゃぁ、今日のお題を決めるわよ!」
「というわけで、トナカイ何か考えてー」
「分かったのよー。そんじゃ、今回はあんまり能力で差がつかない感じのやつを用意するのよー!」
「おー、どんなのか楽しみ」
「準備ができるまで、ここでお菓子でも食べながら待ってるのよ!」
「はーい」
「分かったわ!」
「準備できたのよー。あと黒トナカイも呼んだのよー」
「……みんなで遊ぶって聞いた」
「おー、これは何?」
「これは……乗り物かしら?」
「これはねー、このハンドルを持って運転する魔道具なのよ!」
「馬車の馬がないバージョンだね。大きさ的に一人乗りっぽいけど、魔力で動くのかな?」
「その通りなのよ! 今回の戦いは、これで競争するのよ!」
「「おおー!」」
「……おー」
「競争用のコースも準備できてるのよー」
「これは凄いわね。これならフェアな勝負ができるわね!」
「「……」」
「な、何よ貴女たち、その目は!」
「泥の精霊アクアは割と卑怯な手を使うと、巷では有名」
「……この前フライングしてた」
「な、何よ! 今回はちゃんとするわよ! あとリリー、私は泥の精霊じゃないって言ってるでしょう!」
「そんじゃ、早速始めるのよー!」
「実況のトナカイなのよ! そんじゃ、ルールを説明するのよー! この位置からスタートして、ゴールに最初に到達した者が優勝なのよ!」
「わかった」
「ちなみに魔法とか能力を使えないよう、色んな制限がかかってるのよ。気をつけるのよー」
「これで、水を操って滑らせたりできなくなったね」
「そうなのよー」
「しないわよそんなこと!」
「そんじゃ、位置につくのよー」
「「はーい」」
「……はい」
「よーい、スタートのなのよっ!」
「さぁ全員スタートしたのよ!」
「解説トナカイなのよー。みんな魔道具車に乗りはじめてそんな経ってないのに、上手に乗りこなしてるのよー」
「これ、思った以上に速いわねっ!」
「今回も一位は私がもらう!」
「……負けない」
「今の順位はアクア、リリー、黒トナカイという順番なのよー!」
「ここまでは、あんまり差が出てないのよー。でもまだ序盤だから、何が起こるか分からないのよ!」
「お邪魔トナカイの登場なのよー 最初のお邪魔ゾーンは、これなのよーっ!」
「!? これは、スライム!」
「ぴゃぁぁ!? 服が! 女としての何かが削り取られる!?」
「……ぷるぷるしてる」
「リリー、この前の訓練がトラウマになってるんねぇ……後で何とかするのよ」
「おおーっと、リリーが大きくスライムを回避したせいで、トップから引き離されてしまったのよーっ」
「アクアと黒トナカイが上手に避けてるのよー。ちなみに万一つかまってたら、しばらくヌメヌメでイヤーンな感じになるところだったのよー」
「ぬー……ちょっと引き離された。挽回しないと」
「このままトップを独走するわよ!」
「……この魔道具車、楽しい」
「レースは今中盤なのよ! 今の順位はアクア、黒トナカイそしてー、リリーなのよ!」
「次のお邪魔トナカイがそろそろ出てくるのよー」
「お邪魔トナカイなのよー! 次のお邪魔ゾーンは爆発トラップなのよ!」
「爆発トラップ!? この魔道具車、壊れないのかしら?」
「トナカイが作ったものは基本的に頑丈だから、大丈夫だと思うよ」
「……この魔道具車、ほしい……あっ」
「おーっと、黒トナカイが爆発に巻き込まれちゃったのよ!」
「これは、私の独走ではないかしら? このまま引き離すわよ!」
「まだまだ、最後まで勝負はわからないよ」
「……ちょーっと爆発の加減を間違った気がするのよー!」
「うむ、派手なほうがいいのよーとか思ってた頃が、トナカイにもあったのよ!」
「何回か死ぬかと思ったわ……精霊だから死なないけど。もう少しでゴールね!」
「最後のゾーンに全てをかける!」
「……爆風でちょっと空を飛んだ。楽しい」
「最後のゾーンはどんなトラップなん?」
「最後のんは、トナカイトラップなのよー。トナカイの猛攻を避けつつゴールを目指すのよー」
「絶望感」
「えっ……そんなに厳しいの? トナカイって……」
「トナカイはたまに、無茶をする」
「リリー、もふもふしてあげるのよー」
「わーい! トナカイもふもふだよぉ……あっ」
「リリー!? 魔道具車の運転中に正面から抱きしめるなんて……恐ろしい」
「アクアも、もふもふしてあげるのよー」
「!? 私はそんな誘惑になんかっ!」
「アクア、言ってることとやってる事が、合ってないのよー?」
「はっ!? 無意識に抱きしめて……きゃあぁぁ!」
「リリーとアクアがコースアウトしたのよー。トナカイトラップを最初にくぐり抜けたのは、黒トナカイなのよー」
「……最後尾だったせいで、トナカイトラップが寄って来なかった。ちょっと、複雑な気分」
「黒トナカイが見事に優勝したのよー!」
「おめでとう」
「くっ……もう少しだったのに、残念だわ」
「……ありがとう」
「優勝の賞品は、この魔道具車なのよ!」
「……これ、欲しかったからうれしい」
「あとトナカイと一日遊ぶ権利も、もらえるよ」
「えっ……そうなん?」
「うん。むしろ今回の目的はこれだよ?」
「また、みんなで遊ぶのよー!」
「うん、楽しかった!」
「次は負けないわよ!」
「……楽しかった」
「……ところでリリー、黒トナカイは彼と一日遊ぶ権利、欲しかったのかしら?」
「さぁ……? 黒トナカイはあまり喋らないから、よく分からないね」
黒トナカイは、早速もらった魔道具車に乗り、嬉しそうに帰っていった。
それから近辺の街で、妙な乗り物に乗る黒い何かが、道を高速で移動する姿を見た、という噂が立つようになったそうな。




