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トナカイにお小遣いをあげたら その五

「ねぇトナカイ」

「どしたんリリー?」

「どしたん、じゃないよトナカイ! そのカゴいっぱいに入った小石は何!?」

「これねー、さっき散歩してたら……」

「散歩してたら?」

「回想スタートなのよ!」



「むっふふーん。今日もいい天気、なーのよーん」

「そこのお方」

「何かいいことが、ありそーうなのよーん」

「ちょいと、そこのお方!」

「毎日ーがいい日ー、なのよよーん」

「まてーーいっ!」

「!? 急にトナカイの前に出てきたら」

「ぶっ!?」

「……ぶつかるのは必然なのよ? 大丈夫なん?」

「あいたた……ことのほか弾力があった。じゃない! さっきから呼び止めてるんだから、止まってくださいよ!」

「すまなかったのよー。トナカイお空を見るのに夢中で気づかなかったのよー」

「……無言ですかそうですか。まぁいいでしょう。こほん、そこのお方、あなたは他人とは違う何かを持っていますね!」

「トナカイ、見た目から何から、他人とは違うのよ?」

「むむっ、そして今何かしら悩んでいることが、ありますね!」

「トナカイ、悩みとは無縁なのよ?」

「その悩みは、ずばり身体的なコンプレックスですね! えぇわかります、わかりますとも! そんなあなたに、オススメの商品があるのです!」

「そうなん? トナカイ別に悩んでないんけど、商品は気になるのよ!」

「その商品とは!」

「とはー?」

「こちらでーす!」

「……これ、何なん? ただの小石にしか見えないのよー」

「今あなた、これをただの小石じゃん、って思いましたね?」

「うむ、ただの小石だと思ったのよ!」

「お客さーん、これはそんじょそこらの小石とは違うんですよー。これはねー、なんと! かの有名な、英雄が住むと言われる山から採ってきた石なんですよ!」

「ふむふむ、そうなんねぇ」

「英雄が放つオーラによって、この小石たちはすんごい効果をもたらすようになったのです!」

「おー、なんだか凄そうなのよ!」

「本当ならこの小石一個で家が建つくらいの額になるのですが、今回に限り特別に!」

「特別にー?」

「この籠いっぱいで金貨十枚!」

「おー、安いのよ!」

「ささ、どうぞどうぞ」

「はい、金貨十枚なのよー」

「まいどありっ! ちなみに返品はできませんので悪しからず! それではさよならっ!」

「さっさと走って行っちゃったのよー」



「はい、回想終わりー」

「……」

「ん、どしたんリリー?」

「どしたん、じゃないよトナカイ! いつもみたいに全部ではないとはいえ、またお小遣いを無駄に使って! あと購入までの流れが色々とおかしいよ!」

「そんなに興奮すると体に悪いのよー。はい、これを分けてあげるのよ」

「ありがとう……どう見てもただの小石じゃん! これを売りつけた人、具体的な小石の効果、言ってないよね?」

「すんごい効果をもたらすらしいのよ!」

「何がどうすごいのかサッパリだよ! そもそも英雄が持っていた、とかならまだ分かるけど……住んでるところの近くに転がっていただけの小石なんて、全く価値がないよ!」

「んー、そうなんねぇ。念のために調べてみるのよー」

「調べても意味ないと思うけど……」



「リリー、この小石の効果が判明したのよ!」

「えっ!? ただの小石じゃなかったの?」

「うむ、この小石、凄いのよ!」

「ど、どんな効果が……」

「この小石はなんとっ!」

「なんと?」

「魔力を貯めることができるのよ!」

「えっ!?」

「普通の小石は魔力なんか貯められないのよ!」

「う、うん。 どのくらいの魔力を貯められるの?」

「この小石一つで、何回か転移できるくらいの魔力を貯められるのよ!」

「おー、凄いね!」

「とりあえずこの籠の小石全部に魔力を限界まで貯めておいたのよ!」

「この小石、もう魔石といっても過言じゃないね。薄く光ってるし」

「これがあれば、暗い夜に足元を照らすお洒落な照明ができるのよ!」

「発想がしょぼいよトナカイ!」



 魔力を貯めることのできる画期的な小石を発見したトナカイたちだが、残念ながら、それが人間たちに伝わることは、なかった。

 

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