リリーvs精霊
「貴女、リリーだったわね。トナカイを賭けて私と勝負しなさい!」
「やだ」
「それじゃ……ってここは『望むところだ』とか言いながら勝負を受けるところでしょ!」
「私にメリットが欠片もないから、受けても意味がない。お帰りはあちらです」
「まだ帰らないわよ! えーっと……そうだ、貴女が勝ったら何でも一つ言うことを聞いてあげるわ!」
「うーん……別にいらない」
「リリーとアクア、勝負して遊ぶのん? そんなら勝った方にトナカイが何かプレゼントをあげるのよー」
「「!?」」
「二人とも、仲良く遊ぶのよー」
「いやトナカイ、遊ぶんじゃなくて「ちょっとリリー、こっちに来て!」……何?」
「彼がせっかく何かくれるって言っているのだから、乗っかりましょうよ」
「えぇ……でもトナカイは、あげないよ?」
「……仕方ないわね。彼を賭けた勝負はまた後日に」
「それなら受けて立つ」
「二人ともヒソヒソ話は終わったん?」
「終わったよ」
「そんじゃ、会場を用意するからしばし待つのよー」
「えっ? 会場?」
「トナカイって、変なところで凝り性だよね」
「というわけで、トナカイ特製の会場なのよー!」
「「……」」
「司会と実況はトナカイがするのよー」
「な、なんだかとても立派な会場が出来ているのだけど……」
「二人が自由に動けるように、リングは無しにしてー、観客席はこっち側しか置いてないのよー」
「トナカイだから、ね? それよりもっと気になることが、あるよね?」
「リリー頑張るのよー!」
「アクアを応援するのよー!」
「「がんばるのよぉぉ」」
「「観客席、全部トナカイ!?」」
「頑張って分身したのよー。終わったら元に戻るのよー」
「彼は一体……」
「こんなにたくさんのトナカイは、私も初めて。一個くらいなくなってもバレないかな……」
「それじゃルールを説明するのよ! トナカイが止めるか降参で勝負が決まるのよ! トナカイが見てるけど、あんまり無茶したらあかんのよ! それじゃ開始なのよ!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、そして食らえぇい!」
「あぶなっ!? ちょっと、いくらなんでも急すぎるでしょう!」
「おぉ、リリーの一撃をかわしたのよ! アクア、なかなかやるのよ」
「チッ……次は仕留める」
「そっちがその気なら、こっちも容赦しないわ! 精霊の力を見せてあげる」
「アクアが魔力を集中させ始めたのよー! これは、魔法を使うのかーなのよ!」
「先手必勝、何もさせない!」
「おぉーっと、リリーが一気に距離を詰めて怒涛のラッシュなのよー!」
「くっ、卑怯じゃないの! えぇい、離れなさいっ!」
「!? 水の魔法……無視できない威力だね」
「アクアも負けてないのよー! 水の魔法でリリーを引き剥がしたのよ! 解説のトナカイ、どうなのよー?」
「うむ、ゼロ距離からあの威力の魔法は、魔力量が多い精霊ならではなのよー」
「水の精霊を舐めないことね! ほら、どんどん行くわよ!」
「おーっと、アクアが水魔法を連打してるのよーっ」
「いっぱい撃ってるんけど、雑にならず一つ一つ丁寧にリリーを追尾してるのよー。アクアはテクニシャンなのよっふう!? こっちにも魔法が飛んできたのよ!」
「変なこと言わないでちょうだい!」
「ぐぬぬ。水の魔法が邪魔で近づけない……それなら!」
「おーっと、リリーが息を吸ってー、ブレスを吐いたのよー!」
「リリーお得意のブレス攻撃なのよー。溜めの時間がとっても短くて、隙が少ないのよー」
「がんばるのよリリー!」
「油断したらあかんのよアクアー」
「観客トナカイたちも皆、テンションが上がってるのよー!」
「はぁっ!? 何でブレスが出せるのよ!」
「アクアが動揺しているのよー!」
「見た目人間のリリーがドラゴンブレスを吐いたら、誰でもびっくりするのよー。でもそこで、魔法を止めてしまったのが良くないのよー」
「せいっ! 消し飛べっ!」
「ちょっと、何なのこの子! 明らかにっ!? 腕力がおかしいじゃない!」
「おーっと、アクアがリリーの攻撃をかわすのに、精一杯なのよー!」
「リリーの爪は大抵のものを消し飛ばしちゃうのよー。いくら精霊でも、まともに食らったら消し飛んじゃうかもしれないから、注意なのよー。今まで避け続けていたのは、正解なのよー」
「このっ……いい加減に、しなさーい!」
「おーっと、アクアが地面を叩いたのよ! 一瞬で地面が水浸しになったのよ!」
「足場が悪く……!?」
「ふふっ、水の精霊にぬかるんだ足場は関係ないのよ! ほらほら動きが鈍いわよ!」
「おーっと、攻守逆転したのよーっ! リリーがアクアの攻撃を必死に避けてるのよ!」
「魔力を込めた攻撃は強力なのよー。いくらリリーでも、食らったら多少のダメージは覚悟しないといけないのよー」
「くっ……さっきから、水の精霊って言ってるけど……っ! これじゃ泥の精霊だね」
「な、何ですって! それじゃお望み通り、辺り一帯湖に変えてあげるわ! えーいっ!」
「隙あり!」
「うぐっ!? ちょ、ちょっと今のは卑怯じゃないの!? どうなのよ!」
「審判トナカイの判断はどうなのよー?」
「戦いに卑怯も何もないのよー! 試合続行なのよー!」
「ふふん、さすが私のパートナー、よくわかって「でもリリー、そんなに余裕がないって言ってるようなものなのよ?」……違うもん、戦略なんだもん」
「リリーの罠にはまったアクアは、いい一撃を貰っちゃったのよー!」
「うむ、この一撃が勝敗を分けるかもしれないのよー」
「一気にいくのよリリー!」
「踏ん張りどころなのよアクアー」
「観客トナカイたちのテンションも、最高潮なのよ!」
「二人の戦いの行方はいかにーなのよ!」
「「……」」
「な、なかなかやるじゃない……こうなったら、奥の手を出すしかないわね」
「私はまだあと二段階の変身を残している「そうなの!?」……うん、ほんとだよ?」
「アクアに若干の疲れが見えるのよー。それに対するリリーはまだまだ余裕があるのよ」
「出来ればこんな手は使いたくなかったけど……仕方ないわ! 覚悟しなさい!」
「!? そ、それはまさか……」
「おーっと! アクアが変身したのよ!」
「私がトナカイよ!」
「「……」」
「お、おーっと! アクアがトナカイに変身したのよー!」
「なぜにトナカイに変身したのか、解説トナカイもよくわからないのよー」
「えっ? それが、奥の手なの?」
「ふふ……この姿になった私は、もはやトナカイと言っても過言ではないわっ!」
「たしかに見た目完全にトナカイだけど……」
「リリー、貴女は大切な者を手にかかることができてしまう、非道な人なのかしら?」
「……なるほど、そう言われると確かに、やりづらいかも?」
「さぁ、今降参すれば彼を傷つけずに……えっ、ちょ、ちょっと何で近づいて来ているの」
「確かにトナカイを傷つけるような真似はしづらい……」
「で、でしょう? それなら…….なんで腕を掴むのよ! えっ、ま、待って! 見た目彼だけれど、中身は別人なの「だから、代わりにもふもふしても、いいよ、ね?」頬擦りしないでっ!? 尋常じゃない力で抱きしめられて……か、体がっ! 潰れっ……ぎ、ギブアーーップ! 助けてトナカイーーっ!」
「……んー、本物には遠く及ばない……もふもふ」
「はいそこまでー! リリー、早く放してあげないと、アクアがアクア上とアクア下の、二人になっちゃうのよー」
「わかった。じゃあ代わりにトナカイをもふもふする」
「うむ、トナカイをもふもふするのよー……あれ?」
「……ひどい目にあったわ」
「私に勝つのは百年ほど早かった」
「勝者のリリーにはこの、トナカイ特製トロフィーをあげるのよー」
「えっ……うん、ありがとう」
「ちなみに、一時間に一回、中からお菓子が出てくるのよー」
「なぜにお菓子……あ、けっこう美味しい」
「アクアは残念ながら負けちゃったから、参加賞なのよー」
「えっ、くれるの? ……これは!」
「ミニトナ人形なのよー」
「ありがとう! 大事にするわ!」
「良かったね。それじゃ、元いた場所に帰ってね」
「……分かったわよ。長く湖を放っておけないし」
「……次も私が勝つからね」
「! 次こそは私が勝って、トナカイを貰い受けるわ!」
「いや、トナカイは賭けないからね?」
「リリーもアクアも、いっぱい遊んで仲良くなったんねぇ。良いことなのよー」
「仲良くなってなんか、ないんだもん。ただのライバルなんだもん」
「そ、そうよっ! ライバルよ!」
「むふー、そういうことにしておくのよー」
残念ながらリリーに負けたアクアは、参加賞のミニトナ人形を抱きしめながら、大人しく元いた湖に帰っていった。
その表情が柔らかかった理由が、参加賞をもらえたことだけなのかは、本人にしか分からない。




